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この風呂場--何回くらい、彼と入ったかなあ。
彼ったら、私の背中を流しながら……あ、もう、エッチ……そんなトコ……いや……などと、さもしい、いや、おいしい幸福な妄想に没頭して我が身に迫る過酷な現実を忘れんと勤める、健気な私……だけど……ああ、駄目だ……マジで限界……
辺り一面真っ暗闇の、奈落の底に落ちて行く私……
チョーン!
小気味良い拍子木が打ち鳴らされ、芝居の幕が上がった。
デデンデン!
ここは上方、天下に名高い大阪城を望んで、鉢巻にたすきがけのお役人が棒を手にそこかしこで控えている。
タターン!(イよオー--)
「絶景かな、あ、絶景かな--」
ダダダダダダダダダダダダダ、ダン!
煮え立つ油の中で六方を踏んで大観衆に見得を切る、私は天下の大泥棒、その名も高き石川五右衛門--浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ!
ベンベン!
目を開けるとそこには--
「良かった、気が付いたんだね……」
心配そうな彼の優しい顔が--ああ、生きてたんだ、私……良かった……のかどうか……
室内はひんやりしていた。私が釜茹での拷問に掛かると言うので、あらかじめクーラーで部屋を冷やしていた事は知ってたけど--彼は手にうちわを持っていた。
もしかして、それで扇いでてくれたの?扇風機があるのに?
「あ、、いや--」
私の表情から、思っていることを察したのか、少し照れくさそうに彼は言った。
「扇風機とかで、強い風を起すと急に気化熱を奪われて健康に悪いと思って……」
まあ……私は感動に言葉すらない想いよ。
「--いつもいつも、僕の為に頑張ってくれるんだし、せめてこのくらいは……」
照れくさそうに微笑みながら目線をそらす彼の姿に、思わず私も見とれてしまう。
「--は、ハクション!」
あら、いやだ。
「大丈夫?」
心配そうに声をかける彼。
湯冷めしたのかしら、急に肌寒くなってきた。
「クーラー、止めようか?」
「うん」
私は素直にうなずいた。
「大丈夫?寒くない?」
「えーと--」
やっぱり、茹で上がって頭がボーっとしてるのか、今一考えが纏まらないみたい。
「ちょっと、寒い、かな?」
「どうしよう、ストーブつける?」
彼ったら、湯冷めしたときのことまで考えて、電気ストーブ用意してくれてたのよね。喜んで良いんだか、嘆いて良いんだか。
「んー」
肩をすくめるように、私は甘えるような眼差しで彼を見詰めた。
「--温めて、くれるかな?」
彼は優しくうなずいて、私に身を寄せてきた。きゃっ--
「--直肌じゃ、ダメ?」
もう、私ったら。
彼は笑顔でうなずくと、上着のボタンを外し始める。
ああ、もう--
流石にゆでられて疲れた私に、このままエッチという体力は無いけれどw
散々エライ目に合ったんだから、このくらいの役得有っても良いんじゃない?