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魔法世界の剣術士 上  作者: 相會応
魔法少女と剣術士
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「――壮絶な入学式延長戦だったのな……」


 晴天の真下。嫌味なほど爽やかな風がそよぐここは、東西南北をビルに囲まれた芝生の公園、ではなく、ヴィザリウス魔法学園の中庭だ。

 舗装されたタイルの上を歩きながら、誠次せいじは同級生男子の同情するような声を受ける。


「それはもう……。あれから剣を受け取るか受け取らないかで、理事長との一進一退の攻防を繰り広げていたんだ」


 誠次は呆然とした気分で、それでも顔を上げ、男子生徒の顔を見た。


「その結果、負けたと」


 日本人離れした襟足長めの金髪で、少しやんちゃそうな見た目。そんな見た目だが、気の良い性格の友人――志藤颯介しどうそうすけは、はははと笑っていた。

 魔法学園の理事長に剣を渡された誠次。それ以降、誠次は制服の背中に剣を装着する風貌ふうぼうとなっていた。


「そもそもどうしてお前、魔法使えないのに魔法学園に来たんだよ……」


 至極真っ当な質問をぶつけてくる志藤。


「……魔法学園に来たら魔法使えるぞ、と言われて来たら、魔法使えないぞ、と言われた……」

「うっわー。見事に騙されてやがる……」

「そもそも、一五年間魔法が使えなくて、ようやく魔法が使えると期待に胸を膨らませていた矢先だったんだ。そりゃ騙されるだろ!」


 悪態をついた次にはとほほ、と誠次。背中の剣のせいだろうか、身体がなまりのように重い。


「はあ……」


 魔法が使えない少年と言う前例は、無い。まとめれば、゛魔法が使えるようになると言われて魔法学園に入学したら剣を渡されて魔法使えないと言われた゛、と言うことだ。

 誠次はがっくしと、肩を落としていた。


「しっかし剣、ねぇ。周りは手ぶらなのに、明らか浮いてるぜお前……恥ずかしい……」 


 志藤も、どこか恥ずかしそうに片手で頭を抱えていた。志藤は普通に魔法が使える、ヴィザリウス魔法学園の同じ新入生だ。そして、中学の頃からの友達でもある。


「頼む、み、見捨てないでくれ。まだ、剣なんかない中学時代のほうがましなんだ」


 誠次は冷や汗をかき、周りに視線を向けられずにいた。

 友人である志藤を除く他の同級生や在校生からは、「なんだアイツ……」と。そんな好奇の視線と声が入学式以降送られて来ている。


「はぁ……別に良いけどよ。これからどうすんだよ、お前」

「……まあ……入学したからには三年間頑張る。卒業さえすればなんとかなるはずだ」


 誠次は肩を竦めて言っていた。


「……魔法世界へようこそ、剣術士殿」


 誠次の横で志藤は、やれやれと笑みをこぼす。世界は広いと言えど、この世で魔法を使えず剣を背負っている高校生など、いはしないだろう。

 学園内の道行く男子生徒は、背中の凶器に呆気に取られたように後退しながら。女子生徒は、酷いものは友達同士で抱き合い、萎縮いしゅくしつつ誠次の背中の凶器を見る。

 悪目立ちとはよく言ったもので。いずれにせよ、気味悪いかつ怖いと言った負の感情が混ざり合い、最悪の効果を生んでいた。

 

「入学式から九日目にして注目の的ってやつか。すっかり有名人だな。俺たち魔術師まじゅつしと対をなすと噂の剣術士けんじゅつしさん」


 志藤はにししと笑みをこぼしている。近くて遠い存在、と言う意味ではこれ以上ない皮肉で、嫌味な称号である。


「……もう少しマシなネーミングはなかったのだろうか……」


 見た目では魔法が使えないなど、わからなかったことだ。それが剣を背負っているものだから、もうどうしようもない。


「門限」


 しばし後、志藤が周囲を見渡しながら、唐突に告げてきていた。


「あ……六時。もうこんな時間か」


 誠次も空を見上げる。話していたらいつの間にか、青空はだいだい色に染まっていた。

 人の限界活動時間――夕方の時間となり、周囲にいた生徒たちも、もうまばらだ。


「俺らの安住の地。寮に戻んねーと」


 皮肉交じりに、志藤も空を見上げて言っていた。

 ヴィザリウス魔法学園では、誠次や志藤のように寮で生活する生徒が大半だ。学園の授業時間の都合上、放課後のクラブ活動でもやっていようものなら、必然的に帰宅する時間はなくなる。法律で日が沈んだ夜間の外出は禁止されているので、四人一組で寮での寝泊まりだ。これは魔法学園に限った話ではない。

 日が完全に暮れる前に室内にいなければ、ならない。

 夜間外出禁止法。国の法律が、そうさせているのだ。

 

『六時になりました。全校生徒は、寮棟へと戻りましょう』 


 学園のアナウンスが、まだ外にいる生徒たちへ校内への入館をうながしている。

 日が沈んだ外に出ている一般市民は、法の下にどんな理由があっても逮捕されてしまう。そんな法案が、国会で可決された理由こそ――、


「゛捕食者イーター゛様のご登場の時間だぜ」

「……っ」


 志藤の言葉に、誠次の眉がピクリと反応する。

 夜間外出禁止法の可決理由。

 それは、゛捕食者イーター゛の出現の為だ。日没と共にどこからともなく現れ、人を喰う怪物だ。ある程度の知能を有し、人を捕まえてから喰う姿から、捕食者ほしょくしゃと言われている。

 そんな怪物が西暦のこの世に生まれたのも二〇五〇年と、およそ三〇年前。実に、魔法と同い年だった。

 多くの人が、後に゛失われた夜の日ロストナイト・デイ゛と呼ばれる二〇四九年の大晦日以降、゛捕食者イーター゛に喰われていた。


「父さん、母さん、奈緒なお……」 


 誠次も、それと無関係ではなかった。

 志藤は横目で、無言の誠次をちらりと見ると、


「天国にいる家族の敵討ちか……?」

「その為に魔法が必要だったんだけど、これじゃあな……」


 神妙さを帯びる志藤の言葉に、誠次は自分の右手を見つめ、消え入りそうな声で呟いていた。

 魔法と゛捕食者イーター゛の関係。

 魔法は゛捕食者イーター゛を倒せる唯一の力だった。魔法以外の物理的な攻撃を、゛捕食者イーター゛は一切受け付けない。

 中学校の時先生は、゛捕食者イーター゛への物理攻撃は影に向かってグーでパンチしているようなもの、と言っていたか。今思えば、実に皮肉が効いていて分かり易い。

 ゛捕食者イーター゛を倒す為に世界は多くの魔術師を求め、一流の魔術師を育て上げるのがここヴィザリウス魔法学園を含めた、世界各国にある魔法学園だ。


「夜の外か……。出歩ける実感は沸かねぇな」


 志藤がどこか遠くを見据えて、呟いていた。

 子供の頃から、夜間の外出は禁止されているので、志藤は夜の外に出た事はない。どういう訳かは分からないが、゛捕食者イーター゛は室内にいる人間には一切の興味を示さないのだ。


「昔は日が沈んでも自由に外出できたんだ。未成年はさすがに深夜は駄目らしいけど。それでも夜景とか星空とか、色々と綺麗な景色が見えたらしいんだ。他にも――」


 夢でも見るような表情で、誠次はまくし立てるように言っていた。


「おい落ち着け天瀬。……結構ハズイぞ」


 志藤は辺りを見渡し、苦笑していた。


「わ、悪い……」


 誠次はそこで、ようやく我に返っていた。


「暴走した……」


 気落ちしたように、言っていた。

 ――だが、そうじゃないと家族が死んだ無念を晴らす事など……。奴らに、復讐しなければならない。その到達点こそが、人間が再び夜間外出を自由に行えることだ。

 そう、誠次は考えて生きていた。


 今年で設立十七年を迎えるヴィザリウス魔法学園。その二〇七九年度入学式から、実に九日が経っていた。

 新入生を華やかに迎えた桜の花は、とうに舞い散っていた。 

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