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魔法世界の剣術士 上  作者: 相會応
大黒天の使い
91/211

3

《相次ぐ特殊魔法治安維持組織シィスティムの失態。私たちの税金は何処へ消える!?》


 まるで昔の駅の電光文字のように、車の中の座席を横に流れるホログラム文字を眺め、その後部座席に座る青年は思わず目を細める。線の細いブロンドの髪で、涼し気な印象の切れ長の目。頬杖をついて車窓の外の景色を眺めるその横顔は、様になる美青年と言っても差しつかえないだろう。

 青年の名前は、日向蓮ひゅうがれん。彼が身にまとっている黒いスーツには、間違いなく特殊魔法治安維持組織シィスティムの分隊長である事を証明する紋章バッジが、車窓の外から差し込む日差しを受けては光っていた。


「にべもない、か」


 隠すのにも限界がある。週刊誌などで゛噂される事実´を前に、日向はぼやく。

 メーデイア襲撃犯を取り逃がし、多くの囚人を解放。そして夏のアルゲイル魔法学園でのテロ未遂事件。いや、それ以前からも、主に進展を見せないレ―ヴネメシス関連の事に対する、特殊魔法治安維持組織シィスティムの失態は続いていた。

 そんな状況の中で今回、日向が率いる特殊魔法治安維持組織シィスティムの第一分隊の向かう先は、日本都道府県の最北端の地、北海道であった。慰安旅行などではなく、れっきとした任務である。


(落ちぶれたな。俺は貴様とは違うぞ……影塚広かげつかこう……)


 三年前までの同級生であり、今では同僚になる男の姿を思い出し、日向は内心で歯軋はぎしりをする。印象に残る、大阪での一件。そこで彼は学生と共同で、テロと戦ったと報告がある。

 それは日向にとって、あり得ない事であった。

 

「しかし、同時に開校セレモニーですか。いくら何でも、不自然ではありませんか?」 


 隣の席に座っている、部下の特殊魔法治安維持組織シイスティムの女性の冷ややかな声に、日向は視線を前方へ戻す。


「政府もようやく、本腰を入れてきたんだろう。そんな記念すべき日に、俺たち特殊魔法治安維持組織シイスティムが警備任務に就くのは、当然だな」


 厳しい試験を乗り越え、この国を守る栄光ある役職。そして若干二一歳で、二十人以上の同僚まじゅつしを率いるエースとしての誇り高い自覚が、日向にはあった。

 だからこそ、日向には気に食わなかったのだ。

 特殊魔法治安維持組織シイスティム()()()学生の力を借りた、事実が。


「先にオーギュスト魔法大学に到着している近藤こんどう佐久間さくまより連絡です。なずな総理が、魔法大学入りしたそうです」


 現日本内閣総理大臣、薺紗愛なずなさえ。日本初の女性総理であるが、そのイメージは、昨今の世界情勢を前に目まぐるしく変わる政治家たちと同じく、ただのお飾りだと揶揄やゆされていることも、少なくない。日向も、一向に好転しないこの国内情勢を前に、少なからずそう思っていた。

 夜間の移動は原則として行えないこの時代。よって今日のうちに首相は都内から北海道に滞在し、明日の本番にのぞむと言うスケジュールだ。


「明日は眠れない一日になりそうだ。いや、あるいは、スピーチが暇すぎて逆によく眠れるか」

「今の発言は、失言となります分隊長」

「失礼副隊長殿。でも、言いたくもなるさ」


 日向は肩を竦め、苦笑していた。

 だが、次には悔しそうに、膝の上に握りこぶしを作っていた。


「゛捕食者イーター゛を地上から滅ぼすために特殊魔法治安維持組織シィスティムに入ったのに、肝心の゛捕食者イーター゛に関する進展は未だになく、テロリストどもにも揚げ足をとられ、そうして今日は呑気に警備の任務に就こうとしている……」

「気持ちは分かります。ですが今は未来の為にも、明日の開校セレモニーを確実に成功させましょう」

「気を使わせて悪かった」

「いえ」


 結わいた金髪を整え直し、女性副隊長はまんざらでもなさそうに、こくりと頷いていた。

 諸外国におくれをとること数年。時期や立地等、不明瞭な事も多いがようやく日本にも建てられる魔法大学。その門出に相応しいであろう大規模なセレモニーが、明日には開催されるのだろう。


               ※


 一方、東京のヴィザリウス魔法学園の男子寮棟の一室では。


「あー……。もうテストだな……。なんか体育祭……アル学との対抗祭が無かったから早く感じるぜ……」


 下は制服のスラックス。上はタンクトップ一丁と言う極めてラフな格好の帳悠平とばりゆうへいが、がっくりと肩を落としている。


「でも十一月のテストが終わったら、文化祭ですよ文化祭!」


 自棄やけの気分で牛乳を飲みだした帳の前で、ガッツポーズをしている小野寺真おのでらまこと。冬服となり春と同じようにロングコート丈の制服を着ている小野寺だが、男子にしては華奢な身体つきの為に、未だ制服がぶかぶかのようではあった。


「そりゃあ、小野寺も夕島ゆうじまも頭いいから言える話だぜ……。天瀬あませも何だかんだ出来る方だし、なんで俺の周りにはこう、頭いい奴が揃っちまったかね……」


 帳はとほほと肩を竦めていた。


「帳さんももっと勉強すればいい話では……。あれ、どうしました夕島さん?」


 先ほどから沈黙を決めている、いるはずのもう一人のルームメイトの方を見て、小野寺は首を傾げる。

 いつも通り眼鏡を掛けている夕島聡也ゆうじまそうやは、何やら寮室の窓の外に気を取られているようで、外の光景をじっと見据えている。


「どうした夕島?」


 帳も夕島の様子に、気づく。

 夕島は窓の外を見つめたまま、


「いや。あの人たち、また学園の周りにいるなって……」

「誰ですか?」


 小野寺が窓に近づき、外の様子を夕島と同じく伺って見る。帳も、その後ろからのそりと近づいていた。


「ほら、黒いスーツを着て煙草を吸ってる三人組の男だ。最初はサラリーマンか何かの休憩かと思ったが、ここ数日は毎日いる」


 ここは四階。そして、男子寮棟の窓の外の方向的には真正面方向に魔法学園の正門がある。ちなみに女子寮棟は女子生徒に配慮して男子寮棟と対照的に中庭側に窓があるが。


「本当ですね。ですけど、それにしてもよく見てますね夕島さん」


 小野寺が感心した通り、正門付近には一見煙草を吸いながら談笑しているサラリーマン風の男たち三人組がいる。本当にあくまで一見では、ただのよく見るような光景だ。


「いや。勉強の途中に目が疲れたりすると、よく窓の外を見てるんだ。それで休日とかよくいるなって……」

「ハッハッハ。勉強で目が疲れるってゲームじゃないんだし。――でも、アイツらちょくちょくこっち見てるな」


 帳も目を細め、注意深く男たちを観察している。

 帳の言う通りであった。じっと見ていないと分からないだろうが、三人組の男たちはしきりに魔法学園の方へ、視線を向けていた。まるで、何かを監視するように。


「何か、ここに用でもあるんでしょうかね……?」


 小野寺が少し落ち着かない様子で、二人のルームメイトを交互に見てみる。


「さあ。ただ、用があるならあるで、ちゃんと受付から申し込めば良いのになぁ?」

「表立って言えない用だから、ああやってこそこそしてるんじゃないのか?」


 帳の疑念に、夕島が冷静に答えていた。


「はっはっは。確かにその通りだな!」

「と、帳さん……」


 手をポンと叩いた帳の発言に、小野寺が思わず苦笑してしまっていた。


「……」


 夕島は横目で帳と小野寺を見てから再び、これから外で起こる小さな出来事へと、気を取られていた。


 七階建てのビルのような外観の男子寮棟から向けられる、三人の男子生徒の視線には気づくことなく、三人組の男たちはヴィザリウス魔法学園の外にたむろっていた。


標的ターゲットは?」

「やはり中に入って確認しなければ。ここからでは見えない」


 極めて小声での、やり取り。それも笑顔且つ煙草を吸いながらなので、そのような会話をしているとは思わせない、やり方だ。


「やはり高位防御魔法の結界が張られている。魔法学園への侵入は容易ではないな」

「――お? アンタらも喫煙者か! いやあ仲間がいてくれて良かった良かった!」


 いつの間にか、であった。常に細心の注意を周囲に向け払っていたにも関わらず、その男は、すぐそばにいた。

 シワのあるグレーのシャツに、緩んだネクタイ。顔には無精髭が生えており、煙草を口にくわえている。パッと見では、ただの浮浪者にしか見えなかったが、煙草を吸っているにも関わらず笑い顔の口元から覗く白い歯は、健康な生活を送っている者の証拠であろう。


「っ!?」

「昼にしか吸えねぇってのに、喫煙者は肩身狭いからよ。ったく参っちまうぜ。あっ、よろしければ火でも貸してくれないか?」


 いつの間にかにすぐ後ろにいた正体不明の男。三人組の男たちの中で、微かどころではない動揺が走っている。しかし、本当にただの通行人だとも、その見てくれでは思ってしまう。それほどまでに、男の態度はお茶らけたものだったからだ。


「ど、どうぞ」


 そこで、この場で取るべき行動は一つ。悟られぬように、この場をすぐに退散するのだ。

 男の一人が、小さな魔法式を展開。そこから小さな火を灯し、謎の男の煙草に火を点けてやる。


「ありがたい。それにしてもいい具合の火加減だ。おたくらこの学園の教師かなんかかい?」


 白い煙を吐き、謎の男は微笑む。その反応と先ほどからの要求を見るに、この男は魔法が使えないのだろう。

 ならば、と男たちは少しだけ安堵し、


「いえ。ただ会社の休憩で散歩してただけですよ」

「なんだ、詰まらねーな。ここの学園の女子生徒って、結構可愛い娘が揃ってるんですよ」


 ――ガサッ。

 謎の男がしげしげと呟いたその時、三人組の男たちの背後で何か木々が揺れる音がしたが、今は気にしていられなかった。


「ははは……」


 変質者極まりない発言を前に、男たちは苦笑するしかない。その一瞬の間に、アイコンタクトを取りながら。


「では俺たちはそろそろ」

「ちょっと待ってくれって。魔法生ですよ魔法生!? そりゃあもう、普通の女子高生にはない可愛さってもんがあるってんでね……何よりもう魔法生って響きがもう……」


 謎の男はネクタイを揺らしながら、振り向いて歩き出した男たちの前に立ちふさがるように回り込む。

 三人組は一様に、随分と面倒くさい奴に絡まれたものだ、と舌打ちをしたい気分を堪えていた。

 ――だが、謎の男の次の一言で、状況は百八十度一転する。


「――例えばそう、魔法執行省大臣の、一人娘、とか」


 意味深に口角を上げ、謎の男が何かの確信を込めた一言を言う。その仕草、態度、雰囲気でさえも、一瞬で変貌したと感じてしまった刹那、


「なに!?」


 仲間の男の一人が、思わず反応してしまう。


「しま――っ!」

「――ビンゴっ」


 謎の男が指をパチンと鳴らし、勝ち誇ったようににやりと笑う。

 やられた!? そう悟った直後、咄嗟に間合いを離す三人組の男。そして三人組は一斉に、魔法式を展開。悟られた以上はやむを得ず、攻撃態勢に入っていた。


 張り込みの甲斐があったと、ヴィザリウス魔法学園の教師である林は内心で満足気だったが、喜びを噛みしめる余裕はない。ある意味想定していた大都会での市街戦の開始に、林はすぐに反応する。 


向原むかいはら! 防御魔法を周囲に展開しろ! 周囲の通行人に気を付けろ!」

「だから! 危ないし突然すぎますってばはやし先生!」


 叫んだ林の後ろから、若い女性教師が白い魔法式を展開しながら現れる。何だかんだで命令に従う、同じ教師の向原琴音むかいはらことねだ。


「教師だと!?」

「嵌められた……!」

「《メオス》!」


 先制攻撃は、三人組の男たちから。結界が張られていく路上にて、浮かんだ円状の白い魔法式の光が強まり、そこから林に向け白い光弾が飛ぶ。


「――律儀りちぎに魔法の名前を詠唱えいしょうしてくれるとは、チンピラじゃねえな……!」


 防御魔法《プロト》を正面に展開し、魔法による攻撃を弾き飛ばした林は、ぼそりと呟く。

 集団戦で魔法を発動する際、周りにどんな魔法を発動したか、連携、安全の面も考えて発動した魔法名を主に仲間に言う動作を、詠唱と言う。例えば特殊魔法治安維持組織シイスティムなど、魔法学園に通っている者ならば誰もが学ぶ魔法戦の基本項目である。

 男たちは攻撃魔法を発動しながら、林の視界に一度に入りきらない角度まで、散開している。寄せ集めの印象が強いテロリストとして見るには、あまりにも連携がとれていた。戯言たわごとではなく、本当に骨の折れそうな相手だ。


「た、戦い!?」

「下がってろ!」


 魔法戦を前に驚いている背後の向原を気にしつつ、林は攻撃魔法の術式を展開、構築していく。その表情は、いつになく真剣だ。


「《メオス》!」

「《サイス》!」


 法律で禁止されている殺傷性の高い破壊魔法を、次々と詠唱して発動する敵。三方向に散開してから、防御魔法の展開場所もままならない、絶妙な位置で。

 その手のプロか、と林は瞬時に判断してから、


「伏せろ向原! 《パニッシュメント》!」


 高位妨害ジャミング魔法を発動し、淡く白い魔法の膜を拡散させ、破壊魔法による攻撃を消滅させた。


「コイツは食らうと痛いぜ。《エクスタリオ》!」 

 

 続いて林は、ひょいと攻撃魔法を起動。流れるような手つきで円形の魔法式に魔法文字スペルを打ち込み、目に見える魔法の光弾を、男の一人に向けて放つ。


「クソッ!」


 攻撃を防御する間さえ、なかった。林が放った攻撃魔法は、見事に男の一人に直撃。途端、身体を空高く打ち上げられ、そのまま自由落下。身体を地面に叩きつけられた男は、悲鳴をあげていた。


「こっちは破壊魔法じゃなくて攻撃魔法で勘弁してやってるんだ、文句はねえよな?」

「流石は魔法学園の教師と言ったところか……」


 体制を低く屈めながら、三人組のリーダーらしきいささか屈強な体躯たいくの男がうめく。


「大臣の娘を狙うってお前ら、何者だ? この連携は寄せ集めのテロリストじゃあるまいし」

「……」


 無言の男は、属性攻撃魔法の構築を開始。

 

「話す口はないか……」


 相手は複数。一般人に危害が及ばぬように向原は防御魔法を展開しており、数的不利なこの状況に内心で冷や汗をかく林は、それでも攻撃魔法の構築を始めていた。大都会の歩道上にて、眩い魔法の光がまたしてもまたたく。


「《ライトニング》!」

「観念しろって! 《フォトンアロ―》!」


 黄色い魔法式から発動された魔法の電流に対し、林も大声を張り上げ、魔法で宙に具現化させたの光の矢で応戦する。


「《サイス》!」


 ――しかし、相手は複数。《ライトニング》を発動した男の後方より、またしても破壊魔法を発動してくる、敵の味方。白い魔法式から放たれた、高速の白いかまいたちが、避けようとした林の身を掠め、


「しくじった……? ――あ?」


 一瞬だけ、何が起こったのか分からず、戦闘中にも関わらずきょとんとした顔を浮かべた林。自身の右腕の先から、鮮血が噴き出して……いる……?


「嘘、だろ俺……」


 命を刈り取る破壊魔法、《サイス》を右手に食らった、林の右手が、じ切れたのだ。一瞬にして襲い掛かってくる激しい痛みを、右手を抑え込む林は味わう。指先の感覚が全て痛みへと変わっており、神経も損傷しているようだ。


「おいおい……こりゃあ、痛すぎるってもんじゃねぇな……」

「は、林先生!?」


 後方より向原の悲鳴が聞こえたが、林は来るなと、首を横に振っていた。


「ローグ3。お前はこの場から離脱しろ。この男と女の始末は私たち二人で十分だ」

「はっ」


 一番最初に林の《エクスタリオ》を喰らった男が、おそらくコードネームと言われる呼び名で呼ばれ、その場を走って後にしていく。


「追いかける気力もなしか? ()()?」

「随分と嫌味ったらしい言い方してくれるじゃねぇか……」


 まるで、誰かをそう呼ぶのに慣れているようで。

 走り去る男の背中を見据えながら、林は口で荒い呼吸をしている。


「俺たちを捕らえるには、もう少し準備が必要だったようだな」

「一か八かの賭けが大好きなもんで、それに準備もクソもあるか……」

「その賭けに負けてしまったとは、情けない」

「まだ途中のつもりなんだけどな……。向原、防御魔法は展開したままにしろ!」

 

 彼女がこちらに駆け寄ってくる気配を感じ、林は振り向くことはせずに叫ぶ。


「でも、その身体では……!」

「大丈夫だ! 心配すんな暴力女!」

「ば、暴力女っ!?」


 しかし剣術士。……怪我をすぐに治せないってのは、こうも辛いのな……。

 わめく向原を他所よそに、林は心の中で苦笑していた。それはつまり、それくらいの余裕が生まれた、という事でもあり――。


「粉々に爆発するがいい。《メオス》!」


 苦しそうに目線を上げた林は、魔法の光を前に、ニヤリと笑う。呑気に治癒魔法で右手の治療をすると言う選択肢は、林にはなかった。


「お断りだ……。失われた夜生まれロストナイトバースデイを舐めるんじゃねえぞ変態ストーカー共が!」

 

 激昂した林は、血染めの左手を突き出し、再び二人の男と相対する。


 一方。一人戦場を離脱し、魔法学園沿いの歩道を何食わぬ顔で早歩きしていた男は、スーツ下のシャツの襟に備え付けてある通信機に、小声を出していた。


「こちらローグ3。任務は中断、帰投す――」

「――《トリスタン》」


 そこへ、突如として飛来した、魔法で出来た白い大剣。それは歩く男の目の前を掠め、地面に叩きつけるようにして、進行方向を塞いだ。


「なに!? 新手か!?」

「はーい。ごめんなさいだけど、ここは通行止めよ?」


 のほほんと呑気な声で現れたのは、金髪碧眼の美女だった。それが攻撃魔法を組み立てていなければ、目も引かれるほどの、無邪気な笑顔で。


「っち! 貴様も教師か!」

「そうよ。もっともまだ新人だけどね。あら?」

「《メオス》!」


 着弾した対象を、内部から爆発させる破壊魔法を躊躇ちゅうちょすることなく、放つ男。棒立ちのままの金髪の女性に、それは確かに直撃したかに見えたが。


「突然は酷いなぁ。それに《メオス》なんて、堂々とした法律違反よ? この国って向こう程治安悪くなかったと思うんだけど」

「なに!?」


 若い女性教師は、風属性の汎用魔法を操り、踊るようにして男の破壊魔法の攻撃を避けていた。ふわりと優美な金髪をなびかせ、次には男に向けて右手を伸ばす。


「からかっているのか、この俺を……!」

「うーん。そのつもりは無いんだけど、どうも私って誤解されやすいのかな?」


 左の人差し指をくちびるに添え、女性教師はきょとんと首を傾げてくる。その小悪魔染みた仕草に、男の表情に少しの困惑の色が浮かぶ。


「っく! 《メオス》!」

「やめといた方が良いと思うけど……もう手遅れかしら?」

「え――」


 破壊魔法の発動は、なかった。男の魔素マナ切れでは、ない。

 気づけば、男の周りには、女性教師がいつの間にか発動したのか、四角い半透明の魔法の壁が出来上がっていた。左右上下、どこにも隙間の無い、綺麗なガラスのケースのように。

 そして、男の足元には、ともすれば禍々まがまがしい色合いをした紫色の魔法式が展開されている。


「おやすみなさい。……《ナイトメア》」


 ヴィザリウス魔法学園の新人女性教師、星野百合ほしのゆりが発動した幻影魔法の光に、男はちていった。


「さて、と。そっちもどうやら終わりそうですね、林先生」


 すぐ近くで行われている魔法戦に、百合は呑気にも微笑んでいた。

 もっとも、向こうの戦闘の結果によると、呑気と言うのは良い意味で間違ってはいなかった。

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