9
黒い夜空をぼうっと照らす、淡白い月。それは夜を失った三〇年などと言う下らない月日では済まされないほど長く、この地の夜を光で照らしてくれいる。こんなにも大きく、偉大な光だったのかと、本城直正は窓から覗く月を眺めて思う。
「――あの子を魔法学園に入学させて正解でしたわ、あなた。おかげで素晴らしい子と、出会えたようですわ」
背後より、五十鈴が声を掛けて来る。自分にはもったいないと思わせるほどの美貌を誇り、それでいて献身的に自分を支えてくれる、良き妻である。
「天瀬誠次。彼ならば、きっとこの狭まった世界に波紋を広げてくれると思うのだ」
月を眺めたまま、本城は言う。後ろに控えるように立つ五十鈴は、きっと頷いたことだろう。
「ちょうどこの世界が変わってしまったのも、私たちがあの子ぐらいの年だった頃でしょうか……」
どこか切なさを漂わせる、五十鈴の言葉。自分たちの学生時代。それは自分たちの父母のように、ただただ漠然と過ぎていくようなものだと思っていた。゛捕食者゛の出現さえ、なければだが。
「失われた夜、か。そう考えると、私は思わず青春を謳歌している娘に嫉妬してしまいそうだよ」
本城が自嘲しながら言うと、背後から五十鈴がそっと、背中を労わるように優しく撫でる。
「魔法は使えずとも、貴方の働きのお陰で、こうして千尋が笑ってくれる今が作られているのでしょう」
「現状に満足はしていない」
そして本城は、ともすれば獰猛な野獣を思わせる鋭い視線を、月光が照らす自宅の庭へと移す。
「……本当に良かったのですか? 二人に、外出許可を出しても?」
五十鈴も、本城と同じ方をじっと見つめた。
「これで奴から情報が手に入れば、私やこの世の収穫だ。千尋たちは念のため、絶対に外の光景を見させないようにしておけ。もっとも、カーテンを閉め切っていることが当然のこの世の中でそんな心配もいらないだろうが」
対照的に広がっている窓の外。そのとある光景に、本城は息をつく。もしかして私は悪知恵が上手く働いてしまう性質なのではないだろうか、と無性に感じてしまった。
案の定、傍らでは五十鈴が「酷いお人……」と呟いていた。
「革命、か……。天瀬くん、どうかこの私に見せてくれたまえ。君のその行動で」
少し冷える身体は、自然とそんな事を呟いていた。
寒空の下、ふと耳を澄ましてみる。秋の虫の鳴き声が、いたるところから聞こえる。そうすれば、おれは今、夜空の下にいるのだと実感をもって感じることが出来る。
「まさか、私を相手に剣術の特訓を申し込むとは」
「悔しいが、剣を扱うセンスは貴方の方が上だ。だから、だからこそ俺は貴方を越える。そして、今度こそ俺の力で貴方を倒す」
「……」
無言となった朝霞刃生と血気を昂らせる天瀬誠次。月下の下、二人の男が距離を離して向かい合っていた。月光が照らす朝霞の線の細い顔立ちには、怪しい影が付き始める。
「しかし、魔法執行省大臣がこうして夜間外出の許可を出してくれるのは、近くにいて幸運でしたね」
「ほとんど口約束だけのようなものだけどな」
夜間の外出。周りは無人。そして当然、゛捕食者゛出現の危険性もある。いくら大臣が許可したとは言え、この二人は非常識な行為をしていた。
「私と一騎打ち。思い出せば、初めて私たちが会った時も、このような感じでしたね?」
「まさか今この場でやるとは思ってもいなかったけれどな」
少し冷えるものを感じながら、誠次は言ってみる。
「明日自分の存在が消えるかも知れない世の中です。ことは何事も急いだほうがいいでしょうからね」
朝霞はそう言うと、腰に下げた日本刀を見せつけるように、身構えた姿勢に映る。
「それとも、自分から挑んで来たくせに急に戦うのが怖いのでしょうか? ……いえ、逃げたい気持ちは分かりますよ。なぜなら貴方は、怪我をしている身であり、てっきり後日魔法学園の演習場なんかで戦うつもりだったのでしょうから」
口角を上げ、朝霞の口数は相変わらず減る様子を見せない。
「林間学校やアルゲイルでの戦いでは、実質俺はお前との勝負には負けていた。勝てたのは、どちらも篠上さんや香月さんの力があったからだ」
「だからこそ、自分自身の力で私に勝ちたいと」
「戦う理由はもう一つある」
誠次は目を瞑り、首を軽く横に振っていた。
「? それは見当がつきませんね」
開いた視線の先で、朝霞はきょとんとしていた。
「お前の知っていることを、洗いざらい教えて貰う」
「……」
朝霞は日本刀の柄に手を添えたまま、ピクリと反応するに留まる。否、誠次にして見れば、反応してくれたのだ。そよ風が吹き、朱色の紅葉が舞う中、しばしの沈黙がこの場を支配していた。
「それが今、レヴァテインを持たない俺が一騎打ちをするハンデの代償だ」
誠次は手ぶらだったが、勝気な表情と口調のまま、宣告していた。
朝霞は棒のように立ったまま、口を閉ざしていたが、
「あなたから仕掛けたくせになんと傲慢な……しかし良いでしょう。つまり天瀬くんはこう仰りたい。……私が、何か隠していると?」
「ああ――」
「フフッ!」
誠次が答えた直後、朝霞は日本刀を抜刀。走り出した勢いそのままに、誠次の耳を掠める一撃を繰り出す。
思わず後退り、冷や汗を垂らす誠次であったが、口元には確信を抱いた証とばかりに、軽い笑みをたたえる。
「その反応、やはり……あるんだな!」
「さあ。しかしこの状況で、どうやって私に情報を吐かせると?」
武器の有無。それを身をもって味合わせるかのように、朝霞は細長い日本刀を右へ左へと二回ほど振り回す。
「改めますが天瀬くん。ここから先に進むつもりならば、命の保証は出来ませんよ?」
「分かっている……! だから、俺も全力で行く!」
誠次は地面に積もった紅葉を勢いよく蹴り上げた。ばさばさと音を立てながら、色あざやな木の葉が舞う。
「小癪な……」
まさかと思ったのか、思わず朝霞が顔を片手で防いだ直後だ。舞い散った木の葉を横なぎに、誠次が棒状のモノを振るった。
「まさか」
日本刀で迫り来る棒状のモノに応戦し、顔面への直撃を退けた朝霞は、面白そうに声を出す。細長の目で追った先にあったものが、想像の斜め上を行っていたからだ。
誠次が握っていたのは、洗濯物を干す用に庭に立ててあった、物干し竿だった。誠次はそれを両手で握り、槍を振るう要領で、得物として扱っていた。
「私にも一応、プライドと言うものがありましてですね天瀬くん。あの日体育館で身も心も貴方に敗北した後、ずっとこの機会を窺っていたのですよ」
日本刀の刃を上に向ける形で構え、朝霞は言ってくる。ちょうどその刃へ落ちた紅葉が、綺麗に真っ二つに斬れていた。
「俺もだ。お前との戦いを通して強くなるし、この世界の真実にも近づける」
「真実?」
「レ―ヴネメシスや国際魔法教会の事だ!」
誠次が走り、朝霞に接近。鉄製の重たい物干し竿を二回ほど振るい、朝霞を後退させる。誠次はさらに追撃し、先端に刃がついていると想定したような突き攻撃を、朝霞の腹部に向けて繰り出す。対し、朝霞は日本刀を素早く翻し、誠次の攻撃を弾く。反撃に日本刀を振るうが、今度は誠次は物干し竿を回転させ、攻撃を防いだ。
「レヴァテインより、そちらの方が巧みに扱えるんじゃないんですかね!?」
「今日の、リニア車の肉弾戦でも、軽くそんな気はした! ――だが!」
誠次は朝霞を力で押し返し、物干し竿を回転させながら、勢いよく振り下ろす。朝霞は素早く横に転げ、面への強烈な一撃をかわしていた。
「レヴァテインじゃなければ、俺は゛捕食者゛を倒せそうにはない!」
「見事な志ですね?」
朝霞は苦笑し、誠次の首目がけて日本刀を突き出す。誠次はすぐに物干し竿を持ち上げて、朝霞の日本刀の軌道を強引に逸らした。眼下で火花が散り、誠次は息を呑んだ。向こうも、本気だ。
「神話のレ―ヴァテインは、唯一世界樹の頂に座しているヴィゾーヴニルに止めを刺すことが出来る剣。ヴィゾ―ヴニル。……まるで何かのようですね?」
朝霞の表情に喜悦が混じり始め、激しく日本刀を振るい始める。誠次は防戦に回っていた。
「問題は……っ! どうしてそれがこの世に生まれたかだ!」
誠次は口で呼吸をし、日本刀の衝撃を味わいながら、問い質す。朝霞の攻撃をどうにか受け止めるので精一杯であったが、自然と言葉が溢れて来た。
「さあ。この世の神が我ら愚かで哀れな人間に、せめてものお情けを与えてくれたのでしょうかね? 魔法と同じですよ」
「真面目に答えろ! 朝霞刃生!」
誠次は物干し竿を突き放し、朝霞の体勢を崩す。ほんの一瞬だけ驚く朝霞だったが、すぐに勝利を確信した笑みをこぼす。
「それでは手ぶらだ。一騎打ちで自分の得物を離すのは、自ら白旗を上げたのも同然ですよ?」
誠次を見上げた朝霞だったが、その表情はくもる。月明かりの影によれば、物干しよりも幾分か細く、短いモノが、自分の顔に迫って来ていたからだ。ふわりとまった長い黒髪に、鈍い音が響き渡る。誠次の攻撃が、朝霞の面に直撃していたのだ。
「使えるものは、使わさせてもらうぞ」
誠次が次に手にしていたのは、家庭用のほうきだった。プラスティックなどの安物のほうきではなく、竹で出来た高価なものだったので、重みはある。
顔を抑えていた朝霞は、くつくつと笑っていた。
「先ほどから家のモノを勝手に使われては困りますね……。執事としては、どうにも見過ごせません」
「本城さんより許可はもらっている」
「おやおやこれはこれは。……どうやら直正様も、私が情報を隠し持っているとお思いだ!」
朝霞は足元で軽く日本刀を振り払い、誠次に向けて突撃する。朝霞が踏み鳴らした地面では、何枚もの紅葉が舞っていた。
日本刀とほうき。傍から見れば異質な二つが、音を立てて何回も(叩き)斬り合う、
「どうしてお前ほどの男がテロに加担した!」
「それが次の質問ですか?」
ほうきの先の無数の枝が、朝霞の強烈な一撃により、纏めて斬られ、飛ばされる。
「っ!」
誠次は負けじとほうきを振るい、朝霞の左肩を突いた。戦いながら、まるでテストの答え合わせでもしているような気分である。
「この国の将来を憂いていたのは本当ですよ。こんな私もここの国民ですからね。例えこの肉体を一から変えようとも」
「肉体を一から変える? どういう事だ!?」
朝霞の攻撃は、剣撃でも言葉からでのものでもあった。
「さきほど、貴方は私がテロに加担したと仰いましたよね?」
朝霞は片手で日本刀を次々に振るう。再び、誠次はほうきを振り回し、防戦の構えに入っていた。
「それが大きな間違いです。私はテロに加担したのではなく、テロを利用していたのですよ」
右足を蹴り上げて誠次の身体をよろめかせ「負け惜しみではございませんよ?」と悪魔のような微笑みを見せる朝霞。その頭上にはすでに、月光を反射する日本刀を掲げており、
「っく!」
呻いた誠次は、すぐさま地面の紅葉を纏いながら、横に転がる。地面を真っ二つに叩き割るような勢いで、朝霞の日本刀が振り下ろされたのは、その直後だった。
「それは全て、私の本当の主の為に」
「主……。それは誰だ!?」
アルゲイル魔法学園での、理事長室の会話が脳裏にフラッシュバックしていた。誠次は折れたほうきを朝霞に投げつける。
朝霞はそれを、日本刀で斬り払いながら、
「……ヴァレエフ・アレクサンドル」
静かに、そう答えたのだ。
「国際魔法教会、代表……。やはり、国際魔法教会か……!」
誠次もまた、朝霞と同じ声音で、呟く。テレビで見る、銀髪碧眼の壮年男性の姿を、頭の中で思い起こしていたのだ。しかしここでもまた、魔法教会に連なる存在の名が出たことに、少なからず動揺してしまう。
「ヴァレエフ……。その人が、どうして日本のテロの事を知りたがっているんだ?」
「薺の報道を聞いたでしょう。国際魔法教会は、これからの魔法世界の基盤となる組織ですよ? そのトップが、仮にも先進国のこの国の悲惨な現状を悠々と静観するわけがないでしょう。そこでヴァレエフは、私をレ―ヴネメシスの元へ送り込んだのです。来るべき、国際魔法教会が大頭する世の中の為に」
「そうだった、のか……?」
……いや、またなにかが引っかかる。……なんだ、この妙な違和感は……?
戸惑う誠次の顔を真正面から見た朝霞は、何かを悟ったように、ほくそ笑んだ。
「謎が謎を呼び、真相を知ろうと深みに嵌まり、思い悩むその表情……。とても素敵ですよ」
朝霞はそこで、日本刀を仕舞う。それが朝霞からの勝負終了の、合図だった。
「朝霞……?」
誠次はまだ、納得いかない面持ちで、朝霞を睨む。
「知りすぎた知識を整理する時間が必要なはず。今宵はここまでにいたしましょう」
「いや待て朝霞! まだ分からないことが沢山あるんだ!」
誠次は叫ぶ。自分が知らなくてはいけないはずの情報が、ありすぎる。それを知るまでは、戦うことをやめるわけにはいかない!
だが、朝霞はとり合う素振を見せなかった。
「いいえ。貴方の身体はもう限界です。そして頭も。それに、貴男の代わりはいる」
「限界なものか! 謎を残したままにするのはもう嫌なんだ!」
夜空の下、誠次の叫び声だけが、大きく虚しく、響き渡る。
そんな中、いい加減にしろと、朝霞が誠次の服の襟を強く引っ張った。
「……っ?」
「知ってどうするんですか? あなたのたった一人の力で、変わってしまったこの世界を、三〇年前のように戻せると? あなたが頑張れば、どうにかなると思っているのですか? 林間学校で私と戦った時のあなたと、これではまるで逆戻りですよ?」
朝霞は切り捨てるに言うと、誠次の服を離し、背を向ける。
月明かりの下、地面に落とされる形となった誠次は、咄嗟に手に握った紅葉を、その場で無茶苦茶に投げていた。
「逃げるな!」
転がっていた木の棒を掴み、朝霞の背後に殴りかかる。
直撃する、そう思っていた誠次の目の前を、朝霞の刃が掠めた。途端、真っ二つに斬り落とされる木の棒。そして朝霞によって誠次は簡単に組み伏せられ、膝から地面に倒される。
起き上がろうとした誠次の首元には、すでに日本刀の先が。
「これで二勝一敗、ですかね? 正直言いますと、圧倒的に不利な相手を打ち負かしても嬉しくはありませんが、カウントさせて頂きます」
「まだだ! まだ負けてはいない!」
誠次は目に野心を宿らせ、朝霞に向けて吠える。
「首を貫かれたいんですか? まだあなたは分かっていない。ここまで来て全てを無駄にする気でしょうか?」
「う、うるさいっ! お前の言う事にはもう騙されるものか! 俺は……俺はっ!」
――そしてまた、いつかのように、支離滅裂になる、誠次の涙混じりの言動。八ノ夜に志藤の顔や林の言葉、そして誰かも分からない悲鳴や、自分を呼ぶ声が、ぐちゃぐちゃになって一斉に押し寄せる。
がんがんと痛む頭の中で一際大きく鳴る、聞き覚えのある誰かの声。
(どうして、助けてくれなかったの……?)
(なんで、魔法が使えなかったんだ……?)
(魔法が使えてたら、私たちは……)
「う、うわああああああーっ!」
誠次の黒い目から光が失せ、絶叫により何もかもが、かき消されていく。綺麗な夜空と、そこにある月の光も。
「……さすがに……哀れがすぎますよ、天瀬誠次くん……。そうだ、あなたはなにも変わってはいない」
朝霞は背を向け立ち止まったまま、動けないでいた。
ガラ。本城家の家の戸が開き、中から五十鈴と本城直正が急いで走って来た。五十鈴は防寒具はおろか履物もはかずに、素足のままである。
「よく頑張った天瀬くん……。……すまない……」
口に手を当てて立ちすくむ五十鈴の後ろでまず本城がしゃがみ、咽び泣き始めた誠次の肩をしっかりと掴む。
誠次はただただ、黒い瞳の目から大粒の涙を流していた。
「分かるんだ……っ! ゛捕食者゛を滅ぼす方法がぁ! 朝霞刃生っ!」
「!? 落ち着け……天瀬くん!」
「どいてあなた」
困り顔の本城を押し退け、五十鈴が代わりに、泣きじゃくる誠次の前にしゃがむ。五十鈴はその膝を地面につけ、誠次を真正面からぎゅっと抱き締めていた。そして、片手は誠次の腰を、片手で誠次の茶髪の後ろ髪を優しく撫でてくる。
「天瀬くん……。辛いことがあったのでしょうけど、どうか落ち着いて……」
「ひぐ……っ。父さん……か゛あさん……奈緒……。ごめん、なさい……」
少しだけ落ち着いた誠次の口から出たのは、亡き家族への謝罪の言葉だった。
「五十鈴を母親に見立てて、亡くなった家族への贖罪か……」
立ち上がった本城がぼそりと言う。
「ごめん、なざい……。おれ、は……魔法が……魔法がぁ……っ!」
再び激しく暴れ出そうとする誠次の背中を、五十鈴が「大丈夫だから……」とあやすように優しく撫で続ける。
「刃生……」
「……」
朝霞も再び、誠次を見た。哀れなモノを見るような、何とも言えないような顔立ちで。
「申し訳ありません、直正様、五十鈴様……。熱くなりすぎた私の不手際でした……」
朝霞は頭を深く下げた。
「どういう事だ……?」
本城が朝霞に訊く。
朝霞は顔を上げ、ゆっくりと口を開いた。
「……彼はまだ一六歳の子供。……その子供にはやはり少々重たすぎる話だったようです……。皆の前では気を張っているのでしょうが、それはやはりどうしても若気の至りでしかない。今まさにそれが容量を超えてしまった、と言ったところでしょうか」
朝霞はあくまで、無表情のままだ。
本城もまた、五十鈴の胸の中ですすり泣く誠次をじっと見つめていた。
「やはり、人は変われないようですね。あなたも、私も」
朝霞がぼそりと呟く。
「全て聞かせてもらうぞ刃生。……その前に八ノ夜理事長に連絡を入れる。五十鈴、天瀬くんを家の中へ」
「ええ。天瀬くん、立てそう?」
「俺は……おれ、はぁ……っ!」
その後、温かい光が零れる家の中で間もなく出来上がったクラスメイトたちの手作りの料理。その晩誠次が、それをみんなで食べることはなかった。




