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第67泳

 婦人はグリンをじろりと見ただけで、何も言わない。ナンデモオコルたちに恭しくお辞儀をしたあとは、前を向いて言葉を待っていた。


「では」


 アライブが、指の太く短いげんこつにペンを握り直して進行する。


「バハラ婦人、事のあらましを教えていただけますか?」




「ええ。私はあのとき、手芸用の新しい海藻を手に入れて帰ってきたところだったのです。あたりで乱暴者が出たと聞いておりましたから、鍵をかけて用心しようと思ったところだったのです。それで玄関を開けたら、まあ、なんと、この男の人魚がおりまして。それはもう、びっくりいたしましたわ。泥棒ですわ」


 婦人の名前はバハラという。バハラ婦人は時折、チラリとグリンを横目で見た。汚らわしいものでも見る目つきである。




 進行役らしいアライブが、グリンをしっかり見据えた。


「グリン、バハラ婦人に言いたいことはあるか」




 グリンは少し顔を上げて、バハラ婦人の、親切そうな丸い顔を見た。こんなにも無害そうな婦人に嫌われてしまったことに心が痛い。


しょげてしまっても良かったが、リムのことが浮かんだ。自分のために法廷に飛び出し、網に絡めとられて退廷させられるまでかばってくれた友人のことである。


リムが繰り返しグリンに望んだのは、説明を尽くして分かってもらうことだ。




 グリンは、今度はしっかりとバハラ婦人に向き直った。婦人のはっきりした眉が上がり、緊張させてしまったようだ。しかし、ここからは顔を見て伝えなければならないのだ。


「でも、あなたの家があったから、僕の友人のリムは、救われたんです」


 出来る限り語を選びながら、グリンはゆっくりと続けた。


「あなたの、整った家。そこで僕は、はじめて、自分が気付け薬を持っていたことを、思い出しました」


 それからもう一度謝ると、肩を丸めて視線を外した。

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