表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/82

第82泳

 グリンとリムの冒険の目的はこうして果たされた。ついでにリムの魚種までもが分かり、二人にとって実りある旅となった。




 せっかくここまで来たからと、二人はお宝を探してマリンに持って帰ることにした。


 ナンデモミルはまるでグリンとリムに会わなかったかのように、また元通り、床の絵に向き合い始めた。気の利いた言葉はないし、講釈もない。


ただし、別れの挨拶だけはあった。礼を言う二人に、スキンヘッドの後頭部を見せながら、声だけを届けたのだ。


「じゃあね」




 赤や青の線が入った布を背中にかけ、肘のあたりで結んだグリンの背中には、いつも通りにリムが隠れている。マリンにお土産を探すのにウツボなどと遭遇してはいけないから、ガサゴソとそのあたりを探索する際にも、リムは守られたままなのだ。




 突然、海面近くから聞いたことのある声がした。ハンゾーの呼びかけだった。


「何やってんだい。ナンデモミル先生には?」


「会えたよ! 日向ぼっこのしすぎだって」


 リムがグリンの代わりに、口元だけを布からのぞかせて答える。




 聞けば、ハンゾーは北の海の調査に行くのだという。


「北の海には、結局何が起こっているのかな?」


 グリンがそう聞くと、ハンゾーはリムにおやつを与えながら、ため息をついた。


「みんなそれが知りたいんだよねえ。ここだって、何に使うのか分かんないものだらけなんだよねえ。あれなんか、どれもからっぽなんだよねえ」


 そう言うと、白く突き出て天を指している、無数の入れ物を指す。




 グリンとリムはあたりを探索することに決めた。旅の道具を用意してくれたマリンに、お土産を持っていきたかったのだ。




 壁に開いた穴の向こうに、良い物があった。銀の棺のように重くて四角く、取っ手がついているのに開かない金属だ。


 本の遺物でもありそうだと、グリンが思い切って左手でなんとか頑張って壊してみると、意外なことに、さらに小さな箱が入っている。


 宝石入れのようなその小さな箱の中には、黄色と緑色に輝く石がある。それがほんのりと、やわらかく光る。グリンはこの不思議な光を、言いようもなく暖かく、どんな宝石よりもきっと、綺麗だと思った。




 地上を闊歩した生物のうち賢い者たちは、海の底に、宝物をたくさん手放したのだった。それは今でこそ高熱を発しているが、だんだんと海に浄化され、長い年月をかけて、ただの岩同然となる運命にある。


 グリンが拾ったのはそのカケラだ。集めると熱を出すその性質を利用するために、地上の生物たちはそれを集めていたのだ。


 彼らの遺跡のひとつはこうして、人魚のお土産になったのだった。




 このまま二人は、あの人魚の街を経由して帰る。




 そしてグリンの暮らしていた、あの谷の近くにサンゴの胞子をたくさん集めて、大きく育てようというのだ。




「ようし、グリン。おれの設計で頼むよ」


「しっかりよろしく」


 そう言って、グリンもリムも明るく笑った。




 ところが、不意に心配になったリムが、口を尖らせて言った。


「でもおれ、設計なんかはじめてだ!」


「ずっとしてくれてただろう。僕の海藻の美容師だ」


 不安のなくなったグリンはさらに笑って、もう一言付け加えた。


「それに、いくら間違えても平気さ。海は広いんだ」




 リムはこれまでの冒険のことを思った。確かに、海は広い。豪邸をいくら作ろうとも、砂さえ使い切れないだろう。


「おれ、よくよく考えてみるよ!」


 リムは希望に目を輝かせて言った。




 仲良しの二人は、これから南へ下っていく。




 リムを含むベラ科の魚が、砂に埋もれて眠るようになったのは、この大冒険の記憶が身に息づいているからに他ならない。




 みにくい男の人魚のはなし、これでおしまい。




  おしまい!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ