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第九話 恋愛モード

 酒田さんとビリヤードをした夜に、委員長からショートメールが届いた。


 「明日、時間があるから六階へ行かない? 」


 東坂会館のビリヤード場があるのが六階。

 勿論、二つ返事でOKを出した。



 当日の放課後も、タカシ君は授業が終わると僕を見てニヤリと笑った。


 「今日こそは、家まで送って、キスするんや」


 なんか、すごい真面目な顔で言うので、笑いそうになった。

 ところが、そんなことには反応せずに、速攻で教室を出て行ってしまった。



 「ご執心みたいね」


 タカシ君の後ろ姿を視線で追っている僕に、委員長が声を掛けてきた。


 彼女に、MRギアを買ったことを話す。


 「そうよね、家でディスプレイに向かって、話をしていると気味悪がられるしねぇ」


 そこまでは期限が良かったのだけど、見知らぬ女性とキスをした事や、昨日は酒田さんとビリヤードに行ったことを話すと、なんか表情が険しくなって行く。


 「なんで、私にメールくれなかったの? 」


 「だって、昨日の委員長は、覇気なくて、ログインしてなかったんじゃないの? 」


 「まあ、そうだけど」


 やっぱりそうだったんだ。



 その日は、委員長からナインボールと言うポケットの台でのゲームを教えてもらった。

 一番から九番のボールを順に入れて行く。


 「四つ玉をしてると、こんな事が出来るのよ」


 彼女が力を抜いて、手玉をポンと突くと、次に他の玉が邪魔して手玉が的玉に当たらない位置で停まった。

 これで、君が的玉に当てることが出来なければ、既定の位置からの打ち直しになるの。


 いやらしい手だけど、こういうのもナインボールの醍醐味だという。


 「上手な人は、ほぼほぼ突き切るのだけどね」


 その日は、時間を忘れてビリヤードを楽しんだ。

 いつの間にか、二十時を過ぎていた。


 これは早く帰らないと、また妹に揶揄われると思っていたのだけど、委員長の一言で動きが止まった。


 「ねえ、家まで送ってくれない。大丈夫、ここから往復で一キロ無いから」


 家まで送ってキスをする。

 そう言ったタケシ君のを思い出して、つばを飲み込んだ。


 「あ、うん、いいよ」


 突然の提案に、驚きながらも頷いた。


 「ありがとう」


 なんでだろう、僕より身長も少し高くて、スポーツも出来て、どう見ても頭も良いこの人が、こんなに僕をかまってくれるのだろう。

 歩道橋に上って、大きな道路を渡る。


 「先生に連れられて入ってきた君を見たときね、昔、どっかで会った気がしたの」


 人通りの少ない歩道橋の上で立ち止まった委員長が欄干に背もたれて、こっちを見てそう言った。


 だけど、僕は委員長を見たことがない。と、思う。

 中高通して、女子をマジマジと見るという事が無かったからかも知れないけど。


 「それでね、ターゲットマークを先生から君に変えたの」


 本当は、僕も彼女にターゲットマークを付けたのだけど、それを伝えようか迷っていた。


 「だからね」


 委員長の顔から表情が消えたように見えた。

 歩道橋の下を通る車のヘッドライトが、僕たちをフラッシュするかのように通り過ぎて行く。


 「私と、キスして欲しいの」


 彼女の目が潤んでいるように見えた。


 「僕で良いの? 」


 「私の話を聞いてた? 」


 彼女らしい反応、嫌いじゃない。

 というか、好きなのだけど。


 「酒田の事忘れられないの? 」


 首を横に振った。

 忘れることは出来ないけど、そうじゃないと思った。


 僕は、こんなに女の子と話した記憶はない。

 だからと言って他の女の子と話せるかと言うと、それは違うような気がする。

 それでも、彼女のおかげで一つ乗り越える事が出来た。


 一歩、彼女に近づく。

 アバターのオートマン(自動行動)が、彼女の腰に手を回す。

 鼻の線が細い委員長の顔が近づいて来た。



 委員長とのキスで、メインのアバターも恋愛モードになって、彼女の頭の上に♡カイコの緑色の文字が浮かぶようになった。

 画面の右下に、恋愛モード、カイコ、スザンヌ宮本の文字が表示されるようになった。



 その日、ログアウトすることなく電車に乗り、駅から家までもそのまま歩いて帰った。


 「お兄ちゃん、遅い」


 ドアで靴を脱いでいると、妹が出て来て予想通り怒られたけど悪い気はしていない。


 「御免御免、友達と遊んでいたら遅くなったんだ」


 「お友達って、女の人? 」


 「ななな、何言ってるんだ、お、男にきまってるだろ」


 僕の反応を見た妹が、悪い笑顔を見せた。


 「お父さん、お母さん。お兄ちゃんはデートで遅くなったんだって」


 「コラ、ばか」


 妹を追いかけて、ダイニングに入る。

 そこでは、彼女が出来た事を、高校三年生なのに責められる事は無かった。


 「おめでとう、どんな子なの」

 「へぇ、学級委員長か、頭いいんだろうな、美人か? 」

 「お父さんたら」


 委員長のことを話すと喜んでくれている。

 このまま、ゲームの世界に転生出来ないものだろうか。


 団欒の中心になった後、暫くして自分の部屋に入った。


 ブー・ブーとスマホが着信をサイレントモードで知らせている。

 画面を見ると、知らない番号。


 迷っていると、切れた。


 少しすると、また同じ番号で掛かってきた。


 誰だろう。


 仕方なく、緑のアイコンをタップする。


 「やっと出たぜ、こっちも忙しいんだ、早く出ろよボケ。お前、スザンヌ宮本と恋愛モードになってる高校生だよな」


 言葉がDQN、嫌いな人種。

 切りたいけど、次の言葉で背筋が凍りそうになった。


 「今ね、お前の家の前に居るんだよ、直ぐに第二アバターで出て来るんだ。トロトロしてると、家にカチこむぞ! 」


 カーテンの間から外を見ると、一人の男が玄関の前に立って、スマホを耳に当ててこっちを見ていた。


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