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第八話 ホストクラブ

 都内某マンション


 「マサト、ゲームしてても良いのかよ。明日出て行くんだろ」


 ここはT区にあるホストクラブ「(てき)」の新人寮。

 ダイニングのソファーに座って、ゲームをする為にMRギアを装着しようとしているのは中山将人、二十三才。

 声を掛けたのは、もう五年もここに住んでいる梲の上がらない先輩。


 「大丈夫です、業者が来て処分してもらいますから、欲しいものがあったら先に持ってって下さい」


 「いいのかよ、じゃあパソコンもらっていいか」


 ゲーミングPCで、そこそこ値が張るけど、そっちのゲームは卒業した。


 「いいですよ」


 ここで生活を始めて六カ月、明日、他の先輩たちと同じように自分でマンションを借りて出てゆく事にした。この世界で、それなりの収入も手にできるようになったから。


 「それにしても、おまえスゲーな、先月だけで太客二人も捕まえて、大箱でも充分通用するんじゃね」


 太客とは月に五十万使ってくれる上客の事、大箱とはホストを百人以上抱えるお店。

 因みに「(てき)」は中箱とギリギリ言えるような、小さなお店。


 「そんなこと、無いっスよ」


 「なんかコツでも見つけたのかよ」


 「まあ、そんなとこっスかね」


 「お、そんなのがあるのか、教えてくれよ」


 「企業秘密っスよ」


 答えてからMRギアの音声漏出防止フィルターをONにする。

 内部3D画像の端にある、外部を移すワイプには先輩が映っているがもう無視だ。


 そもそも、あんたが知ったところで出来ねぇーよ、バーカ。


 マサトが遊んでいるのは、「恋AI♡Game」。ゲームの中で彼は、勤め先の「狄」と同じ名前のホストクラブを経営している。源氏名も同じ「マサト」で接客もしている。


 彼は、基本マジメだ。

 ゲームを始めたのも、良く出来たAI相手に女を口説く練習ができるから。ゲームの中にもホストクラブがあったので、興味本位で勤めてみたらボディタッチもお酒も無しにホスト業が成立してた。

 これはリアルの勉強になると夢中になり店まで持つに至った。


 ゲーム内で、暫くホストをしていると、姫(客)の中に、時々Playerが居る事を知った。

 殆どが十代か二十代前半で、ゲームだから大丈夫だろうと怖いもの見たさで来店した彼女達。

 そんな美味しい姫達を、リアルで勤める店に誘導するのは、下手なネット工作や街に出ての勧誘に比べれば格段に効率は良く、ホストにとっては簡単な話だった。


 さらにホスト依存になった女の子の治療にゲーム内のホストクラブが使われていることも知った。


 実際の所、ゲームの中では依存などは起こり得ない、酒による気分の高揚も、肌の接触による性的な満足感も無いから、依存を作り出すという報酬系は、ほぼほぼ働かない。

 確かに治療には良いかもしれない。


 だが、彼女たちをリアルの店に誘導出来さえすれば、元々素養のある女達だ。特に細工をする必要も無くこっちの言いなりに金を使ってくれる。風俗へ行くことにも抵抗は無く、良い太客になってくれる。


 簡単な話だった。


 注意したのは、治療を主導している病院や施設に気付かれる事。

 だから、依存から抜け出せそうにない子を狙った。

 治療が失敗しても、施設側にとっては依存の強い個性によるものと言い訳が経つだろうから。


 酒を飲ませながらのゲーム。


 普通は、このハードルを越えると後は一直線にリアルへ誘導と思っていたのに、ターゲットにしていたスザンヌ宮本という姫が、キスをしたのに恋愛モードにならなかった。

 理由は、既に他のPlayerとキスをしていたから、しかも近々に。


 だからと言って、リアルの店に誘導する事への影響は少ない。

 しかし障害にならないとは限らない。


 彼女は以前にホストにハマって、立ちんぼう(売春)もしていた子だ。

 ただ、「マサト」のプライドが少し傷ついたことと、獲物を逃がしたくはない。


 「引っ越しまでに、スザンヌとキスをした男をとっつかまえて、下手な事をしない様に、痛い目に会わせてやる」


 無論、痛い目とは肉体的な事では無い。

 経験値をカンストしている「マサト」は、比例して能力の高くなった自身のアバターを街に放ち、MRギアの装着を解いて、ソファーから立ち上がった。


 アスリートを思わせる精悍な顔に広い肩幅。ハーフなのか色素が少なく、少し赤めの肌に、色が抜けて茶っぽい髪の毛は短く刈り上げている。

 身長が百七十五と少し残念だが、彼は鏡に映った等身大の自分を見て、作った笑顔に満足したのか視線を外してシャワー室へと消えて行った。





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