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帰ってきた理由

掲載日:2014/07/27

四年間、東京に居た二歳違いの姉が帰ってきた。


姉も私も専門学校に行って、私は地元に、姉は東京に就職した。

それで姉は仕事場近くに住んでいたのが、何があったのか理由も話さないまま電話で「九月ころ、そっちに帰る事にした」と伝えて帰ってきたのだ。

両親は理由を聞く事もなく手放しで喜んでいた、そういう私もお姉ちゃんっ子だったから両親と同じだったのだが。

そんなこんなで理由も聞かないまま一年ぐらいが過ぎた蒸し暑い夏の日の事。

ある休みの日、姉と一緒に心霊特集番組を見ていた時だ。

「これ絶対に嘘だよね~」

「うん、そうだね。でも、幽霊はあんな感じだよ」

「姉ちゃん?」

「私さ、視たんだよね。幽霊を・・・・・・」

そんな流れで私は姉が帰ってきた理由を知る事になった。


姉が住んでいたマンションは築10年、家賃はそこそこのごく普通のマンション。

仕事場から近いと言う理由で選んだマンションの暮らしはそれなりに快適だったそうだ。

だが、それは突然にやってきた。

最初は『音』だった。


パァン!!


という音、ラップ音が時々聞こえるようになったのは帰ってくる一年前から。

姉は最初は気にしていなかったが段々と音が大きくなり頻繁に鳴るようになって眠れない日々が続き、仲の良いお隣さんから「最近、音がするけど何をしてるの?」と言われてしまったそうだ。

しばらくしてラップ音は収まり、姉は安堵したという。

だけど、これは始まりに過ぎなかった。


ラップ音の事も忘れいつも通りの日々を過ごしていた姉はいつものように眠りについた。

布団に入りウトウトしかけた時だ。


ひたっ、ひたっ、ひたっ・・・・・・


足音が耳に入ってきた。

眠りかけていた姉は足音の気配で目が覚め、恐怖を抱いた姉は頭まで布団を被せ疲れてるから変な音を聞くんだ!と言い聞かせて朝まで眠れない夜を過ごした。

足音は布団の周りをくるくるとしていたという。

姉はこれでしばらく寝不足になりお隣さん、仕事場の人から心配されていたそうだ。

私は姉に足音の事を言わなかったの?と聞くと、話したところで信じてくれるか解らないし仕事が忙しい時期だったから疲れてるだけだと思い込んで乗り切ろうと考えていたからだとか。

足音の所為で眠れなくなった姉は、次の日が休みのときは隣人に迷惑がかからない程度に音量を下げ某動画を見たりゲームをしながら朝まで過ごし昼は眠ると言う逆転の生活を送っていた。

そして、その日も朝まで起きようと最近、買った新作のゲームをやろうとゲームを起動した、が、起動しない。ゲーム機はちゃんと起動してるのに・・・・と思いながらテレビを付け忘れたのか思いチャンネルを持った時、背後から人の気配を感じた。

振り向くと誰も居ない。当たり前だ。姉は一人で暮らしているのだから。

きっと気のせいだったんだ、疲れの所為なんだと言い聞かせながらテレビの方に向きなおすと姉は「ひっ」と小さい悲鳴をあげた。

何も映ってなかったテレビの画面に男が映っていた。

生気のない顔をした男はじっと睨むように姉を見ていたと言う。

この件で姉はようやく自分では何とか出来ないと察し、信頼できる寺を探し其処に行く事にした。

探した寺に行き、住職に話をし見てもらった。

住職は考え込み、少しして口を開いた。


「この男は貴女に対して怒っている」


住職が言うには自分がずっと守ってきた地蔵を壊したのだと言っているらしい。

地蔵を壊したなんて、そんな罰当たりな事を姉はやっていない。

そんな事をやっていないと話し住職も姉が嘘をついてないと判断し男を説得してくれた。

男の説得には時間はかかった、だが男は納得してくれたらしく姉から離れてくれた。

住職は疲れ切った顔でもう大丈夫だと言ってくれたので姉は安心しきり、その夜、安堵からか早めに眠りについた。


眠りについていた姉は急に息苦しさを感じ目を開けた。

目の前には、あの時の男が居た。

顔色が悪い男の目は血走り、口を固く閉ざし、姉をじっと見ていた。

姉は動こうとしようとしたが金縛りになったのか動けず目も閉じる事も出来ず男と見つめ合っていた。

しばらくそうしていると男は「やっぱりお前だ、お前がやったんだ」と呟くように言うと姉は急に体が浮き上がる感覚になった。

いや感覚じゃない、実際に浮かび上がったのだ。

下には姉の体、幽体離脱だ。

男は姉の両足を持ちズルズルと引きずるように何処かへと連れて行こうとした。

姉は男に対して何度も私はしてないと言い続けたが男は嘘つきだとかお前がやったんだと言い聞く耳を持たなかった。

喋ることは出来ても動けない体では逃げる事も出来ず、ただ、男のされるがまま。

玄関まであともう少しという所だ。

男に立ち塞がる様に光が現れた。

男はその光を見て動揺していた、光の中には地蔵が居た。

おそらく男が守っていた地蔵なのだろうと恐怖でぐちゃぐちゃの頭の中でもそう考えることは出来た。

地蔵は男に「その子ではないと何回も言っているだろう!」と怒鳴りつけていた。

その時の地蔵の表情は怒りで満ちていたと言う。

男は怯むと消え、姉はようやく解放された。

地蔵は申し訳なさそうな表情をすると姉に「あれは一旦、怒ると周りが見えなくなる。私はずっと貴女ではないと言い続けたが聞いてくれなかった。貴女に危害を加える前にこうしていればよかった。本当にすまない」と言ってそのまま消えた。

姉の記憶は其処で途切れた。

ふっと目が覚めると時はすでに朝で姉は布団の中に居た。

あれは夢だったのだろうかと思い、男に掴まれた両足を見て姉は息を飲んだ。

両足にはくっきりと掴まれた跡があった。


「とまあ、そんな訳で幽霊を視たんだよ」

「それ本当なの?」

「本当、本当!!心の底から怖かったよ」

「でもさ、どうして男は姉ちゃんを地蔵を壊した犯人だと思ったの?

前の住人が関わってるとか?」

「あ~、それなんだけどさ・・・・・・」


あの後、姉は前の住人の事を調べたが前の住人はごく普通のサラリーマンでこの部屋で心霊に悩んでいたという話もなかったそうだ(まあ、前の住人が心霊で引っ越してるならそういう話は姉の耳にも入るし三年間ものほほんと暮らしていない)。

一応、マンションが立つ前の事も調べたが地蔵に関する話は出てこなかった。

収獲がないまま、あの時の事を忘れかけてきた頃だ。

姉と仲が良かった後輩が器物破損の罪で捕まった。

どうも、心霊スポットで有名な地蔵様を幽霊が出てこないという理由で憂さ晴らしで彼氏と一緒に壊したというのだ。

本人曰く酔っぱらってたとかなんとか・・・・・・。

勿論、壊された地蔵を見た近所の人が通報し証拠もあったので御用となった。

その心霊スポットには地蔵を大切にしていた男の霊が現れるという話らしい。

話を聞いた姉は後輩が急に「彼氏と喧嘩したから泊めてください!」と来たことを思い出した。

そうラップ音が鳴る少し前にだ。

これは憶測だが後輩は地蔵を壊した後、男の霊を視たのだろう。

そして自分の住所を知られたくなくて姉のマンションに泊まりに来た、男は後輩の思惑通りに姉を犯人と間違えた・・・・・・。

そういえば足音で寝不足になっていた時に頻繁に話しかけてきたのも心配からではなく男が自分の所に来ないかどうかの確認だったのかもしれない。

後輩はその後、退職。

今は何をしているのか何処にいるのか解らないと言う。


「それで私さ、他人を身代りに出来る奴が近くに居るの怖くなって

ちょうど今の仕事場に異動することになったから帰る事にしたんだ」


だから、私は幽霊より人間が怖いと言って姉は笑った。


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