後編
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
瓦礫の上の二人、玉座の上の孤独
「特別」の終わり
事件から一週間。学園のカフェテリアで、かつての主役だったアーサーとリリーは、隅の席で身を寄せ合っていました。
しかし、そこには以前のような「悲恋の主人公」といった風情はありません。
「アーサー、どうして……。お父様が不渡りを出したって。学費も払えないかもしれないなんて、嘘よね?」
リリーの震える声に、アーサーは力なく首を振りました。彼の自慢だった仕立ての良い制服は、わずかに汚れ、手入れが行き届いていません。
「侯爵家が手を引いたんだ。それだけで、銀行も取引先も、蜘蛛の子を散らすように逃げていった……。全部、キャサリンが……あいつが仕組んだんだ!」
アーサーは拳を机に叩きつけましたが、周囲の生徒たちは冷ややかな視線を向けるだけです。かつて彼がキャサリンを待たせていた「30分」の傲慢さは、今や「1分」の猶予もない借金の督促へと姿を変えて彼を追い詰めていました。
寄生先の消失
リリーは、アーサーの荒れた様子に恐怖を感じ、無意識に距離を置きました。
彼女が愛していたのは「自分を特別扱いしてくれる王子様」であって、家も金も失い、八つ当たりをするだけの「ただの少年」ではなかったのです。
「……私、授業があるから」
「おい、リリー! 待てよ、俺は君のために……!」
リリーはアーサーの手を振り払い、逃げるように立ち去りました。
守るべき「弱き花」は、根を張る土壌が枯れ果てたと知るや否や、次の寄生先を探しに動き出したのです。アーサーは、自分がすべてを投げ打って守ったはずの愛が、これほどまでに薄っぺらなものだったのかと、絶望の中で天を仰ぎました。
女王の凱旋
一方、キャサリンは学園長室に招かれていました。
そこには、学園長だけでなく、隣国の公使や、国内有数の実業家たちが揃っていました。
「キャサリン嬢。君が提案してくれた『若年層による慈善事業の効率化計画』、あれは実に見事だ。侯爵閣下も、君の商才には舌を巻いておられたよ」
キャサリンは、優雅に扇を閉じ、完璧な礼を返しました。
アーサーと婚約を解消してからの彼女は、まるで重石を外されたかのように、その知性と社交性を爆発させていました。これまでは「婚約者の陰に隠れる控えめな令嬢」を演じていましたが、今や彼女自身が、学園という社交界の「中心」となったのです。
「時間は、誰に対しても平等に与えられた唯一の資本ですもの。それを浪費する方に付き合っている暇は、もうございませんわ」
邂逅、そして永遠の別れ
放課後、キャサリンは校門で待たせていた馬車に乗り込もうとしました。
そこへ、ボロボロになったアーサーが駆け寄ってきます。
「キャサリン! 頼む、一度だけでいい、話を……! 父さんが、君に謝れって……俺が悪かった、全部リリーのせいなんだ!」
キャサリンは、馬車のステップに足をかけたまま、ゆっくりと振り返りました。
その瞳には、怒りも、悲しみも、憎しみすらありません。ただ、道端に落ちている石ころを見るような、徹底した**「無関心」**があるだけでした。
「アーサー。貴方はまだ、自分の何が間違いだったのか理解していないようね」
「え……?」
「リリーさんのせいじゃないわ。貴方が彼女を利用して、私を蔑ろにすることで、自分の優越感を満たそうとした。その『心の卑しさ』が、貴方を破滅させたのよ」
キャサリンは懐中時計を取り出し、カチリと蓋を開けました。
「残念だけど、貴方と話すために割ける時間は、もう一秒も残っていないの。……さようなら、アーサー。これからは、誰も待っていない人生を、精一杯歩んでちょうだい」
馬車の扉が閉まり、車輪が回り始めます。
追いかけようとしたアーサーは、駆けつけた学園の警備員によって無慈悲に押さえ込まれました。
夕闇の中、キャサリンの乗った馬車は、黄金色の光を放つ街の喧騒へと吸い込まれていきました。
彼女の時計は、今、かつてないほど正確に、そして輝かしく未来を刻み始めていたのです。
(完)
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