表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/82

第34泳

 上方から、サンゴをしゃぶってミルクをもらう、赤ちゃん人魚たちが騒ぐ声が響く。


 何かが上手くいっているらしく、上機嫌な笑い声がする。それから、何か失敗があったのか、不機嫌に泣きそうな声もある。




 グリンも、マリンも、このサンゴで育ったのだ。




 時間の感覚に疎い人魚にとっては、どれくらいの年月が経ったなどとは説明しにくいところがあるが、今でもこうして小さな人魚がミルクをもらって育っている。




「安心だ。なんだか安心だ」


 男の人魚は呟いた。口の中をモゴモゴと動かしただけだったから、その声はアギジャビヨイコースへの展望で胸いっぱいの、ユキには聞こえなかった。


 ただ、背中で海藻をくわえている小さな魚は、グリンが安心なら、おれも安心だと思うのだった。




 サンゴにエサを与える壺型の家は、今はシンとして、一定の高さを守る家並みを見守っていた。


 その特別なエサで発光の力を得たサンゴは、はるか下方にまで明かりを届けているが、ユキが二又の尾をいつもより大きく振るたび、きらりきらりとはじかれている。




「ああ、もう、今度は絶対、当てられないようにする! アギジャビヨイコースはさ、体の手入れもおしゃれもやるんだよ。それも何日も! やばい!」


「ユキ、もうちょっと、ゆっくり泳いでくれないか」


 小さな尾ひれのために、ユキよりゆっくりとしか泳げないグリンは、尾をくねくねと動かしながら、一生懸命に着いていくのだった。街をゆっくり見ながら、余韻に浸る暇もない。




「こら、ケンカするな! 早くミルクを飲まないと、またいつ『空の落とし物』になるか分かんないんだぞ!」


 姿は見えないが、赤ちゃん人魚の面倒を見る、いつぞやの元気な声も聞こえた。この声の持ち主は、街の中を自由に泳げるほど力がついたことが嬉しいのと、役に立つことをするのが面白くて、自分よりも小さな人魚の面倒を見ているのだった。




 赤ちゃん人魚たちを、ミルクを多く蓄えたサンゴに誘導しながら、大人にもらった貝などを食べる。よく頑張っていると、おやつをもらえるのだ。


「おっ、この貝、うまいな」


 この頃は、黄金色の髪をなびかせた、あの人魚のお姉さんのようになりたいと思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ