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狐と影

 コーポ アルツハイマー


 白を基調とし、赤黒いレンガで出来た垣に囲まれた目立たないアパートの3階の303号室、その部屋の一番奥に位置する部屋、もといリビング。

 


 少女、神流秋羅かんなあきらはそこにいた。


 肩につくほどの長さの艶々とした質の良い黒曜石のような黒い髪、その後ろ髪を後頭部の辺りで纏めて縛っている、所謂ポニーテールという髪型である。


 血色の良い肌に整った顔立ち、その顔に今は表情は無く少し釣りがちな目を今は少しだけ細めて何かを見下ろすような視線を送っている。


 同年代の女学生たちの中でも平均より少しだけ高めの背丈に細めの体を少々着崩れた冬物の紺一色のブレザーとスカートの学生服が身を包んでいる、首元に巻かれたネクタイは家に帰ってきたからなのであろうか、緩められている。


 足には紺色の太ももまである長い靴下をはいている、ふくらはぎを覆いそうなくらいの長さの紺色の靴下だ、その彼女の足元には彼女のものであろう肩掛けの黒い学生鞄が床に置かれていた。



 そんな少女に見下ろされている人間がいた。



 首が隠れるほどの後ろ髪の黒いざんばら髪に色あせたジーンズ、前側の中心に"レシート不要"という縦書きのプリント文字の入った白いロングTシャツといった格好をしている。


 そんな人間がフローリングの床の上で胡坐をかいて座っている、性別はわかりづらいが座っていても背が高めでがたいが良い所から男性ということがわかる、足には黒い鼻緒の下駄を履いている人間だ。


 胡坐をかいている人間の右隣の床の上には下端の部分がチーズの様に穴だらけになってしまっていて所々に得体の知れない謎のシミが付いている茶色い皮のマントが脱ぎ散らかしたかのようにくしゃくしゃになって置いてある。


 そして、手を後ろに回され、ロープでぐるぐる巻きに縛られている状況だった。


 ここまで見ればまだ少しおかしな格好の人間なのだが、その人間にはまだおかしな部分があったのだ。


 その人間は狐の仮面を被っていた。



 金の塗料で描かれた釣りあがった眼の中心には黒豆のような小さな瞳が描かれている


 雪のように真っ白な肌、口は半開きになっていて真っ赤に塗られへの字にまがっている


 頭部の両端に鋭角につきあがった大きな耳が二つ付いている狐のお面だった。



 そんな怪しい格好の人物の前で秋羅は冷ややかな目でその人物の前に仁王立ちしていた。


 まるで養豚場の豚を見るかのような冷え切った目だ


 ――可哀想だけど、明日にはお肉屋さんの店先に並んでしまう運命なのね


 とでも言うかのような、見たものを氷付けにしそうなほどの冷たい視線である。


 先ほどのスタンガンとロープを持った秋羅と狐のお面のリビングでの騒動の後、秋羅は玄関から持ってきたロープで痙攣して動けなくなっていた狐のお面を動けぬように縛った、その後警察に通報し後を任せようと考えたところで狐のお面の人間がむくりと起き上がり今に至るのであった。








「それで」


 彼女が唐突に言葉を紡ぐ、覇気は無いが不思議と迫力のある凛と透き通った声だ。


「なんで、誰かまったく知らない君は僕の家の中にいるのかなぁ」


 秋羅は腕を組み、仁王立ちのまま少しうつむき言葉を続ける。


 耐え切れなくなったのか、狐のお面は秋羅のほうから視線をはずし首だけを右に向ける。


「その…」


 しばらくして狐のお面の口の辺りから発せられる、搾り出したかのような声、若い青年男性よりも少し低い感じの声である。


「ビックリ…させようと思って」


 先ほどと、同じく搾り出したようなおどけた感じの低めの男の声で続ける怪しい人間、しかもかなり苦しまぎれな言い訳である。


 秋羅の顔をじっと伺うように顔を彼女に向けている。


 しん、とまるで時間が止まったかのような静けさだ、冷たい圧力に押しつぶされそうな空間だ、冷たい空気が流れ、家電の待機音や家鳴りの音が時折聞こえる


「へぇ」


 秋羅はまるで嘲笑するかのような顔で、狐のお面を見下したまま、ふっと笑い呟く


「僕をビックリさせようと」


「そう」


「人の家の鍵を勝手に開けて」


「うん」


「人の家のリビングに勝手に侵入して」


「へへ……仰るとおりで」



 表情と声色を変えず、言葉を続ける秋羅、そんな彼女が恐ろしいのか下手に出たかのような機嫌を取るような声で相槌を打つ狐のお面だった。







「こんなことをした、と」


 秋羅はそう言いいつつ右腕を上げるとリビングの電灯の丁度真下に配置された長いテーブルを指差す、普段は彼女や家族が食事をするときに使用するものである。


 テーブルの上には冷凍食品の空袋、カップラーメンの空き容器、空になったペットボトルや菓子類の袋や箱、あけられて中身が無くなっている缶詰が散らばっている、机の上をよく見るとお菓子の食べ粕や机に付着した鯖の缶詰の煮汁などがちらほらと見える。


 問題なのはそれが秋羅の家の冷蔵庫や戸棚に入っていたものであること、そして彼女の目の前にいる人間がそれを食い散らかしたことだ。


「誰もそんな天空の城のドーラみたいなサプライズは望んじゃいないよ」


 秋羅はにこりと笑顔を作り先ほどよりもトーンの低い声で皮肉めいた言葉をぶつける、顔は笑っているが目が笑っていない、全身から怒りのオーラがにじみ出て見える気さえする十中八九怒っているのだろう。


 秋羅のそんな態度に気おされたのか胡坐のまま身をよじり必死に秋羅から目を逸らそうとする狐のお面である。



 二人の間に訪れる沈黙、ぎしりと家鳴りの音が響く、数秒後先に口を開いたのは狐のお面の方だった。


「まあ、あれよ、一応俺もここには君に用事があってきたんだけ」


「こんなトチ狂った格好でしかも不法侵入した挙句に勝手に家のものを飲み食いている人間の弁解を聞けと ?」


「悪い、実は風呂も借りた、なかなかいい湯だったぞ」


 その言葉を聞いた瞬間、秋羅はまた何も言わずに先ほどのような笑顔を作り、狐のお面の胡坐をかいた内膝の上に足を乗せ思い切りぐりぐりと踏みつけた。


「いてぇ ! いててててててて ! 嘘です、流石に風呂は冗談ですって !」


「冗談はその格好だけにしてもらいたいね」


 皮肉めいた事をいいつつ足をどける秋羅、狐のお面はうつむきながら嗚咽を漏らして苦しんでいる。


「とにかく話を戻そう、君にとっては一刻を争う事態だしな」


「そうなの、じゃあさっさと警察に通報しないとね」


「いや、本当に頼むから俺の話を聞いてください」



 狐のお面から紡ぎだされる言葉に間髪入れずつっこむ秋羅、一切の弁解は認めないつもりらしい、そんな彼女に狐のお面は頼みこむように胡坐をかいたままで頭を下げて返す。



 再び押し黙る両者、時折ひゅうと外の風の音が聞こえる。




 秋羅は再び目を細め、ふぅと息を吐き少し諦めたような表情をして痺れを切らしたのかその狐のお面を見据え立て続けに口を開いた



「わかったよ僕だって鬼じゃないんだ、警察に突き出す前に言い訳くらいは聞いてあげてもいいよ」


 胡坐をかいて座っている狐のお面の前から少し後ろに下がりつつ、狐のお面に対し少し見下したような口調で言う、相変わらず腕は組んだまま見下ろすような視線だ


 後ろはにはベランダに繋がるガラス戸があり、カーテンを閉めていないので、真冬の冷気が入ってくるのを微かに感じられる。


「で、なんでこんなことしたのさ、不況で仕事クビ切られて生活できなくなったとか ? それとも世間に注目されたかったとか ? じゃなかったらついカッとなってやった、今は反省しているとかどうせそういう系統なんだろうけどさ」


「とりあえず君が俺のことをどう思ってるのかがよくわかった…」



 棘を含ませた言葉で続ける秋羅に少し苦笑したような声で答える狐のお面。


 そして、狐のお面は秋羅の顔をまっすぐと見る、お面のせいで相変わらず表情は解らないがとても真剣なものに見える、彼女の視線と金色の三日月が交差する。


「それじゃあ、お言葉に甘えて話を進ませてもらう」




 狐のお面が先ほどとは違う真剣な、冷静さに満ちた声を発する。


「まず、俺が君に会いに来た理由なんだが」


 再び真剣な声色で発言する狐のお面、秋羅はそんな先ほどとは違う雰囲気の狐の面の言葉をじっと聞いている。


「俺はとある秘密結社の一員で任務でこの町を訪れたんだ」


 突如とんでもないことを言う狐のお面であったが、秋羅は表情を変えずただ黙って狐のお面の言葉を聞き続けている。


「今、町には俺たちの組織が壊滅すべく追っている敵が潜んでいる、匿名でそんな情報が入ってきたんだ」


「だが、うちの組織の対応が遅れてしまってその敵にもうこの町の人間が二人もやられているんだ」


 狐の仮面の声は変わらず真剣そのものだ。


「で、その敵の次のターゲットが…」



 一度そこで言葉を切る狐面の男。



「君って訳よ」


 突如、猫背になりずい、と顔を突き出す狐のお面。


「それを阻止するために俺が派遣されてきたって訳」


 終始真剣な声色で語り続ける狐のお面、秋羅は相変わらず黙ったままである。


「えーっと君、神流 秋羅さん…だっけか ?」


 秋羅は思わずびくりと身を跳ねて表情を少し緩ませる、突如名前を教えた事のない人間に名前を言い当てられたのだ。


「なんで、僕の名前……」


 秋羅は少し驚いたような声で微妙に表情を崩して狐のお面に問う、


「あー、ちょっと俺のズボンの右のポケットに紙切れが入っているんで、出して広げて俺の前に置いてくれます ?」


「あ、うん」


 急な丁寧な口調に思わず秋羅はつい答えてしまった、彼女は狐のお面のズボンの右ポケットから紙を取り出した、そしてそれを広げ、狐のお面の座っている前の床に置く。


「えー、社員ナンバー146番、コードネーム"Eiserneアイゼルネ "へ告ぐ、次のターゲットの詳細が解ったのですぐに現場に向かい、ターゲットをわれらが敵の魔の手から守護されたし、あー、下にターゲットの詳細情報を記載しておくので活用されたし」


 狐のお面はまるで国語の授業中に教科書の音読をさせられている小学生のように、間の抜けた声で目の前の床に置かれた紙の内容を音読し始めた。


「んーと、ターゲットの氏名 神流 秋羅、性別は女性、年齢は16歳、7月12日生まれ、血液型はB型、森が丘高校1年B組で出席番号18番、一人称に少々の癖ありで、好きな食べ物は苺大福につくねに砂肝、苺大福は解るけどさ後の二つはなんかおっさんみたいだよな、で、特技はヨーヨーと裁縫でスリーサイ」


とまで言ったところで、秋羅が紙の内容を読み上げている最中の狐のお面の胡坐をかいて折り曲げていた膝を思い切り蹴り飛ばした。


「っでぇ!」


と間抜けな叫び声を上げ、座ったままぴょんぴょんとその場で器用に跳ねる狐のお面であった。


「で、言いたいことはこれで終わり ?」


「い、いや…もうちょっとだけ言わせて ?」


 また冷ややかな表情に戻り言葉を発する秋羅に対し狐のお面は痛みに堪えつつ答える。


「まあようするにだ、君を敵から守るためにこの紙に書いてある住所の家を探してたんだけど、何か道に迷っちゃってさ、夕方前に着いたんだけど廊下で待ってると邪魔になるかなって思ってご勝手ながら中に入らせてもらったと」


 しばらくすると、狐のお面は膝の痛みも引いてきたのか飛び跳ねるのを止め、落ち着いた声で再び言葉を発する。


 秋羅は変わらず無表情のままだ。


「まあそんなこんなでテレビでも見ながら待たせてもらおうかと思ったんだけど、朝から何も食ってないことに気がついてさ」


 それまで真剣だった声色は、言葉を紡ぐたびに元の緊張感の欠片もない声に戻っていく。


「それで、ちょっと魔が差しちゃったわけだけど


「まあそういうわけで俺が来たからには大船どころか、ラーカイラムにでも乗った気分でいるといいぞ」


 とどこか得意げに言う狐のお面、それを見て「なるほどね」と感情のこもらない声を漏らす秋羅だった。


 しばらく、そのままの姿勢で動かない狐のお面と秋羅だった。








「さてと110番、110番っと」


 そして、どうでもいいといった声でそう言うとくるりと振り返り、家の備え付けの壁にかかった電話の方に向かう秋羅、


「ちょ、待ってよ !解ってくれたんじゃないのか、なるほどねとか言ってたじゃん !」


「とりあえず、君が僕のストーカーってとこは良くわかった、とりあえず僕なんかじゃなくてさもっと可愛くて明るい女の子とかいるじゃん、そういう娘のストーカーにすみやかにチェンジすることをお勧めするよ」


「いや、だからそうじゃなくてだね」


「それと僕の情報なんてどこで調べたのさ、最近良くある個人情報の流出って奴 ? 怖いねパソコン通信って」


「なんか近年のネット事情に疎い母ちゃんみたいな言い草だな」


 無感情な声色で感想を述べる秋羅に狐面の男が言う。


「いや、だから俺は秘密結社の一員ていうか派遣社員 ?」


「そんな中二病じみた与太話を信じろと ?」




またもや秋羅が狐のお面の言葉を遮った、顔に表情がなくじとっとした目つきをする秋羅。


「いや、まて、組織がちゃんと実在する証拠だってあるぞ ! この紙の一番下の左端を見てみてくれ !」


秋羅はだいぶ焦った様子の狐のお面の前の紙切れを拾い上げ紙切れの左端を見つめた。


"秘密結社ナイトハント(有)"


と、紙切れの一番下の左端にでかでかと印刷されている、それを見た秋羅は顔をしかめた。



「しかしよくもまあ、こんなもの作ったものだねぇ、案外暇人なの ?ニート ?」


秋羅は呆れ果てたような声で、紙切れを一瞥した後に狐の仮面の方に向き直り言う、まともに取り合うつもりは毛頭無いらしい。



「いやいや、それ作ったの俺じゃなくて本社の事務員が」


「あー、はいはい僕の言うセリフではないけど、続きは署の方でな」


「ちょっと待ってよ !警察の人が取り合ってくれなかったらどうするの !」


「史上最大の証拠品である犯人自身が現場にいたんだから全然大丈夫だよ、某裁判ゲームだったら一回つきつけるだけでクリア可能なレベルの証拠がここにバカみたいに転がってりゃ、ね」




 狐のお面の苦し紛れの言い訳に冷静に答えつつ、秋羅が電話の前に立ち止まり受話器を手に取ったときだ。


 ごう、と。


 彼女の真横、左側から秋羅を目掛けて生暖かい突風のような横風が吹き去ったかのような感触がした。


 そして、秋羅の手から受話器がするりと抜けてコードに繋がった受話器が宙吊りになるように電話機からぶら下がる。


彼女の視線の先、そこにいたのは、うつむいて立ち尽くす真っ黒な人の形をした塊。


人間の影を立体化させたような、生き物かも分からない、そんな『何か』がリビングの床に立っていた。



「……っ !」


 その『何か』から発せられる意味不明な威圧感に気おされ、秋羅の表情が引きつり、どんどんと後ろへと後ずさる。


 ゆっくりと体を震えさせて後ずさる秋羅はついに縛られ、地面へ胡坐をかいている狐面の男の隣まで下がって来てしまった。


その間も、黒い影は俯いたままにぴくりとも動かない。


「怖いか ?」


 突如、胡坐をかいている狐面が冷静な声色で呟くように秋羅へ問いかける。


それを聞いた秋羅が引きつった表情のまま、狐面の男へと顔を向ける。


狐面は相変わらず前を向いたまま、胡坐をかいて座っている。


面のせいで表情は分からない。


「なあ、俺と取引しないか」


 再び真剣な声色で呟く、狐面の男、十中八九、秋羅へと問いかけている。


「君は、縄を解くだけでいい、もし縄を解いてくれたら」


「あいつを何とかしてやる」


 問いかけを続ける狐面の男にそれを凝視する秋羅。


そして、俯き、ぴくりともしなかった真っ黒な人影が首を上げ始めた、そして、まるでこちらの存在位置を確認するように首を左右に回し始める。


そして、ぺたりと、足を一歩前に出し前進する真っ黒い影。


それを見た秋羅の体がびくりと跳ねあがる。


「こっちを認識し始めた、か、どちらにせよ猶予は無い」


「さあ、どうする ?君は知らないだろうがあいつには俺たちくらい簡単に殺せる手段がある」


「それで、二人とも死ぬか、君が俺の縄を解いて俺を解放して助かるか」


 首だけを微かに動かし、秋羅を見据えるようにして言い放つ狐の面、その三日月の様な目が秋羅を凝視するようにじっと見つめている。


その間も黒い影は一歩、また一歩とこちらへと近づいてくる。


秋羅の表情が更にこわばり、黒い影が近づく。


「さあ、どうする ?」


 そして、狐の面が追い撃ちをかけるかのように再び言い放つ。


 次の瞬間、秋羅が一歩、前へと踏み出す。


そして、狐の面を縛っていた荒縄の結び目を引き、その縄の締め付けを緩めた。


次第に狐の面を縛っていた縄がたわみ、するりと体の下へと降りる。


「あーあっと」


 狐の面が急に立ち上がり、天へ向かい体を伸ばす。


「ああ、ずっと同じ姿勢だったから体が痛い」


 そして、呑気に自らの肩に手を置き、首を回してだるそうに言う狐の面。


「早くなんとかしてよ」


 未だにこわばった表情の秋羅が呟くように狐の面へ言う。


「ああ」


 そう、一言だけ呟いた狐の面は自分のいた背後、ベランダへと続くガラス戸を開けて外へと出る。


「ちょっと !」


 それを見た秋羅が驚き声を張り上げる。


「大丈夫だって、逃げやしないよ、ちょっとこいつを取りたかったんだ」


 いたって冷静な声色で言う狐の面の男、そして、ベランダへ腕を戻し、何かを掴みとり部屋の中へ素早く戻る。



その手に掴まれたのは真っ白く、彼の腰までありそうな大きな布の袋だった。


「あ……」


 秋羅が思わず声を漏らす、秋羅が今朝、狐の面を見たときに、彼が背負っていたものだ。


 そして、狐の面は手早くその袋の口を開き中身を床へと出す。



床に転がったのは狐の面の腰元まである大きさの大きな銀色の球体であった。


傷一つ無く映った景色が微かに反射し、映り込む程に歪みのない、まるでパチンコの玉の様な大きな球体。


狐面の男がおもむろにその球体へと手を伸ばし、掴む。


掴んだその個所がその手に対応するかのように、スライムのようにぐにゃりと変形し、狐面の男はその銀の球体を鞄のように掴んだむと。



それを黒い影へ目掛けて投げた。



そして、投げられた球体が空中で風呂敷のように広がり、その黒い影を包み込むように覆ってしまう。


それを見た狐面の男が手の平を開き、腕を逆手に上げた。


そして、その開かれた手の平をぐっと握ると。



それに反応するかのように黒い影を覆ったその銀の布切れが勢いよく縮み、黒い影を握りつぶすかのように、ぐしゃ、と潰した。


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