春 いきなりの出会い
おじさんは、スーツケース片手に玄関に立った。
「カズチャン、行ッチャウノ?」
エイプリルは涙目になりながら言う。おじさんは笑いながら、
「泣くなよ!今日から、お兄さん達がエイプリルのこと守ってくれるから。泣くな・・・。」
とエイプリルの頭をなでながら言った。
「俊一君エイプリルのこと、頼むよ。オジサンの大事な娘だから。」
俊一は、一瞬、自分に重大なことをこの人は任せていると思ったが、さっきから緊張してうまく頭が回らなかった。
「は、はい!!」
気づくと上ずった声で返事をしている自分がいた。そんな俊一におじさんは、ニヤリと笑った。
「ハジメこの娘は国王の娘なんだからな!」
「わかってるよ!」
「頼んだぞ。」
おじさんはいつになく、真剣な眼差しで元の目を見つめた。
「・・・。」
元はそれから何も言わずにおじさんを見送った。
「スゴイおじさんだね。」
リビングに戻り、俊一は元に言った。
「ああ。スゴイだろ?・・・疲れたな、そういえばメシちゃんと食ってないじゃん!」
テレビはもう9時からのドラマを流している、それをエイプリルは興味津津に眺めている。
「コラ、お前近すぎ!目悪くなるぞ。」
元は、エイプリルの肩を持ち、離そうとする。
「ソウナンデスカ!?私テレビジョンハジメテデス!」
エイプリルは興奮して、元を振り返った。
夜、
「私、ココで寝マス。コノ焼きソバノ香りニツツマレテ寝タラ、イイ夢見レソウデス!」
とリビングで寝ると言って聞かないエイプリルを、元の部屋に寝かしつけ、元はリビングで横になっていた。
(散々な一日だった・・・。)
今日一日の悪夢のような出来事を思い出し、元はため息をついた。
(明日はおじさんが準備した、届け出とかを役所に持ってって、買い物もしなきゃな・・・。業者がきて、俺の部屋に仕切りのカーテンつけに来るって言ってたな。どこまで準備がいいんだよ?あのおじさん)
明日は有休取るしかないな・・・。と元は思いながら、帰り際おじさんが言ったことを思い出した。
「おい、お前だから言うんだが、エイプリルは・・・。」
プチン!
「おはようございます。今日の芸能ニュースは・・・。」
テレビの音がする。そして、
「オハヨゴザイマス♪ハジメサン。」
「・・・・?」
(あれ?こんなお人形さんみたいな生徒いたっけ?)
元はぼやける視界を睨みながら、眼鏡を手繰り寄せかけた。すると、不安そうな顔をしたエイプリルと目が合った。
「ドコカ悪イデスカ?」
「・・・・」
(もう朝か。考え事してたらいつの間にか寝たんだな・・・。)
よく回らない頭でそんなことを思い出していると、額に柔らかい感触がした。
「アツイ!熱がアルカモシレナイ、お薬!!!」
勢いよく立ちあがろうとするエイプリルの腕をつかみ、軽く頭をたたく。
「熱はない、あのくらいがフツーなの。」
「ソウナンデスカ・・・。」
エイプリルは、少し安心したような顔をして、ゆっくり立ち上がった。
「今日はいそがしいぞ。」
元は、エイプリルにそう呟き、朝食の支度を始めた。