愛憎
[今夜会える?]
[大丈夫です]
[じゃあいつもの場所で]
ヴーヴー
鞄が小刻みに揺れた事に気づき携帯の通知を見ると久しぶりの連絡
そういえば最後は2週間前だったな。
佐々木 亨
貴方から連絡があるなんて珍しいな。と
久しぶりの連絡に心が躍っているのかすぐに連絡を返し残りの仕事を急ぐ。
私は小林 千鶴
ただの、普通の一般人。毎日憂鬱な朝を迎え決められたように会社に向かい仕事をただ進める。
癒しが必要なのだ、休暇が必要なのだ
求め求められる事が必要なのだ
それが私達。
「小林さん、これ明日の昼までにお願いね」
「わかりました」
増える。私は何も求めていないというのに。
だが相手は私を求めている。いや私ではなく結果を求めている。求められているものを用意するのが仕事なのだ
「っでさあ、あはは、本当無理なんだけど」
「さいあくー、ああいうのがいっちばん腹立つよねえ、あははっ」
ガチャ
「あっ、、どうもー」
「いこいこ、」
バタン
扉がゆっくりと閉まる、いつもうるさい
もう少し静かに閉まらないのか
女というのはこういう面で見ると遥かに男より怖い
卑怯で、巧妙で、丁寧に
コーヒーを注ぐ
苦いのは嫌いだ、砂糖と2粒入れかき混ぜる
苦い事を甘い事で濁すように
ここで味わう苦い事も、貴方という甘い存在で濁すのだ、汚すのだ
こんな事を考えながら飲むコーヒー程不味いものはない。
一息つき、デスクに戻り腰をかけると同時に携帯の通知が鳴る
[今日は20時からお願いしたい]
[分かりました]
随分と早い時間からだな
今は17時。急ぎめで仕事を進めないと終わりそうにない。明日に回すなど絶対に嫌なので周りからの視線を逃がすようにデスクに集中した
19時、無事に今日の分の仕事を終わらせ会社を出て
いつものビルへ早足で向かう
街中は何処もビル、ビル、ビル。
全て見上げれば首を痛くする程に高く窮屈だ
常に囲まれているような、そんな感覚
目的地が見えてくると見慣れた姿が目に入る
決して乱れる事の無い整えられた髪に締まったスーツ、頭一つ分違う景色を見る貴方
「ごめん、少し遅れた」
「大丈夫だよ、別に構いやしない。じゃ、行こう」
今日の貴方はいつもより少し早足に見えた
『いつもの場所』
高い構想マンションの股を潜りエレベーターへ乗る
赤く見えるのは50と表記された数字
この2文字だけに膨大な金と欲が詰まっていると思うと吐き気がする
いつもの場所、貴方の家
ガチャ
玄関を開き心構えをする暇もなく腕を引っ張られる
「ん、、ぅ…」
いや、心構えなど必要ない。
靴も脱げていないまま熱く深くお互いを求めキスをする
「ちょ、ぅ…まっ、、待ってっ…」
早くなりすぎている鼓動と息を落ち着かせながら平常心を取り戻す
「まだ、お風呂…」
「そんな場合じゃない」
そしてまたキスをされる
片足を持ち上げられ太ももをなぞられる
「んっ、ん、ぅんん…」
靴を脱ぎ、何か急いでいるのか腕を引き寝室へ向かう
腰を引き寄せた拍子に硬い何かが当たり、子宮を疼かせる。
また暑くキスを交わし、暖かく冷たい舌が私の口の中を弄ぶ。貴方はジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを外し鋭く淫らな瞳を私に向ける 。
休む暇もなくベッドに押し倒された私は既に服は乱れており慣れた手つきで服を脱がされ、熱い熱いキスを何回も交わしながら肩、胸、腹、足…へといやらしい手つきで撫でられていく。
「ふっ、ぅ…あっ、」
今は11月、下着だけだと寒いのだから勘弁して欲しい。だが止まることなく高まる鼓動が体温を上げて、寒さなど関係なくなっていく。
上へ上へと伸ばす手が乳房を掴んだ
「んっああっ、ぁ…う」
体を反らせ体の奥が熱くなる、求めれば求める程に欲望は増していく
(今日はやけに激しいな、、何かあったのかな)
乳房の先を甘噛みされる
ルールがある、それはお互いのプライベートに一切の干渉をしない事だ。だから「何かあったの?」等と聞いてはいけない。知りたくもないし興味が無い
付き合ってもいないのに体の関係を持っている時点で2人はもう既に歪んでいる
下へ下へと降りていく手を私の陰部へ潜り込ませ優しく触れる
「ん、、ぅ」
そのまま中へと指を押し込んでいく
「あ”っ…あぁ、ふっう、」
これだけでへばってしまっている私を起こすように弱い所を優しく、強く押される
「い”っ…や、ああっぅ」
暫く続けていると体の奥が熱くなってくる、何かがこみ上げるように
熱い熱い熱い
──────────
「はっ、はぁっ…はぁ、、」
もうどこを見ているのかも分からないまま果てる
ただ、快楽に呑まれていく
いつもはここで少し休憩させてくれるのだが今日はそうじゃなかった。意識を取り戻そうとする暇すらなく下着も脱がされ貴方がベルトへ手をかける
私はこの瞬間が好きだ
ベルトの音と同時に変わる。野獣のような目に変わるこの瞬間が好きだ
見惚れている訳では無い
ただこの瞬間が好きなのだ。
私の陰部へソレが押し当てられ、また子宮が疼く。
﹁
欲
し
い
﹂
お互いがお互いを求め合っている。欲しいと
だが求めているのは愛などという可愛いものではなくただただ快楽なのだ
優しさ等ではなく、心の関係等ではなく、ただ快楽、体の関係を求めているだけなのだ
なんとも醜い。所詮人間も動物
豚のように犬のように、ただ欲望のままに生きるのだ、それこそ美しいと私は思う
ゆっくりと、急ぐようにソレが奥へ奥へと入ってくる、ソレが奥を求めるように私のソレも奥を求めていたのだ。
「ふぅっ、、はっ…ぁあ」
入りきるなり奥を激しく突かれる
「あっああっ、、まっ…うう」
すきだ、すきだすきだ、、私はこの瞬間が好きなのだ。決して乱れる事のない整えられた髪が今、私という欲望の前で乱れるのだ。好きだ
﹁
優
越
感
﹂
なのだろう。私より遥かに優れた貴方を。今なら乱すことが出来る。
都会を上から眺め交合うこの瞬間、無様だ。何ともまあ人間らしい。こんな事で優越感を味わっている時点で私はもう欲に汚れているのだろう。
大事だ、時には自分に正直になる。欲望に正直になる事は人生を生きやすくする一つの方法だ。
人間なのだから。所詮は動物だ。
「あっ、あっ…ぅああっ、、」
激しい、やっぱりいつもと違う
貴方の表情もいつもと違う。暫くしてなかったから?そういう事では無さそうだが、
「あっあっ、、あぁ…」
「はぁっ、はっ…」
貴方が息を切らしていくと同時に動きが早くなる、求められている。この瞬間だけは自分の存在意義を感じられる。
強く強く抱きしめる。背中に指を立てる
貴方も私に覆いかぶさりただ欲望に呑まれていく
「あっあ…、、ぅ、、」
私の中でソレが波打っている。貴方は私に覆いかぶさったまま軽く体を揺らしている。
情けない、、みっともない…それがいいのだ。
愛を感じないセックス、、
愛のあるセックスとはどんなものなのだろう、
寂しいが、既に汚れてしまっている私には綺麗すぎて手も出せない。
終わると貴方はシャワーを浴び行った
恋愛対象として見た事はない。男としてしか見た事はない。ただの性の対象なのだ。
私もそう、女、性の対象として見られている。それが心地よいのだ。求められている…存在意義を感じるのだ。それこそ、セックスに勝る快感。
きっと、一線を超えてしまったらもっと欲深くなってしまうのだろう。。
「はあ、、」
──────────
朝、私は貴方より先に起きて身支度を済ませる。
急いで帰って着替えなければならないのだ。
「ん、、帰るの」
「うん、今日も朝から仕事あるし」
「…そっか、気をつけてね」
「ははっ、なにそれえ、有難く受け取っときますね」
50階の窓から見える街は夜の時とは大違いでとても静かで薄っぺらかった
「じゃ、また機会があったら」
「うん。」
軽く手を振り玄関を出てマンションを足早に出た
寒かった。朝はやっぱり寒い
日が昇り始めており、置いていかれまいと急いで駅へ向かった。人の少ない電車に乗りこみまた今日も変哲もない毎日を繰り返していくのだ。