転生したらヤンデレ暗殺者に捕まった件
連載にしようか悩んでる作品です……。
※2015/2/15に暗殺者視点を追加しました。ついでに後書きにキャラ紹介も追加しました。
評価ありがとうございます。頑張ります。
少し話をしようか。何て事がない、頭のおかしい話を。
与太話だと思ってくれていいから聞いてほしいんだ。
ところで君は思うだろうか。
二十歳を過ぎた時、すぐに死んでしまうなんて
予想できたのだろうか。
私の場合、予想できなかった。ただ、それだけの話だ。
上の話の通り、私は一度死んだ。確かトラックにはねられて、だと思う。曖昧になってしまっているけど。で、何故か生まれなおした時に前世の記憶が飛ばなかった。消えなかったんだ。
「それって不幸って訳じゃないけどさー」
誰に言うでもなく呟く。13年。この世界で生きた時間だ。つい先日13歳になった。わーい若返ったぞッ!とはしゃげる年齢を越えている。若すぎでしょ。
所謂転生ってやつを果たした先は普通の家庭だった。中流家庭。結構結構。平凡万歳だ。普通の幸せを思い知っている私はにこにこが止まらない。
文化、という点ではここは中世ヨーロッパに近いと思う。建物様式もそうだし、着る服もそうだ。
ただ一つだけ違う点を挙げるならば、魔法が使える点だろうか。
「と言っても、ピンキリだけどね」
私は苦笑する。才能がある人だけ凄い魔法が使え、才能のない人はそれほど使えないのだ。ちなみに私は才能のない方になる。つまんないと不貞腐れたのは懐かしい。
「まぁ、生活する分には困らないから有難い」
才能がないと言っても全く出来ない訳じゃなく、指先から少しの火は出せる。ちょっとした魔法は使える。充分だ。
「んー。さて、お使いでも行ってこようかな」
ひとり言と共に私は家を出る。戸締りをして出発だ。
両親も普通に仲がいいし、今世でなんの不満もない私だけど、一つだけ思う事がある。
「何で名前変わらなかったんだろう?」
どうせなら、もっとかわいい名前が良かった。私はため息交じりに言う。
私の名前はハナコ・スミス。前世は山田はなこ。この名前から察せられるように、世界でこっそり善良に生きる一般人だ。転生でもチートはないからね。
付け足すなら、そんなに前世と容姿は変わらなかった。黒髪に黒い目。父は黒髪に金の目、母は金髪に黒い目で両親からの遺伝だ。うん、それはいいんだ。
「でも憧れがなぁ……」
天然の金髪とか日本人では一回は憧れるんだけど。
今この国には『幻影の暗殺者』と呼ばれる殺し屋がいる。依頼料はべらぼうに高いが、絶対に仕事を完遂する完璧な殺し屋がいると。
それは音もなく対象者を始末し、証拠も目撃者も残さない徹底した姿からついた二つ名だ。
世界で100億の賞金額がついた賞金首。そのくせ、その手配書には似顔絵すらもない。
『幻影の暗殺者』は年齢はおろか、出身国、人種、性別、容姿、趣味嗜好等々の個人情報がまったくない人物だ。それは伝説とまで化していた。
彼(彼女かもしれないが)の本当の姿を見た人は誰もいないと言う。依頼人にも変装した姿で会い、会う度に違う姿で現れるからだ。
分かっているのは人里離れた場所に屋敷を持っており、依頼したければそこに手紙を出せばいいらしい。
遅くなってしまった。私はお使い帰りに空を見上げた。そろそろ夕方か。
この辺りは治安が良い方だけど、でもそれでも夜は出かけてはいけない。答えは簡単。ここは前世にいた日本ほど安全がある訳じゃないからだ。
私はチラリと建物と建物の間の路地に視線を向ける。なんとなく視線を感じたのだ。
視界に入る白。
否、銀色か。それにつられて私は立ち止まる。銀色のその人は狭い路地裏で座り込んでいるようだ。顔は伏せられ、膝を抱えている為見れない。
具合が悪いのだろうか?私は恐る恐る路地に踏み入る。
一歩一歩その人に近づいていく。
一瞬白に見えたのは銀髪だった。綺麗な艶を帯びた銀髪は長く、たぶん腰ぐらいまであると思う。シンプルな黒の服はその人に不思議と似合っていた。体の線に沿ってピタッとした動きやすそうな服はなんというか、暗殺者とかが着そうな服だった。ん?暗殺者?
私はそこまで考えて足を止めた。といってももう銀髪の人の目の前まで来てしまったけれど。
バッとその人が顔を上げる。
カッと見開かれる瞳、その色は綺麗な銀色だった。というかなにこれ怖い。開かれる虹彩に私は戦慄する。瞳に光が宿っていない気がする……。
「……だい」
「え?」
ぽつりと、銀髪の人が呟く。が、掠れていてあまり聞こえない。
顔色は悪いが、銀髪銀眼のその人は結構なイケメンさんだった。玲瓏たる美貌は涼しげだ。クール系美人さんと言ったところか。
銀髪なイケメンさんは私に向かって手を伸ばしてくる。
その白い手は赤く染まっている。見開かれた瞳は今はうっとりと細められている。
「……どうも?」
私は引き気味に首を傾げた。装備している愛想笑いも引き攣る勢いだ。
銀髪のイケメンさんは蕩けるように甘い微笑を浮かべ、
「……うん、よろしく。きみ、俺のところ来ない?」
私の腕をがっしり掴んで小首を傾げる。語尾が疑問形だけど、雰囲気が断るのを許していない。私は圧力をひしひしと感じた。それと掴まれた腕に赤い何か(血とか認めない)がべったり付いているんだけど……。
「あの……。無理かなって」
「ん?」
小首を傾げる銀髪のイケメンさんは少し威圧感があった。その人は座り込んでいて目線は私の方が高いはずなのに。逆らってはいけない何かをこの人から感じる。
「えっと、そうだ!あの名前聞いてないですよね?名前、教えてください」
私は話題を逸らすことにした。そして私の長所はのんきだ。この状況だって諦めてない。
「名前……。きみは?」
「ハナコです。ハナコ・スミス」
「ハナコ?……変わってる。…………ハナって呼んでい?」
「ど、どうぞ」
初っ端からあだ名で呼ぼうとする銀髪のイケメンさんに許可をする。というかこの人遠慮がないな。きっと作戦名はガンガン行こうぜ!になっているに違いない。
「俺、イン。よろしく」
「イン?」
「そ、俺の名前」
そこで言葉を切った銀髪イケメン改めインは、不意に黙り頷く。
「聞き覚えない?……そっか、じゃあ『幻影の暗殺者』の方があるかな」
「え?」
「それ俺ね」
「ファ!?」
にっこりと笑みを浮かべるインいや、インさんに私は驚きのあまり口をパクパクしてしまう。驚きすぎて言葉に出来ないってこういうなんだね(遠い目)。
「もう一度聞こうか?」
インさんは、ゆっくりと立ち上がる。私は目の前の長身を見上げた。顔は陰で見えないが声はあくまで愉快そうな響くを保っている。
「ね?ハナ。俺のところに来ない?」
ようやく見えた美貌の顔は微笑を浮かべていた。ただし、その銀色の瞳は凍てつく程に冷たい。断ったら殺されてしまいそうな迫力があった。冗談抜きで。
「……ハイ」
私は壊れた人形の如くガクガクと首を縦に振る以外出来なかった。
そんな私を見てインさんは、
「ハナ、かわいい。……たべちゃいたいくらい」
と恍惚の表情で呟いた。
……なんですと?
この世界のお父さん、お母さん。親不孝な私をお許しください。
とりあえず全力で生き延びます。ええ全力で。
私はとりあえず立てられた死亡フラグを無視した。
私はこの後暗殺者インさんによる愛ある(重い)監禁生活が待っているなんて想像もしなかった。
***
***
↓以下蛇足。2015/2/15に追加。上の話の暗殺者視点です。
一目惚れ、を知っているだろうか。
ある人は一目惚れをした時、その衝撃を鐘の音に例えた。その話を聞いた時は失笑したものだが。けれども不思議と記憶に残った話だった。
どんな音がするのだろうか?“運命”を盲目的に信じられるその音は。
俺は不思議に思ったものだった。
しかし最初に彼女を見た時、俺は確かに聞いた。脳裏に響く鐘の音に似た残響を。
それは祝福を告げる音か、はたまた戦いの火蓋を切る音かは分からないけれども。
*
あの子を最初に見た時、体が雷に撃たれた衝撃が走った。響く衝撃は頭の中に音となり何かを告げた。
小柄な体、つぶらな黒い瞳、ふわふわしてそうな綺麗な黒髪。小動物のような可愛らしい外見は見る者の庇護欲を駆り立てるだろう。
俺は外見にそんな頓着しない性質であるが、それでも直感的に思ったのだ。
欲しい。あの子が欲しいと。
俗っぽく言えばこれが運命なのかと納得できた。ストンと胸に落ち着いた感情だった。
**
俺は依頼を遂行した格好のまま路地裏に座り込んでいた。手はベッタリと返り血がついている。まぁ、血で汚れているのは手だけだけど。
誰かに見つかるとか、そんな事は俺にはどうでもよかった。
レンガ造りの古い建物の隙間から見える夕焼けを眺めていた。ただぼんやりと。
オレンジ色に染まる建物と紫も混じる空は少し綺麗に見える。時間が止まっているかのように静かだ。雑踏の雑音も何処か遠くに感じられた。
ふと、大通りの方へ視線を向ける。なんとなく気になったからだ。
掠めた黒。
チラリと見えた黒に俺は目を見開く。それは黒の色を持った少女だった。何物にも染まらない黒の色は少女が持つと不思議と温かみを感じる。普通の町娘と変わらない服装の少女は可愛らしい印象を持てるものの、平凡だ。
少女の方も俺の視線に気づいたのか、足を止めた。ふとこちらへ向けられる黒い瞳。
慌てて俺は顔を下へと逸らす。不躾に見たなんとなく後ろめたい気持ちがあった。
顔を伏せ、膝を抱えていると俺の耳が足音を拾う。俺の無駄にいい耳があの少女の靴音が近づいている事を教えていた。俺の心臓の音もいくらか早い気がする。高揚しているのだろうか、この俺が。
冷酷無慈悲で無感情無表情を地でいく暗殺者の俺が。いっそ笑いたいくらいだ。この死んでいると言われる表情筋が動けばの話だが。
カツリ。靴音が間近で止まる。あの子だ。
俺は思わず顔を勢いよく顔を上げる。あの子を視界に入れた時、俺は驚いた。感じた衝撃の大きさに俺は目を見開く。もしかしたら瞳孔が開いていたかもしれない。
黒色のあの子は俺のいきなりの行動に驚いたのか驚愕の眼差しでこちらを見る。まるでこちらを警戒する子猫のようだ……かわいい。
だからつい、口が滑ってしまった。
「ちょうだい」
「え?」
俺の掠れた声は幸いにあの子の耳には届かなかった。あの子は怪訝そうにこちらを見やる。その様子がますます毛を逆立てる無力な子猫を思わせて俺は顔が緩むのを感じた。俺の表情筋は死んでいなかったのか、なんて馬鹿な事も片隅に考えながら。
手をそのままあの子に伸ばす。この子が欲しい。俺の中でそれはもう決定事項となっていたからだ。
「……どうも?」
あの子は引きつる笑みを浮かべて小首を傾げた。場違いな言葉が微笑ましく感じる。この小動物かわいすぎる。
俺は久しぶりに微笑というモノを浮かべ、
「……うん、よろしく。きみ、俺のところ来ない?」
とあの子の腕を掴んで首を少し傾げる。我ながら甘ったるい声を出して。
ベッタリとあの子の腕についてしまった血を目端に捉え、やってしまったと思っても露程にも後悔は浮かばない。もちろん、あの子がコレを断るなんて許すつもりもなかった。欲しいモノは手に入れる。これ程に欲しいと思ったこともなかったし。
「あの……。無理かなって」
「ん?」
あの子が無理と言った瞬間、俺は怒りを抑え聞き返す。言い間違いだよね?そのニュアンスを短い声に込めた。俺の醸し出す威圧感にあの子は少し怯えている。危ない危ない、ここで怯えさせたら駄目だ。俺は威圧感も怒りも押し殺す。
あの子は少し視線を彷徨わせ、困ったように、
「えっと、そうだ!あの名前聞いてないですよね?名前、教えてください」
とわざとらしく話題を逸らす。あまりのわざとらしさに俺は密かに笑い出しそうになった。こういうのを何て言うんだっけ?馬鹿な子ほど可愛い、か?
可愛いのには変わりないので俺はそれに乗ってあげる。それにあの子の名前も知りたいし。
その名前を知りたい気持ちを抑えきれず俺は口を開く。
「名前……。きみは?」
「ハナコです。ハナコ・スミス」
「ハナコ?……変わってる。…………ハナって呼んでい?」
「ど、どうぞ」
引き気味に俺の提案を受け入れてくれるあの子、いやハナに俺は気分が高揚する。だからか、俺は普段は絶対に教えない本名を教える気になった。自分でも積極的すぎてらしくないとは思うが、このはやる気持ちは抑えられない。
俺は、そっと囁くように告げる。
「俺、イン。よろしく」
「イン?」
「そ、俺の名前」
なんだかハナが人名と認識していないようなので俺は付け足すことにした。余談であるがこの国の人名は基本長ったらしい。ファーストネーム、ミドルネーム、ファミリーネームと続くのが当たり前。本当に長いと5行じゃ収まらないフルネームも存在するのだ。だからハナの戸惑いも当然と言えた。
俺は首を傾げながら、呟いた。
「聞き覚えない?……そっか、じゃあ『幻影の暗殺者』の方があるかな」
「え?」
「それ俺ね」
「ファ!?」
衝撃の事実!! と言わんばかりのハナの表情に俺は内心可笑しくて堪らなかった。パクパクと開閉する口は魚を思わせて更に笑いを誘う。
俺は笑いをかみ殺して(表情には出ていないだろうけど)、
「もう一度聞こうか?」
ゆっくりと立ち上がる。暗殺者としてはちょっと殺気を出すなんて朝飯前だ。見下したハナの顔は驚きを浮かべていて、微かな怯えも滲ませていた。
「ね?ハナ。俺のところに来ない?」
俺は微笑を浮かべ、ハナに止めの一言を告げる。ハナにも分かるだろうな、コレ断ったらいけないって。断られる事を想像するだけで俺の目は勝手に鋭い光を、殺気を帯びる。
ハナは、生まれたての小鹿のように震え、
「……ハイ」
とがくがくと首を縦に振った。
……やだな、俺の傍から逃げなければ怖い事はしないよ?うん。
かわいそう、とかわいいは言葉としては似ている。だからか、俺はハナが可愛くて仕方ないのだ。
「ハナ、かわいい。……たべちゃいたいくらい」
ついこの口から漏れでた本音にハナは驚き固まる子猫のような顔をした。
俺は酔っているんだろう。運命の鐘の音に似た残響に脳髄が痺れたような恍惚を感じたのだから。
……かわいそうな、ハナ。きっと俺から逃げられない。だって逃がさないってこの俺が決めたから。
希望を捨てきれない瞳でこちらを見るハナを俺は抱き上げた。
ハナをこの腕と同じように囲って、大事に、大切に閉じ込めよう。俺は静かに決意をした。
キャラ紹介
主人公
ハナコ・スミス(13)
本作の主人公。転生平凡少女。ただ前世の日本の記憶がある。前世の名前は山田はなこ。名前が密かなコンプレックス。魔法は才能なし。
物事を前向きに考える事が出来る、さっぱりした性格の子。
見た目が小動物っぽい(全体的にちまっこい)。黒髪に黒い瞳。
イン(二十代前半?)
『幻影の暗殺者』の異名を持つ謎の人。賞金額100億の賞金首。
追加小話では結構脳内で饒舌にしゃべっていたが、本来は無口無表情の美人さん。よく人形みたいだと言われる(皮肉で)。
銀髪銀眼で顔の造りも整っているクール系美人(ハナ談)。
謎に包まれている人。
一度決めた事は絶対に曲げる事はないので、ハナはこの後監禁ルートに入るでしょう(多分)