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僕の太陽と君の月  作者: 五十鈴 りく
Ⅴ【アリュルージ編】

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〈17〉 前夜

 明日に控え、俺は部屋にいた。なるべく、体を休めるようにする。

 そんな時、ドアの扉がノックされた。

 多分、来るだろうなと思っていたから、鍵はかけていない。


「開いてる」


 短く言うと、ユーリは流れるような動きで俺の部屋に入った。

 前もそうだったけれど、あんまり堂々と出入りしていい場所じゃないのに。

 俺は、その顔を見た時、苛めてやりたい気持ちがわいて来て、少し笑って言った。


「殺したいほど憎まれてるとは、知らなかったな」


 すると、ここ最近のユーリにしては珍しいくらい、感情を顔に出した。一瞬のことだったけれど、傷付いた風に見えた。それくらいのことをしたという自覚があるのだろう。

 だから俺は、すぐに表情を和らげて続ける。


「冗談だ。ちゃんとわかってる」


 それでも、ユーリは緊張を解かなかった。それを落ち着けようとするのか、ひとつ深呼吸をする。


「クロヴィス将軍のそばには、私の言葉を信じて動いてくれる人間が必要なんだ。その点で、リトラ以上の人材はいない。私は、何度でも同じ決断をしたと思うよ」


 それなら、どうして今、ここに来たのか。

 恨んでもいいと言いに来たのか。言い訳なんかするやつじゃないのはわかってる。


「……じゃあ、罪滅ぼしに俺に抱かれに来たのか?」


 ほんの少し、そんな期待をしてみる。

 すると、ユーリはものすごい形相で俺をにらみ付けた。


「私は真剣な話をしに来たんだよ。茶化すなら帰るからね」


 俺も真剣に言ったとか言うと、本気で逃げられそうなので、これ以上は止めておく。


「怒ってもないし、恨んでもない」


 俺はこんな時でも、ユーリの心痛を和らげてあげられる言葉を探した。

 本当に、どうかしていると周りから言われそうだけれど。

 ただ、ユーリは一言、そっと微笑んで言った。


「私は、リトラが死ぬとは思ってないよ。……帰って来てくれるよね?」


 また、そういうずるいことを言う。


「簡単に言うなよ」


 どんな戦いになるのか、見当も付かないけれど、危険なことは間違いない。

 すると、ユーリは瞳を閉じ、胸に手を当てて深呼吸をした。そのままの姿勢で、ぽつりぽつりと語り出す。


「私は軍師として、作戦の成功率を少しでも上げる手段があるのなら、それを高めたいと思うんだ」

「うん?」

「だから……」


 そこでようやく、ユーリは目を開けた。その瞳は、いつもの強い意志の中に、ほんの少しの不安と迷いを抱えていたように思う。


「だから私は、君が戻って来たら、君の想いを受け入れる覚悟をするよ」


 聞き間違いでなければ、間違いなく、受け入れる覚悟をするとそう言った。

 これがもし、本当に作戦を成功させるための策で、戻って来てみれば、なんのことだととぼけられたら、さすがに立ち直れそうもないけれど。

 だから、俺は少し厳しい口調で言った。


「ユーリ、覚悟なら今すぐにしろ」

「へ?」


 ユーリはぽかんと口を開けた。


「覚悟をするなんて、曖昧な言い方をするな。戻って来たら、受け入れる。それでいいな?」


 ここで引いたら多分、後悔する。それだけはわかっているから、俺は強気でそう言った。

 ユーリは少し戸惑った風だったけれど、ゆっくりとうなずいた。


「わかった……」


 もう少しで手が届く。

 ずっと、願って止まなかった想いが実を結ぶ……かも知れない。

 俺はまだ、ユーリの言葉に裏がないか疑う気持ちが拭えなかった。

 今までが今までなだけに、手放しで喜べないのは仕方がないだろう。

 だから、戸口の前のユーリのところへ近付いて行く。ユーリは目に見えて身構えたけれど、なんとか踏み止まったようだった。


「多少の先払いは?」


 と、俺は笑ってユーリの頬に手を伸ばした。ユーリはびくりと強張る。覚悟とやらがまだだと言いたいのか。


「か、帰って来てからの後払いだよ」


 そう言って、顔をそらす。俺はその耳元でささやいた。


「そんなことを言って拒むと、俺はお前の言葉を信じ切れずに死ぬかも知れない。あれくらいのわがままは聞いてあげればよかったと後悔するんじゃないか?」


 ユーリは言葉につまって小さくうなった。

 優位に立つのは久し振りだ。たまには振り回してやりたい。

 ユーリはうつむいた。耳まで赤いので、俺はそれが妙に嬉しかった。


「リトラは加減してくれないから……」


 未だに、根に持たれてる。

 それでも、俺を見上げて来る赤い顔をしたユーリが、今、腕の中にいて、これ以上ないほどに幸せだったりするから、やっぱり俺は勿体なくて死ねないと思う。


「じゃあ、加減する」


 あの時のような、一方的に気持ちを押し付けるようなものではなく、俺はユーリの心を確かめるようにしてそっと唇に触れた。


 ユーリのことを冷たい人間だと言う男たちに、こういう臆病な一面も見せてやりたいような、誰にも見せたくないような、そんな気分だった。

 こんな表情を知っているのは、俺だけの特権でいいかと。


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