春は気だるい それでも人は生きていく
元は俊一を送り出し、再び時計を見る・・・。
(8時か・・・。カーテンの業者が午後からだから、買い物しとくか・・・。)
「ハジメサ〜ン♪TV映ラナクナリマシタ!ドウシヨウ!!」
エイプリルが慌てて、元にかけよった。
「・・・・・。」
「サッキ、5のボタン押シタラ、TVシズカニナッチャッタ・・・。ドウシテデスカ?」
薄い青の大きな目が元を見つめた。
(一人で留守番させとくには危険だ・・・。)
自分を見つめたまま何も言ってくれない元に、エイプリルは不安になった。
(ドウシヨウ、怒ッチャッタ?)
少し、動揺しはじめたエイプリルに気づき、元は
「ちがうボタンを押してごらん。そしたらまたテレビがエイプリルちゃんに話しかけてくれるから・・・。」
とエイプリルの頭をなでながら言った。
「ウン!!!」
エイプリルは満面の笑みで、テレビに向かって走って行った。
元は考えた。エイプリルを連れていく手間と留守番させておくかの手間を・・・
元は車に乗り、エンジンをかけた。去年中古でやっと手に入れた車だ。色は白で、格好の良い形が気に入って学生の頃から憧れていたのだった・・・。そんな車の助手席には彼女を乗せてみたいが、ほとんどの場合俊一が乗る。そして、今日はエイプリルが乗るのだった。
エイプリルは足をぶらぶらさせながら、鼻歌を歌っている。元は乱暴にエイプリルにシートベルトをつけ、車を発進させた。
役所で用事を済ませ、ショピングモールに着き、少し食材を買った所で服のコーナーに差し掛かった。
「joli!」(かわいい)
エイプリルはそう言いながら、服を手にとって見始めた。
(そういえば、コイツ今着てるの以外ないんだったな…)
元は鞄の中から、財布を出した。2〜3着ならどうやら買えそうな金額がまだ残っていた。
エイプリル用のお金としてオジサンから通帳を預かっているが、キャッシュカードを持ってきてなかったので、手持ちでなんとかするしかなさそうだ。
「どれがいいんだ?」
「エ?」
「買ってやるよ。ただし値段を見せること。」
「イイデスカ?」
エイプリルはきょとんとして、元を見つめた。
「デモ、イインデス。見テタダケ、私ニハドレスイッパイアリマス。」
エイプリルは微笑みながら、持っていた服をもとの位置に戻した。
「でも、今日買っとかないと次いつ来れるかわかんねぇぞ。」
「……。」
「遠慮せずに選びな。」
「イイノ?」
「ああ。」
元がそう言うと、エイプリルは真剣に選び始めた。
こうしてみると普通の女の子だな・・・。と元は思った。服を広げたり、自分に合わせて、鏡で見てみたり、忙しい。初めはニコニコしながら服選びをしていたエイプリルだが、だんだん表情が曇ってきた。
「どうした?いいのないのか?」
「・・・Je ne sais pas.」(わからない)
「は?」
「私、今マデコンナフウニ、服ヲ選ンダコトナイ。ドウスレバ良イカワカラナイ。」
エイプリルはうつむいて答えた。
(そうか、こいつはお姫様だった。)
元は、エイプリルが見ていた服を手に取り、広げた。
「何色が好きなの?」
エイプリルは元の方を見て、首をかしげた。
「La couleur favorite?」
エイプリルは何を聞かれているかわかっていたが、元がフランス語で聞いてくれたことがうれしくて、大きな声で
「J'aime rose et léger bleu.」(ピンクと水色が好き)
と答えた。