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魔法世界の剣術士 上  作者: 相會応
仮面舞踏会に煌めく魔剣
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1

 翌朝。

 外に出れば汗が滴る、猛暑と呼ぶに相応しい外気温の中、大阪府大阪市に建つアルゲイル魔法学園内部の熱気も、上昇しつつあった。今日は弁論会本番。その朝だ。

 誠次せいじはヴィザリウス魔法学園の制服姿で、アルゲイル魔法学園の正門方向を高い所から一望できる、涼しいカフェにいた。東京から来たお客さん、と言うことでヴィザリウス魔法学園の生徒たちは何かと優遇されており、特等席とも呼べる窓際の席を確保できたのも、その為だ。――来年は、その立場が逆転するのだろうが。

 

「うわあ。人いっぱいだねー」


 誠次と机を挟んで目の前に座り、桜庭さくらばが窓から下の方を見て呟く。桜庭の言う通り、窓の外に広がるアルゲイル魔法学園の正門付近には、老若男女問わず大勢の人がいる。

 色相的には黒が目立つ人の群の理由は、アルゲイル魔法学園の生徒と特殊魔法治安維持組織シィスティム並びに警備兵の為だ。


来賓者らいひんしゃが大勢来るから、それの警備なんだろうな」


 誠次も桜庭と同じ方を見て呟く。ホバー移動している警備ドローンの姿もここから見えた。


「なるほど。でも、すごい数だよね……」


 桜庭のどこか落ち着かない指摘通り、仰々しいとまで感じる、厳重な警備体制だった。が、あくまで警備が厳重なだけであり、門を通過していく人やそれを見送る人々の表情は明るく、盛り上がっている雰囲気だ。


「……」 


 誠次の隣では、下のちょっとしたお祭り騒ぎに興味が無さそうな香月こうづきが、アイスティーをストローで飲んでいる。


「俺もなにか食おうかな」 


 ヴィザリウス魔法学園のそれと変わらないメニューを眺めながら、誠次は言う。

 そこへ、三人組のアルゲイル魔法生まほうせいが近づいてきた。


「おはよう誠次。莉緒りおさん、詩音しおんさん」


 爽やかな声で話し掛けて来たのは、アルゲイル魔法学園の生徒、星野一希ほしのかずきだった。


「昨日と立場が逆だね。相席いいかい?」

「げ……。また変態……。……おはよ」

「おはようございます」


 かたわらには小野寺理おのでらあやと、雛菊ひなぎくはるかもいる。三人とも、アルゲイル魔法学園の制服姿だ。


「おはよう」

「おはよー」

「……」


 ヴィザリウス魔法学園の面々も、それぞれ挨拶を返す。一人していなかった気がするが、気のせいだろう。


「昨日と同じ顔触れだね。ここのカフェはレーズンスコーンがおすすめだよ」

「洒落てて美味うまそうだな。でも一希、なんで顔赤いんだ?」


 誠次が、微かにもみじの形に赤くなっている一希の頬を見て言うと、後ろにいる理が「げふんげふん」と、咳払いしていた。


「い、いや、なんでも……。来年は君も注意してくれ」

「?」


 一希は苦笑しながら髪をかき、はぐらかしていた。


「それよりも外。先輩の話じゃ、例年に無い警備だそうだよ」


 一希は誠次の後ろの席に座って、窓の外の光景をうかがって言った。

 背中合わせで、誠次も一希と同じ方を見る。

 窓の外では、何台かの高級車がやって来たところであり、それを囲むように特殊魔法治安維持組織シィスティムと警備兵の人々が列を作っていた。


「テロが例年に無く無駄に活発化しているからな」


 まるで他人事のように、誠次は言っていた。それにより隣の香月が「けほ、けほ」と少しアイスティーを噴き出しそうになってしまっていた。取りあえず紙フキンを渡しておいてやった。


「レ―ヴネメシス。日本で初めての国際テロか……」

「海外のほとんどの支部は、もう捕まったって話だよね」


 深刻そうに呟いた一希に比べ、どこか安心したように、はるかが言う。海外の方のテロは出れば叩かれる、もぐら叩きの状態だった。魔法技術に関して言えば、日本は他国から一歩遅れをとっているのだろう。


「うん。日本の方も逮捕されるのは時間の問題だって、ニュースでやってたよ」


 桜庭が窓から視線を誠次の方に戻し、言う。


「゛捕食者イーター゛と戦うべきなのに、人と戦うなんてさ」


 一希が青い目を細め、どこか遠くを見ていた。


「そうだな」


 誠次は、桜庭の言葉と一希の言葉にうんと頷いていた。

 ――だが、どうだろうか、と誠次は内心で思っていた。国や特殊魔法治安維持組織(シィスティム)がやってくれるのならばそれに越したことは無いが。いずれにせよ、因縁にはケリをつけるつもりだ。魔法が使えないおれの、おれなりのやり方で、おれの手で。


「……」


 隣の香月が顔をうつむかせているのを見て、この話題はもう止めようとは思った。


「テロリスト。最後の悪あがきみたいなことをしてくれないといいけど」


 一希がぼそりと言っていた。

 アルゲイル魔法学園正門には、またしても高級そうな一台の黒い車が止まった。

 中から出て来たのは、いかつい風貌の男だった。目を引く白い制服のようなものを着用し、引き締まったその表情は顔だけでも厳格な印象をもたらしていた。背丈も高そうな男が一歩歩きだすと、特殊魔法治安維持組織(シィスティム)や警備員、アルゲイル魔法学園の生徒たちも礼をしていた。


「誰だろ、あれ」


 先ほどまでの来賓者とは明らかに違う雰囲気に、桜庭が気になったようだ。

 答えたのは、目を細めていた一希だった。


魔法執行省まほうしっこうしょう大臣だ」

「まほう、しっこうしょう?」


 桜庭が首を傾げていた。何それ、と誠次に視線を向ける。


「俺も詳しい事はよく知らないけど、魔法に関する政府の行政機関だ。ほら、法律で使用を禁止する魔法とかを決める議案を出したりするところだ」

「今回の制服外出許可がどうかも、あの人たち次第かも知れないって事ですね」


 はるかが付け足すようにして言い、誠次は「ああ」と頷いていた。そこの大臣と言うわけで、実質この国の魔法使いたちのトップに立つレベルの男なのだろう。――歳を見るに魔法は、使えそうにないが。


「魔法が使えないのに魔法使いのお偉いさんって……」


 誠次は頬杖をついて窓の外を見て、小さな声で呟いていた。年功序列が根強いこの世界では、それは仕方が無い事なのかも知れないのだろうが。

 革命――林間学校でテロリストの奥羽おうばが言っていた言葉を、誠次は嫌に思い出してしまっていた。

 

「前にテレビで見たわね。名前は――本城直正ほんじょうなおまさだったかしら」

「戦国時代の武将みたいな名前だね」


 理と一希の言葉のやり取りの最中、ヴィザリウス魔法学園組は顔を見合わせていた。


「本城って、まさかほんちゃん?」

「まさか、本城千尋ほんじょうちひろの父親さんとか……?」

「わ、わからない……」


 顔を見合わせた桜庭と誠次の会話の途中、


「美味しい」


 いつの間にかレーズンスコーンを頼んでいた香月がもぐもぐと一言。


「本城のお父さんなのか……?」


 仮に親子だったとしたら、まことに悪いが、似ていなくて良かったと思う誠次。

 理が本城と言った人物は、正門道路を直進して、そのままアルゲイル魔法学園へと入っていく。

 続いて、


「きゃ! あれって影塚さん!?」

「見える!? 見えるよ!」

「カッコイイ!」


 アルゲイル魔法学園の黒いワイシャツを着た付近の女子生徒たちが、一斉に色めき出していた。状況はヴィザリウス魔法学園の女子生徒たちも同じだ。

 見ると、特殊魔法治安維持組織(シィスティム)のエリート影塚広かげつかこうが、同じく特殊魔法治安維持組織(シィスティム)の人と一緒に整列していた。遠くから見ても、やはりオーラが違うのだろうか。逆に顔見知りの誠次は発見出来ていなかったので、それはある意味彼の仕事能力の高さだろう。

 影塚の近くには、群青の髪色をした波沢茜なみさわあかねもいた。妹である波沢香織なみさわかおりも大阪に来ている。顔を合わす機会はあるのだろうか。


「警備で選抜された先輩羨ましいー。超至近距離で会えるんだよ!?」

「サイン貰えるかな?」

「無理ゲーでしょ……」

(俺は影塚さんと知り合いの魔法生まほうせいだぞ!)


 と得意げに、胸の内で密かにしょうもない自慢している誠次だった。

 ところで視線と言う観点で言えば、誠次もアルゲイル魔法学園の生徒の目を引いていた。言わずもがな、背中のレヴァテインの為である。


「マジで剣持ってるぞ……」

「都市伝説じゃ無かったのか。こ、こえ―……」

「一希くんと友達なのかな……?」


 おおよそ初見からの反応は、今日も平常運転だった。

 はるかが大して反応していなかったのは、昨日のお好み焼き屋の一件以降、理が盛大に「剣を持っていた」とカミングアウトしたからだ。理には、見られてしまっていたのだろう。

 本城を皮切りに、来賓者の車の列は後を絶たなくなっていた。次から次へと、学園の駐車場の方へ車が入っていく。

 魔法に関する有識者だが、あの中に八ノ夜美里はちのやみさとの姿を見る事はないのだろう。


(そろそろ立場大丈夫なのだろうか、あの人……)


 理事長、と言うことで誠次はとあることを思い出した。


「そう言えば、アルゲイル魔法学園の理事長ってどんな感じなんだ?」


 他校の理事長の事はあまり詳しくはないし、最初は興味もなかった。だが東京の魔法学園の理事長がアレでは、大阪の魔法学園の理事長は一体どうなのだろうと、思ったのだ。

 答えてくれたのは、少し上を向いた一希だった。


「うーん。一言で言えば、ちょっと怪しい人、かな」


 一希はどこか言い辛そうではあった。理とはるかも「何と言えばいいか……」と悩んでいる様子だ。

 おそらくこちらの理事長と同じく、゛普通の人゛ではないのだろう。


「でも尊敬は出来る。男の人で、名前は朝霞刃生あさかばしょう

「こっちはこっちで偉人みたいな名前だな」


 旅をして俳句を作っていそうな名前に、誠次が苦笑いで返していた。

 

「なんやなんや大所帯で? 朝から騒がしいなぁ」


 これでもかと言わんばかりの、こってこての関西弁男子生徒がやって来た。ネクタイの色は青で同学年だ。

 全体的に黄色な風貌が特徴的な関西弁男子は、誠次たちを奇妙な物でも見るようにしてうかがってきた。 


「下はもっと騒がしいよ、たけし


 一希が苦笑交じりに言う。

 武が窓の下を見ると「テレビカメラおるで!? アリの行列やー!」などと言って興奮していた。


「騒がせてごめんね。僕たちは行くよ」


 一希が立ち上がり、武の肩に手を置いて言った。


「なんやそれ!? 俺が一番騒がしいみたいになっとるやんか!」

「事実だよ……」

「テンション上がってたのに、ひどいやっちゃな……」


 武ががみがみと、一希がやれやれと返している。

 

志藤しどうに似てるな。見た目も若干どことなく似ている)


 東京の友人の姿を思い浮かべ、誠次は微かに口角を上げていた。


「なんでやねんの気配」

「なに、それ……」


 誠次が志藤の面影を見ていた一方で、香月の変な目標に桜庭が冷静にツッコんでいた。

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