1.リュート
どうも、惰骨と申します。
投稿は不定期となりますが、できるだけ毎日投稿できるよう頑張ります。
拙い文章ですが、どうぞよろしくお付き合いください。
中世ヨーロッパ風の街並みの中央に鎮座する荘厳な城。大陸の南東部を領有する大国ウォンカード王国、その王家ウォンカード家が住まう王城である。白亜を思わせる純白の壁に、瑠璃色の屋根が良く映えており、城壁沿いに植えられた木々の緑ともよく調和している。城壁を囲うよう堀を流れる水は清く透き通っており、神聖ささえ感じさせる美しさだ。
そんな王城に向かって歩を進める男がいる。身にまとうローブは不潔でこそないが、長年使い込んでいるのか色も褪せ、ところどころが擦れての生地が薄くなっている。ひとつ結びにされた癖の強そうな黒髪は、枝毛が多くオオカミの尾のようだ。精悍な顔立ちには逞しい髭がよく似合っている。
「止まれ!何者だ!」
迷いなく王城の正門に向かう男に、門番の兵士は戸惑いつつも静止の声を掛ける。身なりや所作から貧民ではないだろうとは思うが、さりとて王城に招かれるほどの貴人にも見えない。門番が訝しむもの当然であった。
「おい、止まらないか!聞こえていないのか!?」
しかし、それでも男が足を止める様子はない。男の迷いなさに門番も困惑するが、彼の仕事は城門を守ること。そう割り切って迷いを振り払い、持っている銃を構えようとした。と、銃を持つ手に力を込めたところで後ろから肩を引き留められる。
「よせ。部下が失礼しました」
「ライド師団長!?」
師団長、と呼ばれたのはグレーの髪をすっきりと刈り上げた隻眼の男である。名をライド・ルン・ガードナー。ウォンカード王国軍第3師団の師団長であり、代々王家を武力面で支えるガードナー伯爵家の次男である。ほどよく日に焼けた肌には所々に古傷が残っており、歴戦の気配を感じさせる。よく鍛えられているのであろう肉体は、皮鎧越しでもわかるほど逞しい。そんな彼は、門番が困惑するのをよそに、謎の男と話を続けた。
「お久しぶりです、お待ちしておりました。しかし、部下を揶揄わないでいただけませんか、リュート様。…いえ、先生」
「…先生?それにリュート様って…っまさか!」
男の正体に気が付き青褪める門番の青年。だがそんな様子の彼をまるで気にしていないように、男はライドに向かってニヤリと笑うと、ようやく口を開いた。
「でかくなったな、ライド。ついこの前までガキんちょだったのに、師団長だって?」
「やめてください。もう20年も前の話です。むしろ引退すら考えてる身なんですから。私を子ども扱いするのは先生くらいのものですよ」
門番の青年は驚きを隠せない。第3師団長ライドといえば、とくに厳格でスパルタな人物として兵士の間では有名な人物だ。そんな彼が、ガキんちょ呼ばわりされて怒るどころか、むしろ少し照れたような反応を返している。
リュートという名は王国兵士なら誰もが知る名前だが、彼に関する噂はどれも俄かに信じがたいものばかり。実際にリュートに会ったことがない兵士がほとんどなこともあり、門番の青年も独り歩きした噂だとばかり思っていた。しかし目の前のライドの態度を見ていると、もしかして本当の噂もあるのかも、と認識を改めつつあった。
「それより、陛下がお待ちです。案内しますので、付いてきてもらえますか?もう時間も過ぎてますので。…もしかして、わざとですか?」
「さあな」
ライドは隠す様子もなくため息をつくが、リュートが気にする様子はない。ライドは文句を言うのを諦め、ウォンカード王の待つ謁見室へと案内を始めたのだった。