夕日の向こうは…
潮風が心地よく吹き抜ける真夏の午後。
大学二年生の玲奈は、白いパラソルの下で冷たいジュースを飲みながら海を眺めていた。
玲奈の実家は国内有数の資産家として知られている。
今年の春、その父親は景色の美しい海辺に別荘を購入した。
「大学の夏休みくらい、好きなだけ遊んでおいで。」
その言葉に甘え、玲奈は親友の美咲と由香を誘い、一か月近いバカンスを過ごしていた。
朝は遅く起き、海で泳ぎ、昼はテラスで食事をし、夕方は夕日を眺める。
何もしない贅沢を満喫する毎日だった。
「ねぇ、この水着どう?」
美咲が照れ笑いを浮かべながらくるりと回る。
紺色のビキニはかなり攻めたデザインで、ボトムはかなり大胆なハイレグカット…というかほぼTバックになっていた。
「エロかわいいじゃん。」
玲奈は笑う。
由香も自分の赤いビキニを見下ろした。
「でもさぁ……。」
少し頬を赤らめる。
「これで人がたくさんいる海水浴場へ行くのは、ちょっと勇気いるよね。」
玲奈も苦笑した。
「別荘前の浜辺、夏休みだから人がいっぱいだし。」
「視線とナンパのチャラそうな奴が集まりそう。」
3人は顔を見合わせて笑う。
その時、美咲が沖を指差した。
「あの島、見える?」
水平線の少し手前。
緑に覆われた小さな島が浮かんでいる。
「あそこなら誰もいないんじゃない?」
玲奈が立ち上がる。
「いいね!」
別荘の桟橋には、父親が最近購入したばかりの小型ボートが係留されていた。
3人は飲み物や軽食を積み込み、島へ向かった。
島には誰もいなかった。
透き通った海。
白い砂浜。
聞こえるのは波の音だけ。
「貸し切り!」
3人は思い切り海へ飛び込んだ。
泳ぎ、笑い、写真を撮り、昼寝までしてしまった。
帰ろうとした時だった。
突然、濃い霧が海を覆う。
「え?」
エンジンをかけようとしても反応しない。
「うそ、動かない!」
セルモーターは回る。
しかしエンジンは始動しない。
風は強くなり、潮の流れは沖へ向かう。
「流されてる!」
必死にオールを漕ぐが追いつかない。
やがて島も陸地も霧の中へ消えた。
目を覚ますと、見知らぬ浜辺だった。
ボートは岩へ乗り上げ、完全に壊れている。
スマートフォンは完全に水没して壊れていた。
「……ここ、どこ?」
答える人はいなかった。
最初の数日は助けが来ると信じていた。
しかし誰も来ない。
雨水を集める。
流木で屋根を作る。
魚を捕る。
木の実を探す。
三人は少しずつ無人島生活に慣れていった。
「私、魚さばくの上手くなった。」
「火起こしも早くなったよ。」
「大学戻ったら自慢できるかな。」
冗談を言いながらも、不安は日に日に大きくなっていった。
そして7日目。
夕日が海を真っ赤に染めていた。
三人は砂浜へ並んで座る。
「綺麗……。」
由香が静かにつぶやく。
「こんな夕日見たことない。」
玲奈も頷く。
その時。
ドン……
遠くから低い音が響いた。
「雷?」
美咲が首をかしげる。
しかし空には雲一つない。
再び。
ドーン……
「今の音……。」
3人は立ち上がった。
丘へ駆け上がる。
そして頂上へ着いた瞬間。
「え?」
目の前の景色に息を呑んだ。
島の反対側。
ほんの数キロ先には、大きな港町が広がっていた。
海岸には数え切れない人。
屋台の灯り。
提灯。
そして夜空へ打ち上がる大輪の花火。
「花火大会……?」
由香は言葉を失う。
「無人島じゃ……なかった?」
玲奈は思わず笑ってしまう。
「私たち、1週間もここにいたのに。」
美咲も吹き出した。
「すぐ近くじゃん!」
もちろん泳げる距離ではない。
だが、確かに町はそこにあった。
「火を焚こう!」
玲奈が言った。
3人は乾いた流木や良く燃えそうなゴミを集める。
乾いた枝を積み上げる。
由香は防水ケースに残してあったライターを取り出した。
「最後の一本。」
カチッ。
炎が上がる。
3人は必死に枝をくべる。
炎はどんどん大きくなった。
その頃。
花火大会の警備に当たっていた巡視艇では、隊員が双眼鏡をのぞいていた。
「隊長!」
「どうした!」
「あの島……火が上がっています!」
「キャンプじゃないのか?」
「違います! あの島は立入禁止区域です!」
双眼鏡をのぞいた隊長が息をのむ。
「人影が三つ!」
すぐに無線が飛ぶ。
「巡視艇一号より本部!」
『どうしました!』
「遭難者らしき3名を発見!」
『特徴は!』
隊長は再び双眼鏡をのぞく。
そして思わず声を上げた。
「行方不明だった玲奈さんたちがいたぞ!」
無線の向こうが騒がしくなる。
『確認! 3名とも無事か!』
「無事です! すぐ救助します!」
巡視艇は全速力で島へ向かった。
サーチライトが浜辺を照らす。
「助かった……。」
玲奈はその場に座り込む。
美咲は涙を流しながら笑う。
由香も何度も手を振った。
隊員たちは3人を巡視艇へ迎え入れた。
「本当にご無事で何よりです。」
「今日は花火大会だったので、この島を警戒していたんです。」
「皆さんの焚き火が見えなければ、発見はもっと遅れていたかもしれません。」
三人は顔を見合わせる。
玲奈が笑う。
「花火大会に助けられるなんてね。」
美咲も笑った。
「私たち、無人島でサバイバルしてるつもりだったのに。」
由香は港の灯りを見つめる。
「実は、すぐ近くに町があったなんて。」
巡視艇は花火の光に照らされながら港へ向かう。
夜空では最後の大玉が大きく開き、海面を黄金色に染めた。
一週間前、3人は「人目を気にせず泳げる場所」を探して、小さなボートで島へ向かった。
それが、思いがけない7日間のサバイバルになるとは、誰一人として想像していなかった。
けれどその7日間は、3人の友情を何よりも強く結び付ける、忘れられない夏の思い出になった。




