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第59泳

 力自慢の女の人魚がたくましい腕で玄関の鎖を引くと、金属の扉がギロチンのようなスライド式に持ち上がり、口を大きく開けた。


 グリンは扉が巻き起こした海流を額に受けながら、尾まで震える。両脇の女の人魚ががっしりと掴んでいるから気絶しても問題なさそうだったが、リムのことが頭によぎると、目をパチパチさせて口を結び、しっかりしていようと思うのだった。




 司法の中に入ると、扉は重々しく閉まって、あたりは暗闇に包まれた。


 扉のすぐ向こうに、案内役として丸椅子に鎮座している、紫色のトゲを持つこぶし大のウニがいた。捕まってやってきた者たちにきわめて事務的な説明を与える役割を果たしている。




 相変わらずグリンを捕まえたままの司法たちはウニの方にグリンを向かせ、説明を聞かせた。グリンは女の人魚の間で、もはや床の話を聞いているかのように顔を下向きにうなだれている。


「ご説明申し上げますね」


 ウニは高い声で話し始めた。




 捕まると牢に閉じ込められるが、やがて順番が来て、三人の裁判官の前に引き出されると言い分を述べることができ、量刑が下る。量刑が不服であれば、別の「司法」に申し立てが三回までできる仕組みだ。


 グリンはここに併設されている牢の中で、裁判の順番を待たねばならない。裁判は、この区域を担当している裁判長のナンデモオコル、二人の副裁判官のデッドとアライブに任されるという。




「もちろん、それに不服があれば申し立ての上、別区域の司法で裁判を受け直すこともできますからね。まあ、そのあいだ、ずっと牢ですけど」


 紫色のウニは、トゲを何本か動かしながら言った。実はこのウニは新米で、案内役としてこうして一人で仕事を任せられて、少しせわしないような気持ちなのだった。




 窓ひとつなく、灰色で味気のない部屋には机も一つのハンモックすらもない。壁には先ほど入ってきたドアと、未知のドアがもう一つあるだけだ。どれも金属の格子で出来ていて、静まり返っている。


 ここは囚人の荷物を没収する部屋だが、こちらでも二人がかりでグリンの腰からポシェットを外して持って行ってしまうのだった。ユキからもらった布は騒乱の中で、どこかに行ってしまっていた。


「荷物は全部もらいますからね。まあ、あなた頭から接着剤が出るタイプ?」


 がっしりした女の人魚は、グリンの髪の中まで検査しかけて手を止めた。手をつっこもうものなら大変な目に遭うと判断した。うなだれ、しょげかえって固まっている男の人魚は、事情は知らないが悪意がなさそうだと見て、棒の一本くらい髪に絡まっていても構うものかと思った。




 髪の中にぐっと入れ込んだビンについて、グリンは言わなかった。今度こそ本当に身が固まってしまっていて、言い出す余裕がなかったと言う方が正しい。

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