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「柳川鍋って、食べた事ある?」
「柳川鍋?」
あれでしょ、ドジョウを生きたまま豆腐と一緒にぶち込んで、鍋にするって。煮立てて行くと、熱さにドジョウが豆腐の中にもぐりこんで、段々豆腐も煮え立ってきたら最後は逃げ場も無くなって、生きたまま鍋の具になるって、あれ。最近、ネットで検索してもそういうことが全然出てこないけど、何かやっぱり不都合な事でもあるのかな?外人てば、生け作りなんかも残酷だ、とか非難したりするから、柳川鍋とかもそういうことを削除してるのかな?
「凄いよね――」
「そうね――」
私は曖昧に笑顔を見せた。彼がそういう話題を口にすると、背筋が寒くなる。
彼――私、佐藤花子(仮名)の彼氏、鈴木太郎(仮名)である。
「あのドジョウたち、何を考えてるんだろうなあ――」
私が聞きたいよ――あんたの方こそ一体何考えてるの?
「人間ほど脳が大きくないから、複雑な事は考えられないんだろうけど――でも、熱さを感じる感覚って言うか、自然な本能って言うのかな、自分の身に起きたことにどう反応してるのか」
あんた、そんな事一々想像してるの?
「周囲の異変に気づいて豆腐の中に避難したら、段々その場所も熱くなってきて――」
聞いている私の笑顔が冷たく引き攣ってるのを、できたら察してほしいんだけど。