第1章 春休みの誘い
2009年夏頃に書いたお話です。
連載作品『きみの手をとる物語』の初稿を書くときに、
「設定整理や、彗星や天体観測について調べたことを、覚え書きにするだけだと何だか物足りないから、いっそその彗星が来たときのことを小説で書いちゃえー」
って、書きました。
今400字詰め原稿用紙換算したら、ほとんど書き足してないのに190枚ありました。
道理で時間がかかってた訳だ!
設定整理として書いたはずなのに、本編書いたら書くうちに辻褄が合わなくなって、微妙にパラレル感が漂ってたりします。
作品内時間で30年経つ間にいろいろ変わったんだな、と思って読んでいただければ幸いです。
あと、何しろ成り立ちが「設定整理&調べたこと」なので、やたら説明が多いですが(いつもの事とも言う……)、その辺も何とかご容赦いただいて、読んでいただけましたら幸いです。
では、どうぞ。
「まったくハルミは天文バカなんだから」
と、静香は口を尖らせた。
少し栗色がかったふわふわの髪が、隣を歩く慧の二の腕をかすめるように、揺れる。
少し、くすぐったい。
厚いジャンパー越しなのにそんな感触があるのは、きっとほのかに甘い匂いのせい。
朝の登校班。
左側通行を守りながら、慧が車道側、静香が奥側、というのが、ここ一年くらいの定位置だ。
本当は縦一列にならなくてはいけない。
先生に見つかったら指導を受けることになる。
五年生の慧は副班長としてしんがりを務め、四年生の静香はその前に並ぶようにと。
だが春休み間近のこの時期にもなれば、ぴかぴかの一年坊主の黄色い帽子もすっかり薄汚れて、当人たちも同じくらい薄汚れ、もといしっかりしてきている。
手を繋いでやったり、ずっと見張っていてやる必要はない。
なんとなく固まって一緒に歩き、学校に着く直前の道で整列すればいい。
それに、班長の友美子は同じ五年生でもしっかり者だったから、車が来たり横断歩道を渡ったりという難所では、うまいこと下級生たちを導いてくれる。
故に慧と静香は並んで、だらだらとおしゃべりをしていた。
正確に言うと、静香がほとんど一方的にしゃべっているのだが。
本日の話題は彼女の兄の奇行についてだった。
割と頻出の話題でもある。
「昨日も遅くまで物干しでごちゃごちゃやってて、お母さんに怒られてんのよ。そいで朝髪の毛ぼさぼさで、寝ぼけてお茶碗に顔突っ込んでんの。メガネにご飯粒つけちゃって、ああもう汚いったら!」
ハルミ――八木原晴海は、慧よりも三つ年上だから、今中学二年生のはずだ。
昔よく遊びに行っていた彼の部屋を思い浮かべる。
天体望遠鏡と双眼鏡が窓際に大切そうに置かれている。それらはしばしば手にとられて、塵ひとつたまる暇も無い。
壁はおろか天井にまで貼られたパネル写真。月、木星の大赤斑、満天の星空。
本棚には「宇宙の不思議」「星座のひみつ」などの図鑑が何冊も何冊も並んでいた。
六畳のそのまた半分のスペースに、晴海の夢や憧れがぎっしりと詰まっているようで、その中心で生き生きと話す姿を見るたび、慧も自分だけの部屋が欲しいと思ったものだ。
だから、こんなにも静香にこき下ろされているのは気の毒だし、正直あまりいい気はしない。
が、静香の立場にしてみれば、その部屋のもう半分で寝起きせざるを得ないわけで、しかも彼女には天文趣味が全く無いとなれば、うんざりする気持ちもわからないではない。
多少なり同情を寄せるべきだろう。
あまり手放しで晴海の肩を持つわけにはいかない。
それくらいの分析は出来る。
というより、この兄妹との長い付き合いで、静香の意見に真っ向から逆らうと何かと厄介だということを、慧は学んでいた。
だから。
「バカ、は言いすぎじゃない、かなー? せめて、ええと、マニアとか」
慧は、不敬をたしなめるのはごくやんわりに留めて、代替案を口にした。
しかし静香はさらに眉毛を吊り上げる。
「お母さんだってお父さんのことを『天文バカ』って言ってるもん。ハルミはお父さんに似たのね、ってすんごいあきれてるもん。だからハルミも天文バカなの!」
それを言うなら、静香はお母さんに似たのだろう。
美人で明るい素敵なお母さんなのだが裏でしばしばきぃきぃ怒っているのは知っていた。
そんなところがそっくりだと、慧はいつも思う。
「だいたいね、あたしが『天文バカ』って言ってやったら、あいつ何て言ったと思う?」
――あのね静香、宇宙はすごく広くて、ものすごく大きくて、気が遠くなるほどすごいんだよ。お兄ちゃんなんか、全然まだまだ、そのレベルじゃないんだよ。ちっぽけなもんさ。
「あたしはっ! そんなこと言ってるんじゃないっつーの! ほんとにバカよ、天文単位の大バカ!!」
思い出し怒りで地団太を踏むのを横目に、慧は考える。
「天文単位バカ」と言われたら、今度は晴海は何と返すのだろう。
――あのね静香、「天文単位」っていうのは、距離の単位なんだよ。約一億五千万キロだ。地球と太陽との平均距離を元にしてる。宇宙はとっても大きいから、物差しも大きくないと表現しきれないからね。たとえば、太陽系の一番外側の惑星の冥王星、太陽からあそこまでは、約三十五・五天文単位。これをキロメートルで言ったら、一番近いときで四十四億キロとかになっちゃう。ね、わかりづらいだろ? だから「天文単位」を使うけど、太陽系の外に飛び出すと、この単位でもまだ足りなくなる。そこで「光年」を使うんだ。「光年」って聞いたことあるよね? 年って言っても時間の単位じゃないんだぞ、最もスピードが速い光が、一年をかけて進む距離ということで……。
にこにこと、立て板に水を流すがごとく。そんな様が容易に目に浮かんだ。
確かに、ちょっと、困った人かもしれない。
それでも慧は、そんな晴海が好きだった。
向こうが中学に入ってからはあまり遊ばなくなってしまったけれど、優しく頭のよい晴海は、一緒にいて楽しい、よいお兄ちゃんなのだった。
それから三日後。終業式を翌日に控えた夕方のこと。
「彗星、見に行かない?」
晴海が久しぶりに慧の家の戸口に来て、誘った。
斜め向かいの家だから、わざわざ電話代を使ったりはしない。
顔を見た一瞬、少し痩せたようにも感じたけれど、背が伸びているから全体にひょろっとして見えるのだろう。大人びた、というのだろうか。
「彗星?」
聞き返す。少し唐突だったから。
「うん」
「いつ?」
「今週末。二十八日の夜から」
電話のそばにかけてあるカレンダーを確認する。
確かに三月二十八日は土曜日だった。
「土日で秩父のお祖父ちゃん家に行くんだ。泊りがけでね。それで、アキラも誘ったらいいって、うちのお父さんが。ちょうど安里・堀田彗星がよく見える頃だから」
「あさと……ほった?」
聞いたことがなかった。晴海ほど星に詳しいわけじゃないから、彗星と言われて思いつくのは、イコール、ハレー彗星。
「うん、この間見つかった彗星なんだけどね」
「彗星って、見つかるものなの?」
ハレー彗星は、確か七十何年かにいっぺんやって来るって、去年の今頃騒がれてた。
次に来るときに自分は生きているのかな、生きていてももうよぼよぼで星なんか見られないかな、なんて、ぼんやりと考えていた。
「もちろん。――あ、そうか、ハレー彗星のことを考えてるね? あれは周期彗星だから決まった年数で戻ってくるわけだけど、そうじゃないものも多いんだよ。いつ、どんな軌道でやってくるかは、本当にまちまちなんだ」
“コメットハンター”なる人たちがいるという。初めて知った。
毎晩毎晩空を眺め、新しい彗星を探す、狩人たち。
しかもその人たちの多数は、それを職業にしているわけではなく、アマチュアの天文ファンなのだそうだ。
「見つけると、賞金とかもらえるの?」
この間テレビの西部劇映画で見た、指名手配の賞金首と、それを狙う賞金稼ぎの図が浮かぶ。
「賞金?」
晴海は鼻を膨らませ、首を左右に振った。
「いやいやいや、与えられるのはもっともっとすごい栄誉だよ。発見が早かった人から順番に三人まで!」
びしっ、と、指を三本立てる。
「彗星に、名前がつくんだ」
「――はあ」
「だからつまり、今回の『安里・堀田彗星』っていうのは、安里さんと堀田さんの二人が最初と次に見つけました、っていう意味」
「うん」
「そもそも、日本人の名前がついてるってだけで何か感動だよね。世界中のコメットハンターが空を見上げてる、その中で。いや今年はね、特にすごいよ。新しい彗星がもう五つ見つかってるけど、うち三つが日本人の発見なんだから」
こんなことは滅多に無いぞ、と晴海の鼻息はすこぶる荒い。
「で。特にこの安里・堀田彗星は、明るくなる可能性が高いんだ。一九六五年の池谷・関彗星みたいになるといいなって、お父さんは言ってる」
「そんなにすごいの?」
イケヤセキ彗星なるものがどれだけすごいかは知らないものの、とりあえず晴海の今のテンションがすごいことはわかる。
「ああ、近日点、つまり太陽に一番近づいたときには、マイナス十七等級になったって。満月よりも明るくて、真昼間なのによく見えてね」
「ええ!」
それは確かにすごい。
「えと、じゃあその、安里・堀田彗星も昼間に見られるの?」
「――あ、いや、ごめん。今のは池谷・関彗星の話。同じくらい明るくなるっていうのは希望的観測、というか願望」
紛らわしかったね、と晴海は頭をかいた。
晴海の髪は少し茶色い。
この兄妹は全体的に色素が薄く、日本人としては白い肌に鳶色の目をしていた。
髪も瞳も普通に真っ黒の慧は、正直少し憧れてもいる。
「安里・堀田はクロイツ群じゃないみたいだし……ただ、他の条件から考えると、肉眼で尾が確認できるくらいに明るくなりそうなんだ。――それだって、確率で言えば相当すごいことなんだよ」
確かに、そうなのかもしれない。かのハレー彗星ですら、去年騒がれていた割によく見えなかったようだし。
「今の段階でも三、四等くらいになってるらしいから、真夜中に双眼鏡使えば見られそうなんだけど」
「あ、それで」
物干しで夜更かししてたのか、と静香の話を思い出す。
「そう。おかげでここんとこちょっと寝不足で」
こめかみをかく。なるほど、この眼鏡にご飯粒が。
「見えた?」
「それが、天気が悪くって! 先週はね、まずまず晴れてたんだけどまだ四等になるかどうかってところだったからさ。晴れたら晴れたで月がまぶしいし、何しろこの辺だと街の灯もあるしね」
それで場所を変えての天体観測となったわけだ。
「ちょうど春休み中でよかった。お父さんはもっと遠出したかったらしいんだけど」
いそいそと計画しているところへ、お母さんが釘を刺した。
「秩父のお祖父ちゃん家」はお母さん方の実家だ。
そもそもはお彼岸にお墓参りに行く予定だったのに、お父さんが朝早くからどこかへ出かけてしまい、予定が崩れたのだそうだ。
大方星がらみの用事だろうとは静香の談だが、お母さんは久しぶりの里帰りが潰れて相当お冠の様子だった。
ここでさらに遠出して天体観測だなんて追い討ちをかけてしまったら、家庭崩壊の危機だ。
「まあ家族サービスも必要だからね」
晴海は、へにゃっとした、微妙な表情を浮かべた。
察するに、恐らくはお父さんの方にくっついて、どこかの山か海へ行きたかったに違いない。
「あ、でもね!」
晴海の声が一段高くなる。
「秩父だっていいところなんだよ。牧場があって、そこに観測所があるんだ」
「観測所?」
大きな天体望遠鏡を備えたドームが頭に浮かぶ。
「私設だけどね。星が好きな人たちが自分のための観測小屋を建てて、それが何棟か並んでる。車が何台も止められるし、『観測広場』もあるし。顔なじみの人もいるよ。前に行ったときは――」
そこから見える星空の美しさを、晴海は熱っぽく語り出した。
相変わらずだ。
普段は大人しいのに、星のこととなると静香以上におしゃべりになる。
性格的にはあんまり似てない兄妹だと思っているけど、やっぱり血の繋がりってあるんだな、と思う。
同じ小学校に通ってた頃はよく天体観測に連れて行ってもらったっけ。
近所の高台まで並んで自転車を走らせたこともあるし、晴海のお父さんの車で狭山湖のそばの里山に出かけたこともあった。
狭山湖は丘陵地帯にある人口の貯水池で、桜の季節にはそこそこ賑わう。
近くに野球場や遊園地もあって、この辺ではちょっとした観光スポットだった。
しかし晴海にとっては、不満な点も多いらしい。
ナイターの時期は球場のライトが邪魔、でっかくて赤い遊園地の観覧車も邪魔。
「なんであんなもん作っちゃったんだろう。昔の地味なところがよかったのに」
などとぶつぶつ言っていた。
けれど、湖のぐるりを探していけば、条件のよい場所も見つかるものだ。
人工の灯りにも電線にも邪魔されない星空に、慧は十分に感動した。
木の葉の真っ黒な影にも、それが時折うっすらとどこかの明かりを受けて光るのも。
夜の気配に浸って、晴海が指差す空を見上げたのは、楽しい体験だった。
それよりもすごい星空が、秩父にはある、と晴海は語る。
そこで彗星を見ようと言う。
彗星。
ほうき星。
ドラマの「コメット」さんって彗星のことだよと教えてくれたのも晴海だった。
薄く光る綺麗な尾を引く姿は、写真でしか見たことが無い。
いや、実物を見ることがあるなんて、想像もしていなかった。
星に全く興味がない訳ではないが、やはり自分ひとりでは行動力に欠ける。
だけど今回、晴海が誘ってくれた。
彗星を見ようと。発見されたての未知の天体を観測しようと。
実際に、この目で、一緒に!
胸の辺りに不思議なぞくぞくがこみ上げてくる。
「すごい! 見たい! 行きたい!」
言葉だけでは足りず、握りこぶしをぐっぐっと振ってアピールする。
「うん、行こう! よかった」
晴海も嬉しそうに笑った。
その後で、ちょっと声を落とす。
「それで、ね。泊りがけになっちゃうと思うんだけど……大丈夫かな、アキラん家」
「大丈夫だよ」
慧は即答した。
「ハルミ兄ちゃんの家には何回も泊まったことあるし、お祖父ちゃん家も一回行ったよね、あのお祭りのときに」
「そうそう。覚えてたんだ」
「もちろんだよ。もう三年生になってたもの」
ちょっと口が尖る。
子ども扱いされるのは、母や父からだけでうんざりだ。
「ごめんごめん」
晴海が素直に謝ったので、慧もそれ以上は拗ねたりしない。
「それにお母さん、ミホの世話で忙しいから、ぼくが出かけるの喜ぶと思う。ご飯の支度しなくていいもの」
去年のお正月に生まれた年の離れた妹は、何かと手がかかる。
最近はつかまり立ちをしてはよろよろと歩くようになり、かえって危なっかしくて目が離せない。
可愛いとは思うけれど、何が気に入らないのかぎゃあぎゃあ泣かれたりするのにはちょっと閉口していた。
出かけてしまえば、慧が面倒を見させられることも無い。
一石二鳥だった。
「露骨だなあ」
晴海は苦笑した。
「そんなにはっきり言っちゃったらおばさんも気の毒っていうか……」
そんなものかな、と慧は首を傾げる。
だが確かに、「そんなこと表で言わなくてもいいの!」と叱られることがあった。
今回もそれに当たるのだろう。
「ま、いいか。そのおかげでアキラが来られるっていうなら!」
晴海は、ぐっとこぶしを握って、親指だけを立てた。
「うん、行く。絶対行く」
絶対、のところで、慧も親指を立てて見せる。
何かを示し合わせるときの二人の合図だ。
久しぶりだけど、忘れたりなんかしない。
「じゃあ、詳しいことはまた後でね。出発は多分二時くらい。お父さんが会社から帰ってからだから」
「うん」
「朝から来て、お昼を一緒に食べとく手もあるな。お母さんに聞いてみる。あと夜は冷えるから、冬物のジャンパーとかコートとか、しっかり用意して」
「了解」
「手袋と、マフラーと、とにかく暖かく……あとは……他に何かあったかな」
「懐中電灯は? 赤いセロファン巻くんでしょ?」
「大丈夫。こっちで用意するよ」
また後で、と言いながらも、楽しい計画というものは練り始めるときりが無い。
「ああそうだ、本番までに一度、方向を確かめときたいね。なんなら前の晩からうちのベランダで……」
「ちょっとハルミ!」
出し抜けに、夕暮れの住宅街に大声が響いた。思わず体がびくっと跳ねる。
「ハルミってば、あんた人をシカトすんのもいい加減にしてよ!」
静香だった。
道を挟んで斜め向かい、家の門から身を乗り出して怒っている。
その様子からすると、何度か――何度も呼んでいたようだ。
晴海はもちろん、慧ですら、話に夢中で気がつかなかった。
不覚。
「もうご飯できてるよ! いつまで油売ってんのよ、すぐ帰れってお母さん言ってたでしょ! あんたのご飯なくなるよ!」
空気がぴりぴりとヒステリックに震える。
晴海は「うわ、しまった」と口を引き結んだ。
首だけひねって肩越しに返事をする。
「わーかった、今戻るよ!」
それじゃ、と慧に軽く手を上げた。
久しぶりに楽しく話し込んでいたのにちょっと残念だったが、そういえば慧の家でも夕飯のにおいがし始めている。今夜はカレーかシチューのどちらかになりそうだ。
「じゃあ、また後で」
慧も小さく手を振った。
「うん、じゃあ」
きびすを返す晴海の背中を、突っ掛けを履いて玄関から身を乗り出し、見送る。
静香が、腰に手を当てて仁王立ち、「いかにも」なポーズで出迎えている。
「まったく、鉄砲玉なんだから。バカハルミ」
早く入った入ったとせきたて、背中まではたいている。けっこう容赦が無くて痛そうだ。
牛か馬のように静香に追われながらも、晴海は振り返ってもう一度手を振ってきた。
慧も手を振り返す。
「バイバーイ、ハルミ兄ちゃん、静香もねー。また土曜日にね」
静香は、いーっと歯をむき出して見せて、玄関のドアをばたんと閉めた。
何をそんなに怒っているのかと、知らない人が見たらいぶかしがるだろうが、基本的にいつものことなので、慧は慣れっこだった。
そんなことより。
そんなことより、天・体・観・測 だ!
急いで玄関を閉め、鍵をかけ、突っ掛けを脱ぐのももどかしく、這いあがるように台所へ向かう。
流しに立つ母の背中に声をかけた。
「あのねお母さん、彗星を見に行ってもいい? ハルミ兄ちゃんと!」