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第二話 委員長


 「ねえねえ何があったの? 」


 そろそろ放課後と想いログインすると、目の前に委員長(♀)のカイコさんが居て、思わず後ずさりをして、椅子が倒れて視界は天井を向いていた。


 「なにしてんだ? 」

 「私が驚かせた? 」


 タカシ君と委員長が俺を覗き込んでいる。


 「なんでもないから」


 AIのオートマン(自動行動)が僕のアバターの体を起こして、椅子に座り直す。


 「こいつさ、昨日、告ったんや」


 「告った? 誰に、それが、なんで警察沙汰になったの? 」


 どうやら、タカシ君と委員長。それに僕のアバターは、昨日の事を話していたらしい。

 

 「聞いて驚け、一女の鉄仮面や」




 「一女(いちじょ)のおねぇーさーん、どこ行く…の? 」


 昨日、タカシ君が身長差のある二人組の女子高生の前に回り込み声掛けてフリーズした。


 「なんだ、テメェー」


 背の高い方が、タカシ君を睨んで、とても女子高生とは思えない凄みのある言葉を吐いた。


 「あ、いえ、お暇かなと思ってさ」


 ヨースケ君のエセ関西弁が止まっている。

 なんかヤバい雰囲気。


 そして、僕も追いついて、背の低い方の女子高生を見て息をのんだ。

 凄みを利かせている大きい方も大概なんだけど、小さいほうは想像を超えていた。


 白いお面?


 なんと白いアイスホッケーのマスクを付けている。白昼堂々。

 古いホラー映画に出て来そうな、学生鞄じゃなくチェーンソーが似合うマスク。


 後ろから見たらごく普通の髪サラの女子高生なんだけど。

 身長は僕と同じかちょっと低め、百六十五センチほど、小さな頭に細身の体。

 ただ、凛とした姿勢が、ぶれない意志の強さを醸していた。


 だけどその、マスクに開いた穴から見えたのは、透き通るような眼。

 白目の部分が小さな子供みたいに青くて、そう見えたのだろう。

 空気とか読まずに、ただ見とれてしまった。


 「お前等だな、いかれたファッションで、女子に声をかけまくっている馬鹿は」


 でかい方の女子の声で我に返ると、ヨースケ君が大きな方に指さされていた。


 いかれたファッション。

 そーだよ、やっぱりそうだよ。


 青系のスカジャンに登り竜を背負い、白くて裾が広がったスラックスに、黒いエナメルの靴。

 真冬なのに白縁のサングラス。


 タカシ君はスタイルの良いモデルではない。彼が着こなすには無理のあるコーディネイト。


 田舎のボッチ学生の僕は、タカシ君のセンスには疑問を抱きつつも、否定する自信が無くて受け入れていた。


 もしかして、振られ続けたのは、彼のファッションセンスの所為?


 「はーん、やっぱりな」


 百八十センチに届きそうな大きい方の女子高生は、見下げるような視線をヨースケから僕へ移した。


 僕もキモ男なんですか?


 その時、小さい方の子の目が細まった、睫毛が長いんだ。

 瞳がきらりと光ったような。もしかして微笑んでいる?


 どうしよう、居ても立っても居られない。


 「あ、あ、あ、あ」


 インカムに向かって変な肉声を放っているリアル僕。


 ディスプレイにはアップになった仮面の少女。フォーカスは瞳。

 その彼女が不思議そうに顔をほんのちょっとだけ傾けた。


 た、たまらない!


 「つ、つ、つ、付き合って下さい」


 自分の意思から発したとは思えない言葉が放たれた。

 いや、リアルの俺は言葉を発していないと思う。


 すると、彼女の眼は見開かれて......。



 急に、ディスプレイが真っ黒になり、HPゲージが黄色になって半分を切ったことを示しながら点滅している。


 何が起こったのかは分からない。

 ただ、心臓がバクバクしている。


 どうしよう、ゲームがおかしくなった?

 いやゲームをしていて頭がおかしくなった。


 HPゲージは点滅しながら回復しているように見える。

 緑になったら元の画面に戻るのかな?


 ああ、今日は両親が居なくて良かった。

 動転していたとはいえ、ちょっと声が大きすぎた。


 あれ、僕は声を発していなかったような気がするけど、なにがあった?

 いやいやいや、幾ら魅力的だとしても僕が告るなんてありえない。


 視野に入った、コーラのペットボトルを手にする。

 暖房で暖かくなった部屋に暫く放置していたからか、すこしだけど水滴が周りについていた。


 そうこうしているうちに、画面がカラーに戻り、ぼやけていた画像が徐々に鮮明へと変化するが、そこにあの子の姿は無く、ディスプレイには青い空が映っていた。


 「そこで何をしている! 」


 アバターの体を起こすと、犬の銅像の方からお巡りさんが二人こっちに向かって来ていた。

 その後、交番に僕たちは連れて行かれ、カウンター越しに調書を取られた。


 「それで、被害届は出さないんだね」


 若いお巡りさんが尋ねて来る。


 「ハイ、特に体に異常はありませんから」


 一応は、監視カメラの映像に残っていた状況を見せてもらった。

 僕は、大きい方の子に、鞄で殴られていた。

 でも所詮アバター、後遺症が残るとは考えられない。


 「じゃあ、帰って良いけど、君たちの事で苦情が来ていたんだよね。女の子に声かけまくってたでしょ」


 少し離れたところに立っていた、白髪の多い警官が近寄って来てそう言った。

 どうやら、通報されていたみたいだ、もうここでナンパは出来ない。


 「付きまとうほどでは無いから黙っていたけど、遵法エリアで事件や事故をおこされたら、僕達も忙しくなって困るから、ほどほどにしておいてね」


 そう言われて交番から送り出された。



 「なるほどね」


 タカシ君と僕の説明を聞いた学級委員長が腕を組んだ。


 「でさあ、リッツって女の子と話せないのに、どうして告れたの? 」


 因みに、リッツは僕のハンドルネーム。

 幼い頃、面倒を見てくれていた近所のお姐さんが付けたあだ名。


 「あ、あれは、多分だけどAIの暴走だと思うんだ、僕は声を出した記憶がないから」


 委員長の問いに、しどろもどろだけど答える僕。


 「それって、ログインしているのに、AIがオートマン(自動行動)を発動して、告ったってこと」


 「そうとしか、でないと僕、そんなこと」


 「フーン、ヘェー、そう、リッツは、酒田みたいなのが好みなんだ。その想いを汲んで、AIが代わりに告ったってことよねぇ」


 酒田?

 タカシ君も気付いたみたいだ。


 「委員長、あの仮面の子を酒田って、知り合いなんや? 」


 「ええ、まあ、ちょっとね。リッツを殴ったデカいのがクッキー」


 「あいつらと、どんな関係なんや」


 それには趣味の関係と言って誤魔化したようにも見える、その後で委員長はタカシ君を見た。


 「あんたの過去のストーカー話は知っているけど、なんで、ナンパなの? 」


 「そりゃあ、俺にとって校内は縁起が悪んや、Playerをまた引いたら最悪やん。身バレ確定やし」


 「そりゃあ、身バレは同じ学校なら仕方ないけど、下級生なら絶対Playerじゃないのに。もしかしてあんた年上好きなの? 」


 「いや、そうか、新規登録もリセットも最初は必ず高3や、そうか相手が高1や高2なら、NPCしかあり得んつう事か」


 まさか本気で、気付かずに僕をナンパに付き合わせていた訳じゃ無いよね。


 「なんなら、後輩を紹介してあげようか」


 その言葉に飛びついたタカシ君。

 委員長はメールを二つか三つしてから、OKサインを出した。


 「これからでも良いって」


 「え、制服だよ」


 多分、タカシ君は制服でないと良い結果が出せないと思う。


 「リッツも一緒に来なさい。二人がくっついたら、私コブになるじゃない。良いわね」


 まあ、そういう事なら。

 少し強引ともとれる委員長のお誘いだけどまあいいか。

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