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魔法世界の剣術士 上  作者: 相會応
千の上に立つ者たち
47/211

2 ☆

「魔法学園の生徒会ですが、実質他の普通科高校との大きな違いは特にありません。各委員会の、ひいては全校生徒のトップに立ち、校則の議会決定や行事の企画運営をり行います」


 手馴れている口振りで、副会長である桐野きりの誠次せいじ桜庭さくらばに向けて説明をする。

 生徒会執行部室では現在、机を三つずつ向い合せる形で会議のようなものが行われている。ただ、はたから見れば小学校の給食のような光景ではある。

 窓側中央席に誠次、左隣に桜庭、右隣に二学年生会計長谷川はせがわ。向かい合う形で誠次から見て廊下側の中央には兵頭ひょうどう、左斜め前に二学年生書記相村あいむら、右斜め前に桐野だ。

 香月こうづきはと言うと、誠次の座る椅子の背もたれに手を添えて立ったままだった。


「全校生徒千人を超えるこの学園を、四人だけでですか?」


 少ないとは思ったが、中学校の時の生徒会メンバーもそんな数だったけかと思い出す。

 生徒会など誠次はやったこともなく、詳しいこともよくわからない。ただ漠然と、凄い権限を持つ組織だ、と言うイメージしかなかった。それこそ、漫画や小説の読みすぎだろうか。


「そうそう。この学園はくせ者揃いで中々大変なのよー剣術士くんー」


 相村が背もたれに深く寄りかかり、ため息交じりに悩ましげな表情をしていた。

 

(そのくせ者筆頭候補って、まさか俺じゃないですよね?)


 胸の内で密かに願う、誠次であった。


「実際大変なのは秋。ここには体育祭や文化祭があるんだ。まあどの高校でも秋が一番盛り上がる季節かもね」


 離れたところより、長谷川がトレーに乗せたコップにれた冷茶を配膳しにやって来た。


「あ、あたしも手伝います」

「おお、ありがとう」

「いえいえっ」


 桜庭もお茶を配るのは自ら手伝っていた。

 学園のHPでさらっと見たところ、九月には体育祭、一一月には文化祭がある。そう言えば一一月の文化祭前には、定期テストもあったはずだ。


「二学年生の長谷川会計と相村書記は、修学旅行が十二月にあるな」

「私ちょー楽しみ!」

「一応一二月はもう冬ですよ相村、兵頭会長。今は秋の話です」


 兵頭の思い出しと相村の即答に、長谷川がすかさず訂正していた。


「翔ちゃん細かすぎー」


 ぶうっと頬を膨らませ、相村は言う。 


「相村が大雑把すぎるんだ」


 二学年生二人のやり取りに、周囲は苦笑していた。


「いえ別に秋の話ではなく、私は生徒会の活動の話をしていたのですが……」


 ただ一人、咳払いをした者を除いて――。


「話を戻しますが、私たちの代での生徒会の大きな活動は九月の体育祭までで終わりです。生徒会総選挙が十月にあるからです」


 いつの間にか、桐野が背後にあったホワイトボードにペンで行事の一覧を書き込んでいた。習字のように、綺麗な字だ。

 このメンバーでの生徒会は残り三か月、と言うことか。 


「そして、ある意味生徒会最大のイベントが、夏休み中である八月中旬に行われます」


 桐野がペンで、先に文字をすらすらと書いていく。


「……」


 この場の全員の視線が、桐野によってホワイトボードへ書かれていく文字へと送られていた。


「アルゲイル魔法学園との合同会議イベントです。通称、二大魔法学園弁論会にだいまほうがくえんべんろんかい

「二大魔法学園弁論会……」

 

 響きが格好いいだけの理由で、特に意味も無く誠次は復唱していた。


「それって、何ですか?」


 左隣の席の桜庭は難しそうな顔でホワイトボードと睨めっこしていた。漢字多いよ……とでも言いたげだ。


「年に一度、二つの魔法学園同士で行なわれる魔法に関した話合いだ。俺たち生徒会はそれに参加することになっているんだ」


 誠次たちが興味をもったことが嬉しかったのかどうかはわからないが、兵頭がやや前のめりになって言う。

 

「堅苦しそうだけど、話し合いのテーマ自体はそんなでもない。今年は制服での外出許可について、意見交換を行うつもりだ」


 まだ困惑している桜庭を横目で見てから、長谷川が説明を続ける。

 桜庭はああっ、とどうやら解釈したようだ。


「制服での外出!? それ、是非可決してほしいです!」

「わかる!? わかるよね莉緒ちゃん! うちの学園の制服可愛いのにもったいないよね! 男子も格好良いし!」

「はいはい! 女子のスカートとかブレザー可愛いですよね! あと、リボンとかも!」

「確かに!」


 やはりどこか通じるものでもあるのだろうか、一気に表情を明るくした桜庭に、相村が手をぱんと叩いて一番に反応していた。


「けど問題は山積みなんだ。世間一般から見て魔法は未だに異能の力として見られている節が大きい。それを扱える魔法生まほうせいが制服で外を歩かれるのは、やはり気に入られたものではないだろう」


 兵頭が腕を組み、真剣な眼差しで言う。焦げ茶色の視線の先に映るのは、生硬い表情をしている誠次だった。


「あ……」

「そうなのよねー……」


 桜庭と相村の間でも、盛り上がっていた空気が一転して再び冷めてしまっていた。


「その問題をどうするべきかを、弁論会では話し合います。弁論会には政府の要人や魔法執行省関係者、特殊治安魔法維持組織シィスティムの方々など大勢の有識者も参加し、弁論会を見ることとなります」

「上手くいけば制服での外出は認められると思う。実際過去の弁論会でも、そこから魔法や魔法生に関する様々な法令が可決したり許可されたりしているからな」


 桐野と長谷川が、誠次と桜庭に向けて言った。


「ここで一つ、君の意見をぜひとも訊いてみたい誠次少年。魔法が使えない人の、代表として」


 兵頭がこちらを試すような目で見て来ていた。

 

「……」


 誠次は少し思慮した後、


「……俺は、゛魔法が使えない人゛から見た魔法の一方的な暴力のイメージが、魔法が使えない人にはあると思います。使い方を間違えなければ魔法は安全で、害のないものだと言うことをわかってもらえれば、世間の見方も変わって来ると思います」

「魔法が使えない人。なるほど、君ならではの意見だな」


 にやりと、一切の悪意も感じられないほどの清々しい笑みを、兵頭は浮べていた。

 その笑顔を真正面から見た誠次は、心臓がぴくんと跳ねる思いであった。


「では本題だ誠次少年。二大魔法学園弁論会に参加しないか!?」


 兵頭の期待するような視線を受け、誠次はほんの少しだけ怯んでいた。


「!? 生徒会メンバーのみしか参加できないのでは?」


 もっとも、そこまで参加する気は起きなかった。誠次自身、制服での外出など桜庭ほど興味があるわけではない。着替えないで外出できると言うのは楽で良さそうではあったが、そこまで大きな問題だとは誠次は思わなかった。

 だが先輩相手にいきなり、嫌です、などと言えるはずもなく、誠次は悟られぬよう別の逃げ道で逃げようとしていた。


「またあなたは……」


 桐野が横目で兵頭をひと睨みし、やれやれと澄ましたをする。

 しかし兵頭は真っ直ぐ、誠次を見ていた。

 桐野が不満に思っているのは、兵頭が勝手に誠次を弁論会に誘った事かと思ったのだが、


「説明不足でしたね。一学年生の参加は自由です」


 どうやらそれは違うようで、桐野の優しさが、皮肉にも誠次の逃げ道を潰して来た。


「は、はい……。では、行ってみたいと思います」


 早々に降参した誠次は、いまいち冴えない表情で、


「でも、どうして俺を?」


 ここまで来たら、もう先輩方を前にして行けませんなどと言えない気がした。夏休みに特に予定はないし、参観だけだったらおそらく大丈夫だろうと言う気概きがいだ。

 それでも、兵頭がわざわざ個人的に自分を招集して来た意味はわからず、誠次は訊いていた。

 すると、兵頭が手を掲げ、


「ただ俺が……誘いたかったからだッ!」


 満足気な表情で、見事に言い切った。

 

「……」

「……」


 誠次と桜庭が呆気に取られていると、右横の長谷川が顔を近づけて来て、ぼそっと耳打ちして来た。


「会長のクセだ。思い立ったがすぐ行動」

「悪いクセだ、とは、一概いちがいに言えそうに、ないですね……」


 長谷川の言葉に、誠次は苦笑いで答えた。

 

「皆聞いてくれ!」


 続いて、突然大声を発した兵頭に、 


「はい! ……って……あれ……?」


 桜庭だけが元気よく反応していた。

 誠次と香月は驚いており、周りの生徒会メンバーは全員すまし顔をしており。そして桜庭は「う……」と言って恥ずかしそうに顔を伏せてしまっていた。

 兵頭はそれを気にする事もなく、  


「剣を持っている姿は一見怖いが、誠次少年は俺らとなんら変わらない普通の学生! 順番は間違えたが、参加してくれなくてもこれからよしなに、だ! そうだよな!」


 兵頭はそう言いながら、大きな手を誠次に差し出して来る。


「生徒会長……っ!」 


 ――ま、まずいっ!

 これが男気に惚れる、と言うやつなのだろうか。

 立ち上がった誠次は自然と右手を返し、握手を交わしていた。  


「あ、天瀬……?」


 長谷川が少し引いてしまっていた。

 一方、誠次の様子を、隣の桜庭がじっと見つめてから、


「そ、そうですよね! 一度話してみると、普通の男子ってだけで、魔法使えるとか使えないとか関係ないですよね!」

「おかんみたいなこと言うな桜庭、こっちが恥ずかしい……」

「お母んて、それ軽く暴言だよ!?」

  

 変なところでこちらを庇ってくれる桜庭の気遣いが、嬉しいことは嬉しかった誠次は、笑っていた。


「まあ俺も。よろしく天瀬」

「私もー。よろしくね」


 それに、兵頭を始めとした生徒会メンバーの反応は、今までの先輩方とは違うものであった。


「さておき、うちは翔ちゃんがお母んかなー?」

「やかましい」 


 相村がうりうりと長谷川に笑いかけ、長谷川はやれやれと嫌な表情を浮べる。 


「私はべつに最初から差別するつもりはありません。この学園にいる以上、同じ一生徒として扱います」

「きりりんかっちょいい~!」

「……」


 桐野は相村をひと睨みこそするがすぐに、仕方ない、と柔らかいため息をつく。 

 

「二大魔法学園弁論会の説明を再開します。聞こえは悪いですが、弁論会はお互いの学園で十月に控えた、生徒会選挙での生徒会イメージ合戦でもあります」


 自分で言っておきながら、あまりいい気分ではないと、表情と口調で示したのは右斜め前の席に座る桐野だった。


「なるほど。つまり、立候補者を集うための活動でもあるわけですね」


 ここへ来て誠次も、ようやく本腰を入れる踏ん切りがついた。


「はい。その通りです天瀬くん」


 普段はあまり表だった活動を見せない、縁の下の力持ち的な捉われ方が大きい生徒会において、選挙前である夏休み中の目立った活動は、在校生に向けた生徒会の大きなアピールになるはずだ。それゆえ秋の選挙において立候補者を円滑に集うため、一種のショーでもあるのだろう。

 誠次はホワイトボードの文字を眺めるとふと、あることを思った。


「でも、失礼かもしれませんけど、生徒会の活動アピールにしては、結構地味ではありませんか?」


 確かに一部の生徒からは、一つの議題に関して真剣に話し合う――議会の真似事――と言うのは格好いいクールなイメージが沸くだろう。だが多くの人から見たそれは、裏を返せばただのお固くて面倒臭そうな行事であるはずだ。しかも夏休み中だ。とても良いアピールだとは言えそうにないのだが。


「痛いところを突くなー、天瀬は」


 思った事を言った誠次に、長谷川が髪をかいて苦笑していた。


「確かに一見地味そうだけど、夜になると一転! 学園交流を兼ねたパーティーがあるの」


 相村が「どうよ? どうよ?」とでも言いたげで。


「パーティー。楽しそう……」


 左の桜庭が何やら視線を上に向けて妄想している。

 桜庭が思っているのはきっと、なにか目が痛くなるようなお菓子とかが並んで女子が談笑しているようなパーティーだろう。

 断言する。それはきっと違う。


(パーティー……)


 すると、後ろから香月までもがぼそっとつぶやく。

 香月が思っているようなパーティーは……なにか魔法の光が辺り一面に光っては輝いて、爆発したりなんたらしてそうな゛パーティー゛みたいで、想像に難くない……。

 

「ドレスとか着たりしてダンス踊ったり、向こうの魔法学園の人と話したりで楽しいみたいなのよ!」


 相村が真正面にいる桜庭に、わざと強調するように言っていた。

 案の定桜庭は、


「はい! すっごい楽しそうですねそれっ!」


 共鳴とでも言えば良いのか否か、うんうんと頷いていた。御覧の通りだが、普段生徒会の活動に興味のないような人も興味が沸くようにと言う思惑での、パーティーなのだろう。


「パーティーか……」


 ただ誠次は特に興味はなかったのだが。


 夕方。

 生徒会室から退出した誠次と桜庭と香月は、委員会棟の階段を降りていた。取り敢えず生徒会メンバーには弁論会に参加するむねを伝えておき、詳細は後日伝えられる事となっていた。


「あたし、てっきり参加しないと思ったんだけど」


 階段を一段飛ばしで軽快に降りつつ、桜庭が訊いて来た。


「いやいやあの状況じゃ断れないだろ」


 上手く誘い込まれた小動物の気分だった。さしずめ、兵頭はハンターか。


「ま、まあ確かにね。あたしも天瀬の立場だったら断り辛いかも」

「期待には応えたいけど――」

 

 誠次はそこまで言って、口を閉ざす。

 すぐ後ろを歩いていた香月が突然、早足で先に階段を降りていったのだ。先を行く桜庭を通り越し、段を降りるごとにひょこひょこと銀髪のアホ毛が揺れ、見えなくなった。

 突拍子もなかった香月の行動を見た誠次がきょとんとしていると、桜庭が振り向いた。


「どうしたの天瀬?」

「いや……。そう言う桜庭はパーティーに釣られて参加だろ?」


 首を傾げつつ、誤魔化すように、誠次は話題を変えていた。


「ち、違うってば! あたしも制服での外出許可が出たら良いなって思っただけ!」


 手をぶんぶんと振りながら、桜庭は慌てて言い返して来る。


「ま、まあちょこっとはパーティーに興味はあるけど……」


 頬をかきながら桜庭が言っていると、誠次の視線で銀色の髪が見えた。

 先ほど姿を消したと思った香月が、何食わぬ顔で階段を上がって来ていたのだ。


「あら、偶然」


 誠次と桜庭を見るなり、香月は白々しい台詞を言う。おそらく、偶然ばったり遭遇したと言うていをするつもりだろう。

 誠次が頭を抱えたい衝動を抑えていると、桜庭が香月を見て驚いていた。


「こうちゃんどこ行ってたの!? いきなり居なくなったからびっくりしたよー」

「あなたたちこそせいとかいしつになにしにいってたのかしら」


 棒だ。凄まじい棒台詞だ。


「えっ、なんで生徒会室に行ってたこと知ってるの……?」

「っ……!?」


 桜庭のごもっともな指摘に、香月は一瞬、固まる。


「それは……」


 顔をぎこちなく動かし、香月は誠次に助けを求めるような視線を送って来た。どうやら助けてほしいようだ。そもそもなぜそのような下手な芝居を打つ必要があったのか、と訊きたいのは山々だったが――。


「ま、まあここから先にあるのは生徒会の部室だけみたいなものだし、生徒会に用があったとみられてもおかしくないな!」


 誠次が視線をあさっての方向に向けながら、慌てて言う。

 

「なんか変なフォローに聴こえるよ!?」

 

 桜庭にはそう聴こえたらしく、誠次を見て驚いている。


「そう……よね」

「そう……だな」


 ゆっくりと、顔を見合わせる誠次と香月。


「……」

「……」

「え? え!? どうしたの!?」


 沈黙する二人を、桜庭が奇怪な顔で見ていた。


「え、えと夏休み期間、二大魔法学園弁論会って言うのがあるんだって。パーティーとかあるんだけど、こうちゃんも一緒に来る?」


 視線を香月に戻し、桜庭は尋ねていた。


「行きたいわ」

 

 あからさまに食い気味で香月は答えた。


「そ、即答……」 


 そのあまりの返事の早さに、桜庭が驚いていた。


「内容知ってるしな……」

「え? なんか言った天瀬?」

「い、いや何も」


挿絵(By みてみん)

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