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--と言うわけで--


「準備は良い?」

「……う……うん……」


さすがに緊張するわね。

なにしろジャージ姿になった私の両手首と両足首は可動式の寝台の両端に固定され、前後に思い切り伸ばされて身を横たえていたのだから、無理もあるまいて。彼ってば介護用具の工場に注文して作らせた、こういう特製の寝台を自分の部屋に持ち込んで、いつか実際に試してみたいって夢見てたんだって。恐ろしい……こんな事に何でそこまで金かけるんだろう?


「無理しないでね」


彼は心配そうな表情で、私を優しく見守ってくれている。ああ、その涼やかな眼差しが私の為に憂いに染まるのは、なんだか無性に心地よいわねえ。


そんな気楽なたわごとを言ってられるのも今のうちだけだと言う事を、私はこのときついぞ気が付かなかった。これから始まる、この世の地獄……以後、何度と無く繰り返される激痛との闘いが、このとき幕を開けたのであった。



「本当に、痛かったら無理しないでね」

拷問初体験に臨む私を気遣って、念を押すように彼は言った。


「大丈夫--」

何も知らない私は、屈託ない笑顔で頼もしく答えた。

「ちょっときつめのダイエットだと思えば面白いし、私って、中学高校はベレー部でしごかれたから、案外根性あるんだ」


面白がってられるのも今のうち、その根性が裏目に出るんだよなあ……後悔先に立たずとか、無知ほど怖いものは無いと言う昔の人のありがたい御言葉をこの後、文字通り体で思い知る私であった。



「このやり方はポピュラーで、オーストリア式梯子だとか、世界中に類似の物が多い初歩的な拷問方法なんだ」

彼が今から体験する、拷問の主旨について説明する。

「本来の拷問は恐怖を与える事が目的だから、局部に力が集中して肩の関節が抜けたりすることも目的に入ってる。だけど、この寝台はそうならないように全身がまんべんなく伸びるように工夫してあるんだ」


ヒエ~、怖っ。だけど、安心だよね。天使のように純真で疑う事を知らない私は彼を信じ切って身を横たえていた。バカね、ホントに……

この、私が拘束されてる安全な拷問台(?)は、背中の辺りが少しだけ盛り上がってて軽く寝かされると反った姿勢になるような構造である。そのまま、美容体操か何かに使えそうな器具だった。

「それじゃ--」

彼が私の傍らに立って、手足を伸ばす為のハンドルに手を掛ける。


「準備は良い?」

「うん」

彼の真心こもった笑顔に、私は力強く頷いた。


「頑張ってね」

「頑張るわ」

気楽に、と言うより、寧ろ気張りながら答える私は、今思い出せば愚かだと認めざるを得ないけど、きっと健気でいじらしかったんだと思う--そう信じたい。

嗚呼--頑張れば頑張るほど底なしの地獄に引き込まれて行くのよねえ……



「それじゃ」

傍らのハンドルを握ると、彼は気遣わしげに声をかけた。

「いくよ--」


私も緊張の余り、ゴクリと息を呑んだ。


ギチッ--!


甲高い金属音を響かせながら、寝台が動いた。内側がウレタンになっていて、痛くないように工夫された手枷足枷が前後に動いた。


「--どう?」

心配そうな顔で彼が私に尋ねる。

「まだ大丈夫みたい」

まあ、最初だし、全く痛みを感じることも無く、寧ろ体が伸びて心地好いくらいの感じ。


「そう--」

彼は安心したように言った。

「それじゃ、もう一度いくね」


ギチッ--私の体がまたしても伸びてゆく。


「大丈夫?」

「うん」

私は明るく答えた。


「まだ平気よ」

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