5
最後の曲を迎え、本日一番の盛り上がりを迎えつつあるヴィザリウス魔法学園第二体育館内。周囲で盛り上がる人々を眺め、怜宮司飛鳥は息をつく。
隣に立つ童顔の少女、桜庭莉緒が天瀬誠次連絡を入れ終えた直後の事だった。
「君も逃げろ……もうすぐ攻撃の時間だ」
「ううん。先生にも、伝えないと」
「ふ。嘘をついてまで教師ではなく、先に天瀬誠次に事態を知らせるなんて……」
それほどまでに、彼はこの娘に信頼されているのか。いや、そうでなくては、桃華を誘拐するに足りる男ではないはずだ。
もしくは、ただ単に教師たちがマスコミの相手に手間取っているから後回しにしたのか。
おそらく前者であると、怜宮司は自分で自分を納得させ、苦く笑っていた。
桜庭が笑う怜宮司を青ざめた表情で見つめていた。
「なんで笑っていられるんですか……? ミサイルが来てるんですよ!? ここにいる人がみんな死んじゃうんですよ!?」
「……怖いのなら、さっさと逃げればいい」
桜庭は緑色の目を潤ませながらも、懸命に首を横に振る。
「逃げないです! 天瀬に電話したら、怖くなくなりましたし!」
ふんと頬を軽く膨らませ、桜庭は怜宮司を見る。
「諦めてみんな纏めて不幸になればいいなんて考え、あたしはとても出来ません。……一人で悩むのなら、ともかく」
桜庭は何かを思うように胸に手を添えてから、戸賀を見る。
「君! 確か、戸賀って名前書いてくれたよね? 戸賀くん! 怜宮司さんをここで見張ってて! それは出来るでしょ!? お願い!」
桜庭は戸賀に頭を深く下げると、次には踵を返して走って行ってしまう。
「お、おい待てよ! 俺は良いなんて一言も言ってないぞ!? 聞いてねーし……たく」
なんで初対面の相手にこうまで重大な役を押し付けるのか。と、戸賀は大きなため息をついて、怜宮司をジト目で睨む。
「女子高生に見事に言われたな? だっせぇの」
「敷かれたレールの上を歩いていただけの私だったが、分かった。あの緑色の目は、誰かを本気で心配していた目だ。反論するに出来ない、優しい娘だな」
「見た目はなかなかアリだと思ったぜ?」
戸賀がにやと笑うが、怜宮司は肩を竦めるだけに留まった。
さすが肝は据わっているのか、戸賀は口笛でも吹くように、呑気にズボンのポケットに手を突っ込んでいた。
「レ―ヴネメシス、か。アイツらの力を借りるなんて、アンタも相当な馬鹿だな。利用されてるようなもんだぜ。事実、ここへ来たアンタもろとも口封じのために殺そうとしてるしな」
戸賀は怜宮司を馬鹿にするように笑いかける。
怜宮司はぐうの音も出ないようで、しかし戸賀に眼鏡の奥の視線を向ける。
「君がアイツらの何を知っているんだ」
戸賀は適当に「まあな」とはぐらかす。戸賀が先ほどまで足止めしていた眼鏡姿のマスコミの男は、いつの間にかいなくなっていた。
「近づいて来たのは奴らの方だ。海外の魔法大学を出た私は、この国の魔法技術の低さを証明しようと、個人で色々な魔法障壁を解除し、それをサイトにあげていた。いつの日か、テロの関係者を名乗る男が手を組まないかと持ち掛けて来たんだ。国のとある重要な情報を調べてくれれば、どんな望みも、叶えてくれると」
「うっわ。そんなの信じたのかよ……」
「誰も私の言葉に耳を貸さなかったんだ! この国は危ないと訴えてもな。だから、私がテロと結託すれば、何かが変わると信じていた。私にとっては少なくとも夢のような話だったよ。ファンだった桃華の、マネージャーになることも出来て……」
玲宮司はそこまで言うと、戸賀を面白気に見やる。
「私としたことが。君のような男にこんな事を言ってしまうとは……」
「ハっ。他人の不幸話ほど面白い話もねーからな」
戸賀はつまらなそうにだが、桃華のステージを見上げる。
「いいぜ。自分の身くらい、自分で守れるしな。どうするのか高みの見物といこうじゃないか」
「無駄だ。連中は必ず、あと数分でこの体育館にミサイルを放つ。私もここで一緒に――」
「冗談じゃねえ! 誰がお前なんかと一緒にくたばるか! ここで死のうものならあの世からだってクソ゛羊゛を呪ってやる」
「羊? 誰の事だよ……」
※
「急げっつーの!」
「ユエ、車に文句言っても、速くはならない」
「分かってるけど、渋滞が!」
見事に帰宅ラッシュの渋滞に絡まれた車の中、義雄に指摘されるユエは、頬に汗を流していた。
ユエはハンドルをぎゅっと握った後、おもむろに運転席のドアを開ける。
「ユエさん!?」
「徒歩で行く! そっちの方が早い。車を頼んだ」
助手席の澄佳が驚いている最中には、すでにユエは車の外に出ていた。
「馬鹿じゃないの? 四人ならともかく一人でテロと戦う気?」
車内から環菜が問い質してくるが、ユエは行く気でいた。
「だったら、私も一緒に行きます」
澄佳が助手席から降り、ユエの元へ駆け寄る。
「ツーマンセルで移動すれば、危険は減ると思いますから」
「澄佳……。頼むぞ」
「はい」
ユエに頷く澄佳。
「分かった。じゃあ僕たちは、車で、後から合流する」
「気を付けなよ」
後部座席でも窮屈そうな義雄に代わり、環菜が車内で動き、運転席に座る。
「お前らもな。連絡はとり合うぞ」
「「了解」」
環菜と義雄を残し、ユエと澄佳は歩道を走り出す。
「――あっ! あれ見てください! ミサイルです!」
コートを着こんだサラリーマンたちとすれ違いながら、澄佳がくもり空を指さしていた。
「くっそ!」
ユエは通行人と激突しそうになりながらも立ち止まり、澄佳が指さした方を見る。
都会のビルとビルの間を縫うように、何発ものミサイルが駆け抜けていく。通行人の何名かも、澄佳とユエの挙動に習って空を見上げている。
「ヴィザリウスに向かってるのか!? このビルとビルの間を通ってか!?」
ユエが驚く。なんとミサイルは、ビルとビルの間を正確な弾道で駆け抜けていた。あり得ない角度で急旋回を行い、再び白色の空を貫いていく。
「新型のミサイル? いや、いくらなんでもあんな性能のやつゲームでも見た事ねぇっつーの!」
「で、でもビルの間と間を正確に……。あ、魔素の光が微かに見えました!」
紫色の目を凝らし、澄佳が指摘する。
「魔法で、進む方向を制御してる?」
澄佳がぼそりと呟いた。
「んな無茶な!? ミサイルつーか、物体浮遊対象を一つだけならまだしも、複数を同時に操作するなんて聞いたことねーっつーの! それに旧東海電波塔からの距離だって結構離れてるんだぞ!?」
「レ―ヴネメシスに、それほどの魔術師がいるという事ですか……?」
澄佳がユエを見上げるが、まだ確証を持てない。周りの通行人は、呑気にもタブレットで写真を撮っている人さえいた。
「ヴィザリウスは大丈夫だって局長は言っていた。俺は、局長を信じるっつーの……」
ユエはミサイルに背を向け、澄佳と共に走り出す。
※
「……っ」
隣に立つ少女が、苦しそうに汎用魔法の魔法式を発動しているのを気にも留めず、東馬たち大人はミサイルが向かったヴィザリウス魔法学園の方を睨んでいた。
「目標直撃推定時間まで、五、四、三……」
笑みを零さずにはいられない、とはこの事か。
直撃すればいくら頑丈な魔法学園の施設でも、粉々に吹き飛ぶ。仲間が秒数を数える中、東馬が直撃を確信したその時だった。
そして、一瞬の静寂。旧東海タワーの展望台屋上にいる誰もが、命中を確信していた時だった。
「一……、……? 目標、健在……?」
ホログラムの、映し出されたヴィザリウス魔法学園の空中からの映像を見つめていた男が、動揺する。
「なに?」
東馬が顔をしかめる。
「ミサイルが、直前で、撃ち落された?」
「我々が撃ったミサイルの反応、次々と消失しています! どれも着弾直前で、信号が……途絶!?」
東馬は汗ばんだ顔を、あり得ないと左右に振るう。
「途絶だと……。例え防御魔法で止めようと、少しでも衝撃を与えれば爆発する信管なんだぞ!?」
「そんな事は分かっています!」
「だったらなんで起爆しないんだッ!」
東馬は自身の歯が砕けそうなほど強く、歯軋りをすると、ミサイルの進行方向を制御している少女の方を睨み、大きな足音を立てて近づいた。
それに気付いているのか否か、少女は口で息をしながら、なおも放たれていく無数のミサイルを制御している。色白の肌には、魔素の大量消費により、無数の汗が浮かんでいた。
「お前ーッ!」
怒りに身を任せる東馬は、両手で魔法を発動している少女の頬を、思いきり殴りつけた。
小柄で華奢な少女は、その一撃で軽く飛び、倒れてしまう。
「迅!? ミサイルの軌道がずれるぞ! 関係ない一般人に被害が出る! おれたちの敵は政府と魔術師だろう!?」
男が叫ぶ。
少女が制御したミサイルから魔法の光が消えたからだ。これでは、関係ないビルにまで命中してしまう。
東馬は「クソがッ!」と罵声を吐きつつ、少女の胸ぐらを掴む。
「いいか!? 一発でもいいから命中させろ。さもないと、次は殴るぐらいでは済まさないぞ? お前の魔法はそんな程度ではないだろう?」
頬に青あざを作り、こちらを無表情で見上げる少女に向け、東馬は冷酷に言い放つ。
「……」
少女は無言のまま立ち上がると、もう一度魔法式を起動する。すると、空を駆けるミサイルにまるで命が吹き込まれたかのように、ビルとビルの間を、小刻みに方向転換しながら進み始める。
「待て。この光だ……。こいつが次々とミサイルを゛無力化゛している!」
「なんだ!? 貸せ!」
空中映像を見ていた仲間から、東馬が乱暴に機器を奪い取る。
男の言う通り、画面端から点滅しているミサイルから発信されている光を、魔法の光を放つ何かが接近して、文字通り無力化している。その色は、赤、黄色。
「……ッ!?」
東馬はそこで、その何かが何であるのかを直感する。もはやただの憎悪の対象では済まさない。何よりも憎い存在。
「また俺らの邪魔をするのか……天瀬、誠次ーッ!」
呪詛の言葉を吐くように、東馬は血走った眼をヴィザリウスへと向けた。
※
白空の彼方から飛来する数多のミサイル。
天瀬誠次は、篠上のエンチャントによって赤く光るレヴァテインを片手に持ち、七階建ての学科棟の屋上の空中にいた。
「駄目だ! やっぱり防御魔法が発動できねぇ!」
志藤が転落防止用の金網に手をつき、赤い目の誠次を見上げている。
「これは一か八かだ……だけど、やるしかない。俺にはその力がある!」
光る刃に手を添え、誠次は歯を食いしばる。
志藤の後ろには、篠上と千尋が揃って座り込んでいる。
彼方のビルの後ろより、小型ミサイルがあり得ない旋回をしつつ、こちらに迫っている。背後にいる三人は、防衛手段を持たない。だから全て、落とす。
「一発たりとも抜けさせはしない」
誠次は篠上のエンチャントを使い、さらに高くへ向かう。下を見れば、文化祭で盛り上がるヴィザリウス魔法学園の全体が見える。
そこへ襲来する、二発のミサイル。
誠次はレヴァテインから黄色の光を解き放つ。
「頼むレヴァテイン、行くぞ。ここを守る力を……千尋!」
迫る白い槍は高速であるが、捉えきれないほどのスピードではない。
ミサイルの進行方向を落下しながら誠次は見つめ、狙いを定める。そのミサイルの後尾で微かに輝いている魔素か魔法元素の光。あり得ない軌道も、それが可能にしているのだろう。
そして、演習場で初めて千尋のエンチャントをしてもらった時、香月が頑なに魔法を発動しなかった理由。今、二人を守る為と志藤に頼んだが、志藤も防御魔法を発動できないでいる。それらから想定した、千尋のエンチャントの効果こそが――。
「魔法を忌み嫌う貴様らが、魔法に頼るなど……!」
身体を捻り、黄色い光を纏ったレヴァテインを空中で振るう。レヴァテインから薄く黄色い光の膜が拡散し、それがミサイルを包み込んでいく。やがて、黄色の光はミサイルから魔法の光のみを攫い、虚空へと共に消えて行く。
ミサイルはやはり魔法によって進行を完全制御されていたのか推力を失い、その場でピタリと止まってから、重力によって落下していく。
「篠上!」
すぐさま篠上のエンチャントを使い、誠次は空中を駆け上がっていた。油断すればたちまち、硬いコンクリートがお待ちかねだ。
「私の付加魔法……。セイジ、くん……」
「いきなり力を貸してくれだなんて……。でも、私と千尋の二人の力よ……」
「あぁ、私と綾奈ちゃんの二人とも……。嬉しい、です……」
千尋と篠上が嬉しそうに微笑んでいた。
千尋のエンチャントの力は、魔法の無力化だった。今までのエンチャントとは違い、防御用のものと言えよう。一太刀レヴァテインを振るえば、範囲内の全ての魔法の使用と、発動までも無力化してしまうようだ。魔術師相手では、凶悪な性能を誇るだろう。
(なんだ……?)
誠次は再びレヴァテインを空中で構え、ヴィザリウスを守る番人の如く、遥か彼方を睨んだ時だった。ミサイルの軌道が一瞬だけ歪んだかと思えば、再び立体的な動きを見せ、四方から接近してくる。
「やはり、誰かが魔法で操っている……。無茶苦茶な!」
一振りでは全てを無力化できない。一つ一つを確実に。しかし、確実に動きは遅くなっている。問題は三分間持つかどうかだが――。
その屋上へと続く階段口にて、四人の魔法生を見守る私服姿の男が一人。
「――こちら堂上。多分こっちは大丈夫だと思います。噂には聞いてましたけどすごいもん見ちゃいましたし、俺は保険ですよほんと。ですんで、そっちは桃華ちゃんをお願いします。むぐ?」
もぐもぐと食べていたアメリカンドックから突然、魔法で作られたヘンテコな青白い犬が飛び出してきた。
「あ、なんもないです」
こちらへ向け挑発するようにお尻をペンペンと叩いてくる犬をしばし見つめた堂上は、何食わぬ顔で無視していた。犬は、一切の興味を示してくれない堂上に、耳をぐったりと倒していたそうな。
飛来するミサイルを誠次が次々と落とすその真下。起爆の危険性はなくなったミサイルだが、それが祭りを楽しむ一般客へ落ちてしまう危険はあった。
学科棟の真下には、門から棟の昇降口にかけて屋台が立ち並んでいる。お客さんはまだ大勢おり、そこを駆けるのが、二人の男性教師だった。
「ついてないな林。俺らが生徒とテロリスト共の゛フン゛の後片付けだなんてよ」
「世代交代って感じでいいんじゃねーか真平? 少なくとも、楽は出来る」
「名前呼びは止めろ。気持ち悪い」
「ならなんて呼ぶ? 昔のようにオタク眼鏡か!?」
林がにやりと笑いかける。
森田は露骨に嫌そうな顔をして、かつての同級生を睨んでいた。
「ならお前は馬鹿真面目だな。昔の面影はどこへやらだ」
「放っとけ!」
林と森田はそして、上空へ向けて物体浮遊の汎用魔法を繰り出す。自由落下してくるミサイルは魔法の光を受けて、再び宙に浮かび上がる。爆発物に衝撃を与えるなど馬鹿な真似はしない。上のくもり空では、目を凝らさないと見えないが、黄色と赤の綺麗な魔法の光が輝いているのが分かる。祭りを楽しむ人たちには、気づかれることはないだろう。
言い合う二人の後ろから駆け付けたのは、茶髪のポニーテール姿の向原琴音だ。氷属性の魔法を発動し、ミサイルを全て氷で固めてしまう。
「今は天瀬くんと特殊魔法治安維持組織を信じて、私たちは破片を処理しますよ!」
「「分かってら」」
魔法による制御を失ったことにより、次々と落下してくるミサイルの破片を処理し、教師たちは一般客を守っていた。全ては、八ノ夜美里と特殊魔法治安維持組織の指示通りだ。
「もっとも、桜庭が血相変えて来た時はびっくりしたけどな。さすがは俺様の生徒だぜ?」
「はあ? 俺のクラスの波沢生徒会長も――」
「……どうしてこの二人はいつも喧嘩してるの……」
向原がとほほと額に手を添えていた。
外からミサイルが次々と迫って来ているなど知る由もなく、第二体育館の盛り上がりはクライマックスを迎えていた。
ステージに別れを告げ、深くお辞儀をしていた太刀野桃華を、陣内彩夏が微笑んで迎える。会場の拍手や、桃華を惜しむ声は、今もまだずっと続いている。おふざけかどうか、またしてもアンコールと叫ぶ声が聞こえ、それに対する笑い声も。
「ありがとう、みんな……。みんなの目を気にせず歌えて、本当に楽しかったわ……」
魔法生たちが作り出す魔法の照明により、綺麗に反射する汗を流しながら、桃華が最後の別れを告げていた。
「お疲れ様、桃華ちゃん」
ニコニコと微笑みながら、彩夏は桃華の汗だくの肩に手を添える。
「歌ってる桃華ちゃんすごく可愛くて、綺麗で、輝いて見えて、私なんだか嫉妬しちゃうな」
背中をそっと撫で、彩夏が桃華に言う。
背筋がぞわりと震えたのは、そのせいだろうか。
「あ、ありがとう、ございます」
「でも、助けられてばかりのシンデレラちゃんも、もう夢から覚める時間みたい」
「なんですか、それ」
桃華は苦く笑う。彩夏の手から逃げるように、桃色のツインテールと一緒に、身体を振り向かせていた。
「彩夏さん。誠次さんが言ってました。貴女が楽屋のドアを開けてくれたおかげで、私が誠次さんと再び会うことが出来たって。ありがとうございます。貴女も私の恩人です」
桃華は頭を深く下げた。ほんの少しだけ、背伸びした大人のようなお辞儀。
彩夏は一瞬だけきょとんとした表情を見せるが、すぐにくすくすと笑いだす。
「そう……恩人、ね」
彩夏が顔を俯かせる。メイクリストとしてか、綺麗に切られた髪が、ゆらりと垂れて顔を隠す。
「彩夏さん……? 大丈夫ですか?」
桃華が心配そうに俯いた彩夏の肩に手を添えた瞬間だった。桃華の顔の前で魔法の光が輝いたのは。
「え――」
一瞬、なにが起きたのか分からない様で、桃華があっと驚く。
彩夏が伸ばしてきた右手。リストバンドを嵌めたその手先から、破壊魔法の魔法式が作り出されていた。
「さ、彩夏さん――!?」
「貴女の儚い夢を壊すようでごめんね桃華ちゃん。あなたに悪いところはないのだけど……迅がやれって言ったから。アハハっ! 悪いけど、消えてもらうわ!」
顔を上げたテロリスト、レ―ヴネメシスのメンバー――陣内彩夏が猟奇的な笑い声を上げながら、破壊魔法を発動していた。




