表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法世界の剣術士 上  作者: 相會応
黒の再輝
136/211

2

 二日目の文化祭も、楽し気な雰囲気のまま午後を迎えていた。お客さんは午前よりも増え、もはや桃華とうかが出歩くことも出来ない混雑具合だ。そんな桃華の警護は、とばりたち1-A選抜メンバーがきっちりやってくれることだろう。


千尋ちひろちゃん、お疲れ~。さすがだよ!」

「ふぅ。皆さんこそ、お疲れ様です」


 空気を味わうように、本城千尋ほんじょうちひろは息をつく。

 二階にて、魔法を使った照明係として働いていた千尋ちひろは、自分の電子タブレットで時間を確認する。桃華の歌う曲に合わせて、汎用魔法の魔法式を空中に浮かばせるシンプルなものだが、見慣れている魔法生以外にはそれなりに新鮮な景色だろう。魔法のコントロールは得意な自信があったので、千尋にすればやりがいのある仕事だった。


「千尋嬢。休憩時間入って良いよ!」

「あら、もうそんな時間でしたでしょうか?」


 時間を見れば、自分の昼の休憩時間だった。しかし、友達の篠上綾奈(しのかみあやな)とは休憩時間が合わない。もっとも、昨日は一緒に過ごせていたのだが。


「困りました……」

 

 千尋はくちびるに指を添え、眉を寄せて悩んでいた。



 魔法が使えない為、第二体育館入り口にてお客さんを誘導する係に徹していた誠次せいじ

 体育館前には、テーマパーク会場受付を模して長机と椅子が四セットほど。その左側端っこの受付席に、誠次は座っていた。


「空はくもりだ。まるで、俺の心のように」

「お疲れ……天瀬?」


 くもり空を力なく見上げ、呟いていた誠次の視界に、桜庭さくらばの可愛らしい顔立ちが近くで映り込んでくる。


桜庭さくらば!?」


 急に近くにいた桜庭に誠次は驚き、傾けていたパイプ椅子を慌てて戻す。

 桜庭は誠次の座る椅子のすぐ後ろにいた。


「うわっ、ご、ごめん。驚かすつもりだったんだけど、天瀬本当に驚いてさ」


 なにかが嬉しいようで、桜庭はくすくすと笑っている。


「いきなりは驚くだろ……。なに持ってるんだ?」


 桜庭は両手に飲み物が入ったストロー付きのコップを持っていた。確か午前が休憩時間だったはずで、気づけば午後だ。゛ずっと゛代わり映えしない白い空を眺めていた気がする。


「差し入れ。お疲れさまってことで」


 そして桜庭は、片手に握っていた透明なコップに入った、とてつもなく身体に悪そうな色合いをしたドリンクを渡してくる。絵具を適当に混ぜたような、決して美味しそうとは言えそうにない、濃い青汁色のドリンクだ。

 誠次は「あ、ありがとう」と言いながら、程よく冷えたそれを受け取っては怪しんで見る。


「なんだこのジュースは……。完全に美術の筆洗いの水みたいな色だぞ……。通称、絵具水」

「あたしもうそれ飲んでるんだけど!?」


 誠次が指摘すると、顔を赤くした桜庭がけほけほ言いながら、ストローから口を離していた。


「確かにそうっぽくは見えるけど実はそうじゃないの。バレー部の先輩のクラスの出し物なんだけどね。味が飲んでる途中で変化する不思議な飲み物なんだって! 見た目は頑張ったけど、どうにもならなかったんだって。先輩曰く、人と一緒で中身が大事、なんだって。あたしそれ分かります! なんて言ったり――」


 目を閉じながら得意げに話だし、完全に文化祭をエンジョイしている桜庭に、

 

「ふーん」


 誠次はジト目でその味が変化するジュースとやらを見つめる。


「うわっ。なに!? その興味無さそうなリアクション!」


 だってほら、と誠次は一口吸ってみる。


「……見事に水の味しかしない」

「あ。たぶん味覚に関係する魔法使ってるから、天瀬には分からないんだね……。なんか、ごめん……」

「構わない……ありがとう……」


 ずーんと暗い表情をする誠次に、桜庭も理解したようで、苦笑していた。


「しかし、香月には笑われるし、お客さんも俺の列だけ露骨に少ないし、空は白いし……」

「空白いのは関係ないと思うけど……。でも、他の三列と違ってここだけ平和だね? こっちも受付なのに」


 横に並ぶように席に座り、クラスメイトたちが受付をしている中、誠次の受付のところだけあからさまに人の行列が出来ていないのだ。


「なんでここだけこんな人来ないの? 机に看板ちゃんと張ってあるけど」

「おそらくとも言わず、背中のレヴァテインのせいだろう……」


 事件は誠次が担当した最初の一人目の時点で起きた。誠次の背中にある剣を見たお客さんは皆怖がるか、コスプレをしている痛い男子生徒として見られ、引かれていく。さすがに他校の女子高生に写真をぱしゃぱしゃ撮られた時は、職務放棄さえしそうになった。


「うわっ。あの……めっちゃ恥ずかしくなかった……?」


 申し訳なさそうに、桜庭はいて来る。


「……正直、もう限界だった。周りはわいわいがやがやと青春騒ぎをしている中、何より暇すぎてずっと白い空だけを眺めているしかなかったんだ。今俺の中で桜庭が救いの天使に見える……」

「そこまで!? でもあたしこれから仕事なんだけどな……」

 

 桜庭がかなり同情している。

 暇つぶしの為に堂々と本を読むと言う真似をすることもしたくもなく、このような状況では、話しかけてくれる人がいるだけで、かなり有難いのだ。先ほどなぜか香月が一人で第二体育館前まで歩いて来た時は、こちらと目が合うと冷笑するだけして去って行っていた。今思えばあのこちらを見下すような微笑み、後から来るタイプで相当なダメージだ。

 誠次は忘れるように首をぶんぶんと横に振っていた。


「そう言えばそうだ。昨日は変な感じになっちゃって悪かったな」


 一瞬だけきょとんとしていた桜庭だったが、ああーと思い出したかのように頷いて、


桃華とうかちゃんがせっかく来てくれてたんだし、桃華ちゃんが楽しんでくれたんなら良かったけど」

「きっと桜庭と知り合えて、桃華も良かったと思っているはずだ」

「元生徒会長も強引だったけど、なんだかんだ、天瀬と元生徒会長って似てるところあるしね」

「……似てる?」


 あごに手を添え、しばし考える誠次を見て、桜庭はうんうんと面白そうに頷いていた。


「それに桃華ちゃんは、きっと天瀬と逃げられて楽しかったと思うな。桃華ちゃん学校にあまりいいイメージ持ってなかったみたいだから」

「本人も、そう言ってたな……」

「うん。学校で良い目で見られてなかったって言ってたし……。だから、きっと嬉しかったと思う。桃華ちゃんが来年後輩で来てくれたりしないかなー、なんて」


 桜庭が悲しそうな表情から、明るい表情となり、言う。

 可能性としては低いかもしれないが、誠次も少なくとも桜庭に同意見であり、うんと頷いていた。


「あ、天瀬休憩時間だったよね。お疲れさん、はいバトンタッチ!」


 桜庭は手のひらを誠次に向けて掲げる。

 にこっとした笑顔は、きょうも大変眩しく、誠次は腰を上げる。


「ああ、頼んだ。お客さんの入りはきっとかなり激しいから気をつけるんだぞ」


 誠次も同じく手のひらを向け、桜庭の手に添えていた。桜庭の容姿や雰囲気的な意味でだ。


「そのあたしがミスしそうな物言いはちょっとへこむ……。でも、了解! 任された!」


 桜庭は誠次が座っていた席にすぐ座る。桜庭は誠次の言葉の真意を理解していないようで、しかし気合を入れている。

 さすがの誠次も桜庭の天然具合が心配になり、念を押す。 


「な、何か困ったことがあったら、周りのみんなに訊くんだぞ!? いいな!?」

「さすがに心配しすぎじゃない!? あたしだってちゃんと出来ますっ!」


 だからそう言う意味では……。

 誠次は休憩時間を過ごす為、まずは体育館へと向かった。 


 去って行く誠次の背中と、そこに装備されてるレヴァテインを見つめて

 

「エンチャント……」


 なんとなく、自分一人だけが乗り遅れてしまった魔法の名を呟き、その魔法式を空中に展開する。それはやはり、白い何の変哲もない魔法式だ。しかし桃華のは違っていた。千尋のも、また違う。


「……焦る必要なんてないよ莉緒りお。天瀬は、本当に優しくて……分かってくれる。でも、その優しさに頼りっぱなしじゃダメ――」

「わーお姉ちゃん、今の魔法もう一回見せて!」

「魔法式って言うんだぜ! 魔法を使うのに必要なんだ!」


 とほほとため息をしていた桜庭の元へ、仲の良さそうな兄弟がやって来ていた。その兄弟の後ろには、困り顔の母親らしき大人の女性が。


「ご、ごめんなさい!」


 長めの髪をした母親が、お淑やかに頭を下げる。


「い、いえいえ」


 桜庭は少し照れくさそうに笑う。自分の独り言が聞こえていなければいいのだけど、と。


「数日前に、魔法を使った学生さんたちにこの子たち共々助けられたことがありまして、魔法を扱う魔法学園がどういったものか見に来たんです」


 両手に鞄を持ち、女性はあたりを見渡して言う。


「俺、絶対に゛マホウセイ゛になるんだっ!」

「えー。俺はなんかグーで殴ってた方が強そうだっただけど!」

「馬鹿! 時代遅れだよそれは! それにあの兄ちゃん結構ぼこぼこにやられてたぜ?」

「でもでも、一緒にいた白い髪の女の子ちゃんと守ってた!」


 兄弟が言い争っているのを、微笑ましく桜庭は見つめていた。子供たちに尊敬されるほど、きっと素敵な人なのだろう。


「そうなんですか。面白いところいっぱいありますんで、ぜひ楽しんでくださいね! これ、パンフレットです!」

「ありがとうございます。魔法が使えないので、私は少し魔法と、それを扱う魔術師が怖かったんですけど、何と言いますか、楽しそうで素敵ですね」


 一般人から見た魔術師。母親の口から出た言葉に、ふと桜庭は、自分が誠次と一緒に外出したショッピングモールの一日を思い出す。その日も、魔法が使えない人の意識調査と言う名目の、デートをしていた。

 もやもやとしたものが、あの日の素敵な思い出により、晴れて行くようだった。


「はい。魔法は全然怖くなんかありません! みんなの思い出に残る、素敵な力だと思います! ……ってあれ、なんか変な言い方ですね……」


 胸をぽんと叩いて言う桜庭を見て、母親はくすりと笑っていた。


「そうですね。将来の為にも、この子たちもこの魔法学園に入学させたいと思います」

「じゃあ私が先輩ですね! 手取り足取り教えてあげちゃいます」

「――いえ桜庭さん……。その頃は絶対に俺たち、卒業していますよ……?」

 

 突然聞こえた男子の声に、桜庭が驚く。


夕島ゆうじま!? びっくりしたー」

 

 眼鏡を掛けた黒髪の同級生、夕島伸也ゆうじましんやが後ろからやって来ていた。彼もこの時間は受付だ。


「入場ですか? お手数ですけど、こちらにお名前のサインをお願いします」

「はい。もうほら、こっちに来なさい二人とも」

「「はーい」」


 夕島が丁寧に誘導し、母子おやこは机の上に浮かび上がったホログラム画面にペンで字を書いていた。


「ありがとう夕島。あたしもお仕事頑張らないと」

「いや、ただクラスのみんなが、桜庭さんの事が心配だから一応見に行ってくれって言われて来ただけです」

「あたしめっちゃ心配されてる!? もー大丈夫だって!」


 しかし、幼い兄弟を前に得意げに言った手前、桜庭の頬は恥ずかしそうにかなり紅潮していた。


「ならいいですけど」


 夕島はほんのりと微笑んでから、体育館内へと向かって行く兄弟の背を見つめていた。


「夕島? どうしたの?」

「懐かしいなって思って。結構昔、ここの文化祭に来た時があって」


 誰と一緒かまでは、夕島は言わなかった。

 しかし桜庭は、夕島を明るい表情で見上げ、


「夕島はお兄さんと一緒に、どっか行かないの?」

「いや……。桜庭さんには本当に申し訳なく思っています。俺からも兄さんにはきつく言っておきましたから」


 夕島が軽く頭を下げる。


「ああ、図書棟のこと? もう全然気にしてないしいいって! それよりもお兄さんと一緒に、学園の中見て回ったら?」

「兄弟で見て回れと言っているんですか!? そ、それは究極に恥ずかしくないですか……!?」

「た、確かに……。想像したら、なんか面白い……兄弟で手とか繋いだりして!」


 夕島を見つめ、桜庭がくすくすと笑う。 


「勘弁、してください……」


 夕島は眼鏡を掛け直し、ぎこちない返事をしていた。


「会場は、こっちですか?」

「あの、俺も入ろうかな」

「わわっ! 急にこっちにも人いっぱい来たよ!?」


 母親と仲睦まじい兄弟を皮切りに、誠次と変わった桜庭が受付担当になった途端、お客さんが一斉に寄って来ていた。


 巨大テーマパークの様相を見せている魔法学園の敷地の外周を、一台の車が走る。窓から見える、ぞろぞろと並ぶ人の列は、漏れなくヴィザリウス魔法学園で開催されている文化祭に、向かうのだろう。その光景は、混雑する年末年始の初詣の光景を思い浮かばせるものだ。


「文化祭。人、凄い、多い」


 助手席に座る特殊魔法治安維持組織シィスティム第五分隊、岩田義雄いわたよしおが呟く。

 

「例年の比じゃないね、これは」


 環菜かんながドアに頬杖をつき、相変わらずの気だるそうな目で義雄と同じ方を見ていた。


なずな総理の魔法改革宣言の効果っつーやつか。来年の新入生の倍率はヤバそうだな」


 運転席でハンドルを放し、自動運転に任せて頭の後ろに手を回し、南雲なぐもユエが楽しみだと微笑む。他校であるが、すなわち、後輩が増えると言う事だ。

 南雲はふと、バックミラーに映る落ち込んだ様子の女性の姿を見る。


「やっぱり、直接謝罪した方が……」


 沼田澄佳ぬまたすみかがやはりいくらか気落ちした様子で、俯いていた。ヴィザリウス魔法学園の方を、直視できないようである。

 

「だからやめとけっつーの。俺らが今行っても、気まずくて若き魔術師たちの気分を損ねるだけだ」

「はい。この魔法学園の文化祭を守る事と、怜宮司飛鳥れいぐうじあすかの逮捕が優先、ですよね」

「そそ。俺らを騙した代償、高くつくっつーの」


 今度は逃がすまいと、ユエは狼のようにぎらついた視線を前方へ向けていた。 


 計画は滞りなく進んでいる。文化祭が一番盛り上がるであろう、二日目の午後の部に、全てを滅茶苦茶にしてやる。

 ――しかし、最後にその姿を一目見る事は出来るだろう。なにより桃華をここまで人気にしたのは自分のお陰だ。自分にはその権利が、あるはずだからだ。


「体育館は……こっちか」


 他の出し物には目もくれず、帽子を目深に被り、変装した怜宮司はホログラムのパンフレットを眺めながら歩いていた。


「それにしても呑気なものだな……。私が学生の頃に比べ、生温くなったものだ」


 楽しそうに、また賑やかに青春のイベントを謳歌おうかする魔法生たちを眺め、怜宮司は呟く。そんなので将来、優秀な魔術師になれるのだろうか。


「――観覧のお客さんですか?」


 ふと、少女に声を掛けられた。

 黒髪に、桜のような花びらをあしらった髪留めを添えた、可愛らしい少女だ。


「あ、ああ……」


 にこりと元気な魔法生の笑顔を前に、怜宮司は俯いて返事をする。なにやらこの少女、妙に張り切っている。


「会場はこちらです。サインしてからでお願いします」

「……」

 

 当然と言えば当然だが、こちらを疑う素振りをこれっぽちも見せることのない目の前の少女の案内の元、怜宮司は偽名でサインをする。画面のスクロールバーを見る限り、署名者は千はくだらない数となっているようだ。

 中に入れば、まず異様なほどの熱気を感じる。そして、大歓声。


(これが、ゲストの目線か……)

 

 いつも当たり前のようにすぐ横から見ていたため、怜宮司は新鮮な体験をした。この目線は、久しぶりだ。


「……っ! と、桃華!」


 ステージに立つ桃色の髪の少女を発見し、思わず叫んでしまった。自分でも大きな声であったと思うが、それさえもかき消すほど、会場の歓声は上がっていた。

 今まさに、一部が閉幕するからである。

 二階に立つ、先ほどの少女のクラスメイトと思わしき魔法生の男子女子たちが、うす暗くなった会場内に色鮮やかな魔法式を展開し始める。


「どうせあと数時間もすればここは地獄に変わるのに……精々頑張りたまえよ」


 怜宮司は小声で呟く。この学園を狙う無数の槍――ミサイルを、思い出していたのだ。

 本場のライブと比べれば、やはり素人が扱う小細工のようなものだ。照明を再現しようとしているのだろうが、様々なライブを見て来た自分からすれば、鼻で笑えて来るものだ。

 しかし。


「――上見て見ろよ! 超綺麗だぜ!」

「本当だ―! 真似したい」

「まだ始まったばかりなのに、二人とも騒ぎすぎ」


 近くで兄弟と思わしき子供がはしゃぎ、それを母親が注意している。ちゃんとした魔法を見るのが初めてのようで、中々微笑ましい光景だ。

 

(まったく……私がいなければ、桃華は駄目だという事が分かるはずだ)


 怜宮司は自分に確かな自信を持ち、ステージで一部最後の曲を歌う桃華を見ていた。


「この曲を最後に持ってくるとは、プログラムを組んだ奴は中々のチョイスじゃないか。しかし、甘い――」


 などと、あごに手を添えて分析するようにぶつぶつ言い始めた怜宮司。傍から見れば帽子に髭を生やした不審な男に、周りの人が距離をとり始める。しかし怜宮司は、それに気付くことなく、元マネージャー視点としてのダメ出しをぶつぶつと続けていた。


 その一方、怜宮司飛鳥を通した桜庭莉緒は、会場入り口で張り切って仕事中だ。左右では、同じくクラスメイトたちが受付をやっているが。


「あ、あの、通っていいですか?」


 そわそわと声を出しながら、他の高校の男子生徒が、桜庭の所にやってくる。


「うん勿論! ここにサインしてくださいね!」


 にこっと微笑みながら、桜庭はホログラム画面を映し出していた。


「は、はい」


 友達連れだろうか、少し赤らんだ表情で男子生徒たちは、桜庭の案内を受けていた。


「おい、聞いちゃおうぜ、デンバコのアドレス……」

「?」


 男子四人の小声でのやり取りに、桜庭が首を傾げていると。


「――コラァッ! いい加減待ちやがれっての!」


 なにやら大声を出し、白銀の髪をした私服姿の少年が、突っ込んできていた。


「「う、うわ!?」」


 この場の全員が、少年の何かを追い掛ける気迫に圧倒され、おののく。

 よく見ると、コミカルな顔をした犬の使い魔が、少年の追跡から逃れるように宙を舞っている。

 やって来た白銀の髪の少年はそのままアメリカンなドックを追い掛け、桜庭の目の前を通り過ぎて体育館の中へと入っていく。


「今のって、アメドのちょっと失礼な男の子!? ちょ、ちょっとサインっ!」

「うわ随分と激しいの来たな! 莉緒ちゃん悪いけどちょっと行って来てくれる!? ここは笠原かさはらさんと私が引き受けるから!」

「うん、わかった!」


 クラスメイトに頼まれ、桜庭は急いで白銀の髪の少年の後を追い、熱狂が続く体育館の中へと入って行くのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ