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第十五話 リアル

 「へぇー、下宿先を捜しにねぇ」


 「一年間だけで、次は港区なんですけどね」


 「もしかして薬学部? 」


 そんなに有名じゃ無いだろ、あの大学。


 「へぇー、そうか薬剤師を目指しているんだ。ちなみに、僕は医師免許を持っているんだよ」


 え、どう見てもチャラい芸能事務所の人かと思っていました。


 「なに? こんなチャラい医者がいてたまるかって顔してるよ」


 「そんな事は」


 思ってましたけど、面と向かっては言えないでしょう。


 「でも、どうしてゲーム内では女性に? 」


 「まあ、いろいろ複雑な理由があってさ、聞かない方が良いと思うよ」


 ならそうします。

 この人、奥底が見えなくて、ちょっとヤバい人に見えます。


 「それで、酒田さんはここで何をされているのですか」


 「ああ、人と待ち合わせをしていて、その時間つぶしだよ」


 極、普通の答えだった。


 「君も知っている、スザンヌ宮本さんのご両親さ」


 小さな椅子からずり落ちそうになった。


 「どういう事ですか? 」


 「声が大きいよ、ちょっと」


 おいでおいでをするので、耳を近付けると、息を吹きかけられた。


 「何をするんですか」


 「悪い悪い、ちょっといたずら心が」


 酒田さんが言うには、スザンヌ宮本さんが行っていた、ホストの店が判明して、ご両親と一緒に凸することになったという。


 「上司の三輪って医師が行けと言うんでね、仕方なく」


 お医者さんも大変らしい。


 「そうだ、君も来なよ」


 「えぇえっ」


 「だって、妹さんが襲われて、恋人のカイコが拉致されそうになったんだろ。だまっちゃ駄目だろう」


 まあ、あの事件直後なら、怒りに任せて一緒に凸したかもしれませんが。

 妹の形成外科手術って、データの書き直しで、切った張ったするわけでなく、跡も残らないし、本人も至って普通にしている。

 委員長も、ゲーム内では男になったらしいけど、今夜には会うことも出来る。


 「僕もさぁ、一人でも味方は多い方が良いし、ね、頼むよ」


 そんなこと言われても。


 「君さぁ、渋谷にホストクラブが無い事を知ってる? 」


 「知りませんよ」


 「都内のホストクラブは、ほぼほぼ新宿だけなんだ。もし、許可の下りない渋谷であれば裏営業なんだよ。どうも、スザンヌはそういう店に行っているみたいなんだ」


 じゃあ、猶更僕みたいな非力なのが居たら足を引っ張っても、力にはなりませんよ。

 口では言えないから眼で訴える。


 「これが依存症の治験の一つだって知っているよね」


 まあ、それは宇野さんから聞いている。


 「これはね、厚労省も注目しているんだよ、薬学部へ行く君が放っておいていいのかな、将来に禍根を残すことに成らないかい? 」


 さすがに、そんなことは無いと言い切りたいが、そこまで世間を知らない。


 「何かあったら、走って逃げればいいんだから」


 仕方がないので、直ぐに逃げてもいいという条件で、ついて行くと約束してしまった。



 ハチ公前に行くと、スザンヌさんのご両親がもう待っていた。

 酒田さんが丁寧にあいさつをすると109と書かれた円筒形の建物の方へ歩き出した。


 「これが道玄坂で、ここを真っ直ぐ行くと円山町なんですが、その手前にあるんです」


 「そうですか、これが道玄坂なんですね」


 殆ど脂肪がついてない、骨皮しかないようなお父さんと、がっちりしたお母さん。

 この人たちが、あのスザンヌさんのご両親かと、少し驚く。


 十分もかからずに、その店の前付近に着いた。

 そろそろ、従業員が出勤する時間ですと酒田が言う。


 その通りに、それらしい男が入り口のシャッターを開けると、階段を下りて行った。

 どうやら店は地下にあるらしい。


 やがて、一人、そして一人と店に入って行く、八人ほど来た時に、店の前に車が停まって、なかから、肩幅がある男と、見たことのある女性が出てきた。


 「一子(かずこ)


 宮本のお父さんが、細い体の何処から出て来るかとおもえるほどの大きな声をあげた。

 振り向くスザンヌさんにお父さんが手を伸ばすが、肩幅の広い男が間に入った。


 「あなたが、スザンヌさんのお父さんですか? 」


 「そうだ、一子を返してもらおう」


 「おとうさん、申し訳ないのですが」


 「いつから、お前におとうさと呼ばれなくちゃならないんだ、どけ」


 どう見ても、体力では、その男に勝てないのに、父親は突っかかってゆく。


 「あのね、成人した女性が、本人の意思で来店しているんですよ、父親と言えど営業妨害ですよ」


 男は、慣れているのか冷静に対応している。

 そのうち、五人位の男達が階段を昇って来た。

 父親の方に二人、そして三人がこっちへ向かって来た。


 逃げようか、でも、あのお父さんを残しては行けない。

 そう思って酒田さんを見ると、坂を転げるように走って、もう五十メートルほど向こうに居た。


 「おい、餓鬼、見せもんじゃねぇえんだ」


 すごい迫力で僕の顔を覗き込む。


 「お坊ちゃんが、こんな所でなにしてるんだ? 」


 もう一人が言った直後、髪の毛を掴まれて、地面に顔を押し付けられ、そのまま、何度も足蹴にされる。

 だが、酒田さんの姿はもう見えない。

 お父さんは、毅然と文句を言っている。


 其処へ、車が停まった。


 警察か?


 と、思いきや、中からガラの悪い男達がゾロゾロと出てきた。

 そして、僕は、カメさんになって、さらに足蹴にされた。


 でも、お父さんの声が聞こえる。


 それだけでは無くて、もっと他の人も集まりだした。


 「〇〇組、おまえら親子の話に口を出すんじゃねぇ」


 なんか、凄い人がいたもんだ。

 さらに車が停まった。


 「シャンパンタワー承ります」


 貨物のボックスの横に、そんな事が書いてある。

 そこへ、やっと笛の音と共に警官が来たが、この集まりが解散する気配が無い。


 だけど、これ以上は蹴られることが無くなったみたいだ。

 俺の周りにいた三人が、そっちへ向かった。


 「ここはホストクラブかぁ、風俗営業の許可とってねぇだろう」


 誰かの声で、黒い車が去って行った。

 さらにパトカーがサイレンを鳴らしてやって来た。


 もう、どうなっているのか、誰かが亀になっている僕の肩を叩く人が居た。


 顔を上げると、どっかで見たおばさんがいた。


 「宇野さんですか? 」


 「そうよ、よく頑張ったわね」


 何故か、その後ろに笑顔の酒田が居た。


 その後、警察署に連れて行かれて調書を取られ、開放された時には委員長と待ち合わせた時間を一時間も過ぎていた。

 一時的に没収されたスマホを返してもらった時には、委員長からの着信が幾つも残っていた。


 「今どこに居るの? 」


 「渋谷の警察署を出た所」


 何があったのと尋ねる委員長に、今までの経緯を歩きながら話した。


 「委員長は、あの酒田さんとは、どんな関係なの」


 「そうね、腐れ縁かな、人生長いと色々あるのよ」


 なんか誤魔化された。

 その時、大きな建物の下で手を振る女の人が居た。


 「委員長? 」


 「そうよ、リッツは一目で分かったわよ。ねえ、折角だから回らないお寿司食べない? 」


 委員長に導かれるまま、藍染の暖簾がさがる店に入った。

 出て来た小袖を着た仲居さんに頼んで、個室のようなボックス席に案内してもらった。


 「松二つと、瓶ビール、それにお腹が減ったから太巻き一本と、卵焼き」


 慣れた感じで、委員長が注文する。

 直ぐに瓶ビールとグラスが二つ運ばれてきた。


 「どう? 」


 ビール瓶を持って僕に向けるが、まだ未成年。

 首を横に振ると、付き合い悪いわねといい、自分のコップに泡の立つ液体を注ぐ。


 「じゃあ、長船利通君との再会を祝して、乾杯」


 なんか一人で盛り上がっているけど、再会? なんで僕の名前を?


 コップ一杯に注いだビールを一気飲みした委員長が、プハーっとおっさんみたいな声を出してグラスをテーブルに置いた。


 「ほら、注いで」


 ハイハイと行って、ビールをグラスに注ぐ。

 時々、缶だけど、ママに注いでいるので、泡をこぼしたりはしない。


 「ねえ、そろそろ私の事を思い出した? 」


 どうしても思い出せない。


 「仕方ないわね、ちょっと待ってね」


 委員長が鞄からカードを取り出して、テーブルの上に置いた。


 「これを見て、思い出さない? 」


 確か、これはレアなやつで、一万円もしたのに。亡くなったお祖母ちゃんが買ってくれたトレーディングカードだ。

 え、なんだっけ。

 そうだ、大事な人に渡した。


 「モンねえちゃん? 」


 「ピンポーン。そう、私はリッツのフィアンセ、モンねえちゃんこと、松田木綿でーす」


 あれは、幾つの時?

 埼玉にいた頃。

 小学校の二年の時だ。


 「十年も持ってくれていたの」


 「そうよ、お姉ちゃんと結婚するからって貰ったものだもの、大事にするわよ」


 僕はそんな事を言ってたの、ちょっとじゃなく恥ずかしい。


 「さてと、リッツの誕生日は二月だったから、十八歳になったわよねぇ、じゃあ結婚出来るよね」


 「うん、良いよ」


 素直な気持ちだった。

 モンねえちゃんだから、ゲームの中とはいえ、女性と話せる様になった。

 偶然だけど偶然じゃない。

 僕にとって、モンねえちゃんは特別な人。


 「え、ちょっと、本気なの? 」


 「だって、約束したんだよね」


 「そ、そうね」


 「十年も待ってもらったんだもん、モンねえちゃんが嫌でなければ」


 たしか僕より四つ年上だけど、なんか幼い少女みたいに顔を真っ赤にしてモジモジしている。


 「本当に良いのね、私、リッツより随分年上よ」


 「関係ない」


 其処へ、仲居さんが料理を運んできた。

 テーブルの上にあったカードを、モンねえちゃんは胸元で抱きしめるように持った。


 「馬鹿な子、さ、食べましょう、ゲームじゃ食べられないから」



 食べ終わると、六階へ行き、四つ玉を教えてもらった。

 ゲームでは分からない、キューの持ち方、力の加減等等。


 その度に、モンねえちゃんが息がかかるほど近い。


 「こんな風に玉が集まった時には、散らさない様に一番弱い突き方、右手でゆっくりキューを握る感じで」


 モンねえちゃんが、僕に覆いかぶさるようにして、キューを持っている僕の右手を包むように握った。

 お酒臭いなかに、下半身がモゾモゾしてきそうなほど、良い匂いが漂ってきて、思ったより大きな胸が背中に当たった。


 十二時近くまで、二人で四つ玉で遊んだ。


 「そろそろホテルを探さないとね」


 二人は、山手線に乗って一駅の恵比寿まで行き、タクシーも少なくなった駅前のロータリーを渡って、シャッターの下りた商店街を進んでからわき道にそれた。

 もう充分に夜なのに、ちょっときつめの色彩のライトで照らされた建物の前までやってくると、モンねえちゃんが僕を見た。


 「私の事、今も好き? 」


 「うん」


 「じゃあ、覚悟しなさい」


 僕は、強く手を握られて、その建物の中に連れ込まれた。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 


 僕は強い女性が好き

 それは幼少期の思いを成したから


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 



【後書き】

 書き残したことが多々あるのですが、ひとまず筆を置かせて頂きます。

 お陰様で、全く違うジャンルを連載しながら、別物語を書くことが私には無理ということが分かりました。

 明日からは、連載中の代表作に心血を注ぎたいと思います。


 こんな小説でも最後まで読んで下さった方ありがとうございました。

 宜しければ、感想を頂けたらと思います。今後の創作活動の糧とさせて頂きます。


 この物語はフィクションであり、本文中に出てきた人名やその他の固有名詞等は、実在のものとは一切関係は御座いません。よろしくお願い致します。


 

 

 

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