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テスト期間、二日目。生物学のテスト時間中。
「これをあと二回乗り越えれば、文化祭……。これを乗り越えれば、文化祭なんだ……」
誠次の前の席より、志藤が呪文のようにぶつぶつ呟いている。
(っく……!)
誠次も誠次で、一夜漬けではどうにもならず、解答用紙には白が目立っていた。あとは、適当に合わせるか。
知識を振り絞る時間があまりにも早く終わったのか、隣の席の桜庭が驚いている。
「――はい。テスト終わりです。ペンを置いて」
二日目のテストも終わった。クラスメイトたちが、テストの内容について言い合っている。
「夕島さん。問四のあの問題はどう答えました?」
「あれは普通に顕微鏡のレンズサイズを調整すれば、大丈夫だと思う。俺の眼鏡のレンズも――」
「やっぱりそうですよね。良かったぁーっ!」
「……」
優等生コンビであり、ルームメイトの喜ぶ小野寺と何やら悲しんでいる夕島の横を、誠次はさっさと通り過ぎていく。
「あ、天瀬さんもこの後一緒に勉強しましょうよ!」
「す、すまない。今日は先約があるんだ」
誠次は一旦立ち止まり、小野寺に向けて手を軽く上げる。
「先約?」
夕島が椅子に座ったまま、訊いて来る。
「そう、先約だ」
小野寺と夕島にそう声を掛けられたが、誠次は軽く手を振って、急いで教室を後にしていた。
再び、テストの答え合わせに戻ったクラスメイトたち。明日もテストが続くので、放課後の今も話題は勉強の事でまるっきりだ。
「……」
シャーペンを片手に香月は、教室から出て行く誠次の後姿を見つめていた。
「どこ行くんだろうね?」
一緒に明日の予習をしていた桜庭が、ストローで飲み物を啜りながら言っている。
香月はハッとなり、視線を正面に戻した。
「こうちゃん、最近天瀬と喧嘩したの?」
「えっ」
桜庭の急な質問に、香月が戸惑う。
「何だか、ここ最近二人が話してるのを見てても、ぎくしゃくしてるって言うかなんて言うか……」
上手くは言えないや、と桜庭はあははと苦笑いしながら言っている。
香月はじっと、紫色の目を俯かせる。
「天瀬くんの、せいじゃないの……。ただ、少し気まずくて。……私のせいだと、思うけど……」
「な、なんかドラマみたいだね……。せっかく北海道から無事にみんなが帰って来てくれたのに……なんか、嫌だな……」
「安心して頂戴桜庭さん。決して喧嘩してるわけじゃないの。……たぶん……」
「そこはたぶんなんだねこうちゃん……」
今度はとほほ、と桜庭が苦笑する。
「まあ! 詩音ちゃんに莉緒ちゃんではありませんか!?」
二人が一緒に勉強をする机の角からひょっこり。突然、金髪が見えたかと思うと、綺麗な顔立ちの少女が現れた。
「ほ、ほんちゃん!?」
「なんか凄いわざと臭い言い方ね……」
「あら詩音ちゃん。何のことでしょうか~?」
顔の横で両手を添え、のほほんとお嬢様のするような笑顔である千尋。
「なんでも、ない……わ……」
香月はなぜかそこに恐怖を感じ、うっと言葉に詰まりかける。
「どうしたのほんちゃん?」
「あっ。提案なんですけれど、テストが全部終わったら皆さんで打ち上げをやりませんか?」
千尋の言葉に、桜庭が真っ先に反応し、椅子から立ち上がる。
「あっ、はいはい賛成っ! 一度みんなでそんなのやってみたかったんだー!」
テストで若干疲労していた桜庭の笑顔が、弾ける。
「ええっ。詩音ちゃんが教えて下さった、゛月見草バーガー´と言うのも食べてみたいですし。私ちゃんとお店調べたんですよ! この期間限定なんですよね!?」
「え、ええ……」
ここ最近はすっかり行っておらず、香月はうろ覚えの返事をしていた。千尋の自重することのない勢いのせいもあるか。
「誠次くんの奢りで、みんなで行きましょうね?」
千尋が長めのまつ毛をぱちくりとさせ、香月に食い気味で言ってくる。
香月は香月で、林間学校での自分の発言を思い出して、いいえとは言えなかった。勉強は楽しいのでテストはそこまで苦ではなくなったが、誠次とも、また一緒に外出できるチャンスかも知れない。
「天瀬の奢り? お金はちゃんと出すよ?」
「い、いえ莉緒ちゃん……。ここは誠次くんもいませんと……」
千尋が小声で、桜庭にごにょごにょと。
「どう言うこと?」
「誠次くんへの感謝も兼ねているんです」
千尋の言葉に、桜庭は大きく頷く。
「わかった!」
果たして、桜庭が千尋の真意を悟ったかどうかは定かではないが、誠次も誘うと言う点では頷いていた。
千尋がくるりと振り返り、両手を広げてみせる。
「そして、私の家にみなさんで遊びに来てみませんか?」
「おおーっ! 超行きたい! 絶対豪邸だよね!? メイドさんとか可愛いんだろうなー。お嬢様の家って憧れる!」
今度は桜庭がエメラルド色の目を、それこそ宝石のように輝かせたが、
「い、いえ……。あまりそこまで期待はしないでください……。ただ、執事さんは新しく雇ったとは言っておりましたけど……」
千尋が困り顔で、保険をかけていた。しかし完全に桜庭は、夢見る少女のように両手を組んでしまっている。
「あとの問題は綾奈ちゃんなんですけど……綾奈ちゃん、大丈夫でしょうか……」
「篠上さんがどうしたの?」
千尋が頬の横に人差し指を添えていたのに、香月が反応する。
「い、いえなんでもっ。……ただ、誠次くんを前にすると綾奈ちゃんはすぐに駄目になっちゃいますから……」
「?」
首を傾げる香月の目の前では、いかにも楽しそうな桜庭が、うきうきと何やら妄想しているようだ。
「楽しみだねーこうちゃん。服とか、なに着ようか!?」
「……まだテスト終わってないと思うのだけど……」
「……そ、それを言わないでよこうちゃん……」
お次はげっ、と苦い顔をした桜庭の前。香月も内心で、みんなでの外出が楽しみな自分がいることを知っていた。
昨日理事長室で千尋に言われたのは、「普段通りに過ごしてほしい」とのこと。
それで良いのだろうかと思いながらも、自分に良い案もなく、千尋の言う事に従っていた誠次は、廊下を一人で歩いていた。先約と言うのは本当であり、誠次は生徒会室に向かっていた。
そこへ、後ろから小走りで゛迫って来る´存在が一つ。
「聞いたわよ、天瀬!」
後ろから誠次に追いついて来たのは、やけにニコニコしている学級委員の相方、篠上綾奈だった。
「篠上、どうしたんだよ」
誠次が立ち止まるが、篠上は誠次の肩をぱんぱんと叩いている。妙にテンションが高い篠上である。
「テスト全然駄目だったんですってね!?」
「なんでそれを知ってるんだ!? いや、と言うよりまだ結果発表どころかまだ最後まで終わってないだろ!」
誠次が篠上をまじまじと見る。心なしか、白い肌がつやつやと輝いているようにも見えた。
「それじゃあ約束通り、私にテストの点で負けたら何でも言う事を聞いてもらうからね?」
誠次の言い分など聞かず、篠上は捲し立てるようにして言ってくる。
「ちょっと待て! そんな約束してた覚えないぞ!?」
「私の事をさんざん馬鹿にした罰よ! 罰!」
「馬鹿にはしていないぞ!? むしろ相方として感謝してるからな!?」
恐怖の表情を見せる誠次が慌てて言ってしまうと、篠上は一瞬だけ素に戻って「そ、そうなの……?」とまんざらでもなさそうにする。
「あ、ありがとう……」
「いやそこで素に戻らないでくれないか!?」
二人して顔を赤くし、慌てふためいている。付近を歩く同級生たちは誠次と篠上を見ては、「またアンタらか……」などと呟いては去っていく。
「……っ!? い、いいからっ、テストが全部終わったら、私の命令に聞いてもらうからね!?」
篠上は腕を豊かな胸の下で組み、こちらにずばっ、と言い放つ。
「命令は仰々しいな……。別になにか用事があるなら、そのまま言ってくれて良いんだけどな……」
「……っぐ。い、良いから、あ、明日楽しみにしてなさいよ」
「わかった。あと言っとくけど、俺はまだ篠上に負けたつもりはないからな。これから生徒会室に行って巻き返しをするつもりだ」
誠次は握り拳を突き上げ、意気揚々と宣言する。篠上にだけは、負けたくないのだ。向こうも、こちらには負けたくないのだろうと思ったが、
「え……。べ、勉強だったら、私が教えてあげなくもないわよ……?」
「いや俺に負けたいのか負けたくないのか一体どっちなんだッ!?」
やがて、生徒会室に向かった誠次とは逆の方向へ歩き出した篠上。その表情は、嬉しそうな笑顔だ。
「生徒会の誘い、断って良かったな……」
数日前の生徒会総選挙のさらに前。同級生から一緒にやらないかと誘われていたが、篠上は断っていた。
当然、生徒会に入れば学級委員は止めなけらばならなくなるだろう。そんなのは、嫌だったから。
「そのまま言ってくれて良い……か。ふ、ふぅん……」
「綾奈ちゃん大丈夫……?」
「え!? だ、大丈夫よ……!」
通り過ぎる女子に、上機嫌で独り言をぶつぶつ言っている姿を見られてしまっていた。
魔法学園の生徒会室は、世代交代を経ても特に変わったところはない。漫画などでよく見るほのぼのとした文化部の趣は、そのままだった。
誠次は勉強道具を片手に正式名称、生徒会執行部室に入室していた。
「お待たせしてすみません、波……香織先輩」
中にいたのは、新生徒会長となった波沢香織一人であった。ブレザーの左腕には魔法学園の生徒会長の証である腕章を巻いており、椅子の上に座ってすでに勉強をしていた。
「誘ったのは私の方だよ、誠次くん。魔法大学の恩返し」
「あ、ありがとうございます」
二学年生の学年成績トップの実力を誇る先輩に勉強を教えてもらう。友人たちとやって結局勉強に集中できなくなる――昨日は実際そうなった――よりは、確実に良いはずだ。昨夜に学校教材の電子タブレットの方へ、【テスト期間だし良かったら生徒会室で一緒に勉強しない?】と香織の方から連絡が来たのだ。生徒会長らしからぬ可愛らしい、絵文字付きで。
「最近はバタバタしちゃってたから、久しぶり誠次くん」
生徒会室には所々書類が散乱しているあたり、香織の言葉通り、忙しい日が続いていたのだろう。表情自体は笑顔そのものだったが、目の下にうっすらとクマが見えている。
「生徒会長就任おめでとうございます。クラスメイトも、香織先輩が生徒会長になられて喜んでいました」
「そ、そうなの? そうだと嬉しいかな。ただ今は……副会長の渡嶋さん。そして誠次君の同級生の後輩の女の子二人にも支えてもらってる感じかな」
副会長の二学年生の女子生徒、渡嶋美結。そして誠次と同級生である一学年生の他クラスの女子二人組が、会計と書記。見事な女子の園。それが今の、新生ヴィザリウス魔法学園の生徒会メンバーだった。もっとも、他のメンバは―今はここにはいないようだが。
香織はかけていた眼鏡をくいと持ち上げ、
「あと、北海道で私の背中を押してくれた誠次君のおかげ」
「そんな。俺はただ、波沢さんの意見に頷いたようなだけで」
「相変わらず誠実なんだね?」
香織はくすりと笑って、誘うように自分の座る席と隣の椅子を引いて来る。
誠次は最初、香織と向かい合って座ろうかと思っていたが、わざわざ隣の席を引いてくれたので、隣に座る事にした。
「明日は何の教科なの?」
「ええっと、科学に英語と数学Ⅲ、古典です。……難しいです」
「でも確か春の座学のテストだと、一学年生の中でも成績上位だった記憶があったんだけどな……」
当時から香織に自分の事を見られていたのかと、誠次は恥ずかしい気分だ。
誠次はなぜか申し訳なく、後ろ髪をかきながら、
「あれは中学までの範囲でしたから。高校に入ってからは、勉強が中々捗らなくて」
「安心して。今日は私がつきっきりで教えてあげるから」
「ご教授、お願いします」
香織が張り切って参考書を開きながら言うと、ふと目と目が合う。生徒会室と言う名の密室で、美人先輩と、二人っきりだ。それも北海道の一件で、エンチャントを使い、共に死地を乗り越えた後。向こうはどうか分からないが、誠次は否応にも、意識してしまう。
(ぎ、逆に集中できない……っ!)
お邪魔しておいていくら何でも失礼過ぎるだろうと、誠次は自分に言い聞かせ、香織の教えを受けていた。
「数Ⅲは見た目ほど難しく考えないでいいから。ほら、ここはちゃんとあってるよ?」
肩と肩が触れ合うか触れ合わないかの距離まで近づき、香織は優しい姉のように言ってくる。遠慮しない距離感と言う点でも、本当の姉と弟のようである。美しく流れる青い髪からは仄かに良い香りがし、思わずずっと嗅いでみたくもなってしまう。
その後も、悶々とした空気ながら、香織と共にどうにかペンを走らせていく誠次。
「基本的なところは授業をちゃんと聞いているみたいだから完璧ね。問題は応用かな」
「はい」
少しの休憩。香織がお茶を用意してくれている間、誠次の目線に入ったのは、毛糸で出来たどこかで見たことがあるような、白い耳だった。それは、部屋の隅の方で雑誌の山の奥に積まれていた。
我ながらよく気づけたと思うが――果たしてそれは、見つめ合う運命だったのか。
「あれは、ユキダニャンのミニマム人形ですか?」
香織もコップにお湯を注ぎながら、ええと同意していた。
「そうそう。部屋の掃除をしてたら隅っこから見つかって。ここの生徒の落とし物を生徒会が預かってたのかな?」
(落とし物じゃなくて、完全に趣味の産物だよな……)
誠次が元副会長の姿を思い浮かべ、何とも言えない表情をする。おそらく、置き忘れてしまっていたのだろう。
「落とし主に心当たりがあるんで、俺が預かっておいても構わないでしょうか?」
「そうなんだ? いいよ。その子も可哀想だからね」
無用なおせっかいとは思ったが、ユキダニャンがこのまま放置されている事も、(誠次の中で持ち主が断定している)元副会長の忘れ物が学園にずっと残ってしまうのもどうなのかと思い、誠次はユキダニャンの人形を預かっていた。後日、桐野に渡すつもりだ。
その後、誠次と香織は夜遅くになるまで、生徒会室で二人でテスト勉強を行った。夜飯や軽食などは購買で購入し、それを二人で食べては休憩を挟み、また勉強を教えてもらう。
ちょうど香織の明日のテストは魔法学が含まれていたので、微力ながらも誠次も香織に教えていたりもした。
「――って、二学年生の範囲の実戦用魔法学を知ってるって凄すぎだってば!」
「……フ」
「そこでどや顔しちゃうの!?」
誠次がおどければ、香織がくすくすと口元に手を添え、上品に笑う。そんな和やかな空気も織り交ぜつつ、勉強は進んでいた。
がちゃり。
夜も遅くなったのでそろそろ切り上げようかと思っていたところで、生徒会執行部室のロックを外す音が一つ。すっかり冷めたお茶を飲んでいた誠次は、開かれるドアの方を見ていた。
「頼もう~っ! って誰かいるし! かおりん!?」
キーでもある学生証を片手にやって来たのは、緑髪を結わいた風貌の先輩であり、副会長に就任した渡嶋美結だった。
「お、剣術士くんもおるではないか」
「こ、こんばんは。お久しぶりです」
「テスト期間中なのにテンション高いわね、わーこ……」
何を隠そう、渡嶋美結。それは新幹線で香月に襲い掛かっていた、わーこその人である。彼女が副会長になった経緯は端的に言うと、香織が道連れにした為である。
「良かったーっ。いやもう夜のここら辺て全然人いないし、軽くホラーなの! マジ怖! って思って!」
渡嶋は楽しそうに香織の肩をぽんぽんと叩くが、叩かれている香織の方はやれやれと複雑な表情である。
「私もいるよー」
そして、続いて入って来たのは前期書記を務めていた、相村佐代子だった。ブレザーのポケットに手を突っ込みながら飴を舐めているようで口をもごもごと。女性が一気に増えたので、生徒室が華やかな雰囲気に包まれる。
「あれれ、こりゃあ佐代子嬢。私たちお邪魔だったんじゃない?」
「どうやらそうみたいねー、かおりん?」
両者はニヤつきながら、誠次と香織を囲むように歩み寄って来る。
恥ずかしさからか答えに詰まり赤面した香織と、お茶を飲み続けるフリをする誠次。
そこへ、渡嶋が香織にさらに追い打ちをかけていた。
「? あれーかおりん……。今日はなぜかいつもと違ってスカートが短いですなぁ? それはまるで、意中の男の子をその魅惑の身体で誘惑するように……」
渡嶋が着席している香織の灰色のスカートの先を掴み、ひらひらと揺らす。
「っ!? な、何で分かるの!? ――ってそ、そんな事ない! 本当にないからぁ!」
ごふっ、とお茶を吹き出しそうになり、どうにか耐え忍ぶ誠次。視線を下げれば、艶めかしい香織の足が太もも付近が見えてしまう位置だ。
「私に女の子を見させたら右に出るものはいないっ!」
「なにその特技っ!?」
生徒会長と副会長の取っ組み合いを、誠次と相村が「大丈夫なのだろうか……」と言いたげな目で、じっと見ていた。主に、副会長の方をである。
「アンタらが愛し合ってる間に、ちょっと天瀬くん借りてくわよかおりん」
相村が誠次の肩に手を置き、起立を促してくる。
「え……。い、良いけど」
香織は少し心配そうな目で、誠次を見つめてきた。何のことか悟った相村が、手を軽く振る。
「心配しないで大丈夫よ。かおりんに黙ってとって食ったりしないから」
「だ、大丈夫よね!?」
「どういうニュアンスでしょうか!?」
香織の期待するような視線を受けて誠次は頷いてから、相村に着いて行く。
生徒会室を出た誠次と相村は、すぐ外の廊下で立ち止まっていた。相村は相変わらずブレザーに手を突っ込んだままだ。
「オーギュストでかおりんを守ってくれて、ありがとうね天瀬くん」
「いえ。イルベスタの方は、何ともなかったのですか?」
「それがもう本当に翔ちゃんとも何ともなかったのよ! 翔ちゃんのスピーチも完ぺきだったし」
相村は少し顔を赤くして、言っていた。゛何ともなかった゛、のだろう……。
「生徒会やめたのは少し寂しいけど、かおりんならきっと大丈夫だと思う。私が保証するし!」
「はい」
「なんかか今一私のお墨付きじゃ信用できない、って顔してるわねぇ……」
「いえ! そんなことは!」
「ま、わーこの方は私も心配だけど……。文化祭とかで変な企画を出したこともあるし……。生徒会権限で変な行事とかやり出さないと良いんだけどな……」
相村はおでこに手を添えて、がっくしと言っている。よほど壮大な計画だったのだろう。
「でも、優等生な香織先輩と渡嶋先輩で、上手くバランスがとれていると思います」
「あーそれ確かに! 天瀬くんの言う通りだわ!」
誠次があごに手を添えて言うと、相村は手を叩く。
どうであれ、良い生徒会になってほしいのは全校生徒共通の気持ちだろう。誠次も、可能な限りで香織を手伝うつもりだった。
「いやぁぁぁ……。やめてぇーっ」
「よいではないかよいではないか!」
生徒会室の扉の先から、二人の女子の悲鳴がしっかり聞こえてくる。何が行われているか想像してしまった誠次は、思わず顔を赤くしてしまっていた。
「……生徒会室って完全防音だったはずなんだけど……」
「恐るべし、渡嶋先輩ですね……」




