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スカッと短編

転生ヒロインは、作者びいきのメインヒーロー(俺様)よりも推しのサブヒーロー(不遇健気)と結ばれたい

掲載日:2024/03/20

 

『お前は本当にどんくさい女だな』


 キラキラの背景。

 大ゴマに映し出されるのは、イケメンのお顔。


 彼は呆れたような、または、相手を少しバカにするような顔付きをしている。

 でも、その眼差しには、どこか優しさもこめられている。


 普通の読者なら、ここで”きゅん”とするところなんだろうな。

 そのページは少女漫画の見せ場だから。

 でも、私は内心でげんなりしながら、ページをめくる。


『……俺の手を煩わせた罰は、受けてもらうぞ』


 キラキラのイケメンが、にやりと意地悪な顔をしている。


 そして――。


 はい、きた。


 見開き。

 強引なキスシーン。


 びっくりして、目を見張るヒロイン。

 その背景には「きゅん!」という効果音が書かれている。


 そこで私の我慢は限界を迎えた。


「人の許可なくキスすんなッ!!」


 っていうか、ヒロインは落馬して怪我をしたシーンだよ? 彼女は何も悪いことしてないのに、“ 罰”ってなんだよ。



 彼は何様のつもりなのか?




『あなたの好きな俺様キャラ ランキング』

『1位は ルシオ・クリスティア で決まり!』




 あ、そうだった。

 思い出した。


 彼は漫画の人気キャラ。

 立ち位置はメインヒーロー。

『俺様キャラ』の頂点に立った人である。




 ◇




 私はその日、頭を打って、前世を思い出していた。

 ……真っ先に思い出したのが、漫画を読んでいた時の記憶ってどうなの?


 ふう、と呆れながら、体を起こす。

 一気にいろんなことを思い出したから、頭が重い。


 いったん状況を整理しよう。

 私の前世は日本生まれ。普通のOLだった。趣味は漫画を読むこと。


 そして、今の私はディアナ。

 17歳。身分は平民の少女。

 この国では珍しい赤毛は、ちょっと癖がついている。毛先がふわっとしていて、おしゃれな感じのボブカットだ。赤い瞳は、無垢であどけない。


 漫画の紹介文では「平凡な少女」って書かれていたけど、私としてはけっこう可愛い顔をしていると思う。


 あー。どうしよう。

 やっぱり、ディアナって、あのディアナのことだよね?


 この名前も、この見た目も、前世の記憶では馴染みのあるものだ。

 ……だって、好きな漫画のヒロインなんだもん。


 私が寝ていたのは、豪華なベッドの上だった。部屋を見渡すと、これまた豪華な家具の数々。

 平民の部屋がこんなに立派なわけないよね。

 ってことは、もう漫画のストーリーは始まっているということに……。

 ここはきっと、王城の一室だ。

 そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。


「ディアナ様……! 目を覚まされたのですか?」


 低く落ち着いた声が、部屋の外から。


 う、うそ。この声ってまさか……。


「グラティス様……!?」


 おっと、思わず様付けしてしまった。


 でも、無理はないよね。

 だって、「ディアナ」の記憶が私に教えてくれている。この声は、国の騎士団長である、グラティス・ローラン!


 漫画で私が一番好きだったキャラ。

 つまり、推しキャラだ!


「失礼いたします」


 礼儀正しく告げてから、彼は室内に入ってきた。

 その姿に、一挙手一投足に、私は目を奪われていた。


 洗練された立ち振る舞いは、彼が模範的な騎士であることの証だ。

 年齢は22歳(公式プロフィールより)。

 その若さで騎士団長を務めているということからもわかる通り、非常に有能な人物だ。


 銀髪に碧眼。凛々しくて、男らしい顔立ちをしている。

 漫画の紙面でも、いつもお顔が綺麗だったけど……! こうして間近でみると、更にすごい。実物の方が何万倍も綺麗だ! 長時間、鑑賞しても飽きはこないだろう。


 着飾れば優雅な貴公子といった見た目だが、今、彼がまとっているのは騎士団の制服。マントをたなびかせながら歩く様は、これまた彼によく似合っていた。


 グラティスは室内に入ると、丁寧に片膝をついた。必要以上に近付いてこないのは、私を気遣ってくれているからだろう。……ちなみに、彼の身分は侯爵である。本来であれば平民である私に、そんな態度をとる必要はないはずなのに。


「ディアナ様……もう起き上がっても、大丈夫なのでしょうか」


 彼は不安そうに眉を垂らして、私を見つめた。

 その眼差しには慈愛がこもっている。心から私のことを心配してくれていたのだろうとわかる表情だ。


「あなたが落馬したとの知らせを受けて、肝が冷えました……。ご無事でいてくれて、何よりです」


 真心のこもった声に、私の胸はぐっとなった。


 そして、推しが実在していることで、「ここはやはり漫画の世界なのだ」ということを理解した。


『ルビーを探して』。通称『ルビさが』。


 それは前世で私が好きだった少女漫画だ。ジャンルは異世界恋愛ファンタジー。平民のディアナにある日、『宝石の巫女』の力が芽生え、彼女は王城に連れてこられる。そこで出会った第一王子に見初められる。また、騎士団長であるグラティスも彼女のことを好きになり、恋愛は三角関係で進行する。


 とはいえ、私の感覚では「これ、本当に三角関係か?」と首を傾げる描写も多かったのだけど。


 グラティスは忠犬のように私を見つめている。そこで私はハッとして、咳払いをした。


「ええ……その……。もう大丈夫です。グラティス様」


 すると、彼はとろけるような笑みを浮かべた。

 う、間近で見る、推しの笑顔! すごい、きゅんきゅんしてしまう……!


「俺の前では、そうかしこまらなくても大丈夫ですよ。といっても、あなたは突然、『宝石の巫女』と呼ばれて、この王城に来た身ですから……慣れるのにも時間がかかることでしょう」


 彼はそこで忠誠を誓うように、胸に手を当てた。


「何かあれば、いつでも俺に相談してください。いつでも、あなたのお力になります」


 ああ、漫画で読んでいた通りだ。

 グラティスは本当に優しくて、誠実な騎士なんだなあ。

 だからこそ、私は胸が苦しくなる。この後の展開を知っているから。


 彼、漫画の中ではすごく不遇キャラだったんだよなあ……。

 だって、彼はディアナのことが好きなのに、「サブヒーロー」的なポジションなのだ。私が「これって三角関係か? すでに敗北決定してない?」と疑問に思った点がそこである。


 ヒロインのディアナは、1話の時点で第一王子に一目惚れしている。最初からずっと王子とディアナは両想いの状態なのだ。

 つまり、そこに横恋慕しているグラティスは完全に当て馬だった。


 それなのに、全編にわたって、彼はものすごく健気なのだ。

 彼はディアナが王子のことを好きだと知っている。それなのにずっと、ディアナを支えて、守ってくれる。

『宝石の巫女』であるディアナは命を狙われ、また、平民なのに王子と仲良くしていることで、他の令嬢たちからも嫌がらせを受ける。その時、全力で守ってくれるのはグラティスだった。


 物語の中盤では、暗殺者から庇って、彼が大怪我を負うシーンがある。

 ディアナが彼に謝ると、『あなたが無事でいてくれて嬉しい』と答えるのだった。


 そのシーンを読みながら、私は泣いた。


 グラティス! 健気すぎるよ!

 そして、その後で展開される「王子とディアナのいちゃらぶシーン」には、ぶちぎれそうにもなった。

 グラティスがかわいそうだとは思わないのかー!!?


 ちなみに終盤で、グラティスの隠していた恋心がディアナに知られてしまうシーンがある。もちろん、ディアナの返答は「お断り」であった。

 その時もグラティスはむしろ申し訳なさそうにしながら、「あなたのお気持ちは存じております。どうか殿下とお幸せに」と、優しくほほ笑むのだった。


 え? そ、そんなことってある?

 じゃあ、誰がグラティスを幸せにしてくれるの!?

 彼は国に仕える騎士だ。今後一生、王子に仕えながら、ディアナと王子がいちゃいちゃしているところを見させられる人生になるんじゃない?

 そんなの、あまりにも不憫すぎる……!


 私がそんなことを考えていた時、部屋の扉が開いた。


「何をしている、グラティス」


 高圧的な台詞が飛んでくる。

 室内に入って来たのは、金髪の青年だ。

 その顔を見て、私は、げっ、となった。


『ルビさが』のメインヒーローである、『俺様王子』。

 ルシオ・クリスティアだ。


「俺の女の部屋に、なぜお前が勝手に出入りしている?」

「申し訳ございません、殿下。ディアナ様のご容体が心配で……いてもたってもいられず」


 高圧的に叱られて、グラティスは悲しそうにうなだれた。


 ああ、相手は年下のぼんぼん王子だというのに……! 職務に忠実なグラティスは、絶対に彼に逆らったりはしないのだ。


「邪魔だ。すぐに出ていけ」

「……はい」


 えー、行かないで! 王子の代わりにこの部屋にいてよ!

 という私の思いも虚しく、グラティスは去って行ってしまった。


 ルシオがずかずかと寄ってくる。


 金髪に碧眼。恐ろしく整った顔立ちだが、高慢そうな雰囲気である。

 年齢は20歳(公式プロフィールより)。

 これまた紙面で見るよりもずっと、顔がいいな……! でも、私はやっぱり優しく落ち着いた雰囲気のグラティスの方が好みだった。ルシオは偉そうな態度が、どうにも鼻につく。


「馬から落ちたと聞いたが? まったく、お前は本当にどんくさい女だな」


 は?

 いきなり貶められて、私は眉を寄せた。


 別に馬から落ちたのは私のせいじゃないんだけどな……。そして、そのことを彼も知っているはずなのに。


 この日、私は令嬢から誘われ、乗馬を初体験していた。しかし、それは令嬢の罠だったのだ。彼女は馬の尻をわざと鞭で叩いた。それにびっくりして馬が暴れ出して、私は落ちてしまった。

 彼女はルシオのことがずっと好きだった。だから、私に嫌がらせをしてきたのである。

 この段階では、ルシオもグラティスも「それが令嬢の仕業」ということを知らない。しかし、「馬が突然暴れ出した」という報告は受けているはずだ。


 つまり、私が落ちたのは事故ということを知っているはずなのに、ルシオはこの態度なのである。


「俺は忙しいのだぞ。お前のような平民出の女が、第一王子である俺の仕事を妨害しようとはな。ずいぶんと、いい度胸をしているじゃないか」


 は……?

 この男、やたらと顔がいいけど、そこから飛び出してくるのは嫌味だらけの台詞。

 そんなのを聞かされた私は、思わず「何言ってんだこいつ」という顔になってしまっていた。


 いや、ほんとに。

 さっきまで意識を失っていた女性に対して、何て高圧的な物言いだろう。


 ちなみに、漫画の作者さん的には、この台詞は「胸キュンポイント☆」らしい。実はこのシーンの前に幕間が挟まれている。そこでは彼が私のことを知って、ものすごく焦った様子で駆けつけてくるという様子が描かれているのだ。

 そんなに必死になってやって来たのに、いざヒロインを前にすると、かっこつけて高圧的な態度になってしまうのが「萌え」とのことらしい。


 うん、実際にこのシーンが好きという声も聞いたことがあるし、彼が読者さんからとても人気のあるキャラであることは、私も知っている。

 作者さんの萌えを否定するつもりはいっさいない。


 でもね? 言わせてほしいんだけど……。


 どれだけ必死になって駆けつけたところで、ヒロインのディアナはそれを知る術がないよね!? 彼女からすれば、ようやく意識が戻ったところに、現れたこの男! こちらの心配を全然してくれないどころか、いきなりいちゃもん付けてくる、嫌味男でしかないんですけどー!?


 しかも、漫画だとこのシーン、ディアナは委縮して、謝りまくるのである。


『ごめんなさい! ルシオ様……! 私がドジなばかりに、ご迷惑をおかけして!』


 このシーンを読んでいる時、私は声を大にして言いたかった。


 ディアナちゃん!? ちがうよ! 謝らないで!!

 というか、本当にこいつでいいの!? よく考えてみて! と、彼女の肩をつかんで、がたがたと揺らしながら、問いただしてみたかった。


 だって、どう考えても、さっきの騎士団長の方がよくない!? あなたのことを心から心配してくれていたんだよ!

 それに比べてこの王子! そもそもこいつ、部屋に入って来るのにノックすらしなかった、超デリカシーのない男なんですけどー!?


 そんなわけで、本来のディアナであれば謝らなければいけないシーンのはずなのに、私は内心でげんなりしていた。

 ルシオは不審そうに眉を寄せる。


 しかし、結局は、漫画の続きの台詞を吐くことにしたらしい。


「ふん、多少は申し訳ないと思っているようだな」


 いいえ、まったく!

 この顔見て、わかんないのかな!?


「俺の手を煩わせた罰は、受けてもらうぞ」


 彼はずかずかとベッドに歩み寄ってきた。

 ええ、これってまさか。

 私は眉をひそめながら、後ずさろうとする。


 おい。

 おい、君。

 近いんだよ。


 さっきの騎士団長の、適度な距離感を見習ってほしい。

 床についている女性に対して、近付いていいラインを超えちゃってるんだよ。


 そんなこちらの気持ちなど知らずに、彼は私の真横に立った。


 その手が私の頬に添えられて……。

 そして、距離が更に近付いて……。


 いや、むりむりむり!

 そこで私は、彼の体を押しやった。


 せっかくの見開きシーンなのに、邪魔しちゃってごめんなさい。

 でも、無理なんだもん。


「…………あの。結構です」

「……は?」

「そういうの、やめてほしいんで……」

「はあ?」


 まさか自分のキスを拒否されるとは、露ほどにも思っていなかったらしい。

 彼は呆気にとられている。

 そして、それはすぐに怒りの感情に変わったらしく、


「お前のせいで、俺の予定はキャンセルになったんだぞ! その罰を拒否しようというのか!?」


 まだその主張をするんですか……。

 私はうんざりして、言い返してしまった。


「じゃあ、言わせてもらいますけど。罰ってなんですか」

「なっ……」

「こうなった状況は聞いていますよね? 私が馬から落ちたのは不可抗力です。それなのに、なぜ罰を受けなければならないんですか。というか、何でその罰が、あなたからのキスになるんですか?」

「な……え? う……ええ……?」

「あと、私、さっきまで意識を失ってて、目が覚めたばかりなんですが? まずは私のことを気遣ってくれるべきでは? それなのに、なぜいきなり『どんくさい』などと貶されなければならないのですか?」

「……え……」

「というか、意識が回復したばかりの女性にいきなりキスとか、普通します?」

「な……何をわけのわからないことばかり言っている!? お前は俺の女だぞ! 俺の言うことには黙って従え!」

「嫌です」 

「なぁ……っ!?」


 ルシオは顔を真っ赤にして、憤慨している。

 こんな様子の彼を前にしたら、本来のディアナなら謝りまくるところなんだろうけど……。

 私は身を守るように、布団をたぐりよせた。そして、相手を、じとー……と睨む。


 普通の人なら、これで察してくれると思うんだけど。

 このタイプって、はっきり言わないとわかんないんだろうなあ。


 そう思いながら、私はずばっと言った。


「私、ちょっと横になりたいのですが……。出て行ってもらえますか、殿下?」

「っ!?!?」


 彼はショックを受けたように固まっている。

 その手がぶるぶると震えていた。


「……ルシオだ」

「はい?」

「俺の名はルシオ! 名前で呼べと言ったはずだろう!?」


 うわ、この人……めんどくさいな。

 でも、そういえばそうだった。以前、「俺のことは名前で呼べ」と言われていたっけ。


 私としては呼び名はどっちでもいいので、言い直した。


「はあ……ルシオ様」

「ふ、それでいい」


 途端に機嫌をよくしたように、ルシオは得意げな顔になった。


 名前呼び……そんなに重要なの?


 彼のまとう雰囲気が元に戻る。腕を組んで、俺様オーラをふんだんに放出していた。


「お前はどうやら頭を打って、錯乱しているようだな。まったく哀れな女だ。仕方がない。本来であれば俺への数々の非礼を精算してもらわなければならないところだが、今回ばかりは不問としてやろう」


 最後まで「俺が許してやってるんだぞ」という態度は変わらないわけね……。

 言うだけ言って、彼はさっさと部屋を出て行ってしまう。それを呆れた目で、私は見送っていた。

 ……どこまでいっても、偉そうな男だなあ。




 ようやく静かになった部屋で、私は横になっていた。


 1つだけはっきりとしたことがある。

「俺様キャラ」が魅力的に見えるのは、それが二次元のキャラであるからだ。



 ああいうのが実際に存在したら。

 そして、そういう男と実際に結婚しなければならないとしたら……。




 絶対に、嫌だ!

 断固として、お断りしたい!!




(私は俺様キャラの王子より、真面目で優しい騎士団長の方がいい……)




 心からそう思った。

 よし、決めた。私は漫画のストーリーにあらがってやろうと。


『ルビさが』のメインヒーローはルシオだ。ラストではもちろん、彼とヒロインが結ばれる。

 だけど、そんな結末、私はお断りだ。



 それよりも、推しであるサブヒーロー・グラティスとくっつきたい。




 よし!

 今後はルシオルートを全力で回避しよう!



 私はそう考えながら、眠りにつくのだった。




 ……この選択のせいで、「俺様キャラ」があんな風に変貌してしまうなんて……。




 +



 それからというもの、私はルシオに塩対応を貫いた。



「おい。どんくさ女。今日は特別に、お前と一緒に出掛けてやってもいいのだぞ」

「あ、いえ。結構です」

「ファ……!?」




「お、おい。どんくさ女。今日の予定だが……」

「その『どんくさ女』という呼び方、やめてもらえませんか? 不愉快です」

「ふぇ……!?」




「お、おい……その。ディアナ……」

「…………はい」

「えっと、ディアナ……さん」

「何ですか」

「今日、よかったら俺と出かけてはもらえませんか……」

「すみません。今日は予定があるので」

「今日もだめなのか!? うっ……いつになったら俺と出かけてくれるんだ!?」

「何で泣いてるんですか」

「泣いてない!!」




 気が付けば、彼はすっかりへたれと化していたのだった。

 ……俺様キャラはどこへ?




 +



 その一方で、私は順調にグラティスとの仲を深めていった。



 そして、その日はついに訪れた。

 それは漫画の山場の1つである、グラティスの恋心が露呈してしまうシーンだ。

 しかし、彼は初めからその恋を諦めていた。「ディアナは王子が好き」と思っているからだ。


 だから、グラティスは申し訳なさそうにうつむいている。


「申し訳ありません。ディアナ様。この気持ちは、あなたにとって迷惑となると知っていながら……それでも俺は、あなたに惹かれる心を止められなかった」

「グラティス様……」


 ダンスパーティーが終わった後のこと。

 辺りには夜の帳が落ち、寂しげな雰囲気が漂っている。

 そこは王城のバルコニーだった。グラティスと私は2人きりで向かい合っていた。

 悲しそうに目を伏せるグラティス。本当にその想いが許されないものだと信じこんでいるようだ。

 ――そんなことはないのに。


「……嬉しいです」


 私の言葉に、グラティスは切なそうに笑った。


「そう言っていただけるなんて、あなたは本当にお優しいのですね。ですが、あなたの気持ちを俺は知っている。あなたは殿下のことを……」

「本当に嬉しいです。グラティス様」


 一歩、彼へと近付く。

 その手に自分の手を重ねた。


「だって、私はあなたのことが好きだから」

「え……!?」


 彼は目を白黒させ、本気で驚いていた。

 完全に予想外という顔をしている。


 私が王子に散々、塩対応していたのを彼も見ていたはずなんだけどな……。それでも、「私が王子を好き」という勘違いを覆すことはできなかった。

 ……これって、漫画の強制力なの?


「ですが、ディアナ様!? 殿下のことは……!」

「何とも思ってません。あ、最近は何だか丸くなって、可愛いなとは思っていますが」

「え!?」

「殿下のことを、異性として意識したことはありません。私は最初からずっと……あなたのことをお慕いしていました」


 グラティスの碧眼が「まさか」というように揺れて、潤んで、切なそうに細められて――。


「ディアナ様……」


 彼はおそるおそるといった様子で、私の手を握った。


「ずっとあなたのことが好きでした。あなたは殿下のことをお慕いしていると思っていましたが……それでも、あなたを諦められなかった」


 次の瞬間、私は強く抱きしめられていた。

 その体がかすかに震えていることに気付いて、私の胸は、きゅっ、となった。


 グラティス……本当に私に選んでもらえるとは、思ってなかったんだなあ。


「ディアナ様……本当に俺で、いいのですか……」

「あなたがいいです。グラティス様……私はあなたのことが好きだから」


 その背を私は抱き返す。

 星空の下で、彼の震えが止まるまで、私たちは静かに抱き合っていた。






 こうして、私は本来であれば不遇ポジションのサブヒーローと結ばれた。

 え、本来のメインヒーローの方はどうなったのかって?



 何かよくわからないけど、気が付けば、ルシオは俺様がすっかりとれて、ただのへたれになってた。



「ディアナ! どうして俺ではダメなんだ!? 俺はお前のことを愛しているんだぞ!? それなのに、俺のことを捨てるのか……?」



 その後もやたらとすがりつかれて、困るはめになったのだけど……それはまた、別のお話。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
>「人の許可なくキスすんなッ!!」 すごいわかる 女性向け漫画によくいる強引に迫ってくる男キモ…嫌…苦手なので 主人公に1から10まで同意出来るしスカッとしました!!
[良い点] あはは。スカっとしました! 一方的な俺様はウザいし迷惑なだけですよね(笑) いやー爽快爽快。面白かったです!
[良い点] 主人公が正論どストレートで笑った 嫌味王子がヘタレ始めても同情したり目移りしないで無関心、ちゃんと騎士に一途なのが良い 俺様系強制わいせつ野郎とそれにドキドキする女って、既に二次元でも相…
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