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第78泳


 北の海に異変があったのは、ずいぶん前の話だ。前述したとおり、ある日、それは大きな嵐がやってきた。海の生物たちには慣れっこで、各々はいつもの過ごし方をした雨の日、というところだった。


 しかし、それはこの世界の一部にとっては、きっと十分すぎるほどの変化だったのだ。




 変化は玉突きのように海の世界にもやってきて、北の海の温度を上げてしまった。


ユキやナンデモオコルのいたウラニワという人魚の街は、幸いにもみんなが耐えられるほどのあつさで済んだ。


悲しいことに、そのあたりで栄えていたサンゴには枯れてしまうほどの革命だっただけだ。




 ウラニワの人魚たちは、白くなったサンゴの死骸を越えて、ナンデモオコルを筆頭に南の海へ逃げ出した。ユキもその一人だった。




 さて、ここで大きな疑問がある。


 一体何が起きて、どうして北の海にこれほど強い作用をもたらしたのかという点である。




 もちろんその疑問に真っ向から噛みついてやろうという、とりわけ学者の人魚たちがいた。といっても、好きなものを好きなだけ調べて楽しんでいるうちに博識になった者たちばかりだから、趣味と言われればそうなのかもしれない。




 シズルの先生であるハンゾーや、ナンデモオコルの父であるナンデモミルも、その人魚たちに数えられる。


 実はもうその点に関しては、ハンゾーもナンデモミルも本を出してまとめてあるのだが、グリンはどうもその方面に関心がなかった。


 何が起きたかは気になるけれど、本をわざわざ取り寄せて開いてみようとは思わないのだった。




 第一の目標として、ナンデモミルに背中の海藻を診てもらいたいのだ。リムの住みかはあとでゆっくり考えるつもりだが、グリンはリムに立派な家を作ってやろうと思っていた。


 それをリムに伝えると、背中にぴったりくっついた友人は大喜びで、内装を空想しはじめた。


「おれ、絶対に入り口は狭い方がいいんだ。中が大きくて、いくつか部屋がつながってるといいな」




 大きな異変のある北の海に、のんびりと将来の家を考える二人が旅をしていく。


 眼下の海底は暗い青にのまれて見えなくなったり、砂地や苔を見せたりする。冷たく荒れた海だが、二人の会話はいつも通りにあたたかい。




「ここまで来たのは、僕、本当にはじめてだ」


 コンパスを握りしめたグリンが、何度目かになるその感想を漏らす。




「海藻もおれも、ずっとあったかいんだ!」


「リム、ちょっと顔を出してみなよ」


 誰もいないのをいいことに、グリンは少し泳ぐのをやめた。リムが背中の布をずらして顔を出してみる。


「つめた!」


 グリンは笑い声を立てた。人魚はこれくらい寒くても、へっちゃらだ。



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