Prologue
私達、génies fousが行うのは依頼された犯z…おぉっと口が滑った、依頼された人助け。
それぞれの得意分野を活かし、いかなる仕事も華麗にこなしていく。
警察になんて捕まりっこない。
これは、そんな組織と新入りと、声の出ない私の物語。
失声症(しっせいしょう、Aphonia)とは、音声を発することができない状態と定義される。原因は反回神経の損傷であり、手術(甲状腺切除など)や腫瘍による可能性がある。心因性の場合もあり、この場合は器質的な障害を持たない。
── Wikipedia - 失声症
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買い出しから帰ってきた玲緒に会って、おかえり、と言おうとすればすぐ後ろの影に気がついた。
〔後ろにいるの、誰?〕
いつもは質問したらすぐに答えてくれる玲緒も、3秒くらい黙ったまま思案していた。
もしかしたら見ちゃいけなかったのかも、と思って訂正しようとすると、
「後で、話すから会議室に呼んどいて」
呼んどいて、というのは多分メンバーのことだろう。
全く先が読めないまま、頷いて各メンバーの部屋に向かった。
─*─.─*─.─*─
「ねぇ湖依なんで玲緒呼んでたのー?」
〔だから知らないって!〕
「とか言って知ってるんでしょー」
〔耀うるさい〕
「え、扱いひどくない?!」
〔気の所為気の所為〕
会議室に向かってるとは思えないくらい、賑やかな私達。
会議室に入ると、そんな私達とは真逆の無言の2人がいた。
玲緒と、あと1人。
「え、なに」
「何も聞いてないんだけど」
「玲緒ー?」
会議室に入ってもなおうるさい私達を、
「説明するから、黙って」
一言で黙らせられるのが玲緒。
〔それで、そちらの方は?〕
「…湖依に会ったときみたいに、広場にいたから連れてきた。」
〔一般人巻き込んでどうするの〕
「違う」
何が、と思ったけど突っ込むのは咲玖の方が早かった。
「どういうこと」
「…違わないけど、」
どうやら、この子を追い出さないように衝動的に言ってしまったことらしい。
「…湖依も最初は一般人だったでしょ、それとおんなじ」
〔…君は、この世界に入るっていう覚悟はできてるの?〕
「ちょ、湖依流石に手話じゃ無理だって」
首を傾げる目の前の人を見て、あぁそうか、と納得する。
〔玲緒が通訳してよ〕
紙もペンも持ってきてない今、手話がわからない人と意思疎通を図るのは難しい。
「…この世界に入る覚悟はできてるのかって聞いてる」
「…この世界って…裏、みたいな…?」
〔え、玲緒説明してないの?〕
「したけど…その、…一回じゃ伝わんないじゃん、」
確かに、会ったばかりなら伝えるのは難しいかもしれない。そう思っていると、硬い表情のまま咲玖が口を開いた。
「俺ら、平気で人殺したり、情報盗んだりするの。もう二度と普通の生活に戻れないの。そういう、覚悟はできてるの?」
「…できてます。もう二度と、普通の生活になんか戻りたくないです」
その回答を聞いて、あぁこの子は裏の世界に向いていないのかもしれない、と思った。
でも、玲緒が連れてきてしまったからにはほぼ確実にこの世界に入らなくちゃいけなくて、どうしよう、と焦り始めたとき。
一沙が、珍しく口を開いた。
「本当にそれで後悔しないんだね」
一沙の発言は的を射ている。それでいて、相手の心に深く刺さる。
彼は一沙の質問に一瞬考えた後、
「はい。」
と言い切った。
玲緒に〔この子本当に大丈夫?〕と問うと
「きっと。俺が責任取る」
意志を曲げる気のない玲緒を見て、これはもう覚悟しなくちゃいけないな、と感じる。
他のメンバーは納得いかなさそうだけどここまで連れてきたならしょうがない。
玲緒と一緒に私も責任を負って、立派な犯罪者に育ててやる。
そんな決意とともに、その日から新人───彩都の教育が始まった。
génies fous ───── start…