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魔法世界の剣術士 上  作者: 相會応
複合付加魔法
124/211

11 ☆

 吹き飛ばされた壁の先。日の光の背に駆け付けた三人の姿を見た途端、誠次は脱力し、裸足の膝をついていた。

 呆気に取られる桃華とうかを置き、誠次の元までまず先に駆け寄って来たのは、篠上綾奈しのかみあやなだった。


「こんなにボロボロで……無事で良かったっ」


 篠上が思わずと言わんばかりに、ぎゅっと抱き着いて来る。

 

「貴公ら。我が校の生徒をとても可愛がってくれたようだな」


 憮然ぶぜんたる面持ちで、白衣を纏ったダニエルが廃墟の中へゆっくりと入って来る。

 香月こうづきはダニエルと共に、攻撃魔法の魔法式を展開しながら、特殊魔法治安維持組織シィスティムの面々を睨みつけていた。

 ユエと義雄は防御魔法を起動しながら、ダニエルらヴィザリウス魔法学園の援軍を見ていた。


「おいおい……。義雄の血縁者かなんかか?」

「僕の兄弟に、あんな人、いない。少なくとも、下駄はかない」

「なに人だよ……」


 義雄は困った表情で、ユエはニヤリと笑う。


「ヴィザリウス魔法学園の、天瀬さんの同級生……? 女の子ばかり……」


 両膝をがくりと床に着けた桃華が、やってきた香月と篠上を交互に見て、呟く。


「篠上、助かったけど、苦しい……」


 色々な意味で圧迫され、誠次は赤髪のポニーテールの首筋から声を出す。急いで駆け付けて来たのか、彼女自身の体温も熱いほどに高かった。


「あっ、ご、ごめん! つ、つい……」


 顔を赤くした篠上はすぐに抱擁を緩め、身体を離す。


「どうして、ここが分かったんだ?」


 誠次も微かに顔を赤くしたまま、篠上に訊く。


「ホテルから近かったって事でここら辺を車で走ってたら、空に向かって魔法が伸びていくのを、詩音しおんが見て」

「《シュラーク》か……」


 おそらく屋根を壊した桃華の魔法が、目に留まってくれたのだろう。

 その香月は誠次の目の前に立ち、ユエと義雄に向けて攻撃魔法の魔法式を展開している。


「アンタこそ何で特殊魔法治安維持組織シィスティムに追われてるのよ!? 本当に太刀野さんを誘拐したの!? 犯罪者ってニュースになってるわよ!?」


 篠上はこちらの事が心配なようで、捲し立てるように聞いて来る。

 誠次はそんな篠上の両肩を、両手でぎゅっと掴んでいた。


「お、落ち着いてくれ。誘拐したことは、間違ってない。でも理由があるんだ」


 篠上は誠次の黒い目をじっと見つめ、やがて自身の青い目を瞑って深く頷く。


「分かってる。あんたが、そんな馬鹿やるようなやつじゃないってことぐらい。ど、どうせきっとまた、誰かを守りたくてそうしたんでしょ」

「ああ。……それにしてもなんか、煙草臭くないか……?」

「えっ。あっ、こ、これは違うの! 乗って来た車がすっごい煙草臭くて最悪だったの! もー何でこんな大事な時に!」


 決して自分のせいではないと、篠上は大声を出していた。


「子供二人を相手に四人がかりとは、随分と卑怯であるな? 公平を重んじる国家公務員にしては、及第点ではなかろうか」


 一方、ダニエルは首をこきこきと鳴らしユエに問いかける。ユエの背後には、すでに二人の女性も合流していた。そして、やはりダニエルの姿を見て、驚きを隠せないでいる。


「生徒っつー事は、教師さんですね? 我々は見ての通り特殊魔法治安維持組織シィスティムです。おたくの学校の生徒からお話を聞きたくて、我々は同行をお願いしたいと申しているんですよ」

「ウム。しかしどうにもおかしい……。見た限りどうにも話合いと言う状況には見えないのだがな」

 

 ダニエルは横目で誠次たちを眺めながら、ユエに告げる。


「その生徒がかなりの我が儘でね。任意同行に従ってくれないんですよ。任意同行の理由は簡単、アイドルを誘拐したからです」

「違いはないか、天瀬誠次くん?」


 こちらに顔は向けずに問いかけるダニエルに、誠次は「はい」と頷く。


「ですが、桃華さんはマネージャーに洗脳されていました。このままではまた桃華さんはあのマネージャーの所に戻されてしまうんです。桃華さんをそんな人の元に戻させるわけにはいかないんです!」

「フム」


 誠次の言葉を聞いたダニエルは、深く頷く。


「どっちを信じるつもりですか、先生?」


 ユエが問う。

 ダニエルは、最後に、桃華の方へ視線を向けた。桃華の方には香月が行っており、香月はいつでも反応できるように、攻撃魔法の魔法式を展開し、あと一つ魔法文字スペルを打ち込めば発動、と言うところで待機している。


太刀野桃華たちのとうかクン! 我が校の生徒が大変迷惑をかけたようだな! まずは謝罪しよう!」


 ダニエルのどら声に撃たれたように、ハッとなった桃華だが、すぐに首をぶんぶんと横に振る。


「迷惑だなんて……天瀬さんは、最初から私を守ってくれたんです! 貴方が天瀬さんを信じないと言うのなら、最後まで私は天瀬さんと戦い抜く!」

「……」


 その言葉にぴくりと、前に立ち白い魔法元素エレメントの光に照らされる香月の白い眉が反応したのもつかの間、


「グッドッ! 太刀野桃華クン! 吾輩はしかと理解したぞ!」


 ダニエルが満足そうに、太い首をうなずかせる。ぴんと横に伸びたカイゼル髭の顔で、改めて特殊魔法治安維持組織シィスティムを睨んでいた。


「答えだ特殊魔法治安維持組織シィスティム。信じるのは無論、我がヴィザリウス魔法学園の生徒の言葉だッ!」

「ダニエル先生……」


 誠次もそれを聞いて、身体の力が入ったかのように、立ち上がる。篠上が持っていたレヴァテインを右手に持ち、無言で鞘を引き抜く。

 篠上は心配そうな面持ちで誠次を見上げていたが、やがて一緒に立ち上がった。


「剣、だと?」


 ユエを含め、特殊魔法治安維持組織シィスティムの面々が、二度にたび驚く。


「天瀬誠次クン。一応確認するが、君の言う事は真実で間違いないのだな?」

「はい」

「ならば吾輩は時間稼ぎをする。今、八ノ夜理事長がその怜宮司と言う男の元に向かい、証拠を揃えているところだ。それまでは、吾輩も共犯者になろう」


 そして、


「これは八ノ夜理事長からの伝達だ天瀬誠次クン。殺さない程度に時間稼ぎをしろ、とのことだ」


 握り拳を作り、むんとそれを構えるダニエル。おおよそ魔法式を構築する構えではないが、保健室で治癒魔法を発動する時にも同じようにするものだから、すっかり見慣れた光景だ。

 いつの間にか八ノ夜さんも動いてくれていたのか。ならば、ここで捕まるわけにはいかない。


「……了解です」


 ダニエルの言葉にぴくりと反応した誠次は、ダニエルの横に並んで立ち、レヴァテインを構えた。


「篠上。桃華さんを連れて、安全なところに避難していてくれ」

「わかったけど待って。足手纏いなのは分かるけど、せめてアンタのレヴァテインに付加魔法エンチャントをさせて。それくらいなら、今の私にも出来るはずだから」


 篠上が両手を掲げ、それを誠次に向け、言う。

 誠次は引き込まれるように篠上の胸元に視線を向け、ゆっくりと頷く。


「ありがとう」

「ううん。アンタの為になら……」


 篠上はすぐに赤い魔法式を展開する。ぼうっと輝きだす、篠上の赤い髪と、赤い魔法式。


「あ……」


 エンチャントに関するそれらを全て思い出したのか、見つめる桃華はハッとなり、息を呑み込んでいた。


「養護教諭だからと、侮るでないぞ! 《ウイングワルツ》!」

「その見た目で保険の先生かよ! 勘弁してくれっつーのヴィザリウス魔法学園! 《シェルプロト》!」


 ダニエルが時間稼ぎの為に、広範囲に渡る風属性の攻撃魔法式を構築している。

 風貌こそおかしいが、一応は教師。特殊魔法治安維持組織シィスティムの面々は、大人しく防御魔法を展開している。

 桃華は篠上がレヴァテインにエンチャントする姿を、じっと見つめていた。


「赤い……。私の時と、違う」

「……っく。久しぶり、ね……」


 篠上が誠次とレヴァテインを、嬉しそうに交互に見つめる。


「さっきの言葉だけど、足手纏いなんかじゃないぞ篠上、これで戦える。いつも、助かってるしな」

「あ、あんたがいなくなると、千尋(ちひろ)莉緒(りお)も悲しがるから、みんなの為だから!」

「友達思いの、優しいクラスメイト」


 誠次が微笑みながらぼそりと言うと、篠上はより一層恥ずかしそうに歯を食い縛り、


「今言うなぁ……っ! 馬鹿っ!」


 しかし誠次の両頬に両手を添えてくる。


「……でも、そんな事言ってくれるの、あんただけ、セイジ……。本当は、私も……」

「ああ、わかってる。その大事な人のなかに、俺も入っているんだと言うことを」


 期待するような篠上の青い目と、赤く染まりつつある誠次の目が合う。誠次は眉を寄せ、決意を込めて頷いた。


「……っ。私の付加魔法エンチャントも、使って」


 そう言って横からそっと手を伸ばしてきたのは、香月だった。

 誠次は慌てて、香月を見る。


「ま、待て! 香月!?」

「ちょっと! し、詩音ちゃん!?」


 篠上が香月を睨みつける。


「こんな閉所なら、篠上さんのエンチャントは使い辛いはず。私の付加魔法エンチャントの方が、役に立つわ」


 まるで正当な理由を述べるような素振りで、香月は篠上に負けじと、素早く付加魔法の魔法式を展開する。


「そ、そんなの関係ないでしょ!? 大体アンタ、いつもセイジの傍にいてズルいのよ!」

「それこそ今は関係ないと、思うの、だけど。それに貴女こそ、学級委員でセイジと一緒にいる……!」

「時間が全然違ーうっ!」

「二人とも落ち着いてくれ! こうなったらイチかバチか、二人のエンチャントを同時に行う。二人の魔法チカラを貸してくれ!」


 誠次はレヴァテインを真っすぐ向け、香月と篠上のちょうど真ん中に位置させた。


「「わかってる! 受け取ってセイジ!」」


 誠次がぴしゃりと言い放った言葉に、二人は誠次を見つめ、頷く。まるでどちらが多くレヴァテインに魔素マナを送り込めるか、競い合っているようだ。

 一方、ごちゃごちゃと言い合う三人を、ダニエルを除く五名がじっと見ていた。


「何してんの、アレ……」

「ゆ、ユエさん嫌だなぁ……。な、なーに羨ましそうに見ているんですかもー……」

「そう言うお前こそ何顔赤くしてるんだっつーの!?」


 澄佳とユエが防御魔法を起動しながら、言い合う。


「何時でも若き愛とは胸をきつく、そして熱く締め付けるものであるな……ッ!」

「せ、先生さん?」


 感極まっているダニエルの背中を茫然と見つめ、桃華が呆然と呟く。


「……見てるこっちが恥ずかしい」

「あの剣に、付加魔法エンチャント、している……?」

 

 環菜と義雄が攻撃魔法を起動し、誠次と二人の少女をまじまじと見つめる。


「そう言えば、第七の影塚かげつかくんが――」


 義雄がぼそりと呟きかけたその瞬間、誠次の方で目も眩むほどの光が、瞬く。特殊魔法治安維持組織シィスティムと桃華は、その光を受け、悲鳴を上げて顔を抑える。


「おいおい……」


 びりびりと空気が振動しているのが、この場の全員とも、肌で分かった。

 顔を覆っていた腕を解いたユエは、目色が変わったこちらを見て、冷や汗を流していた。


「……?」


 香月のエンチャントが強かったのか?

 誠次の視界には、香月のエンチャントによる、青い世界が広がっている。

 試しに一歩、足を宙に向けて出してみると――、


「なるほど、そういう事か」


 ――どうやらしっかりと、篠上の分もかかっているようだ。

 ならばと誠次は、ダニエルの横まで歩く。


「出来たのかね?」


 ダニエルはホリの深い視線を横に向け、誠次に淡々と問いかける。


「はい。ダニエル先生、一つお願いがあります」


 誠次は青く輝く目を、廃墟の中に点在する特殊魔法治安維持組織シィスティムに向ける。


「悪いのですが、女子のみんなを連れて、安全な場所に避難してくれませんか。俺はもう大丈夫ですし、何より俺がこれからすることを、教師には見せたくない……」

「しかし、我輩は理事長に言われた通り生徒を守る為にここにいる。我輩は生徒の言葉は信じるが、指図はされる覚えはなくてな。そして、彼女はどうやら吾輩の制止を聞きそうにない」


 ダニエルがあごをくしゃる。その先には、微かに微笑んだ香月が立っていた。その微笑みはすなわち、ダニエルの言葉の通りだろう。


「なにやったかはしらねーけど、《パニッシュメント》!」

「むう……!?」


 ユエが発動した高位妨害魔法が、ダニエルの防御魔法を崩す。それが、戦闘開始の合図だった。

 環菜と義雄の方で、それぞれ赤と黄色の魔法式が光る。

 

「《ライトニング》」

「《フェルド》」


 左右から、雷と炎の攻撃魔法が迫り来る。


「《シェルプロト》!」


 ダニエルは篠上と桃華を守る為に、防御魔法を展開していた。


「「きゃっ!」」

「直撃させる気か!」


 誠次は急いでその場に足場を作り、宙を駆ける。背後での爆発を追い風にし、ユエの目の前に、自らの身体を出現させた。


「え!? ユエさんそっちに……一瞬で行きました!」


 ユエのいる場所とは一つ下の階の鉄網の上から、澄佳が声を張り上げる。


「――は?」

「……」


 呆気に取られるユエの顔を見つめ、誠次は再び足場を作り、ユエのすぐ背後のパイプの上へと着地する。

 何が起きたかわからないような素振りで、身を振り向かせようとするユエ。今度は香月のエンチャントを使い、その動きをゆっくりと見る。


「剣の色が、赤から青――」

「本当に手を引くつもりは、ないんだな?」


 今度は誠次が問いかける。


「ユエさん逃げて――!」

「いつの間に、後ろ――!」

 

 澄佳の悲鳴の中、ユエが素早く身をひるがえそうとしているようだ。

 誠次はレヴァテインを構え、迷うことなくユエの右腕に突き刺す。光る魔剣は、ユエの黒スーツの右腕に、浅く突き刺さった。

 ――それでも。


「ぐはあっ! 痛っ!?」


 ユエの悲鳴を聞きながら、誠次はレヴァテインを引き、ユエの前に見せつけるように再び構える。


「治癒魔法で治療してください――」


 ぼそりと告げた刹那、誠次は横から破壊魔法が近づいている事に気づき、すぐにその場から離脱する。

 その直後、誠次のいた場所を通過する、白い魔法の鎌。


「今、アイツなんて……? 治療、してください……だと!?」


 こちらは容赦なく魔法で傷つけようとしていたのにだ。

 流血する右手を抑えるユエは、誠次の口から出た信じ難い言葉に、呆気に取られるしかなかった。


「お前ええぇーっ!」


 誠次に破壊魔法を繰り出したのは、なんと小柄の金髪の女性、澄佳だった。鬼気迫った表情で誠次を睨みつけ、破壊魔法の魔法式を次々と組み立てている。おおよそ、先ほどまでのほんわかとした雰囲気はない。

 

「よくも……よくもユエをやったなーっ!」

「っ?」


 誠次はその変化に、戸惑っていた。

 誠次は篠上と香月のエンチャントを使い、豹変した澄佳の繰り出す破壊魔法を次々とかわす。老朽化し、半場崩壊している廃墟の柱に身を潜ませ、澄佳の魔法をかわし続ける。


「形成魔法で空を飛んでいるのか!? それなのになぜ、そうも簡単に攻撃を避けるんだーっ!」

 

 澄佳は上空に立つこちらを見上げ、叫んでくる。


「そっちが話を聞いてくれないからだ!」


 誠次は澄佳の背後に素早く着地。青く鋭く光るレヴァテインを、澄佳の背中に向ける。

 がしかし。目の前にある、女性の華奢な身体を見た途端、誠次は動けなくなっていた。


「……っく」


 女性は傷つけられない。映画などでよく見たことがある、渋い男が言うような台詞だ。

 しかし、それはあながちただの格好つけではないことが今、身に染みて分かった。自分に魔法の力を与えてくれる存在であること以上に、女性を斬ると言う行為を本能が完全に拒んでいた。これを乗り越えることはおそらく、容易ではない。


「もう手を引いてくれ! 桃華さんに特殊魔法治安維持組織(あなたたち)は必要ない! 貴女を斬りたくない!」

「後ろ!? いつの間にっ!」


 ビクンとなった身体を振り向かせ、それでも澄佳は完全に誠次を敵とみなし、拒絶するように睨んでくる。


「そんな事を言って……今更見逃してやるとでも思ってるのか!?」

「桃華さんの安全を確保出来ればそれで良いんです!」

「誘拐犯と交渉なんてしない! ましてお前は、ユエを傷つけた!」


 香月のエンチャントが見せる世界の中、ゆっくりと、ゆっくりと澄佳が破壊魔法の魔法式を構築している。


「こんなはずじゃ……!」


 これが自分の巻いた種なのか? ただ桃華の事を救いたくて、後先を何も考えずに思い切った行動をしてしまったが故の、代償なのか?

 その罰を受けるかのように、誠次が澄佳の目の前で呆然と立ち止まってしまったままでいる。


「消してやる……!」


 豹変した澄佳がもらったとばかりに、誠次に向けて破壊魔法を展開し、発動する直前までいく。


「セイジっ!」

 

 香月が、声を張り上げていた。


「《エクス》!」


 残り少ないであろう魔素マナを巧みに使い、こちらを守ろうと、澄佳目がけて魔法の弾を放つ。


「っく!」


 澄佳はそれをかわすために、破壊魔法の構築を断念し、後ろへバックステップをする。

 誠次はハッとなり、酸化した鉄網の足場の柵に手をつき、香月を見下ろした。


「香月、すまない! 俺は……!」

「大丈夫セイジ! 分かってる、だから、……だから貴方の迷いとなるものは、私が少しでも、代わりに背負う!」


 汎用魔法で作った即席の足場をつたい、誠次のいる場所まで上り、澄佳の前に立ち塞がる。朝日を浴びる銀色の髪が、ゆらゆらと空を舞っていた。


「お前も私の邪魔をするのか? 人を斬った男の味方をするのか?」

「……っ」


 澄佳の異様な気迫に、顔を赤くした香月は、思わずおくしてしまいそうになっていた。それでも香月は片手を澄佳に向けて伸ばし、誠次を守る為に立つ。


「大切な人が傷つけられたら、悲しくなったり、怒りたくなるのも分かります……」


 香月は俯く。しかし、すぐに顔を上げ、


「私にとってそれが、セイジだから!」

「黙れえええーっ!」

「香月っ!」


 澄佳が攻撃魔法を素早く展開、構築。誠次が叫ぶ中、じっと立つ香月に向けて、それを放った。

 

 一階では、ダニエルが二人の少女を守る為、二人の特殊魔法治安維持組織シィスティムを相手にしていた。


「ねえ義雄」

「なに? 環菜」

「私たち二人別に、目の前にいるあのプロレスラー崩れみたいなガチムチマッチョと戦う必要ないんじゃないの?」 

「僕も、ずっと、そう思ってる。でも、命令は絶対だから。じゃないと、病院の隊長に、迷惑がかかる」


 グワァぁぁーッ! ……などと大声を発しながら防御魔法を展開する、ヴィザリウス魔法学園の保険医を眺め、環菜はぼそりと言う。色々な意味で、相手にするのが面倒臭いのである。展開しているのが果たしてそれは本当に身を守る類の防御魔法なのか? と疑いたくなるレベルで、気合がこもっている。


「失礼なッ! 吾輩はヴィザリウス魔法学園の保険医、ダニエル・岡崎だッ!」

「「……」」


 ぬんと言い放つダニエルに、何も言い返せない特殊魔法治安維持組織シィスティムの二人。


「アンタ、相撲とって来なさいよ。いい勝負になりそうだから」

「やだ。強そう」


 そんな事を言っていると、胸元の通信機に、特殊魔法治安維持組織シィスティム本部から通信が入る。環菜と義雄はそれを確認すると、お互い顔を見合わせていた。


挿絵(By みてみん)

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