表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/33

伝えたい想い

「マリーツァお姉様、午前中は一度もご挨拶に伺えず申し訳ございませんでした。昨晩の雷の件もあり、昼まであちこちへ指示を出しておりましたもので、どうしても時間を作れず」

「私への挨拶なんて気にしないでいいのよ。それより、どこにも大きな被害は出ていない?」

「今のところ問題なく」


 説明しながら淹れてくれていたお茶を差し出され、ありがとうと受け取る。


「本日の予定ですが、陛下はこれから城下町の見回りとなります。雷の影響を確かめるため、普段よりも長くなるかと。このため、日中、お姉様との時間は割けません。ですがお姉様さえよろしければ、夜に星見をしながら過ごせればと」

「……町の状況によっては、夜もお忙しいのではないの?」

「自衛団からは、大きな被害は出ていないと報告が入っております。夜であれば問題ないと判断しこちらもお誘いしておりますので、ご安心ください」

「そう……」


 まさか、今日会えるなんて。

 それこそ雷の影響で、陛下は一日忙しいと予想していた。なら私も今日一日をかけて、どう自分の気持ちを伝えるかの手順を考えられると……。


(私のこの気持ち、エマとアシュリーさんにも伝えないといけないものね)


 彼と私だけの話では済まされないし、助言というか、手助けもどうしたって必要。

 だけでなく間を取り持ってくれてもいるわけで、そこを無視するには礼儀に反していた。


「何か不都合でもございますか」

「あ、いえ……お会いできるのは嬉しいわ」


 私の歯切れの悪さに、遠慮しているのだとエマは結論づけたらしい。


「星見という気分ではございませんか? でしたら、夕食を共にするのはいかがでしょうか。今からでしたら、おふたり用のディナーの準備も間に合います。しばらくは不慣れであろうと食事まではお誘いしてませんでしたが、お姉様さえよろしければぜひ」

「食事というか……」

「これもお気に召しませんか。であるならば、夜のティータイムではいかがでしょう。専用のティールームにご案内いたします」

「そうでもなくて……――ごめんなさい。ちゃんと言わない私も悪かったわ」


 協力してほしい側が遠回しな物言いでは、伝わるはずがない。


「……なんて言ったらいいのかしら。私はアレクセイ陛下と……陛下と、その……」

「もしや、陛下とはもう会いたくないとおっしゃりたいのですか」

「そうでもなくてっ」


 どう伝えるべきかまごついていると、今度はまったく真逆の結論を出されて焦ってしまう。


「アレクセイ陛下とお話がしたい気持ちに嘘はなくて……むしろ、こちらからお願いしたいぐらいで……」

「そうですか」


 安心しましたと険しかった眉が解けても、こちらの真意が伝わっていないのは丸わかり。


(鋭い時は鋭い子なのに、こういう部分は相変わらずの鈍さね)


 これぞエマ。私の可愛い自慢の妹に違いなくても、ここは私が頑張らないといけない場面。

 遠回しでは伝わらないのも経験済みとなれば、伝え方はただひとつ。


「……今夜は側室そくしつとして……可能であれば、伴侶候補としてもアレクセイ陛下と過ごせればと願っているの」

「――!?」


 漆黒オニキスの瞳がこぼれ落ちそうなほど見開かれ、そしてなぜか。


「少々お待ちください」


 そう言い残し、エマは部屋を出て行ってしまう。

 しかも少々という約束通りだけでなく。


「――だと思ってました! よしきた任せて!」


 やけに張り切っているアシュリーさんを連れて、戻って来た。


「気づかれていたの?」

「雷が理由とはいえ、好きでもない男を夜に入れる? でもって腕の中で寝ちゃう?」

「さすがの洞察力だわね。……アレクセイ陛下も気づかれているのかしら」

「あ、それはない。自分のことになると、てんで頭が機能しない男でした。人の色恋沙汰にはめちゃくちゃ鋭かった男と同一人物とは思えないぐらいにね」

「それでも陛下は昨晩の件をきっかけに、お姉様の気持ちに変化は起きていないか今夜確認するとはおっしゃっておりました」

「そうだったの……」


 ほっとしたような、やっぱりとがっかりもするような。

 複雑な気分になりつつも、これは当初の希望どおりにするしかないようね。


「アシュリーさんは任せてとおっしゃっていたけど、なにか良い案でもある?」

「側室っつーか、伴侶になる気になってくれたんでしょ? で、そういう時間を過ごしたいってことでしょ? てことはアレクとセックスしたいってことで、それに向けての準備を任せてって話でーす」

「そうはっきり言われると……」

「恥ずかしがってる場合でもないでしょうが! 男側としても、相手をうんと気持ちよくさせてあげて、おっ勃ったもん挿れるのがセックスです! そういうのを、アレクとマリーちゃんにはしてもらわないとなのよ! 婚前行為、大、歓、迎!!」


 エマに助けてちょうだいと視線を送ったものの、ここでの彼女はアシュリーさんの補佐として立っていたようで。


「アシュリー様の物言いは少々即物的すぎる嫌いはございますが、わたくしも賛同いたします。陛下にお任せしていては、いったいいつ童貞を卒業されることやら……」

「大事にしてくださっていると考えればいいのではなくて?」

「お姉様の予想を三段上行く大事さになります。しばらくは大事にしすぎて、一切手など出さない状況になるかと」

「彼がそれでいいと言うなら、私は……」

「いいわけないじゃん。やりたいのに、そんな自分を見せたら嫌われるんじゃないかって押し倒せないだけよ?」

「すぐ傍で悶々とされても、鬱陶しいだけかと」

「エマ、言い方が……」


 ため息混じりでたしなめつつも、そんな彼も想像出来てしまう。


「お姉様、申し訳ございません。こればかりは重要な部分ですので、明確に答えていただかなくては」


 確かに、照れてる場合ではないわね……。


「ふたりの言うとおりよ。私はどうすれば? 今夜、伴侶にしてくださいと伝えればいいのかしら」

「ありっちゃありなんですが、相手はあのアレクなので。ありがとう、大事にします! で、終わりそうなのよねぇ。押し倒してくださいってお願いしたところで、半端なく戸惑うだろうしなぁ……」

「私が大胆になれば良いというものでもないのね」

「や、そこはもうぜひとももんです! ただ、いきなり目の前で服を脱がれても、あいつは間違いなく逃げ出すね。据え膳は食わない男で、国王陛下としては正しいけど、惚れた女がそれでいいって言っても食わないほうを選ぶんだよ」

「あいにく、私も手慣れていないわ。服を脱がずにだなんて、そんな手管は持ち合わせてないの」

「服を脱がずに、ですか……」


 私の言葉を繰り返し、エマが何か考え込む素振りを見せた。


「ぅん? エマちゃん、なんかいい案でも浮かんだ?」

「名案かは分かりませんが……例えば、お姉様が陛下の湯浴み中、共に入るのはいかがでしょう」

「湯浴みでは服を脱ぐものよ」

湯着ゆぎをまとっていただくのです。濡れてしまえば透けますが、話し合っている最中徐々に濡れていくのであれば、さすがの陛下も興奮されるのでは。そうなったら、後はお姉様に畳み掛けていただくのです」

「さすがエマちゃん! その案採用!」

「ありがとうございます。ですが一点、問題もございます。一緒に入ると伝えたが最後、陛下はがんとして頷かない可能性が」

「先に言わなきゃいんじゃね?」

「こっそりお邪魔するのね。その前に、私も湯浴みをさせていただいてもいいかしら」

「もちろんです」

「ぅんじゃ、作戦開始――の、前に。マリーちゃんの気持ちが動いたのって、やっぱ昨日の夜が決定打?」

「ええ。だからって、急に感情が動いたというわけでもないのよ? 彼が、会うたびに自分を教えてくれていたんだもの」

「陛下の優しさに触れて、でしょうか」

「優しいだけの彼を見せられても、いい人だとしか思わなかったでしょうね」

「駄目なとこも見たから?」

「それだけでもなく……あの人の厳しさ、切なさをもっと傍で感じたいの。国のことだけ考える彼の、癒やしの場に私がなりたい。……私もアレクセイ陛下に、愛の花を贈り続けたいと願っているわ」

「ん……ありがと。そんだけ聞ければ充分だ。ね、エマちゃん」

「はい。マリーツァお姉様、どうぞ陛下をよろしくお願いいたします」


 そこからは厳戒態勢。

 といっても私たち三人だけの企みで、陛下や他の人たちは何も知らないまま当日の夜を迎え。今は私の部屋で、計画の最終確認が始まっていた。


「では最後にもう一度、手順を説明させていただきます。まず、陛下が星見前の湯浴み中、髪を洗い始めた頃に、アシュリー様から話があるとお声がけいたします。そのタイミングで、お姉様は黙って湯殿に入られてください。アシュリー様だと勘違いした陛下に何か問われても、沈黙をつらぬいていただきます」

「ぅんでもって髪を洗い終わって顔を上げたら、透けだしてる肌を見せつけてやって」

「単純で分かりやすいわ。……当の陛下は、感づいていらっしゃらないのね?」

「はい。本日は日中にお会いできず残念がっておりましたが、そのぶん夜に会えるのを緊張しつつも楽しみにしております。少しいい私服を着ようかな、だそうです」

「ふふっ、少しいい服?」

「普段は、俺たちと同じ制服だからさ。ここって場面では、やっぱかっこつけたいのよ。庭園でもそうだったでしょ? あれ、派手すぎず地味すぎずって、そうとう悩んだ結果なのね」

「……可愛い人だわ」


 今夜、上手くいきますようにと祈る気持ちで胸元に手を添え、思い出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ