第61泳
「ところで、おれが隠れてるの、怒られちゃうかな」
リムは囁いた。こっそり牢にまでやってきたことを、司法は知らないのだ。
「でも、仕方がないよ。あのイソギンチャクみたいなやつがどこかにいて、リムに何かしないとも限らない」
さっきは外に逃げろと言ったのに、落ち着いて考えてみると全く違う結論が出るグリンだ。
実際、これには答えがないのだった。
隠し事をしないことを第一にするか、リムの安全を第一にするか、目指す地点が変われば道のりも変わるもので、このときも例外ではない。
二人はこそこそと声を潜めて話していたが、四方八方に蜂の巣の一つ一つのように牢が並んでいる。真っ暗闇で、囚人たちはお互いに話をしない。こうも暗いと寝てしまうエビもいたし、牢の格子に体を絡めてスウィングしているイソギンチャク、サンゴを屈強な顎でかじって収監されたフグもいた。
みんながみんなしょんぼりしていて、音を立てるといえばため息をつくばかりだ。
捕まる面々の中にはもちろん、闇にも負けずに生来明るい者もいるが、そのようなおしゃべりは別室に押し込められるのだ。ここは静かでシャイな囚人たちが、陰気に裁判官に会う時間を待つ場所なのだった。
ほとんど口の中で喋りながら、グリンとリムの作戦会議は続いた。
「とにかく、起きたことをきちんと話すほかないね」
「そうさ」
リムはうんうんとうなづき、そして申し訳なさそうな困り顔で言った。
「グリン、おれ、眠くなってきちゃった」
暗い場所に眠気を誘われるリムだった。小難しい場では、耐えるのはさらに難しい。
グリンは音もなく笑った。もちろんリムを寝かしてやったが、髪の中で寝息を立てているのだと思うと、やはり自分ひとりで笑うのだった。
こんなことになるなんて、考えたこともなかったな、とグリンは思った。
ミルクをもらって育った人魚の街を離れ、砂地に一人で、深い谷を見つめて日向ぼっこをした日々を思い出す。それは良いもので、いつでもうとうとするほど体の力が抜けた生活だった。
リムがやってきて背中の異変を知らせてくれ、街へ向かう途中でユキに出会い、植木鉢を作ってやった。
立派になった従姉妹のマリンに会い、助手というかマネージャーというか、一緒に仕事をしているシズルにも会った。
大輪のサンゴ礁が不安定な自然だったのは驚いたが、リムがわがままを言ったおかげで二人してハンゾーの話を聞いた。
嵐が来れば砂の下で眠り、そして大都市リュウキューウで捕まってしまったが、ここで説明を尽くして外に出ることができたら、医者はもう目前だ。
グリンとリムのあたたかい友情の上で行われた計算には、裁判長と二人の裁判官の態度があまりに権威的でおそろしく、これまでになく緊張を誘うものだという考えが、ウロコひとつぶんも入っていなかった。