逆ハーマジ勘弁にかかわる物語。~残念ながらリロイは今日もシスコンです。~
お前心が奪われたとしても、私の一言だけ肝に命じとけ。な?
逆ハーからの…
私には姉が、いた。
公爵家に相応しくないとして、自ら縁を切ることを望み、平民の妻となった元・姉。
元々、華美な暮らしを良しとせず質素倹約!家庭菜園だってやっちゃうぜ!な姉は変わり者として見られており、
美しい両親に似ず地味顔なこともあって疎まれがちであった。
二度と家に近付かない・家名を名乗らないと血判状まで作り家から出ていった姉。
両親と美しい妹は喜んでたけど私と使用人達は悲しんだ。
姉は控え目ではあったが、みんなをよく見ていた。
薔薇のような美しさや華やかさはないが、側にいてホッとできる人だった。
さりげなく心配りをし、皆が気持ちよく過ごせるようにしていた人。
公爵家に相応しく、後継ぎとして相応しく…周囲のプレッシャーに押し潰されそうになるたび、
さりげなく姉は支えてくれた。
そんな姉にとりすがったものの、意思は固く止めることは出来なかった。
みっともなく泣いた私に姉は一言だけ残して去っていった。
☆☆☆☆☆☆
「愛しい君との逢瀬が減るなどあってはならないことだ。」
「仕事よりも、身分よりも大切な事ってあるよね。」
「これまで皆のために力を尽くしましたが…これからは貴女のために力を尽くしたい…」
「側で必ず守る。」
カリカリカリカリカリ…
「みんな…そんなに私を…嬉しいっ。私、負けないから!
だからみんなの側にいさせて!」
カリカリカリカリカリ…カリカリカリカリカリ…
「ふふ、こちらこそ離さないからな。」
「で、殿下っ。」
「顔が赤いぞ?」
「殿下抜け駆けはだめだからね!」
カリカリカリカリカリ…カリカリカリカリカリ…カリカリカリカリカリ。
「リロイ君っ
お仕事ばかりで疲れてるでしょ!
こちらでみんなとお茶にしようよ!」
美しくも愛らしい少女か山のような書類に囲まれた私に声をかけてくる。
彼女はリリカ・モエモエール。
放浪癖のある王弟殿下の庶子であったが、王弟殿下が帰還をし母を亡くした彼女を引き取った事で
貴族の子や成績優秀な庶民が通う学園へとやって来た。
初めはよくトラブルを起こしたり、我々生徒会や身分の高い人間と衝突もした。
しかし、何故かその明るさや屈託のなさにいつの間にか引かれ恋に落ちていた。
ただし、それは王太子殿下も含めた生徒会全員と将来有望とされる他の男達もだった。
互いに牽制しあい、婚約者や許嫁がいても蔑ろにし始める者もいた。
職務を全うせず、彼女の気を引く為に迷惑を振り撒くものもいた。
穏やかな学園が不穏な空気になりかけたとき、唐突に姉の一言が甦った。
『リロイ、貴方顔も身分もいいじゃない。しかも思春期真っ只中ににるじゃない。
これから運命の恋っ!ってはしゃいで心奪われたとしても、自分の責務は忘れなで。仕事はちゃんとして。
それだけは肝に命じといてね。』
これではいけないと思った。
彼女を取り巻く男や、その婚約者や許嫁は次世代の国を引っ張る人物やそれを支えて行く人だ。
今、取り返しのつかない溝や事件が起これば後々の遺恨や厄の種となってしまう。
姉は責務を忘れるなとは言ったが恋心をバカにしてはいなかった。
だからこそリリカを思う気持ちは蓋をせず、責務を果たそうと決意した。
姉が学園に居た時代、優秀な庶民がたくさんいて、貴族側もそれをしっかりと受け止め切磋琢磨し合う体制がとられた。
身分制度はある程度はしょうがないにしても、学園に居るうちはせめてその垣根を少しでも無くそうと生徒会が中心となり交流会やイベントを立ち上げていたので、生徒会は華やかであるが壮絶に忙しいものだった。
今代の生徒会は王太子殿下が中心となり、能力は高いが個性的なメンバーを纏めていたので華やかかつ楽しいイベントが立ち上げられていたが…
現状は愛しいリリカに骨抜きで私以外がほとんど仕事をしなくなってしまった。
これから外部も招いての学園祭もあるって言うのに…こっそり姉を招待することになっていたというのに…
私はリリカに微笑んだ。
「リリカさんは優しいですね。
ですが、さっきから貴女ばかりお茶を入れて回っている。
その愛らしい姿を見られるのは嬉しいですが、貴女にも休んでほしいです。
…殿下、差し出がましいようですが、カフェテリアに移動された方がよろしいのでは…?」
「確かに!
可愛いリリカが疲れて倒れたら大変だ!」
「リロイの言う通りだ、な。
可愛い小鳥が休めるようにしなければ。」
「行くか。」
「リロイ君も行こうよ!」
「もうすぐ終わるので先に行って居てくださいね。」
やんわりと否定し、リリカと恋の下僕達を見送った。
リリカはまってるからねっ、と手を振る。
部屋から皆が出てドアが閉まった瞬間、私は机につっぷした。
「こんなに書類があっても誰一人気にしないなんて…」
「彼女しか見えてないほど視野が狭まっているね。」
隣の部屋から男女がぞろぞろと出てきて気の毒そうに私を見る。
「同情するなら手伝ってください…本気で…本気でもうギリギリなんです。」
☆☆☆☆☆☆
姉の一言を思い出してからの私はかつてないほど走り回った。
揶揄でなく本気で走った。
リリカ関係のトラブルを解決したり、余計なもつれを防ぐために。
プライドなにそれオイシイノ?状態で頭を下げることもいとわず、ひたすら穏やかな学園に戻るようにした。
はじめは孤軍奮闘であったがリリカの恋の下僕の婚約者やら許嫁、親友やらライバルが手伝ってくれるようになり、ギリギリ状態で生徒会は機能している。
そんな状態でいるうち、私のリリカに対する気持ちも変化した。
可愛さあまって憎さ100倍である。
負けない!といっては特になにもしていない高い身分の女性を中心につっかかっていく。
平民と貴族が議論していると、いきなり平民だからっていじめないで!と割ってはいる。
平凡顔の人間が困っていてもスルーする。
エトセトラエトセトラ…自ら率先してトラブルを起こしてくれやがる。
結論として、彼女を愛しいと思いはするが全てをなげうってまで手に入れたいと思うような人ではなくなった。
というかみんな平等といいながら誰かに傅かれるのに慣れきった人間が平等を吟うのはおかしくはないだろうか?
貴族に産まれたからには他より豊かに暮らせるが、その分を支えてくれるものに還さなければならない責務がある。
国全体を見て全てを平等としたならば…粗末な服をまとい、明日の食事にも事欠く状態に我々もならねばならない事態にも繋がるのだ。そんなことになれば他国に支配され奴隷となってしまう。
そんな平等は嫌だ。
「仕方がない。リロイ君が過労死しないよう手伝ってあげましょう。」
「私は連絡役になりますわね。」
「計算ならば任せてや!」
「ふふふっ、地獄の后教育を受けてきた私にかかれば書類の山のひとつやふたつ片付けてみせますわ。」
それぞれ好き勝手に言うと仕事を手伝ってくれる仲間達(リリカ被害者の会)。
姉の一言が無ければこの光景はなかったかも知れない。
「姉上に会って感謝を伝えたい…」
忙殺されると分かっていても手を差しのべてくれる人達に囲まれ、大変だけと嬉しくて呟くと、王太子殿下の婚約者殿が言ってきた。
「リロイ様って…シスコンですか?」
「は?」
シスコンの意味を知った私が落ち込むのはこの後すぐであった。
生還!