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第十三話 治験会議

 <酒田視点続き> 


 ログアウトしてギアを外す。

 ここは横須賀にあるワンルームマンション。


 俺の本名は阪田睦月。

 体は男。

 半年ほど前まで女性ホルモンを打っていたけど、体調を崩してしばらく止めている。


 中学生の頃から女装に興味があったのだけど、大学に入るまでは隠し通して来た。


 大学に入っても医学部だったので学業が忙しくて、本格的には無理だったけど一人暮らしになったので、少しずつ欲望を開放して行った。

 そんな状態でも在学中にDTを卒業。

 前期研修医の途中、指導医によって男を知った。


 見た目は華奢でウケに見えるけど、何方かと言うとウケではなくてセメが好きで、二丁目では大人しそうなウケの子を探した。


 「女装趣味で、攻めのショタコンで、時々女を摘まむって、あんた絶対病んでるわよ」


 行きつけのバーのママの言葉で、精神科医になることを選んで後期研修は精神科にした。

 精神科医のほとんどが心を病んでいるという噂を聞いて、木を隠すなら森。その中なら俺の変態性も目立たないかなと思ったから。


 少しずつカミングアウトしても、「君の顔ならアリだよね」と多くの同僚から言われた。


 実際に俺の顔は美しい。

 そこらに転がっている女よりは、よっぽど美人だ。


 だけど、この事は精神科の医師にとっては良くなかった。

 患者の妄想を掻き立てて、症状の悪化を伴う事が出てきたから。


 そこで、統合失調症がメインの一般の精神科ではなく、科はそのままで、依存症の治療をよくしている病院に研修先を変えた。



 取りあえず、今日の会議用に提出する、スザンヌ宮本の症例報告だ。

 ゲームとは別のPCを立ち上げて、資料の作成に入った。



 二時間後、ゲーム内の貸し会議室に行くと、受け持ち患者のいる数人の医師や、研修医、それにPSW(精神保健福祉士)や心理師、臨床心理士が所定の椅子に座っていた。


 やや遅れて、背の高い明豊大学の吉尾高市教授と、近畿医科大学の天正真美教授が入って来た。


 「では、吉尾教授、宜しいですか? 」


 コーディネータの宇野心理師が確認をして、順番に治験患者の進行状況を担当医師が報告し始めた。


 手持ちの資料には、各患者の基礎情報と、依存症を五項目の尺度で測った数値が、治験開始と現状で比較できるよう表記され、その他の心理状態や、臨床心理士のテスト結果も記されていた。

 ひとりひとりが発表したあとで、他の医師やコメディカルから質問があり、場合によっては教授から


 俺が最後の発表者で、それまでは変わらずが二人いたけど、一人として症状が悪化した患者は居なかった。


 「すると、症状の顕著な改善が見られないのに一時帰宅を許可した理由は? 」


 一番効果が出ている患者の担当医から質問があった。


 「それは、反抗的な態度が少なくなって、食事も残さなくなったので」


 「見せかけとは思わなかったのかね」


 「ええ、三輪先生には、その可能性があると付記しておいたのですが」


 一応、会議では三輪は悪者、報告書では俺が被ったことにすれば、奴は裸の王様。

 さらに、幾つかの手厳しい質問があって、基本を守って対処して置いた。



 「最後に、吉尾教授」


 「ご存じの通り、日本におけるホスト依存症は、女性に多額の債権を負わせることによって、風俗で働かせ、売春を強要するに留まらず、国外に送り込まれる事も多々あって、売春婦の輸出と国際問題化しつつあります。一部、例外的な報告もありますが、概ね良好な結果を出しつつあるこの治験は、厚労省のみならず、国外の機関も関心を寄せていてることは、皆様のご存じの通り。そこで、今年の十一月にドイツのケルンで開かれる国際学会に報告しようかと考えております。私と、隣の天正教授、それに宇野コーディネータと、あと希望者二人、随伴で参加して頂こうかと思っております。参加されたい方は後で天正教授へDMを送っておいてください」


 「人数に限りがありますので、多い時は、勝手ですがこちらで選ぶことになります」


 天正教授が補足して会議は終わったのだが、吉尾教授に俺が手招きされた。


 「阪田君、悪い結果が出ても良いんだ。時系列と正確で多角的な報告が欲しい。三輪君にそう伝えておいてくれ」


 「その様に、報告しておきます」


 笑顔で挨拶をして会議室を後にした。

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