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雑司ヶ谷高校 歴史研究部!!  作者: 谷島修一
逡巡する初冬編
208/487

裏金

 水曜日。

 生徒会役員が生徒会室に集合した。

 織田さんも今日は演劇部の練習が無いとのことで来ている。

 役員全員集合だ。


 今日は、生徒会の仕事についての確認である。ほとんどが雑務、かつ僕には関係の無い話なので適当に聞き流していた。

 話し合いも終盤、生徒会長の伊達先輩が神妙な表情で話し出した。

「最後に将棋部の対応の件で話をしたいと思います。考えたんだけど、将棋部を懐柔するために、ガリガリ君の領収書を経費として認めようと思うの。だけど、監査は終了し学校への報告が終わっているから、裏金で補填します」


 裏金?!

 僕は驚いた。

 生徒会はそんなのがあるのか?!


「裏金と言っても、“占いメイドカフェ”の売り上げから捻出しました。生徒会役員は“占いメイドカフェ”の関係者が全員居るから話し合って決めたわ。カフェでは、それなりに利益もあったし。この件を処理することによって、抵抗勢力から将棋部が離れて、生徒会に対する妨害がやりにくくなると考えます」

 そして、一息ついて確認する。

「裏金での補填は、異議はないですか?」

 伊達先輩は皆を見回す。特に異論はないようだ。

 僕も異論は無い。正直、どうでもいい。


「それで…」

 伊達先輩は急に僕の方を向いた。

「武田君」


「はい?!」

 突然のご指名で驚いた。


「あなたがお金を持って将棋部に行き、部長に渡してきてほしいのよ」


「どうして、僕が…?」

 突然の依頼で困惑する。


 伊達先輩は少し微笑んで言う。

「筋書きとしてはこうよ。『新しく役員に就いた武田君が頑張って他の生徒会役員を説得し、ガリガリ君の経費を認めさせた。そして、お金を持って訪れた』と」


「はあ…」


「やってくれるわね? 男子に人気の高い武田君がやるから意味のある策なのよ。“男子の味方”としての役員が生徒会に居るということになれば、生徒会に対する反発も少なくなると思うのよ」


「それだけで、反発が減りますか?」


「これに関しても後で、新聞部の協力を得て、有ること無いこと情報を発信してもらうから、雲行きは変わる可能性があるわね。あくまで”可能性”だけど」


「“可能性”ですか…」

 そして、有ること無いこと発信って…。無いことはダメだろ。


「やらないより、やった方が良いということよ」


「はあ…」


「手伝ってくれるわね?」


「まあ、そう言うことなら、いいですけど…」


「あくまで、武田君が頑張って私たちを説得したという体で、将棋部で上手く話してね」


 横から雪乃が話しかけてきた。

「そういうことなら、純也の演技力でいけるんじゃない?」


「演技力?」


「そう、純也、演技が上手いから。舞台に立ってると思って話せば?」


 僕は演技が上手いのか?


 そこに松前先輩が茶々を入れる。

「そうね、白雪姫を篭絡した時みたいに」


「篭絡? いやいや、あの時は雪乃の方が…」

 ニヤニヤしている松前先輩をみてそれ以上言わなかった。

 分かってて冗談を言っているのだな、多分。


 僕は伊達先輩に向き直って尋ねた。

「ちなみにガリガリ君の領収書って、いくらだったんですか?」


「836円よ」


「それぐらいの金額で、揉めてたんですか?」


「生徒会の監査は、小さな金額でも認められないものは認められないのよ。それに、ガリガリ君って将棋の活動とは全く関係ないでしょ」


 まあ、その通り。

 しかし、836円で逆恨みとか、将棋部の部長は人間が小さいな。

 そして、836円を持って行っただけで、将棋部を懐柔できるのだろうか…?

 まあ、やってみるしかないか。


「それで、いつ決行しますか?」

 僕は尋ねた。


「武田君の都合で良いけど、出来るだけ早い方が良いわね」


「じゃあ、これからでもいいですか?」

 面倒なことは、さっさと終わらせたい。


「いいわ」

 伊達先輩はそう言うと、茶封筒を渡してきた。

 小銭がジャラジャラと入っている音がする。

「これ836円ね。じゃあ、上手くやって来て。私たちはここで待ってるから」


「わかりました」

 僕は茶封筒を受け取ると、立ち上がり生徒会を後にした。

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