表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法世界の剣術士 上  作者: 相會応
贖罪の山羊
166/211

5 ☆

 特殊魔法治安維持組織(シィスティム)本部からの逃避行。

 特殊魔法治安維持組織シィスティム第七分隊の隊長である佐伯剛さえきつよしの戦いは、完全に包囲された状態から始まっていた。


『――繰り返す! 反逆者は局長と第七分隊の隊長! 志藤康大(しどうこうだい)と佐伯剛だ。二人ともテロと関与していた形跡があり、反逆行為を確認。国家反逆罪に問われている。見つけ次第殺害せよ! 繰り返す――』

「冗談じゃない……!」


 非常用階段にも、そのアナウンスははっきりと聞こえていた。今も上からはこちらを追いかける数名の男の足音が聞こえる。まともに歩けない康大を支えながら歩いているこの状態では、遅かれ早かれ追い付かれてしまうだろう。


「局長っ! しっかりしてください!」

「私が……テロを支援していた……隊員の損失は、全て私の、せい……」

「幻影魔法によるものでしょう!?」

「いたぞ!」


 一段下の下層のドアが勢いよく開かれ、二人組の光安の男が魔法の光を向けてくる。


「降ろします!」


 咄嗟に佐伯は康大を階段途中で降ろし、攻撃魔法で応戦する。向こうからの攻撃がわずかに早く、佐伯の目の前の柵が音を立てて爆発し、ひん曲がっていた。

 相手はこちらを殺す気でいる……。一切の手加減などしないことは、白煙を上げている手すりを見ればすぐに分かった。


「《ライトニング》!」


 佐伯が発動した魔法が鋭い雷光を放ち、相手に襲い掛かる。照明のなかった螺旋階段のフロアに眩い雷光がさく裂した時にはすでに、二人の相手は悲鳴を上げて倒れていた。


「急ぎます、志藤局長!」

「私は……私は……」


 置いていけばはるかに速く動けるが、そんな事をするわけもない。特殊魔法治安維持組織(シィスティム)局長としてではなく、一人の人間としてでも。なんとしても無実の罪を着せられたこの弱った人を連れだし、無事に――生きて帰る。

 永遠なほど長く感じる螺旋階段を、康大を背負って懸命に下りる佐伯を追う黒い影は、いまだ無数にあった。


 特殊魔法治安維持組織シィスティム本部内にその放送が鳴り響いた時、人々は一斉に天井を見上げていた。


『――反逆者は志藤康大と佐伯剛!』


 仲間のはずの二人がテロに加担していた。怒声混じりの男のアナウンスにより、情報規制を受けていた特殊魔法治安維持組織シィスティムメンバーたちは騒然となる。


「局長が、テロに加担だと……?」

「佐伯隊長……憧れてたのに……」

「――何かの間違いだ!」


 懐疑心の温床となっているロビー内にて、波沢茜なみさわあかねの叫び声が大きく響いた。

 

「志藤局長も佐伯隊長もテロに加担しているはずがない! みんななにを騙されているんだ!?」

「じゃあ何を信じればいい!? 局長からの反論の放送は何もないんだぞ! それどころか、俺たちに延々と署内待機を命じている!」

「おかしいと思ったんだ。政府の連中は志藤局長と佐伯隊長の反乱に気づいて予めこの警戒網を敷いていたんじゃないのか?」

「お前たち!?」


 茜が腕を振り払い、周囲のメンバーと対峙する。

 

「――やめなよ茜さん。どう考えても志藤局長と佐伯隊長に分が悪いでしょ? 政府関係者を攻撃したとも言ってるし」


 第四分隊の副隊長、堂上淳哉どのうえあつやがロビーソファの腰掛に座りながら、涼しい顔で笑いかけていた。


「それとも、二人の無実を証明できる証拠でもあるのかい?」

「……っ!」


 妹とは反対側に垂らした青髪を揺らし、茜は返答に詰まる。


「ないが……直接話を聞けばいい。破壊魔法で即刻処刑など認められるはずがない!」

「けれど相手はもはやテロの仲間。彼らが魔法で攻撃を仕掛けて来た以上、僕たちも反撃しないと殺されちゃいますよ。やられる前にやらないといけないのは、魔法戦の鉄則でしょ?」

「相手かどうか、まだ決まったわけでは……!」


 茜が食い下がるが、状況はどこまでも茜に不利であった。徹底的な情報規制により本当に信じるべきものの区別がつかなくなってしまっているメンバーは、署内放送の言葉を鵜呑みにしようとしている。

   

「――茜!」


 地下の隊員用の宿舎から影塚かげつかが、一触即発の事態となっているロビーへやって来る。茜を庇う様に、影塚は隊員たちの前に立つ。

 

「これはこれは、第七分隊のエースたちが揃い踏みだ。隊長が裏切者だった以上、君たちも怪しいな」


 面白げに口角を上げ、堂上が笑いかける。


「貴様……言わせておけばっ」


 とうとう耐え切れなくなったのか、茜が嫌味の効いた堂上の笑顔を見て、今までに見せたことがないような鬼気迫った顔で魔法式を展開する。


「やめろ!」


 すると聞こえる、続々と魔法式を展開する音。それら光の円はもれなく、茜と影塚を狙った破壊魔法の魔法式であった。今までに見たこともない数の魔法式に圧倒され、茜も影塚も身動きできなくなる。


「僕たちの敵は゛捕食者イーター゛だろう!? なんで同じ人間同士で戦う必要があるんだ!?」


 影塚が防御魔法を展開し、叫ぶ。しかし、いくら優秀な魔術師とは言えたった一人の人が発動する防御魔法など、大人数の魔術師の破壊魔法の前では無力であった。


「その人間が裏切ったんだだろうが!」

「俺たちだって混乱してるんだ! 本当は仲間となんて戦いたくない! でも、放送じゃテロだって言っている以上、戦うしかないだろう!」


 誰かが言えば、誰かも声を上げることを続ける。署内にかつての和やかな雰囲気はない。いつもは隊員たちの癒しとなっているロビーの受付嬢は、この混沌とした特殊魔法治安維持組織シィスティムロビーの状況を前に、頭を抱えて机にうずくまっていた。


 地下にある特殊魔法治安維持組織シィスティム隊員の個々の部屋の中にも、反逆者を知らせる放送は大音量で流れていた。いつもは緊急出動の際に鳴らされるサイレンも、久しぶりに聞けばけたたましい。

 

「なんだっつーんだよ、これは!」


 物体浮遊の汎用魔法を使い、黒いスーツをベッド下から引っ張り出し、南雲なぐもユエは横になっていたベッドから飛び起きる。


「志藤局長と佐伯隊長が、裏切った……? テロの味方だと……」

「ユエ……さん?」


 布団を被るようにすぐ隣で寝ていた隻眼の女性が、布団を胸元まで寄せながら、上半身を起こす。


「この放送は……?」


 南雲澄佳なぐもすみかも薄暗い照明が照らす天井を見上げている。アナウンスの大音量に合わせ、部屋の照明は点滅しているようであった。


「外が騒々しいな……お前は部屋にいてくれ」


 ベルトを締め、ユエは着崩れていた服を整え直すと、ネクタイとスーツを着込みながらドアを少しだけ開ける。廊下では誰かが大声をあげていたり、部屋から慌てて走っていくところであった。


「そ、そんな私も行きます! 今準備しますから!」

「いやこれは普通じゃねえっつーの……。数日間音沙汰なしだったのに急にこの放送だ。それに仲間を見つけ次第始末とか、ありえねーっつーの……」


 まずは何よりも、大切なこの女性の事を第一に守らなければ。

 ユエは戸惑う澄佳の元に近づき、おでこにそっとキスをしつつ「鍵を掛けて部屋にいてくれ」と言葉をかけていた。


「わかり、ました……部屋にいます。ですが、準備はしておきます。ユエさんも気をつけて」


 少しだけ顔を赤らめた澄佳は、布団を胸元までぎゅっと引き寄せたまま、次には真剣な表情で頷いていた。


「局長に隊長……。二人がもし本当に裏切ってたら……俺は戦うのか……?」


 苦い顔をするユエは部屋の外に飛び出し、左右を見渡す。相変わらず生の人の怒声と反逆者討伐を促すアナウンスは聞こえている。他にも、黒いスーツを慌てて羽織りながら部屋から出ていく隊員たちは、廊下を慌ただしく走って行っている。


 混乱の渦中となった特殊魔法治安維持組織シィスティム本部。それでも窓から見える外の都会の街並みと、浜辺の光景だけは静かな時が流れているようなのが、今ではいささか不気味にも感じられてしまう。


「ぐっ!?」


 破壊魔法が左わき腹に命中し、着弾点にあった自分の肉が破裂し、血が噴き出す。最初は熱を感じ、やや遅れて、耐え難い猛烈な痛みが佐伯の全身を挑発するように駆け巡る。


「がはっ。え、《エクス》!」

「ぐおっ!?」


 立ちはだかっていた光安の男の身体を、反撃の攻撃魔法で吹き飛ばし、頭から床に落下させる。男は透明な体液をまき散らし、螺旋階段を転げ落ちて行った。


「いたぞ! 逃がすな!」


 目の前の相手は失神したようだが、すぐ後ろからは何発も新たな破壊魔法が飛来してくる。腹から血を流しながら、佐伯はすぐに振り向き、防御魔法を発動する。


「後ろ!? ――《プロト》ッ!」

「破ぜろ! 《メオス》!」


 相手が唱えた破壊魔法は、佐伯の防御魔法を易々と粉々に爆発させ、破壊する。ガラスが割れたかのような防御魔法の破片が飛び散り、鼠色の煙が佐伯の目の前で巻き起こる。

 佐伯は腹を抑えながら煙から後退する、が。


「《ヴェルミス》! ……当てろよ?」

「分かってる。《グランデス》!」


 立て続けに発動された白い霧が視界を塞ぎ、ふらつく足元に、白い魔法の閃光がはしる。魔法の光は霧の中をばらばらに飛び散ったかと思えば次の瞬間、佐伯と康大目掛けて線を描き、鋭い弾丸となって襲い掛かって来る。

 こちらの視界を塞ぎ、破壊魔法をまき散らす。光安の男たちによる息の合った魔法の連携攻撃だった。


「っがっ!?」


 それらは佐伯の左耳と、右膝の先端に直撃し、佐伯は悲鳴を上げた。


「ぐ……」


 廃人化している康大の背中にも魔法の弾丸が突き刺さり、赤い血が噴き出す。


「耳が、取れた――?」


 白い霧の下に自分の身体の一部だったものが落ちた時、途方もない絶望が佐伯を襲う。きーんと鳴る頭の左端に、激痛が走っている。右足もやられたのか、灼熱の熱と辛苦しんくの痛みを感じ、佐伯は大量の流血を確認した。


「《グランデス》!」


 敵の二発目が、霧の彼方から放たれる。白い霧越しに拡散する魔法の光が、瞬く間にこちらの身を狙う悪魔の弾丸と化す。


「っぐ、《プロト》!」


 佐伯は右手を持ち上げ、防御魔法を再び展開し、攻撃を防ぎきる。


「ハァハァ……!」

魔素マナが足りない!?)


 血を噴き出し、息を切らす自分の身体が、悲鳴を上げていた。二発目の《グランデス》が放たれ、次々と佐伯の頭部や身体を掠めていきながら、彼方へ消えていく。ぷつりと、頭の中の何かが切れた音が、まるで遠くの方で聞こえたようだった。しかし間違いなく、魔法の弾丸の数発分は自分の身体を容赦なく穿うがった。


「ご、こちらです!」

「……痛、い……?」


 うわ言を呟き続ける康大であったが、こちらの身体を掴む手は力強い。それはまだ、この世で生きていたいことの人間の純粋な生存本能の表れなのだろう。

 なにもそれは、佐伯も同じであった。だから、と伸ばした右手を高々と掲げ、緑色の魔法式を発動する。


「《スパイラル》!」


 螺旋の竜巻を発生させ、《ヴェルミス》による白い霧を吹き飛ばしていく。じきに見えたドアがどこに通じているのか確かめる余裕もなく、視界がはっきりとした今だけがチャンスであった。階段の途中にあったドアの方まで一目散に走り、飛び込むように身体でドアを開ける。

 康大と二人して通路に倒れながらも、佐伯は左足を蹴ってドアを閉め、素早く制御魔法による魔法障壁をドアに掛ける。だが使用できる魔素マナは少なかったため、解除されるのは時間の問題だ。


「がはっ……局長っ! 立ってくださいっ!」


 這うようにして立ち上がった佐伯は、背中から流血してもなおぼうっとしている康大を立たせ、再び左肩に背負う。

 互いの黒いスーツには血が絡み合う様にして染まり合い、黒い生地をさらに濃く変色させていた。


「貴方にも、俺にも大切な妻と子供がいるんでしょう!? 生きてここを出るんですよ!」

「息子……颯介そうすけ……大事な……」

「……っ!? 息子さん、いい名前ですね……。ここでようやく、聞けましたよ……」


 いつも聞いても、康大は恥ずかしいのか答えてくれなかった。局長室での何気ない会話を思い出す。左耳を失った為、少しだけ聞こえづらかったが、十分に思いを感じることが出来た。


(必ず助ける……!)


 膝に穴ができ、右足を引きずるほどの重傷であるが、佐伯は踏ん張り、両足で床をしっかりと蹴り、小走りを続けていた。


「……俺の息子の名前、雅って言うんです。お世話になった先輩の名前と自分の名前から、名前を付けて。夢は、特殊魔法治安維持組織シィスティムに入ることなんで、おべっかでも使わせてくださいよ……」

「……」

「聞こえて、ませんか……」


 ――この時まではなぜだか、今この瞬間でしか言えない気がしていた。

 佐伯と康大の謀反むほんを告げるアナウンスは、まるで魔法の呪文のように怪しく響き続けている。

 ほんの一瞬だけ流れた穏やか空気も、すぐに打ち壊されていた。立ちはだかる、者たちによって。


「志藤局長……。佐伯分隊長……」

「お前、たち……」


 二人がたどり着いたのは、特殊魔法治安維持組織シィスティム本部一階である、一般来訪者と職員が会話するための仕切り部屋が何個も並んだ面会室であった。数週間ほど前には、会えなかったがここに有名アイドルが来たそうだ。

 その時までは、そんな穏やかだった光景は崩れ去り、今は険しい表情をした特殊魔法治安維持組織シィスティムの面々が、康大を支える佐伯の前に横並びで立ちはだかっている。普段の訓練や任務で会う事もあった、知っている顔の数々である。


「本当にテロに、加担していたのですか……?」


 まだ、彼らの中には動揺の顔色が広がっている。女性隊員の中では、泣き出しそうな者もいる。上手く説得できれば、分かってくれるかもしれない。

 頭部から血をなみなみと流す佐伯は、口で荒い呼吸をしながら、慎重に言う。


「違う。みんな落ち着いて聞いてほしい。何もかも政府が――」

「――志藤局長は、なんと言っているのですか!? 志藤局長の言葉を聞かせてください!」


 立ちはだかるメンバーの後ろの方から、誰かが大声を出す。確か彼は、第四分隊の隊員――。

 失礼な事を、と眉をひそめる佐伯の真横から、康大はまるでその言葉だけに反応するかのように、薄く口を開く。


「私が、テロに加担した……。責任は、すべて私にある……」

「局長!? 一体何を言ってるんです!?」


 呆気にとられる佐伯だが、これで疑念は確証に変わってしまった。


「……っ!?」

「局長が、認めた……」


 するすると、立ちふさがる仲間だった者たちの右腕が上がり、そこから魔法式が展開される。自身に向けられる破壊魔法の数々に、佐伯は息を呑んでいた。


「違う! 局長は幻影魔法で操られているだけだ! あらかじめ言わせられるように仕組まれていたんだ!」

「失望しました……佐伯隊長……! 貴方には憧れていたのに!」

「信じてくれ! 特殊魔法治安維持組織シィスティム同士で争ってなんになるんだ!?」

「そのアンタが特殊魔法治安維持組織シィスティムを裏切った! 報いを受けろ!」


 やられるわけにはいかない。次の言葉を噛み締めた佐伯は詠唱もままならず、咄嗟に《グィン》の魔法を誰よりも早く発動する。眩い閃光が周囲の人に襲い掛かり、目くらましをしていた。

 予め目を瞑っていた佐伯以外の全員が、顔を抑えてうずくまる。


「走ります局長!」

「逃がすな! 眷属けんぞく魔法!」


 誰かが放った眷属魔法が、獰猛に荒ぶる巨大なウシを呼び出し、走り抜ける佐伯と康大へ向けて突進を開始する。机や椅子や仕切りの壁。それらをお構いなしに破壊しながら、ウシは闘牛の如く、一直線に突き進んできた。


「追いつかれる!?」


 右足を負傷している状態では満足に走れない。ロビーは、すぐそこだと言うのに……!

 ――ワオーンッ!

 佐伯が思わず目を瞑ったその時、オオカミの遠吠えが聞こえた。

 進行方向上から一匹の白い毛並みをしたオオカミが走って来て、唖然としている佐伯の目の前で跳躍し、頭上を駆ける。床に着地したオオカミは軽く吠え、上手くウシを誘きよせていた。


「何をしている南雲!?」

「わりぃ、手滑ったっつーか」


 眷属魔法を展開しているユエは、棒立ちのまま横を通る佐伯と康大を取り逃がしていた。

 ユエが発動した使い魔であるオオカミは、ウシと比べて小さい身体ながら素早い身のこなしで、ウシと格闘している。

 横を通るその際、ユエが小さく口を開ける。


「……とにかく遠くへ逃げろっつーの……」

「……すまない、第五分隊副隊長……」

「俺も、信じられねぇんだっつーの……。くそ……」


 短い会話であったが、ユエが悲しそうな顔をしていたことは、よくわかった。

 辿り着いた出口に直結しているロビーでも、かつて仲間だった者たちが、負傷している佐伯と康大を迎え撃つ。


「絶対に逃がすな! 奴らは自白した!」

「殺せーッ!」


 道幅の広い通路に入った途端、幾重もの破壊魔法の輝きが見えた。しかしその照準は様々であり、こちらばかりを狙っているわけではないようだ。


「――第七が裏切っている!」


 誰かが叫ぶ。直後巻き起こる、激しい爆発と爆風。

 顔を潜める佐伯の真横から、黒いスーツの腕が伸びて来た。


「隊長! 僕です! 影塚広かげつかこうです!」

「広!? これは一体……」


 返答の瞬間も、飛来した攻撃魔法の魔法の光を、影塚は冷静に防御魔法で弾き返す。


「僕たちは隊長を信じます。早く外へ!」


 第七分隊の少数名が、佐伯と康大を敵と判断した特殊魔法治安維持組織シィスティムメンバーと戦闘を繰り広げているようだった。


「見誤ったか堂上!」

「うるさい番犬には首輪をしろってね! 前からアンタには必要だって思ってたよ!」


 奥の方では茜が堂上と激しい魔法による一騎打ちを繰り広げている。しかし、やはり多勢に無勢。徐々に押し込まれて行っている様子がわかる。影塚も負傷したのか、こちらを信じて見つめる顔の頭部から流血している。


「お前たちは今後のこの国を担う……。゛ここはもう駄目だ゛。早く逃げろ!」


 佐伯は周囲で自分の為に戦ってくれている少ない味方に向け、大声で叫ぶ。


「それは佐伯隊長もでしょう! ――《ヴェルミス》!」


 影塚が振り向き、幻影魔法を発動する。白い魔法式から生み出された濃い白い霧が周囲を蹂躙し、第七の面々にとって、それが合図となる。


「みんな撤退するんだ!」


 影塚が反対側から康大の身体を支え、共に外へ向かって走り出す。

 

「ひどい怪我ですね……。すぐに治癒魔法を――」

「逃がさないよ――裏切者たち」


 《ヴェルミス》から逃れるために堂上が汎用魔法で空中に平たい足場を作り、入口周辺を見張っていた。


「このっ!」

「堂上! 仲間が信じられないのか!?」


 二人の若い魔術師が佐伯の背後から飛び出し、空中の堂上に向け攻撃魔法を繰り出す。


「しつこいなこいつらはもう仲間じゃないって。それに仲間とか、正義とか。青臭いんだよそう言うの――」


 堂上は空中から飛び降りながら、空中で妨害ジャミング魔法を発動し、二人の攻撃魔法の魔法式を打ち消す。


「《ライトニング》」

 

 そして、続けざまに雷属性の攻撃魔法を発動し、二人の特殊魔法治安維持組織シィスティム隊員に雷撃を喰らわせる。


「それになにより、魔法使えないくせして偉そうにしてて、嫌いだったんだよねその人!」


 空中の足場から飛び降りる堂上は、至近距離で破壊魔法を発動し、それを康大へ向ける。


「堂上ーっ!」


 影塚が反撃の攻撃魔法を向け、互いの魔法式と魔法式が近くで向かい合う。


「《メオス》」

「《エクス》!」


 零距離で破壊魔法と攻撃魔法がぶつかり合い、激しい爆発を巻き起こす。それはロビーで繰り広げられている全ての魔法戦を中断させるほどの、衝撃的な破壊力であった。

 灰色の煙が巻き起こり、一斉に特殊魔法治安維持組織シィスティムの面々を包み込んでいく。


「さすが相当な魔力だよ影塚っ!」

「お前の好き勝手にはさせない!」

「――もう行け広っ! ここは私たちが塞ぐ!」


 足を引きずっている茜が煙と霧の中から飛び出し、堂上に向け勇敢に攻撃魔法を繰り出す。


「邪魔だな……」


 堂上は戦況を素早く判断し、煙の中へ姿をくらました。


「波沢……」

「隊長、お逃げください。私たちはなんと言われようと、隊長を信じております。広……頼む」

「気を付けて茜! 隊長と局長は必ず逃がす!」


 影塚が茜に頷く。

 不利な状況だと言うのに、茜は再び霧の中へと突っ込んでいった。

 霧の中から何発か入口へ向け当てずっぽうの破壊魔法の光が飛んで来た為、佐伯と康大と影塚は三人で急いで外へ出る。直後、中からは味方によって制御魔法による魔法障壁が掛けられていた。


「治癒魔法を今します!」

「いや、時間が無い……。それよりも少しでも早く遠くへ逃げなければ」


 なによりもこの誤解を解くためには、まず康大の容態を回復させる必要がある。そうしなければ多くの無駄な血が流れてしまう。今も中で戦っている仲間と、仲間だった者によって。

 久し振りに出る外は、どしゃ降りの雨が降っていた。冷たい雨水が染み込み、スーツはさらに黒ずんでいく。


「二人とも、信じてくれてありがとう……」


 影塚が車の前まで先に駆け寄り、頭を下げて誰かにお礼を言っている。

 特殊魔法治安維持組織シィスティム本部外で傘もささずに車を用意して待っていたのは、第五分隊の二人であった。戸村環菜とむらかんな岩井義雄いわいよしおである。


「逆にこれくらいしか出来ないけど」

「久しぶりに、外へ、出たかった、し」


 環菜が影塚に車のキーを手渡す最中、それにと義雄は佐伯と志藤を見る。


「僕には、二人が悪い人とは、思えない。信じる」

「僕もさ。ちゃんと話し合えば、分かってくれるはずなのに……」

「ともかく、私たちは中へ戻って二人を始末したって言いふらすよ。すぐばれると思うけど、やるだけやるさ」

「本当にありがとう、二人とも。……俺たちに関わっているとマズい。早く行くんだ」


 そう言った佐伯の消耗しきった姿を、どこか悲し気に見つめてから、協力してくれた二人の特殊魔法治安維持組織シィスティムメンバーは背を向けて歩き去って行く。


「……行きましょう。出来るだけ遠くへ」


 影塚は四人乗りの黒い車の後部座席を開け、先に佐伯と康大を車に乗せてやり、自らも運転席に乗り込む。

 窓を叩きつける雨を車から自動的に発される超音波の力で粉々に砕いて吹き飛ばしながら、車は特殊魔法治安維持組織シィスティム本部から発車した。

 さすがに我慢の限界だ。後部座席に乗り込んだ佐伯は苦しそうな息遣いで、それでも康大の背に向け治癒魔法を発動していた。気を抜いた瞬間に意識が飛んでしまいそうで、佐伯は血の味がする口で大きく呼吸する。


「ほかに車が一台も走っていない……? 歩行者の姿もない……?」


 雨にしても、この真昼の時間帯ならば通行人の一人はいるはずだ。

 すぐ左側が浜辺である海沿いの道路を走りながら、影塚が不審そうに呟いて辺りを見渡しながら、ハンドルを手動操作している。

 佐伯も確認のために身体を傾けると、

 

「影塚! 正面だ!」


 道路を走り出してすぐ、佐伯は運転席の背もたれを腕で掴みながら、叫んでいた。

 ハッとなった影塚は、目の前に現れた巨大な機影と、その付近で上空を旋回する大きなワシに絶句していた。

 

 封鎖した台場の海沿いを走る一台の車は、例え雨が降っていようが目立ち、格好の的であった。――それが上空より見下ろす鷹の目であったのならば、なおのさら。

 ――ピューイッ!

 天は彼らの狩猟域である。使い魔であるオオワシが鳴き声を上げながら天空を自由に旋回する中、自分を乗せる軍事ヘリコプターが影塚たちの乗る車の正面方向につく。


「――裏切り者を捕捉。車での逃走を計っている模様。協力者か? 全員始末しなければな」


 軍事用のヘリコプターに乗るパイロットの一人が、本部を占拠している仲間に告げる。


「高度角度距離良好。いつでも狙撃できましょう?」


 パイロットが機体を安定させ、ハンドサインを掲げる。

 機内後方にいた男は指示を受け「ああ」と返事をし、ヘリコプターのハッチを開けていた。雨は大粒だが、風は比較的安定している。


「哀れ……まるで人間に踏み潰され、逃げ惑うアリのようだよ……」


 黒いスーツを暴風になびかせながら、男は片手で機体の壁に手を付き、冷静に身体を安定させ、灰色の道路を走る眼下の車に向け右手を伸ばす。打ち付ける雨の勢いにも負けず、白い魔法式が空中に浮かび、魔法文字スペルが次々と円形の魔法式に打ち込まれていく。

 障害物の遮蔽物もない道路を走る車は、こちらの照準に気づいたのか、ジグザグな動きを見せる。


「無駄な事を。――《ゲイボルグ》」


 少々哀れな目を向ける男の魔法式から、神速の槍が放たれた。螺旋回転しながら射出された魔法の長槍は、雨粒と大気を切り裂き、逃げる車の中心に正確に突き刺さる。串刺しとなった車は衝撃によりひび割れたコンクリートごと車体が浮き上がり、走行停止状態に陥る。

 そして、《ゲイボルグ》の魔法には続きがある。突き刺さった槍が一段と眩い光を放ち、豪快な音と共に、車ごと爆発四散した。中の人はとても無事では済まないだろう。


「ヒュー。さしずめ、神の雷ですかい?」


 目標を仕留めた直後、稲光が機体を掠め、警告の表示が操縦席に映し出される。一仕事を終えた男――新崎和馬しんざきかずま特殊魔法治安維持組織シィスティム第四分隊隊長に向け、光安のパイロットがほくそ笑んでくる。


「こちら鷹の目イーグルアイ。想定外のスコールに遭遇した。ここから先は地上のあの男に後始末を任せる――」


 眼鏡を雷光に光らせた新崎は、冷酷な表情で、光安の仲間に指示を出す。

 空と陸からの挟撃。まさしくアリ一匹も逃がしはしない完璧な包囲網が、影塚と佐伯と康大の三人を追い詰め、彼らの最期の瞬間へと導いていた。


 ――その瞬間何が起こったのか、ハンドルを握っていた影塚には理解が出来なかった。ヘリから放たれた槍が車体を貫き、衝撃で車が浮かび上がりエアバックが作動した。しかし身体は膨らんだエアバックに強く打ち付けられ、肺に衝撃が走り、気持ち悪さから歪んだ視界で辛うじて見えたバックミラーには、局長と隊長の間に突き刺さった槍が輝いた瞬間が見え――。


「あ……が……?」


 頬を叩きつける雨粒によって、影塚は目を覚ます。自分の血が薄く混ざっているのか、うつ伏せの唇に滲む雨粒は、微かに血の味がする。


「志藤、局長……。佐伯、隊長……」


 左腕の感覚がない。どうやら、折れたようだ。

 白い砂の上に燃えている車の残骸が散らばっている周囲を見渡せば、どうやら台場の浜辺まで吹き飛ばされたらしい。

 影塚は急いで片手で立ち上がり、左腕を抑えながら、雨が降りしきる浜辺をよろよろと歩く。全身にとてつもない痛みが走っており、腕以外の骨も複数折れたか、粉々になっているか。これが浜辺ではなくすぐ横のコンクリート道路に叩きつけられていれば、おそらく即死だっただろう。


「……」


 ――なんて、綺麗なのだろうか。白い浜辺に日は射さず、白い雨雲と白い砂浜の境界線も曖昧だ。まるでここは、生を終えた人間が最後に到着する安らかな楽園のようで――。

 閉鎖された空間から外へ出された人間は、久方ぶりに見た自然の雄大さに、息を呑んでいた。

 見逃してくれるのか……? 遠ざかっていくヘリのエンジン音が聞こえる中、影塚は車の残骸の塊が吹き飛ばされたところで、倒れている二人を発見した。


「二人、とも……」


 まだ、全員息はある。吹き飛ばされたところが砂浜で、クッションになっていたのだろう。それが奇跡と呼べるか、残酷と呼べるかはまだ分からないが。

 満身創痍であることに変わりはなかった。三人とも出血がひどく、特に佐伯は出血の量から、今すぐに治療しなければもたないだろう。


「こんな、ところで……駄目です、よ……。僕たち、は……人を、守る……」


 治癒魔法を発動するために伸ばした片手は、突如として伸びて来た血まみれの手によって、止められる。

 黒いスーツは引き裂かれ、佐伯が血まみれの腕を伸ばし、影塚の手を強く握っていた。


「こう……。《インビジブル》を、使って、局長と、逃げろ……」

「隊長……何を、言ってるんですか……」

「これは命令だ。もう、お、れは、助かるまい……。お前も、危険だ……」


 よく見ると、佐伯の右肩には車の破片らしきものが突き刺さっており、右目もコンクリート片が突き刺さったのか、開けられずに流血している。現場慣れしている身でも、あまりに凄惨な仲間の姿に、影塚は視線を逸らしそうになってしまう。


「遠くへ逃げて、志藤局長を治療し、生き証人となって、この国を変えてもらうんだ……。局長は、真実を知っている……。だから、行け……!」


 車の残骸に背を預け、佐伯があごをくしゃってみせる。まだまだ大丈夫だと伝えようとしている姿が痛々しく、影塚はとうとう目を背けていた。


「今はみんな……本当の敵を、わかって、いない……。゛捕食者イーター゛が、いると言う事を、忘れ、人間同士で、むなしい戦いを続けている……。わかって、いたのに……それなのに俺は、欲張りすぎたんだな……」

「――どこにいる! 影塚広! 佐伯剛! 志藤康大!」

「日向っ!」


 日向の声が遠くから聞こえ、影塚は歯ぎしりをして立ち上がろうとする。しかし、それすらも佐伯は影塚の腕を懸命に握り、制してきた。


「いいか広……日向を、憎むな。アイツは若すぎるまま隊長になってしまっただけだ……」


 ハッとなった影塚は、悔しく佐伯の元に倒れ込む。自分の足腰もまるで木の棒のように固く脆く、まともに戦える状況ではなかった。


 それに影塚が応戦しようがしまいが、もはや遅かれ早かれこの結末に変わりがない事は、何よりも佐伯自身がよく分かっていた。

 影塚がむせび声を上げ、自分の身体の横で崩れ落ちる。


「しかし、隊長……隊長っ!」

「男が泣くな……茜に、愛想をつかれるぞ……」


 まるで今度は自分が昔の先輩になった気分だ。と苦笑する佐伯は呟き、もう起こすことのできない身体を懸命に動かして、影塚の肩に触ろうとする。左腕の筋肉が切れたのか、あるいは全て千切れたのか、それは叶わなかったが。


「これは……雨です……くっ」


 影塚の鼻先から滴り落ちる雫が、佐伯の顔に落ち、身体の熱を冷ましていく。


「早く行け……。《インビジブル》を使えるお前の魔素マナも、限界だろう……」

「僕は……貴方の隊で働けで……光栄でしたっ!」

「俺も、お前が特殊魔法治安維持組織シィスティムに入隊してくれたときは……この世界もようやく変わると……希望を見ることが出来たよ……」


 あとは、希望が現実になる為に……。ふと、こちらをじっと見つめる影塚の姿が、誰か若い少年のものに重なった気がした。前に少しだけ会った事がある、影塚と同じく人の優しさを心から信じる、黒い瞳の少年だ――。

 敬礼をし、涙を堪える影塚は最低限動く左手を使い、《インビジブル》を発動し、うめき声を出し続けている志藤を背負う。


「最後に、この雨が味方をしてくれたな……。足跡は、残らないはずだ……」


 佐伯は力なく曇り空を見上げ、呟いた。


「あけみ……まさ、し……」


 間もなく。雨音に紛れ、砂浜を踏んでこちらに近づく足音が大きくなってくる。家族を思い出せば悔しかった心中は、今になって不思議と、穏やかになりつつある。

 この美しい浜辺ならば、電波は通じるだろう……。そう思って胸ポケットの電子タブレットを取り出そうとしたが、右腕にも力が一切入らない。


「参った、な……。これじゃあ、電子タブレットを失くしたって、言い訳も出来ないじゃないか……」


 うっかり失くすなどと言うおっちょこちょいな言い訳で、遠く離れた人からの連絡を待つ人は許してくれるだろうか。普段からしっかり者として見られていたぶん、少しはおっちょこちょいでも、それはそれで愛嬌があるのではないか。だから案ずることはない。きっと彼女たちは、しょうがないと、許してくれるだろう。

 やがて、一人の男の足音が、大の字で倒れている佐伯の頭の傍で止まる。


「――二人は?」


 雨に濡れた長い綺麗な金髪が、霞む視界に映り込む。 


「……先に、行ったよ」


 緑色の目から、徐々にハイライトが消えていく。


「……そうか」


 破壊魔法の光が、動かなくなった身体と、霞む視界の果てで光る。

 終わりか……。佐伯は口から残った血を吐き出すと、身体から力を抜いた。


「貴方は最期まで立派に、特殊魔法治安維持組織シィスティム隊長として戦い抜きました。敬意を評します」

「いつか違う時代で、会おう……。平和な、時代で……」

「そんな時代……訪れるのでしょうか……」

「きっと訪れるさ。お前たち次第でどうにも……。平和な魔法世界の、未来を作るんだ……」


 見つけたか!? 早くれ! と言った命令が、破壊魔法を向ける日向の通信機から止めどなく聞こえて来る。落雷も雨音もまた、鳴り止まない。日向は決心したように小さく息を吸い、佐伯に破壊魔法の魔法式を近付ける。

 微笑む佐伯と無表情の日向の互いの顔には、大量の水の雫が、滝のように流れていた。


「゛対象が激しく抵抗している為゛、確実に仕留めるために《ナイトメア》を発動してから処刑します」


 日向が通信装置に一方的に言いつけ、通信を切る。

 感謝する、と声にならない言葉を呟いたのは、佐伯だった。そしてそっと、永遠の魔法の眠りにつく前に自分から目を閉じる。雨水は何処までも冷たく、言う事を聞かなくなった身体は白い砂浜に沈んでいくようだ。


「《ナイトメア》」


 紫色の光が、佐伯の黒かった視界を白く染め上げる。

 ――これはもう、夢なのだろうか?

 晴天の空の下、ヴィザリウス魔法学園の綺麗な中庭でこちらに手を振る学生時代の頃の明美あけみ。そして、奥ではこの世から消えていった友人たちが、笑顔で自分を迎えている。混乱する魔法世界の中、がむしゃらに駆け抜けた日々でもあり、自分にとって大切だった魔法生時代の光景が、一斉にフラッシュバックしていた。

 穏やかな光景に佐伯は微笑み、自由な手を伸ばす。


「待っててくれたのかみんな……。俺も今から、そっちに行く……」


「――安らかに眠れ。《サイス》」


 手を下す瞬間、日向は空いている左手を額に添え、佐伯に敬礼をしていた。

 紫色の閃光が終わり、死神の白亜の鎌がきらめいた。それは稲光に勝るとも劣らない、死の閃光となって、台場の空へと一瞬で消えていく。それは決して美化するわけにはいかない、禍々しい光でもあった。


「……こちら日向。裏切者を一人排除。残る二人は行方を暗まし、現段階での追跡は困難と判断。一度態勢を整える」


 幻影魔法と破壊魔法を下し、動かなくなった佐伯をちらと見れば、血染めスーツの胸元で、電子タブレットが虚しく点滅していた。


「日差し……? 晴れたのか」


 急に射し込んだ眩しい太陽の光に、日向は顔を覆う。

 予報では一日中降り続くはずでもあり、つい先ほどまでは止む素振りなど、全くなかったほど降っていたと言うのに。ぶ厚い白い雲にぽっかりと穴が開き、天使の梯子とも言われる美しい光のカーテンが、浜辺に降り注いでいた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ