第63泳
右側に腰かけているアライブが、毅然とした声で言った。目玉がグリグリ動いている。
「お前、名前は何という?」
かわいそうに答えることができないグリンの様子を見て、やさしく不気味なデッドが聞き直した。
「名前が言えないのかえ?筆記はできるかえ?」
グリンはゴクリと唾を飲み込んで、カラカラのノドでやっと名前を言った。
裁判長のナンデモオコルは、右手でペンを握ってげんこつにしたまま、頬杖でもつくかのように顎のあたりに手をやった。顔より少し大きな手が余計に目立つ。
右側のアライブも同じ性質の両手をしているが、ナンデモオコルの前では大人しく見える。アライブが、突き出た口をパクパクさせるように聞いた。
「グリン、お前には乱暴と泥棒の嫌疑がかかっている。異議は?」
まばたきを頻繁に繰り返すグリンに、髪の中のリムがコソコソ言い、ビンをコンコンとつついた。
「グリン、グリン、しっかりするんだ」
それでもグリンはノドが詰まってしまって、言葉がでてこない。胸は何か言いたげに上下するのだが、上部からの控えめなざわめきと前方から生じている威圧感のせいで、うつむくほか、何もすることができない。
リムは黙っていられず、ビンからするりと飛び出した。グリンの髪の中からピョンと前方に飛び出たとき、法廷はざわめいた。誰もが、裁判官のデッドとアライブまでもがハンモックに身を乗り出して、目を見開いた。ナンデモオコルだけは目を少し細めて、鼻で笑った。
広い法廷の中にあまりに小さいリムは、四方八方におじぎしながら、ヒレや尾を落ち着かなくパタパタさせた。
「ちがうんです。おれが説明します。できますから、お願い、聞いて」
グリンは前を向くと、真珠の目をパチパチさせて、目の前の友人を見つめる。口元をぎゅっと結んで、肩にうんと力が入った。