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夕日の向こうは…

作者: 越路 秋葉
掲載日:2026/08/04

潮風が心地よく吹き抜ける真夏の午後。

大学二年生の玲奈は、白いパラソルの下で冷たいジュースを飲みながら海を眺めていた。

玲奈の実家は国内有数の資産家として知られている。

今年の春、その父親は景色の美しい海辺に別荘を購入した。

「大学の夏休みくらい、好きなだけ遊んでおいで。」

その言葉に甘え、玲奈は親友の美咲と由香を誘い、一か月近いバカンスを過ごしていた。

朝は遅く起き、海で泳ぎ、昼はテラスで食事をし、夕方は夕日を眺める。

何もしない贅沢を満喫する毎日だった。

「ねぇ、この水着どう?」

美咲が照れ笑いを浮かべながらくるりと回る。

紺色のビキニはかなり攻めたデザインで、ボトムはかなり大胆なハイレグカット…というかほぼTバックになっていた。

「エロかわいいじゃん。」

玲奈は笑う。

由香も自分の赤いビキニを見下ろした。

「でもさぁ……。」

少し頬を赤らめる。

「これで人がたくさんいる海水浴場へ行くのは、ちょっと勇気いるよね。」

玲奈も苦笑した。

「別荘前の浜辺、夏休みだから人がいっぱいだし。」

「視線とナンパのチャラそうな奴が集まりそう。」

3人は顔を見合わせて笑う。

その時、美咲が沖を指差した。

「あの島、見える?」

水平線の少し手前。

緑に覆われた小さな島が浮かんでいる。

「あそこなら誰もいないんじゃない?」

玲奈が立ち上がる。

「いいね!」

別荘の桟橋には、父親が最近購入したばかりの小型ボートが係留されていた。

3人は飲み物や軽食を積み込み、島へ向かった。

島には誰もいなかった。

透き通った海。

白い砂浜。

聞こえるのは波の音だけ。

「貸し切り!」

3人は思い切り海へ飛び込んだ。

泳ぎ、笑い、写真を撮り、昼寝までしてしまった。

帰ろうとした時だった。

突然、濃い霧が海を覆う。

「え?」

エンジンをかけようとしても反応しない。

「うそ、動かない!」

セルモーターは回る。

しかしエンジンは始動しない。

風は強くなり、潮の流れは沖へ向かう。

「流されてる!」

必死にオールを漕ぐが追いつかない。

やがて島も陸地も霧の中へ消えた。

目を覚ますと、見知らぬ浜辺だった。

ボートは岩へ乗り上げ、完全に壊れている。

スマートフォンは完全に水没して壊れていた。

「……ここ、どこ?」

答える人はいなかった。

最初の数日は助けが来ると信じていた。

しかし誰も来ない。

雨水を集める。

流木で屋根を作る。

魚を捕る。

木の実を探す。

三人は少しずつ無人島生活に慣れていった。

「私、魚さばくの上手くなった。」

「火起こしも早くなったよ。」

「大学戻ったら自慢できるかな。」

冗談を言いながらも、不安は日に日に大きくなっていった。

そして7日目。

夕日が海を真っ赤に染めていた。

三人は砂浜へ並んで座る。

「綺麗……。」

由香が静かにつぶやく。

「こんな夕日見たことない。」

玲奈も頷く。

その時。

ドン……

遠くから低い音が響いた。

「雷?」

美咲が首をかしげる。

しかし空には雲一つない。

再び。

ドーン……

「今の音……。」

3人は立ち上がった。

丘へ駆け上がる。

そして頂上へ着いた瞬間。

「え?」

目の前の景色に息を呑んだ。

島の反対側。

ほんの数キロ先には、大きな港町が広がっていた。

海岸には数え切れない人。

屋台の灯り。

提灯。

そして夜空へ打ち上がる大輪の花火。

「花火大会……?」

由香は言葉を失う。

「無人島じゃ……なかった?」

玲奈は思わず笑ってしまう。

「私たち、1週間もここにいたのに。」

美咲も吹き出した。

「すぐ近くじゃん!」

もちろん泳げる距離ではない。

だが、確かに町はそこにあった。

「火を焚こう!」

玲奈が言った。

3人は乾いた流木や良く燃えそうなゴミを集める。

乾いた枝を積み上げる。

由香は防水ケースに残してあったライターを取り出した。

「最後の一本。」

カチッ。

炎が上がる。

3人は必死に枝をくべる。

炎はどんどん大きくなった。

その頃。

花火大会の警備に当たっていた巡視艇では、隊員が双眼鏡をのぞいていた。

「隊長!」

「どうした!」

「あの島……火が上がっています!」

「キャンプじゃないのか?」

「違います! あの島は立入禁止区域です!」

双眼鏡をのぞいた隊長が息をのむ。

「人影が三つ!」

すぐに無線が飛ぶ。

「巡視艇一号より本部!」

『どうしました!』

「遭難者らしき3名を発見!」

『特徴は!』

隊長は再び双眼鏡をのぞく。

そして思わず声を上げた。

「行方不明だった玲奈さんたちがいたぞ!」

無線の向こうが騒がしくなる。

『確認! 3名とも無事か!』

「無事です! すぐ救助します!」

巡視艇は全速力で島へ向かった。

サーチライトが浜辺を照らす。

「助かった……。」

玲奈はその場に座り込む。

美咲は涙を流しながら笑う。

由香も何度も手を振った。

隊員たちは3人を巡視艇へ迎え入れた。

「本当にご無事で何よりです。」

「今日は花火大会だったので、この島を警戒していたんです。」

「皆さんの焚き火が見えなければ、発見はもっと遅れていたかもしれません。」

三人は顔を見合わせる。

玲奈が笑う。

「花火大会に助けられるなんてね。」

美咲も笑った。

「私たち、無人島でサバイバルしてるつもりだったのに。」

由香は港の灯りを見つめる。

「実は、すぐ近くに町があったなんて。」

巡視艇は花火の光に照らされながら港へ向かう。

夜空では最後の大玉が大きく開き、海面を黄金色に染めた。

一週間前、3人は「人目を気にせず泳げる場所」を探して、小さなボートで島へ向かった。

それが、思いがけない7日間のサバイバルになるとは、誰一人として想像していなかった。

けれどその7日間は、3人の友情を何よりも強く結び付ける、忘れられない夏の思い出になった。

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