表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者の「三十分」で、私の十六年は終わったので  作者: たま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/3

後編

数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。

拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。

瓦礫の上の二人、玉座の上の孤独


「特別」の終わり


事件から一週間。学園のカフェテリアで、かつての主役だったアーサーとリリーは、隅の席で身を寄せ合っていました。

しかし、そこには以前のような「悲恋の主人公」といった風情はありません。

「アーサー、どうして……。お父様が不渡りを出したって。学費も払えないかもしれないなんて、嘘よね?」

リリーの震える声に、アーサーは力なく首を振りました。彼の自慢だった仕立ての良い制服は、わずかに汚れ、手入れが行き届いていません。

「侯爵家が手を引いたんだ。それだけで、銀行も取引先も、蜘蛛の子を散らすように逃げていった……。全部、キャサリンが……あいつが仕組んだんだ!」

アーサーは拳を机に叩きつけましたが、周囲の生徒たちは冷ややかな視線を向けるだけです。かつて彼がキャサリンを待たせていた「30分」の傲慢さは、今や「1分」の猶予もない借金の督促へと姿を変えて彼を追い詰めていました。


寄生先の消失


リリーは、アーサーの荒れた様子に恐怖を感じ、無意識に距離を置きました。

彼女が愛していたのは「自分を特別扱いしてくれる王子様」であって、家も金も失い、八つ当たりをするだけの「ただの少年」ではなかったのです。

「……私、授業があるから」

「おい、リリー! 待てよ、俺は君のために……!」

リリーはアーサーの手を振り払い、逃げるように立ち去りました。

守るべき「弱き花」は、根を張る土壌が枯れ果てたと知るや否や、次の寄生先を探しに動き出したのです。アーサーは、自分がすべてを投げ打って守ったはずの愛が、これほどまでに薄っぺらなものだったのかと、絶望の中で天を仰ぎました。


女王の凱旋


一方、キャサリンは学園長室に招かれていました。

そこには、学園長だけでなく、隣国の公使や、国内有数の実業家たちが揃っていました。

「キャサリン嬢。君が提案してくれた『若年層による慈善事業の効率化計画』、あれは実に見事だ。侯爵閣下も、君の商才には舌を巻いておられたよ」

キャサリンは、優雅に扇を閉じ、完璧な礼を返しました。

アーサーと婚約を解消してからの彼女は、まるで重石を外されたかのように、その知性と社交性を爆発させていました。これまでは「婚約者の陰に隠れる控えめな令嬢」を演じていましたが、今や彼女自身が、学園という社交界の「中心」となったのです。

「時間は、誰に対しても平等に与えられた唯一の資本ですもの。それを浪費する方に付き合っている暇は、もうございませんわ」


邂逅、そして永遠の別れ


放課後、キャサリンは校門で待たせていた馬車に乗り込もうとしました。

そこへ、ボロボロになったアーサーが駆け寄ってきます。

「キャサリン! 頼む、一度だけでいい、話を……! 父さんが、君に謝れって……俺が悪かった、全部リリーのせいなんだ!」

キャサリンは、馬車のステップに足をかけたまま、ゆっくりと振り返りました。

その瞳には、怒りも、悲しみも、憎しみすらありません。ただ、道端に落ちている石ころを見るような、徹底した**「無関心」**があるだけでした。

「アーサー。貴方はまだ、自分の何が間違いだったのか理解していないようね」

「え……?」

「リリーさんのせいじゃないわ。貴方が彼女を利用して、私を蔑ろにすることで、自分の優越感を満たそうとした。その『心の卑しさ』が、貴方を破滅させたのよ」

キャサリンは懐中時計を取り出し、カチリと蓋を開けました。

「残念だけど、貴方と話すために割ける時間は、もう一秒も残っていないの。……さようなら、アーサー。これからは、誰も待っていない人生を、精一杯歩んでちょうだい」

馬車の扉が閉まり、車輪が回り始めます。

追いかけようとしたアーサーは、駆けつけた学園の警備員によって無慈悲に押さえ込まれました。

夕闇の中、キャサリンの乗った馬車は、黄金色の光を放つ街の喧騒へと吸い込まれていきました。

彼女の時計は、今、かつてないほど正確に、そして輝かしく未来を刻み始めていたのです。

(完)

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

誤字脱字のご連絡ありがとうございます。

感想もいつも励みになっております。

少しでも楽しんでいただけたなら、

評価やブックマークで応援していただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ