6 ☆
「ごめんねぇ桃華ちゃん。でも、こうしないとジンが怒っちゃうから。仕方なく、なのよ」
ステージ横の控室にて、戦慄する桃華の目の前で、迅の手先、笑顔の陣内彩夏が魔法式を展開する。
「迅!? っ!?」
桃華はドレス衣装のまま彩夏から距離を離し、防御魔法を展開する。
「どうして、あなたまで!?」
「貴女を気にかけていたのは、ただ貴女を見張っておけと迅から命令されていたから。でもまさか怜宮司までこっちと通じていたなんて、迅ったら酷いわ」
彩夏は頬を触りながら、ふふふと笑う。
「でも、素敵。馬鹿な怜宮司のお陰で、こうして私が疑われずに貴女にこの場で接近出来たんだから」
「この場?」
「そう。忌々しい魔術師たちの城である、このヴィザリウス魔法学園。ここで騒動を起こせば、たちまちこの学園も破滅よ。アルゲイルと同じようにね!」
哀れな娘、と彩夏は呟く。
「魔法学園で魔法少女アイドルが物騒な事件に遭う。それだけでこの国の魔法に対する憎悪は高まるわ。その生贄の為に何度もその身を狙われるなんて。本当に可愛そうなシンデレラね? 太刀野桃華」
「ご託は良いわ。私の命を狙いに来たのなら、奪ってみせなさい。ただじゃやらせないけど」
桃華は彩夏に向けて手を伸ばす。
「強がっちゃって。本当、可愛いわ。ライブでいつも気力を使い果たしてるところ、私知ってるんだから」
彩夏は破壊魔法の魔法式を展開する。
「あの馬鹿な二人の男子生徒にも感謝するわ。天瀬誠次くんと帳悠平くん。私の正体に気づかず、まんまと貴方をこの学園のステージで歌わせるようにしたのだから」
「誠次さんも帳さんも、私の事を守ってくれた。その二人を悪く言うのだけは、絶対に許さない!」
怒った桃華が攻撃魔法の魔法式を発動、展開する。
「確かに貴女の魔力は高いわ。でも、制御の仕方をまだ知らない。訓練されたものとは程遠い!」
ニヤリと笑う彩夏は人体を斬り裂く威力を持つ破壊魔法、《サイス》を構築、発動する。当然、法律で禁止されている魔法だ。
「きゃっ!」
白い魔法の鎌が、桃華の桃色の髪を掠め、後方へ流れていく。
「あ、貴女こそ、テロリストに良いように使われてるだけじゃない! 命令されるだけなんて哀れね!」
横転した机の影に身を屈め、桃華が叫ぶ。
「……。……黙れ。調子に乗ってんじゃねーよ!」
その言葉に激昂した彩夏が、付近の椅子を蹴り飛ばしていた。桃華の髪をセットしていた時に、鏡越しに見えていたいつもの笑顔は、もうその面影すら残っていなかった。
「さようなら、桃華ちゃん。アイドルとしての貴女の事は、本当に応援していたんだから――」
「――《エクス》」
下位攻撃魔法の詠唱に気づいた彩夏は、それが桃華からのものだと勘違いし、前方へ防御魔法を展開していた。
しかし、《エクス》の衝撃波は後方から飛来し、彩夏の身体を吹き飛ばした。
「なに!?」
身体を机にぶつけ、頭を抑えて驚く彩夏の目に、銀色の光が映る。
「桃華ちゃん!」
帳の大声が割り込んでくる。口でぜえぜえと息をしているあたり、大急ぎで来たのだろう。
「帳さん! 香月さん!」
「間に合って良かった!」
「やっぱりね。寮室で話した通りだわ」
帳と香月が魔法式を展開しながら、部屋の中へ入って来る。香月は魔法式を彩夏に向けたまま、帳が桃華の前に立ち、彩夏を睨む。
桃華はほっと安心したように、胸に手を添えていた。
「来てくれないかと思って……良かった」
「間に合って良かったわ太刀野さん。帳くん。教えた通りの魔法を使えば、大丈夫」
「おう!」
帳はすぐに下位攻撃魔法を発動する。《エクス》により彩夏の右腕に衝撃波を与え、反撃の魔法式の構築を中止させる。
「本当にアンタが……。いいや、もう抵抗しないでくれ! 犯罪だろ!」
残念そうに首を横に振りながら、帳が叫ぶ。
彩夏は右腕を抑え、一、二歩下がる。
「っく。魔法生の分際で、調子に乗るなっ!」
左腕を持ち上げ、尚も抗う為に魔法式を組み立てた彩夏。
それを見た香月は、素早く妨害魔法の魔法を発動し、彩夏の組み立てた魔法式を消滅させる。
彩夏は忌々し気に香月を睨むが、香月は相変わらずの冷淡な表情をしたままだった。
「あの夜俺を止めたのは、桃華ちゃんをこの場におびき寄せる為だったんですか!?」
「ええそうよ……。順調だったのに貴方が余計な勇気を出そうとしたんだもん。あれは焦ったわ」
帳の質問に、彩夏は苦笑しながら答える。
「アンタの言う事に大人しく従った俺も馬鹿だったぜ」
帳は眉を寄せ、彩夏を睨みつける。
彩夏は自分で右腕を抑え、帳に向け笑いかける。
「なんでわかったの……? 香月詩音……!」
続いて香月を睨み、彩夏は何かに気づいたように叫ぶ。
「貴女のこと、見覚えがあったの。施設でね」
「……そう、それなのにこの学園に潜入させるなんて、あの人も酷いわ」
額から汗を流し、彩夏は苦笑する。
香月は下位攻撃魔法の魔法式を展開したまま、彩夏に近づく。
「あの人?」
香月は魔法式を彩夏に向けたまま、答えていた。楽屋には粉砕された椅子や机の破片が散らばり、彩夏自身が用意していた化粧道具なども散乱している。
「ジンって、言ってました……」
負傷したのか、右の肩を抑えながら、桃華が横転している机の影から這い出て来る。
「ジン――!?」
その単語に、香月が激しく動揺する。起動していた魔法式も、集中力を切らしたことにより、消滅してしまった。
「香月!? どうしたんだ!?」
横で魔法の光が消えたことにより、焦った帳と、
「フフ。もらった!」
好機と見た彩夏が、咄嗟に破壊魔法の魔法式を組み立て始める。白亜の、魔法元素の光が円形の魔法式で収束し、構築はすぐに完了する。
「《シュラーク》!」
「《プロト》!」
桃華と帳が、それぞれ魔法を繰り出す。
「《サイス》!」
彩夏の発動した破壊魔法は、桃華の槍を破壊し、帳の防御魔法までもを貫通する。しかし、彼女も発動に焦っていたのか、死を司る鎌は軌道を逸らし、天井へと消えて行く。
「香月!? 大丈夫か!?」
「と、帳くん。桃華さん! 逃げ――」
我に返った香月は、すぐに右腕を掲げるが、彩夏の下位攻撃魔法が、先ほどのお返しと言わんばかりに香月の右腕を衝撃波で弾いた。
「きゃっ」
「動くな! 形勢は逆転した」
桃華に破壊魔法の魔法式を向け、痛みによる悲鳴をあげながらも果敢に反撃しようとする香月に、くぎを刺す。
「帳くんも大人しく――」
「――《エクス》!」
新手の放った魔法は、彩夏と桃華の真ん中で衝撃波を生みだす。
彩夏が身を引き、桃華は素早い身のこなしで彩夏の破壊魔法の照準から逃れ、帳と香月の横につく。
「っ!? 増援!?」
「黙っているなんて、水臭いよ詩音ちゃん」
部屋の入り口に立っていたのは、生徒会長の印である赤い腕章を腕にはめた波沢香織と。
「――ヴィザリウス魔法学園からも、優秀な魔術師たちは大勢卒業した」
パシャリ。と突然、カメラのフラッシュが男性の声と共に焚かれる。方向上、目を眩まされる素振りを見せたのは、彩夏の方だった。
そこには、カメラを構え、記者の風貌をした眼鏡の男が立っていた。戸賀の゛アドリブ゛に付き合ってやっていた記者風の男である。
「あなた……見たことがある。特殊魔法治安維持組織の男ね」
帳たち子供から見れば、大胆不敵。彩夏から見れば、いけ好かない笑みをした、記者に変装していた――新崎和馬だ。
新崎は左手にカメラを握ったまま、右手で飄々と拘束魔法の魔法式を展開する。
「ヴィザリウスとその生徒を貶すのは許さん」
かつかつと足音を立てて、さらに長い黒髪を靡かせる女性がやってくる。
ヴィザリウス魔法学園の理事長、八ノ夜美里だ。しかし彼女はなぜか今、メイド服を着ている。
「は、八ノ夜美里!?」
彩夏が驚き途惑い、メイド服を着た八ノ夜に向けて手を伸ばすが、新崎が拘束魔法を発動する。
「いやはや、彼の報告もあって助かりました。文化祭に連れて来て正解正解」
新崎がうんうんと満足げに頷いて、彩夏の両手を魔法の紐で縛り上げる。
「香月、帳、よくやってくれた。桃華さんも怪我はないな?」
「離せ! その女は殺す! なにもかも滅茶苦茶にしてやるんだ!」
両手を縛られた彩夏が喚くが、そこへ新崎がゆっくりと近づいていく、初めこそはにっこりと笑っていた新崎であったが、彩夏の目の前まで来ると、その表情をすっと真顔に戻し、
「私もあまり自分の母校を貶されて、穏やかではいられないですよ? ヴィザリウス魔法学園は、貴方が思っているよりもずっと、世間に誇れる学園だ」
「……!」
新崎の怒りを前に、なにも言い返せず、彩夏は項垂れる。
「二人とも、私が治癒魔法を……」
「「ありがとうございます……」」
すっかり疲れ切った様子の帳と桃華に治癒魔法を施す香織。
一方で八ノ夜は、サファイア色の瞳を彩夏に向ける。
「命令元は誰だ? 誰がお前にこんな指示をした?」
「貴様らに……話す口などない……っ! 政府の言いなりの犬どもめが!」
「よほど深い洗脳を受けているようだな……」
そんな彩夏を見て、八ノ夜は同情に近いため息を一つする。
「ジン……。東馬迅、です……」
魔法式を解除しながら、香月は微かに俯きながら、そう告げる。
「……そうか」
八ノ夜が何かを噛み締めるように、香月と視線を合わすことなく、頷いていた。
「?」
香織が不審に思い、香月の方を見てみる。
香月は自分自身の身体をぎゅっと抱き締め、いつもの冷静さを失っているようであった。
※
閉会式を迎えようと、第一体育館に 人が移動し始めている。
その遥か上空で、二人の少女からのエンチャントを受ける誠次は、飛来するミサイルを全て無力化することに成功していた。
一発でも後ろへ通すことが出来ない状況が続き、緊張と不安は限界だ。茜空の下、汗ばんだ手で赤く光るレヴァテインを今一度握る。
「天瀬! もうすぐ三分のはずだぞ! もう限界だ!」
背後からの志藤の叫び声に、誠次は「分かってる!」と声を張り上げ、
「まだ来てるんだ! アレを止める!」
遠くから迫る二つの光を赤い目で捉えていた。屋上に降りてからでは、距離と時間が微妙に合わない。
「ならば、こちらから行く!」
誠次は篠上のエンチャントを使い、魔法式に似た空の足場を蹴る。
「駄目っ!」
篠上がふらふらな足取りで、立ち上がろうとするが、上手く力が入らないようだ。人間の行動に必要な、体内の魔素を消費しすぎているようだ。
「魔法が、使えません……っ」
千尋の方も、体内魔素が足りていないようだ。
「全部、あの剣に持ってかれてるのか……?」
志藤が息を呑む。黄色の視線の先ではちょうど、誠次が黄色い光を放出し、二発のミサイルを沈黙させたところだった。
「っ!? 天瀬が戻ってくる! 間に合わねーぞ!」
志藤が、柵を飛び越えて屋上端に身を乗り出す。
「掴まれっ!」
志藤が誠次に向けて腕を伸ばす。
「間に合えー!」
レヴァテインに纏わりついていたエンチャントの光が消える直前、誠次は篠上のエンチャントを使い、最後の跳躍を行う。
誠次は左手を限界まで伸ばし、志藤から伸ばされた手を掴もうとする。
身体が沈みかけたその直後、志藤の方がさらに身を乗り出し、誠次の左手を寸でのところで掴んだ。
「キャッチ!」
「し、志藤! 助かった!」
身体を壁にぶつけながらも、誠次は志藤の手を握り返す。
「レヴァテインの分重てぇよお前! このまま離してやろうか!?」
「もう高い所から落ちるのは勘弁なんだ! 頼む!」
「冗談だよ! こんちくしょう!」
志藤は苦笑しながら、誠次の手を両手で掴み、引き上げようとする。
誠次も棟の壁に足を掛け、ゆっくりと上がって行く。
「天瀬!」「誠次くん!」
篠上と千尋も駆け寄り、誠次の制服をぎゅっと掴んで持ち上げる。
そして、誠次はようやく柵を越え、見事生還を果たした。
「あ、危なかったです……」
「もう、無茶しすぎ……」
誠次と一緒にその場にへたりこみ、千尋と篠上がほっと息をつく。篠上の黄色いリボンは結ばれたままで、本人もポニーテール姿のままだ。
ミサイルの波状攻撃は、ちょうど止まってくれた。撃ち尽くしたのだろうか?
「俺は大丈夫だ……」
誠次はそう呟きながらレヴァテインを背中に収め、ミサイルが飛来して来た彼方を睨む。夕暮れになろうと赤みがさしてきた曇り空の向こうは、よく見ることが出来ない。
「……」
ぶ厚いくもり空の下、なぜか妙な胸騒ぎが、誠次の中で起こっていた。
※
――誠次がレヴァテインでミサイルを無力化していたその時。
東海電波塔の真下。封鎖されている入り口前で、ユエと澄佳が、赤い電波塔を見上げる。
全体的に錆や汚れが目立ち、昔は観光客で賑わっていたと言うが、今や訪れる人も精々昔を懐かしむ少数だ。テロが準備をする時間など、充分にあったとしても不思議ではない。
「この上に、テロリスト共がいるのか」
「応援は、まだのようですね」
眉を寄せるユエに、澄佳が辺りを見わたしながら言う。走った後だと言うのに、とても肌寒く、澄佳は身体を擦っていた。
「義雄と環菜。今到着した。今から俺と澄佳で突入する」
白い息を吐きながらユエが通信機で通信し、車に乗っている二人からは『了解』と返事をされる。
「環菜が心配してくれるとは、本当にやべーかもな」
ユエは苦笑しながらも、気を引き締める。
「よし。いくぞ澄佳!」
ユエが塔に突入しようとしたその瞬間、またしても頭上からミサイルがヴィザリウス魔法学園へ向けて放たれる。もはやこちらが接近しているという事もお構いなしに、なにかの執念すら感じるほど、執拗にヴィザリウス魔法学園を狙っているようであった。
展望台の屋上では、メンバーの男が東馬迅に詰め寄っていた。
「迅! もうこれ以上ここにいるのはマズイ! 特殊魔法治安維持組織も馬鹿じゃないぞ!」
「そんな事は分かってる! だが、このままヴィザリウスに一撃も加えられないで引き下がっていいわけがないだろうがッ!」
こちらが放ったミサイルは、漏れなく全て迎撃されている。どれも全て、爆発する前にだ。健在のヴィザリウスは、変わらずに文化祭の様相を見せている。
「ネメシスッ! 貴様ァッ!」
東馬は少女に詰め寄り、今一度頬を叩く。
少女は抵抗する素振りを見せぬまま、東馬の容赦のない暴力を受け入れていた。
「下の入り口に仕掛けたセンサーに、反応がある! これは……特殊魔法治安維持組織!」
タブレット端末を確認していた別の男が、声を張り上げる。撤退予定時刻より、はるかに速いご到着だろう。いや、実際にはすでに予定時刻をすぎている。
東馬はすでに錯乱していた。
「我々がここにいると言う情報が露呈したのか!? ジン! いい加減にしろ!」
「クソ……クソが……。どうして誰も分かってくれないんだ……!」
「……っ?」
何かに囚われたように少女を痛めつけている東馬につめかかっていた男が、慄く。どちらにせよ今の自分たちに、特殊魔法治安維持組織とまともに戦える戦力は残っていない。唯一の圧倒的な力は、いつも東馬の傍にいる藍色の髪の少女だ。
「タワーにいる全てのメンバーへ通信する。ヴィザリウスへの攻撃は彩夏に任せ、撤退する! 合流ポイントは予め伝えた場所だ」
「この作戦……。今さらですが、本当に意味はあったのでしょうか……」
ヘッドセットを取り外しながら、通信担当の男が聞いて来る。
撤退を宣言した男は、相も変わらず我を失っている様子の東馬を横目で見つめ、
「……ただの怨念返し、だとすれば、何のための大義だ……」
「《ライトニング》!」
「《エクス》!」
ユエと澄佳。二人の魔術師が放つ魔法は、漏れなく階段に潜伏していた男らに命中し、二人を無力化する。エレベーターの電力は当然ながら供給されておらず、階段を使って上がるしか方法はなかった。形成魔法で外から上ると言う危険な真似も、援護がないこの状況ではまず出来ない。
「っち。冬ってこんな日が暮れるの早かったか!?」
ガラス張りの窓の外。ビルの下に沈みかけている太陽を睨み、ユエが呻く。
しかし、あと少しで展望台につく。時代遅れとは言え兵器も使い、これほどの組織的な犯行だ。そこには必ず、命令を下すリーダーの存在があるはず。
ユエにしてみれば、それがまさかテロ集団そのもののトップに立つ男だという事は、この時は知るよしもなかったが。
「ユエさん! もう少し慎重に行きましょうっ! 待ち伏せの危険だってあります!」
澄佳がそう叫んだ刹那。階段を上り切ったところで、真横の角から敵が大きなナイフを振り下ろし、襲い掛かって来る。
「っく!」
ユエは男の右手を咄嗟に払いのけ、そのまま身を屈め、男の懐に潜る。そのまま体勢を崩した男の腹を持ち上げ、階段に向けて突き落とした。男は全身を強く打ったようで、悲鳴をあげて気を失った。
「あぶねぇ!」
赤いバンダナの下の汗をぬぐいながら、ユエは男が気を失ったのを確認すると振り向き、再び階段を駆け上がる。
「だから言ったんです!」
やがて二人は、塔を半分ほど登ったところにある展望台までたどり着く。
ちょうどそこには、天井から降りて来る二人組の男が。
「《サイス》!」
顔を合わせるなり、躊躇することなく破壊魔法を放ってくる男。
「《プロト》!」
澄佳が防御魔法を発動し、迫り来る魔法の鎌を防ぐ。
「《フォトンアロ―》!」
澄佳の防御魔法の裏から、ユエが攻撃魔法を発動する。
狙いすまされた光の矢の攻撃は、男のうち一人に直撃し、悲鳴を上げさして倒す。
「行って! スバル!」
澄佳が次に発動したのは、眷属魔法。白い魔法式から生まれた隼のような使い魔が飛び立ち、残る男に襲い掛かる。
「相変わらず使い魔に名前付けてんのかよ!?」
走り出したユエが、俊敏な動作で壁を蹴って反動をつけながら、男に回し蹴りをお見舞いする。男は顔から唾液をまき散らしながら吹き飛び、そのまま気を失ってしまう。
「可愛いじゃないですか! ユエさんの目つきの悪い狼よりはマシです!」
「お手するし可愛いっつーの! 無事に帰れたら今度撫でさしてやる!」
太陽がいよいよ完全にビルの影に隠れたところで、ユエと澄佳は屋上まで上がる。強風が吹く中、ユエは屋上に立っていた、二人の人物の顔を見る。
「特殊魔法治安維持組織だ! 両手を挙げてここで止まれ!」
「お、女の子!?」
「来たか、魔術師ども……」
「……」
ニヤリと微笑んだ東馬迅と、無表情だが顔に多くの傷をつけた少女が、ユエと澄佳の前に立ちはだかっていた




