第66泳
「では、関係者を呼ぼう」
グリンはアライブの一言にドキリとした。司法に運ばれてやってきたのは、あのイソギンチャク、レミュウだった。
「ああっ、お前、おれを絞った乱暴者だな!」
レミュウは哀れっぽく叫んだ。
「裁判官様、こいつがおれの喉をギュウと絞ったんです。死ぬほどびっくりしました!こいつは悪いことをしました!」
「なんだ、君は。リムをいきなり食べようとして、そりゃあ、絞ったのは悪かったが、それにしても僕がそうしなければ、リムを食べてしまっていただろう!」
グリンにしてはわりあい大きな声が出た。さすがにこの無礼なイソギンチャクにカチンときたのだった。
「なんだなんだ、魚を食べて何が悪いんだ!そもそもおしゃれな布なんかつけやがって、あんなものとっちまうに決まってるだろう!」
裁判長のナンデモオコルが静かにレミュウを見据えて言った。
「お前、人の背中の布をはぎ取ったのか?」
レミュウは心臓が止まる気持ちがしたが、ふてぶてしく言った。
「おれは布が似合ってなかったから取ってあげたのです」
デッドがニヤニヤしながら言った。
「それは、びっくりさせてしまうんではないかぇ?」
レモン色にそよいでいた手が、ピンで刺されたかのようにびくりと大きく痙攣して、それからダラリと垂れた。
「ごめんなさい」
レミュウは消えそうな声で謝った。グリンに謝ったわけでも、裁判官に謝ったのでもない。はじめて自分のしたことに気が付いて、良くなかったと思ったわけだ。
大都市リュウキューウに法律はない。罪とは「不快にびっくりさせること」であり、もしそうしてしまったときは説明を尽くさなければならない。
びっくりさせてしまうことなどありふれているから、この大都市には112か所も司法が建設され、裁判は昼夜問わずに続くのだ。
レミュウは小さな声で、今度はグリンに謝った。
「ごめんなさい。布をとったのも、魚を食べようとしたのも。」
「許さないよ!」
間髪入れず、グリンはリムがレミュウに吸い込まれているところをまざまざと思い出して叫んだ。目の端まで潤む感じだ。それから静かにこう言って、レミュウからプイと顔をそむけた。
「君は、ひどいことをした。本当にひどいことだ。僕にはとても、許せるとは思えない。」
その様子を、裁判長と裁判官二名がじっと見て、何かを紙に書きこんでいる。
話が済むと、司法たちはレミュウを法廷から連れ出した。
それから、もう一人の関係者が入ってきた。あの家の婦人だった。
グリンははっとして、うつむいた。