1 ☆
題名横に☆マークが入っている個所は挿絵有りです。キャラクターの容姿や場面が分かりやすくなれば幸いです。(クオリティは商業レベルではなく、あくまで素人の趣味レベルの自作ものです。過度な期待はしないでください……)
挿絵は必ず最終段に挿入していますので、不必要な方は切り替わりのところでスクロールをお願いします。
※ただいま全編に渡り主に挿絵と細かい文のリメイク中です。消した旧挿絵はご要望があれば再び掲載します。
――憧れていたのだ、夜の世界に。少女を連れ戻すためとは言え、どこかで外に出れると言う期待感があった。いつか人が、再び自由に出歩ける日を。
だが、この世界の夜は昔ほど人間に優しくはない。
春の夜は、白い息を吐いてしまうほど寒かった。走り続けた身体からは、汗も大量に出てくる。
おれは一体何をしているんだ? ……と思い直すも、躊躇はしていられなかった。
「さっきの娘は、一体どこに……!?」
誠次は開け放たれていた正門から外へと出る。
今までこう言った事例はなかったのか、学園敷地内の警備は極めて緩かった。
(夜って、こんなに暗いのか……?)
あれほど煩く感じた生徒の話し声も聞こえない。昼は豊かな緑色の景色を見せてくれた学園の中庭も外も、夜になってしまえばその姿を一変させていた。
「っ! 止まれ!」
誠次は先ほどの少女を追いかけていた。ここは間違いなく都会だが、夜の周囲に人は誰もいない。店のシャッターは全て閉ざされ、広い国道を走る車さえ一台もいない。しんと静まり返った都会の夜にいるのは誠次と少女、たった二人だけだ。
「学園に帰るぞ!」
「――え?」
追いつけないとでも思っていたのか、少女が驚いている。
誠次は少女の細い腕を、きっちりと掴んでいた。二人の現在地は、高層ビルに囲まれた無人のスクランブル交差点。そのど真ん中だった。
誠次は険しい表情で、少女の腕ををぐいと引っ張る。
やがて、振り向いた少女と顔が合った途端、
「――どうして私の姿が見えるの?」
抑揚の無い声で、少女に言われた。
その声は、どこか挑発染みているなと誠次は感じた。
「……っ!」
それでも、誠次は我に返りつつ、
「見えてない方が変だ! 目の前を横切ったんだぞ!?」
「変なのはあなた。……私は《インビジブル》を使っているのに」
今度は残念そうに、肩を竦めて言う少女。月光に照らされる表情は、冷淡な印象であって、同時に美しくもあった。
「それは……」
少女の姿に思わず、動揺してしまった。
だから誠次は、意識を少女の言葉に集中させる。
――《インビジブル》。
それは確か、自身の身体と触れたモノを透明化させる、高位幻影魔法の一種だ。それはとても、゛魔法学園に入学したて゛の女子生徒が扱える魔法では無いはずだ。
「どこでそんな魔法を……」
しかし、今は考える時間も無い。
咄嗟に、誠次は首を横に振っていた。なぜなら、この世の夜の世界は、もはや奴らのモノだからだ。
「とにかく学園に戻るぞ! このままじゃ゛捕食者゛に襲われる!」
「構わないわ! ゛捕食者゛を倒すのが私の目的だから」
夜空の下に、響いた少女の声。力強く、こちらを突き放す口調で。
「何言ってるんだ……?」
少女の発言の意図が、誠次はいまいち理解できず、動きを止めてしまった。
「来た」
少女が無愛想な無表情で、誠次の後ろを見ていた。
――いる……!?
背筋が凍りついたとも思うほどの冷気に、誠次は思わず生唾を呑み込む。
少女につられるようにして、おもむろに振り向けば――ヤツがいた。
「あっ……ああ……!?」
視線の先で黒く蠢く影の姿。
悲鳴混じりの、誠次の声。――思わず後ずさりしていた背中に装備していた漆黒の剣が、かちゃりと、冷たい金属の音を立てていた。