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魔法世界の剣術士 上  作者: 相會応
あの星空をもう一度
21/211

6

 東馬仁とうまじんは、昼の会話のシーンを思い出していた。

 ――詩音しおんは、レ―ヴネメシスの戦闘員だったんだ。

 その言葉を受け、目の前に座る少年は確かに、表情を硬いものに変えていた。


『そう、だったのですか……』


 同じ魔法学園の少女の事実を知った事で、どんな反応を見せてくれるのか、純粋な好奇心があった。

 東馬からすれば、それは一種の実験に近い。科学者として、身体の底から巻き起こる、抗いがたい欲望だ。

 ――しかし。


『でも、もしそうだったとしても、今は同じ魔法学園の生徒です。人を殺していようものなら別ですが、学園理事長である八ノ夜はちのやさんは、そこら辺のことに関しては抜かりがありません』


 少年は動じずに、流れる水の如く、よどみなく話して来た。

 異常な落ち着きようであったが、それにより、隣の少女はどこか安心したように、少年を見上げていた。

 少女のあそこまで綻んだ顔は、俺の前では見せたことが無い。

   

「満月か」


 夜の色に相反そうはんする白衣をまとい、東馬は呟いた。周囲を歩く者は、自分のすぐ後ろを追従する子供以外、いはしない。

 空に輝く黄色の月を眺め、意識を目の前に向ける――。

 調べ物は済んだ。口を綻ばせ、目の前に現れていた、゛捕食者イーター゛をにらむ。

 人を喰う怪物を前にしても、東馬の表情には余裕があった。


「やれ」


 東馬の言葉を聴き、ごくごく自然な動作で背後の子供が展開する、丸い魔法式まほうしき

 子供は苦悶の表情を浮かべながらも、強力な魔法を発動し、目の前の”捕食者イーター”に直撃させる。”捕食者イーター”の黒い胴体に円形の空洞ができあがったかと思えば、次の瞬間。凄まじい爆発音が響き、”捕食者イーター”は粉々に砕け散っていた。


「さすがに”捕食者イーター”を仕留められなくては困るな」


 ”捕食者イーター”の残滓を冷酷な目で見届ける東馬の背後で、子供が倒れる。

 東馬は振り向き、倒れてしまった子供を見つめる。


「この程度か。そんなものでは、俺の理想とはほど遠い……」


               ※


 GW初日から一夜明けた朝。

 東京のとある商店街には、警察が使う警備ドローンと呼ばれる小型のロボットが、一般人の通行をホログラムの規制線で、阻害していた。

 耐えるべき夜の時間が終わり、真っ先に外の世界に出たい人間は大勢いるはずだ。

 朝市で栄える商店街なら尚の更であるが、今はどこもシャッターを閉め、制服に身を包んだ従来の警察や、黒いスーツ姿の人々が、一帯を慌ただしく占領していた。


「こりゃあ事件と呼べばいいのかどうか」

 

 短く角刈りにそろえた髪に、黒いスーツを身に纏った姿の男が、アスファルトに敷かれたブルーシートを眺めて言う。

 ブルーシートの微かなふくらみの下には、今朝方けさがたここの住人が発見した、子供の遺体が一つ。

 黒スーツの男――特殊魔法治安維持組織シィスティムの男の横に並ぶのは、若い警察官の男であった。

 

「死因はなんでしょう、佐伯さえきさん」

魔素マナ限界使用量超過げんかいしようりょうちょうからしい」


 黒スーツに身を包んだ佐伯は、警察官に魔術師代表として、説明をする。

 

魔素マナ。確か自分たち゛ロストナイトデイ゛以降生まれの人間の体内にある魔法物質まほうぶっしつでしたかね」

「ああ。そしてその量には限度がある。限度を超えて魔素マナを出し続ければ俺たち人間は壊れちまう。子供なら尚更だな……」


 発見された子供に外傷は一つも無く、恐ろしいほど安らかな表情で、眠るように死んでいたことが、唯一の救いか。


「やはり、テロの仕業でしょうか?」


 腕時計型のデバイスを操作しつつ、警察官が尋ねる。

 佐伯は険しい面持ちのまま、頷いていた。


「おそらくはな」


 手を合わせ、運ばれる少年の遺体を見送る。


「子供をこんな風に、これじゃまるで道具だな」


 言いながら視線を動かした佐伯は、規制線のホログラムの先から入って来る、同じく黒いスーツ姿の若い男を見つけた。

 警察官の男も、佐伯と同じく顔を見上げていた。


影塚かげつかか」

「あっ、エリートですね」


 警察官は少しばかり興奮している。


「あ、勘違いしないでほしいんですけど、一流の魔術師として尊敬しているんですよ」

「そうじゃなきゃさすがに引く」


 佐伯はそう言いつつ、こちらに歩いて来る同僚の姿を視界に収めていた。

 影塚広かげつかこうは、扱う魔法の技量も去る事ながら、甘いマスクも相まって、ファンクラブまであるシィスティムのエリートの青年だ。

 劣等感を感じるのも馬鹿馬鹿しくなるほど、全てがお高く纏まっており、だからこそ佐伯は優秀な同僚として信頼を寄せていた。


「当然ですが特殊魔法治安維持組織シィスティムは全員三〇歳以下からの魔法が使えるメンバーですよね?」

「そうだ。お前の憧れの影塚は、第七分隊所属だ」


 警察官はほうほうと、あごに手をあてて頷く仕草を見せていた。


特殊魔法治安維持組織シィスティムって一体どれほどの分隊があるのでしょうか?」

「第一から第七まで。ちなみに一つの分隊につき、所属人数は二十人ほど」

「そう考えると、特殊魔法治安維持組織(シィスティム)の人数は少ないですね」

「今や自衛隊より危険な国家公務員だ。給料は良いが進んでやろうって奴なんてそう多くはないだろう」


 魔法と゛捕食者イーター゛がこの世に生まれ、夜を失った世界では、警察や救命士の夜の出動は不可能であった。

 そこで夜間での人命救助や、事件捜査を行うのが、特殊魔法治安維持組織シィスティムの任であった。

 当然゛捕食者イーター゛出現の危険はあり、もっとも危険な職種である事は間違いない。

 ――しかし現在は朝。

 特殊魔法治安維持組織(シィスティム)の仕事は通常ならば、警察に引き継がれるはずなのだが……。


「おはようございます、佐伯さん」

「おはよう影塚。ネメシスだ」


 爽やかな印象の挨拶もつかの間、言葉を聴いた影塚の眉間にしわが寄る。

 もっとも危険なテロリストとして認知されている、レ―ヴネメシスに関する事は、特殊魔法治安維持組織シィスティムの最重要事項でもあった。

 だからこそ、エリートの登場かと、佐伯は思っていた。  


「そのようですね……。目撃情報などは?」

「ない」

「分かりました。実況見聞を開始しましょう」


 切り替えの早さは、この職業に於いて優秀な証拠か。

 そう感じつつ、佐伯は太い首を縦に振る

 この時代で夜間の犯罪は、取り締まるのも難しいが、なによりも犯人を捉(捕)えるのも難しい。

 夜間の外出禁止により目撃証言はまったくと言って良いほどなく、コンビニエンスストアなどの以前までは二十四時間営業の店も、夕方には閉まってしまう。


「パトロールドローンの監視映像はどうです?」

「現場周辺には三台ほど配置されていたが、映像記録にはなにも映り込んでいなかったらしい」

「いまだにネメシスに関する有力な手掛かりは無しか……」


 憧れである存在を前にして、そわそわしている警察官の若男の前に立ち塞がるように、佐伯は一歩前に出た。

 状況を聴いた影塚が、腕時計型のデバイスをタッチしつつ、肩を落とす。


「母校が近いな」


 佐伯の言葉を受けた影塚の瞳が、ピクリと動いた。

 

「そうですね……」

「気になるか?」

「もちろんですよ。将来の魔術師は、僕たちが守らなければなりません」


 端正な顔立ちに力強い意思を宿し、影塚は言っていた。

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