春は気だるい それでも人は生きていく
元の見立てでなんとか服を買い、昼食にとファストフードのハンバーガーも買って、アパートへと帰った。
「よっこらせ。」
元は両手の荷物を下ろし、食材を素早く冷蔵庫に入れた。
エイプリルは元に買ってもらった服を大事そうに両手に持って、元の周りをちょろちょろしている。
「元サン、Français上手デスネ。習ッタデスカ?」
元は手を止めることなく、
「まあね、英語の免許持ってるしな。今は数学だけど・・・。」
と答えになっていないことを話した。
「メンキョ?デスカ?」
エイプリルはよくわからないといった顔で聞き返した。
「昔、ちょっとだけいたんだよ。オジサンにお願いしてな。それより、昼飯食うぞ!」
元はハンバーガーを袋から出しながら、テーブルに移動した。そんな元にエイプリルも続いた。
午後からカーテンの業者がきて、元の部屋は半分になった。カーテンから奥の部屋がエイプリル用となった。他に空き部屋もないし、しょうがない選択ではあったが、思春期の俊一の部屋よりかはいいだろう。
それから部屋を片付け、夕飯の支度をはじめたころに俊一が帰って来た。
「ただいま~。」
元の横で手伝いをしていたエイプリルは玄関へ走って行き、
「俊チャンオカエリナサイ。」
と俊一を迎えた。
「あ・・・た、ただいま。」
俊一は少し赤くなって答えると、元も玄関までやってきた。
「おかえり~。」
俊一は我に返り、右手に持っていた紙袋を元に見せた。
「はっちゃん買ってきたよ!」
それは、犬柳高校の制服だった。明日から、エイプリルも通うことになるのだ。
「どれ、着てみろエイプリル。」
初めてみる制服にエイプリルは、目を輝かせ
「ウン!!」
と言い、自分の部屋となった場所へかけて行った。
「はっちゃん部屋せまくなったね。」
「しょうがないだろ・・・、リビングを使うわけにもいかねぇし。」
俊一は少し落ち込んでいる元を気づかって、
「今日の晩ご飯なに?」
と聞いてみた。
「今日はハンバーグ・・・。」
(そういえば、僕がここに来た時もハンバーグだったな。)
俊一は1年前のことを思い出した。
「えぇ!?はっちゃん料理できるの?」
「まあな、自分で作った方が安上がりだし。」
「何作るの?手伝うよ。」
「おう、今日はハンバーグだ。」
それからの生活の中で、俊一が剣道の大会で成績が良かったり、元のボーナスが出た時はハンバーグを食べたことを、思い出していた。
「ハンバーグかぁ、僕ハンバーグ大好き。」
俊一は懐かしむようにつぶやいた。
「俺も。」
元は俊一の横で笑いながら答えた。
「なんで笑ってんの!?」
そんな会話をしているとエイプリルが出て来た。
「ドウデスカ?」
ニコニコしながら聞いてくるエイプリルに2人は絶句した。
「コラ!お前セーラーの襟は立てるんじゃないんだよ。そのスカーフも首にまくもんじゃないの!!」
「アァ、セッカクノオシャレガ・・・。」
元は、落胆するエイプリルに正しい制服の着方を教えてやっている。
そんな2人を見ながら、俊一は明日からの学校生活に不安をよぎらせるのであった。