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魔法世界の剣術士 上  作者: 相會応
複合付加魔法
114/211

1

「――ええ。全ては命令通りに……」


 光の薄い暗室の中、とある男の声が響く。

 そして、なにかのホログラム映像を手で触る音。


「ボクが守ってあげるからね。もう誰にも傷つけさせはしないよ、ボクの可愛い……可愛い……ふふふ……」


               ※


 千尋ちひろの家に泊まった翌日の昼。日曜の休日であるが、誠次せいじ八ノ夜はちのやのいるヴィザリウス魔法学園の理事長室にいた。


「――以上が、リニア車での戦闘の結果および、朝霞刃生あさかばしょうの証言です」

「そして、お前は思わず号泣してしまったと」

「そ、そこには、触れないで、下さいませんか……」


 八ノ夜はにやつき、誠次は苦い表情をする。報告を終え、誠次は頭を下げて一歩下がった。


「ご家族の事を思い出してしまったのか?」


 鋭い八ノ夜の指摘に、誠次は少し、答につまってから、


「はい。情けないと思い、いつもは思い出さずにしていたんですが、不意に思い出してしまいました。……全ては自分のせいです」

「そうだな。香月を支えるべきお前が、香月に支えられた」

「それでは駄目だと思い、俺は一人でやろうとして……。大馬鹿ですね、俺は。俺が香月を支えようとしたのに、結局逆に心配をかけてしまって」

「そう気落ちするな。しかし、本城さんが朝霞を雇用したと言う話は私も初耳だった」


 八ノ夜もため息混じりに告げてくる。


「本城さんの事ではないが、こうも人が人を利用し、また誰かを簡単に裏切る時代になってしまうとはな……」 


 八ノ夜の青い目が、こちらをじっと見つめて来る。

 誠次は、何か言わねばと思い、慎重に口を開いた。


「これ以上そうならない為にはやはり、゛捕食者イーター゛をこの世から消し去るしかないのでしょうか」

「確かに、全ての元凶は゛捕食者イーター゛がこの世に生まれたからだと言える。だが、同時に魔法が生まれたからそうなったとも言える。魔法の力を押し出す国際魔法教会は、その例だな。強大な力を前にしては、誰も冷静ではいられない」

「俺とレヴァテインの力も、似たようなものなのかもしれませんね」


 誠次は背中のレヴァテインに視線を向ける。


(それでも香月……。俺はみんなを信じる)

「薺と直接会ったが、アイツは自分の考えを貫き通す気だ。薺もまた、自分のやり方でこの世界を変えようとしている」


 誠次が自分の右手を見つめていたところ、机に手を添え言ってくる。


「強がりだけでは、また俺のようにから回るだけです」

「あの大胆不敵さを絵に描いたような薺が強がっていると言うのか? 面白い」


 確信をもって言ったはずだが、八ノ夜は笑っていた。


「しかし総理大臣に正面から楯突たてついた今、穏やかにもいかなくなってしまった。国家に反逆する選ばれし者たち! これは熱い展開になって来た!」

「なんでノリノリなんですか!? かなりまずいですよねそれ!」


 何かの少年漫画の読み過ぎだろう。自分の立場を理解しているとはにわかには言い難い八ノ夜の言葉に、誠次は慌てる。


「分かっているよ。ヴィザリウスは私が守る。何があってもだ」


 八ノ夜は椅子に深く腰掛け、きっぱりと言った。

 誠次も、その言葉に頷く。

 

「俺もこの学園を、ヴィザリウスを守ります!」

「番人か。これでは本当にスルトだな」

「生まれ変わり、だったりするかもしれませんね」

 

 誠次は苦笑しながらも、再び頭を下げる。

 しかし次の瞬間、理事長室内の空気が地獄へと変貌する。


「ところで天瀬。私からの誕生日プレゼントであったデンバコの破壊。そしてテストの成績。そして最近の私へのスキンシップの少なさ。これは少しお仕置きが必要だな」

「一番最後にいまいち納得できない理由が出てきたのですが!?」 

「では私よりの指令だ」


 有無を言わせず、八ノ夜は机に片手を添える。

 仰々しい雰囲気に、誠次はごくりと息を呑んでいた。


「二週間後に迫った記念すべき我が校の文化祭。それを全力で楽しめ」

「え?」


 誠次は思わず聞き返してしまう。


「いいか? 今のは決して冗談ではないぞ? ()()文化祭を楽しみ、()()()()()()()! 当然手抜きは許さんからな」


 机をバンと小突きながら、八ノ夜は念を押すようにして言ってくる。

 あまりの気迫に、肝は据わっている方だと自負しているはずの誠次でも「ひぃいっ!」と変な声を出して後退り、


「りょ、了解しましたっ!」


 逃れるように、精々せいぜい気張った返事をしていた。


               ※

 

 ヴィザリウス魔法学園の文化祭。それは魔法学園内全学年を通して、一年で一番盛り上がる学年行事と称して、差し支えないだろう。開催期間は二日間で、事は一一月一八日と、一九日の二日間に渡って開催される。そう言えば新生徒会になってから、校内掲示物が生徒会総選挙のチラシに代わり、文化祭についてのチラシになっていたことを思い出す。

 誠次が廊下を歩いていると、そのチラシはやはり文化祭関連のものが目に付く。しかも今年の文化祭、例年に無いほどかなりを力を入れているらしく。


「どっからどう見ても、わーこの仕業ね」

「まー面白そうだし、良いじゃん良いじゃん」


 一つ上の先輩方が、楽しそうな表情で通り過ぎていく。


「文化祭を全力で盛り上げる、か。でも、一体どうすれば?」


 八ノ夜の言う事を真に受け、忠実に実行しようと、うむむと腕を組み、誠次は考えていた。

 後日、テストの振り替え休日明けの、最初の授業。1-Aのクラスメイトたちは、朝のHRの時間の教室に集っていた。

 教卓には、相変わらず面倒臭そうにあくびをしているはやしの姿が。


「おう喜べお前ら、文化祭だぞ。まぁ廊下のポスターが異様に力入ってるから、目につくとは思うけど。今年はやけに気合入ってるし」

「おおぅ……」


 そわそわし始める、クラスメイトたち。魔法学園で経験する初めての文化祭。それが担任の口から出たことにより、いよいよ現実味を帯びて来ていたのだ。


「お前らが青春してる間にも、教師は教師で準備やら段取りやらで大変なんだよなこれが。魔法学園ってだけで、色々面倒なところもあるしよ」

「お、おおぅ……」


 のっけから毒を吐きまくり、生徒たちの盛り上がりを下げていくスタイルの林である。


「はっ、冗談だよ冗談。まあ命一杯楽しめや」


 しかしその為には、と林は手をホワイトボードに掲げ、


「クラスでの出し物を決めなきゃいかん。そこで学級委員共、任せたぞ」


 言うが早いか、林は教卓から手を離し、教室端の自分の席へと着席してしまう。そして、あとは知らんこっちゃと言わんばかりに机の上に突っ伏し、あろうことか両腕を枕代わりに寝始めてしまった。完全に授業中にだらけてしまった生徒のようである。


「え」


 廊下側の席に座っていた相方学級委員の篠上が、聞いてないと言わんばかりに、大きな青い目をぱちくりとしていた。

 状況はこちらも同じだが、言われた以上、やるしかない。誠次と篠上はお互いに半眼で林を睨みながら、教卓まで移動する。教卓にはなにやら用紙が置いてあり、文化祭についての内容だ。


「これくらい自分で言えるでしょ……」


 やれやれと篠上が林を睨みつけているが、林は片手を飄々ひょうひょうと挙げて、また突っ伏す。

 駄目だこりゃ、と教室内の空気が一致したのもつかの間、篠上がテキパキと゛職務゛をこなし始める。


「えーっと。ヴィザリウス魔法学園の開催期間は二日間。初日は一般非公開で、つまり私たちこの学園の関係者のみの日。日曜日の二日目が、一般公開されるみたい」

「言っちまえば、初日はデモンストレーションだ。二日目が本番みたいなもんだな」

「デモンストレーション? そんな事をやる意味があるのでしょうか?」


 顔を上げて口を挟んで来た林に、誠次が問う。


「ああ。理由はその次の項目に書いてある通りだ」

「?」

 

 誠次がきょとんとしていると、篠上がこほんと咳ばらいをして、続きを話し出す。


「クラスごとにそれぞれ出し物、企画を行ってもらうんだけど、それに何らかの形で必ず魔法が関係してないとダメなんだって」

「魔法、学園だからな」


 テキストに用意された台詞は篠上に喋らせ、ちょいちょい言葉を挟んでくる林である。


「はい次よろしく」

「あ、ああ」


 口を尖らせた篠上にバトンパスされ、代わりに誠次が話し出す。


「例えば、食べ物の屋台をやる場合。調理過程になんらかの魔法を使ったり、お客様に魔法を使ったディナーショーを楽しんでいただくなど、工夫が必要みたいなんだ」


 誠次の言葉に、クラスメイトたちがほへーっと反応する。


「ま、待ってください! つ、つまり、俺たちだけの初日は、その魔法を使った出し物に対しての()()()()()も務める為と言う事でしょうか?」


 一番前の席に座る夕島が、恐る恐る林に問いかける。夕島の危惧通り、素人の学生が行う行事に魔法と言うモノが加わってしまえば安全面での心配は残る。そこで初日に生徒たちが身をもって出し物を体験すれば、二日目に修正が出来る。

 なるほど、と誠次がさとった時にはすでに、林がクラスメイトににんまりと笑いかけ、


「察しが良いな。せっかく来るお客様たちに危険があっちゃいかんから、安全確認もしなくちゃな。……哀れなモルモットたちよ……南無」

「……」


 先ほどまでの盛り上がる空気が一転、嘘のように白けてしまっている。


「さてそれじゃあ、一時限目まで延長していいからさっさと出し物決めてくれ。他のクラスはもう出し物決まってるんだから。準備期間もそう長くはないぜ?」

「他のクラスはもう決まってる? 自分たちは今決めてるのに、どう言うことでしょうか……?」 


 小野寺おのでらが林に尋ねる。


「決まってるだろう小野寺。……俺が言い忘れてたんだよっ!」


 机をバンと叩いて怒鳴りつける林に、


「「「なんで逆切れしてんだクソ教師がーッ!」」」


 他のクラスメイトたちが一斉にツッコんでいた。

 担任教師の面倒臭がりと言う性格が災いした結果、大至急クラスの文化祭での出し物を決めなくてはならなくなった。


「それじゃあみんな。やってみたい出し物を紙に書いて、この箱に入れに来て」


 篠上が作った即席の投票ボックスを、どこか自信あり気に教卓の上に置く。


(こう言う行事になると相変わらず張り切ってるな……)


 誠次が横目で篠上の横顔をまじまじと見ていた。とても楽しんでおられだ。


「はいアンタも」

「ああ」

 

 さっ、と篠上に小さな紙を渡され、誠次は制服の胸ポケットに入れてあるペンを取り出す。

 八ノ夜の指示の元、文化祭を盛り上げる為に、誠次は真剣に考えてみる。教卓に肘を付き、あごに手を添え、紙にペンを走らせる。そうしていると、横に立つ篠上になにやらじっと見られていることに気づく。


「な、なんだよ……。恥ずかしいからあまり見ないでくれよ」


 誠次が顔を上げて、こちらを見つめる篠上を見返す。

 篠上は少しだけ慌てて、誠次から視線を逸らす。


「い、いや。……やっぱ真面目だなって思って」

「真面目?」

「普段こういうのって、男子ってふざけるイメージがあるから」

「失礼だな。俺はいつだってなんでも真面目に取り組んでいるつもりだ」


 誠次がきっぱりと言うと、篠上はうんと微笑む。


「アンタの良い所だけど、でももう無理だけはしないで。約束よ」


 誠次は思わず、右手をピタリと止めてしまった。数日前の夜の事も、思い出したりしてしまう。


「分かってるよ。心配かけて悪かったな」


 誠次はバツが悪そうな顔をして言っていた。


「い、いや別に私はそんなつもりで言ったわけじゃ……」


 篠上もバツが悪そうにそっぽを向き、自分が考えた出し物を紙へ書いていく。

 とりあえず一人最低一つ。誰が書いたか分かるように、紙の下には自分の名前を書いておくようにとのこと。

 やがて、紙がクラスメイトたちから回収される。


「お、俺も俺も」


 最後に林が、箱の中に紙を入れてきた。自分でもなにか考えたのだろうか?


「それじゃあ一つづつめくっていくから、天瀬はホワイトボードに書いていってね」

「了解」


 誠次はクラスメイトたちに背を向けた。

 背後では早速、篠上が紙を一枚取り出した。


「記念すべき一枚目は……()()()って……」


 大変だ。一枚目から篠上の機嫌を損ねるような内容のモノが出てきてしまった。

 案の定、篠上ははぁとため息をこぼしている。


「誰だよ書いた奴!」

「やる気なさすぎだろー」


 クラスメイトたちが苦笑し合っている。

 誠次はすぐに振り向き、愕然としている篠上から紙を取った。


「誰だこんなことを書いた奴は! 名乗り出ろっ!」


 誠次が瞬く間に叫び出す。こちらは真剣に文化祭を盛り上げようとしているのに、休憩室とは、なんとけしからん。


「い、いや下に書いてあるわよ」


 篠上にぼそりと耳打ちされ、誠次が書いた者の名を確認する。

 そうせずとも、どうやら向こうの方から名乗り出てくれたが。クラスの後方の席で、気怠そうに挙げられた手が一つあるのだ。


「俺だよ」

神山かみやま……お前かっ! どうして休憩室なんて書いたんだ!」


 さながらどこかの熱血教師のように、誠次は教卓に手をつく。

 あっけに取られているのは、神山も林も篠上も含めた、この場のクラスメイト全員だ。


「どうしてって……その……面倒だから……?」


 白い制服に包まれた腕を飄々ひょうひょうと掲げ、神山は言ってくる。


「ふざけるな!」


 バンッ、と教卓を叩く誠次。

 あまりの誠次の(予期せぬ)気迫に、神山はおののく。


「は、はぁ?」

「文化祭をなんだと思っているんだっ! 甘えるんじゃない!」

「あ、甘えるんじゃない……? だ、大丈夫かよ天瀬……」


 何やら本気で心配されてしまっているが、心配なのはこちらだ。このまま休憩室などが通ってしまったあかつきには、八ノ夜による鉄拳制裁がもれなく待っている。

 少なからずそれに巻き込まれてしまうであろう神山の為にも、そして何よりも自己保全の為に、誠次は怒鳴りつけていた。


「クラスの全員が一丸となって行うこの行事……。誰一人としてサボろうなんてする考えは許さない! みんなで揃って盛り上がってこその文化祭だ! 確かにその年では面倒臭いと思ってしまう気持ちも、分かるけどな……」

「いや、同い年だろお前……」


 ガッツポーズを作って何かを噛み締めている誠次に、神山が冷静にツッコんでいた。


「でも悪かったよ。そうだよな、休憩室なんて書いてごめん……」


 神山は椅子に座ったまま、頭を下げていた。


「分かってくれればそれでいいんだ。さあ! この魔法学園で初めて迎える文化祭、みんなで盛り上がろう!」


 誠次の掛け声に、クラスメイトたちは恥ずかしがりながらも、声をそろえる。


「びっくりしたけど……やるじゃん、天瀬」


 後ろからくすりと微笑む篠上。

 誠次は誠次で、休憩室と言う選択肢が消えたことにほっと一安心していた。


「じゃあ次行くわよ……次は……きゃば、くら……?」


 篠上が次の取り出した紙には、林の名と、【きゃばくら】と言う汚い字が書いてあった。


「こ、ここで俺かよ!? 気まず!」

「大体どんなのか想像できるので、却下します」


 つまらなそうに言った篠上がぽいっと紙を教卓横のごみ箱に放り、誠次も頷いていた。


「一応担任に容赦ねぇ!」


 本気としても、ウケ狙いとしても微妙な結果になってしまった林は、ぐはっ、と血を出すような素振りで机に突っ伏してしまったが。

 しかしその後も、出てくるのはビデオ鑑賞室と言う魔法何処行った? 的なやつから、闘技場、などと言ったいまいち現実味のないものばかり。挙句の果てには堂々と名前を書いておきながら白紙と言うモノもあった。


「まったく、もっと真剣に文化祭に取り組んだらどうなんだ!」


 誠次が声を張り上げ、クラスメイトたちを叱咤しったする。


志藤しどうの喫茶店なんて酷すぎるからな!? 志藤らしくもない!」

「ここで俺かよ!? 俺らしい文化祭の出し物ってなんだよ!?」


 誠次がホワイトボードに紙を叩きつけると、志藤が立ち上がって頭を抱える。

 ホワイトボードには、そうして続々とクラスメイトたちの案が張られていく。しかし、今のところクラスメイトたちの表情を見ても分かる通り、いまいちパっとするものがない。


「別に喫茶店でよくねーか?」

「いや……それじゃあ、盛り上がらないんだ……っ」

「お前は一体なにに怯えてんだよ……。確かに盛り上がりには欠けるけどよ。でもやっぱ、他にはさっきまで出たお化け屋敷とか、屋台とかぐらいじゃねーの?」


 やはり焦っている誠次に、やれやれ顔の志藤のやり取り。

 その横では篠上が、さっさと次の紙を引く。


「次は……天瀬ね。そこまで言うのなら、さぞかし内容が気になるわね」

 

 篠上が目を通した途端、ぎょっと顔を青ざめる。誠次の提案した案が書かれた紙を握る、ブレザーに包まれた腕が、ぷるぷると震えている。


「メイド……喫茶……」

「喫茶店よりワンランク上のひどさじゃねーか!」


 志藤のツッコみを皮切りに、


「ふざけんなクソ学級委員ッ!」

「もれなくお前専属のメイドになるだろうがよッ!」

「最低!」


 誠次目がけ、教室中から飛んでくる、罵声や筆記用具。


「待て待て待てっ! 本当に盛り上がると思ったんだっ!」


 誠次は慌てて、教卓の後ろにしゃがんで身を潜めていた。

 篠上は「はぁ……」と本日何度目かのため息をこぼしながら《プロト》を起動し、身を守っていた。一応誠次の方にも《プロト》を掛けてやっていたのは、これ以上会議を滞らせたくないからか、彼女なりの優しさか。

 結局誠次の考えた案も女子陣からの非難により、却下。箱の中の紙の枚数も、少なくなってきていた。


「そろそろ時間やべーぞー」

「元を正せばあなたが今まで言わなかったせいですよね!?」


 茶髪にクラスメイトが放った流れ弾であるペンを突き刺したまま、誠次が林にツッコむ。


「次はとばりね。そろそろお願い……」


 やや疲れた様子の篠上が、望み薄な顔立ちのまま、紙を見ていた。


「お、俺か」

 

 帳は自分の席に座ったまま、軽く口角を上げている。


「ライブ……?」


 篠上が首を傾げていた。今までにないような案だ。


「そうそう、コンサートライブ! 体育館で盛大にやるってのはどうかと思ってさ!」


 帳が大きな声で言うが、篠上と誠次は共に眉を寄せていた。


「ライブは先輩たちがやるんじゃない? それに体育館なんて、借りられるのかしら」

「体育館は一応第三まであるから、可能性はあるかもしれないけどな」


 誠次もあごに手を添え、考える素振を見せていた。問題は篠上の言う通り、゛ライブ゛と言う行為そのものが、出し物として成立するかどうかだった。


「駄目か……」


 帳ががっくしと、肩を落としている。


「いや、まだ駄目と決まったわけじゃ――」


 誠次が言いかけた直後だった、


「良いと思うぜライブ。文化祭でライブなんて、過去この学園でやった事ないし」

「え? 文化祭って、先輩とかがライブやるイメージがあるんですけど、やってこなかったんですか?」


 篠上の言葉に、うんうんとクラスメイトたちが頷く。

 説明を求める視線の先の林は、どこか遠くを見ていた。


「いやご時世ってやつよ。八ノ夜理事長になってから、この学園の雰囲気も変わったんだ。それまで文化祭って言っても、どこか自重するような空気があってな。魔法学園だからはっちゃけるのはおかしい、ってな」


 林はにこりと笑い、起き上がって腕を組む。


「だからライブ、良いんじゃねぇか? この学園には今までなかった一見普通の学校にあるようなやつが、案外盛り上がるかも知れんしな」


 これで決まった感が、尋常ではない。何よりもここまでやる気のない素振りを見せていた林が、急に口を挟んで来たのだ。クラスメイトたちの中でも、文化祭と言えばライブ、と言う様式美が成り立っているようであり、反対の意見は出なかった。

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