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腐れ剣客、異世界奇行  作者: アゲインスト
第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参
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再戦――毒蛇の槍使いギース その3

「ガッ……か、はっ……!」


 衝撃――思わず呻き動きが止まる。

 今ギースの頭の中は痛みと混乱が(ひし)めき、正常な思考とは程遠い状態でいた。

 だがそれから解放されるよりも速く、鴎垓の反撃が始まる。

 

「――」


 無言――代わりにぎしり、鳴る肉体。

 ギースの腹部に密着させた拳を緩く開いた状態から関節を連動させ……足から膝、膝から腰、腰から肩、そして腕へと増幅した力で打ち出す拳はその先、硬い鎧鱗を透過して――ギースの体内へ。


浸透勁(しんとうけい)――『波小僧(なみこぞう)』」


 派手な動きでは決してない。

 しかし、それによって起こる現象はまるで”爆発”――体の中で不可解に生じた力に耐える術など知るよしもなく、耐える間わけもないギースは呆気なく吹き飛び九の字になって宙に浮く。


「……っ!?」


 言葉を放つ余裕すらなく宙を飛ぶ体。

 思考は千々に乱れ。

 そこに容赦なく、打ち込まれるは拳打の嵐。


「――『赤頭(あかがしら)

 ――『河童(かっぱ)

 ――『手長(てなが)』――」


 頭と胴体を中心に全身を満遍なく、幾度も幾度も。

 それら全てが先程と同じ、衝撃が鎧鱗の防御をすり抜けるもの。

 強靭なはずのギースの体に着実に、無視できないほどのダメージを与えていく。

 あまりの速度と威力にいつまで経ってもギースの体は地面へと落ちることはない。


「肘打ち――『寺つつき』」


 その姿はまるで嵐の中の木の葉――吹きすさぶ暴風に翻弄されるまま、今度は肘鉄を食らわされ吹き飛ぶ。もんどり打って地面に転がるギース、反対側の壁にぶつかってようやく停止する。


「それもういっちょ、休んどる暇はないぞ!」


 だがまだ終わらない。

 地面に伏したら今度は足技だ!と言わんばかりに強烈な踏みつけを繰り出す鴎垓。

 身を翻してそれを避け、勢いよく立ち上がったギース。

 標的を逃した蹴りはそのまま地面へと振り下ろされ、先程ギースが行ったのと同じくらいの罅を地面に刻み込む。

 

 その隙に鴎垓の背後に回るギース。

 ここまでされても手放さなかった牙槍を回転させ頭上から強襲、しかし鴎垓は目前の壁を利用して飛び上がり、空中で一回転。

 満月を思わせる綺麗な軌跡を描き。

 ギースの横っ面にあびせ蹴りを食らわせる。


「ぐくっ――かぁあ……!!」


 仰け反る首、体。

 揺れる視界……だが先程と比べればこれしきのこと。

 後ろに引いた足で体を支え連続突き。手加減などない攻撃が空間ごと殺してやらんとばかりに空中にいる鴎垓へ向けて放たれる。




「重身功――『子泣(こな)じじい』」




 しかし寸前で――宙を舞う鴎垓の姿が消える。

 不自然な角度と速度での降下。

 軽身功とは逆に”体を重くする”ことで素早く地面へと降り立ち槍の攻撃範囲から逃れた鴎垓は再びギースの懐に飛び込むと一度浸透勁をぶち当てたところに拳を添え――またも爆発。


「ぐぁぁああ……!!!」


 肉体を苛む凄まじい衝撃と激痛。

 速度威力共に向上したはずの攻撃は容易くかわされる、鉄壁のはずの防御がまるで意味を成さなず理解できない方法で突破される。

 漏らした呻き声は肉体だけでなく、精神の苦痛からによるもの。

 度重なる未体験。

 歴戦を自負する戦士としての常識が大きく揺れ動く。

 だがその状態であっても襲いくる脅威に対して体は自動的に動き、幾度となく繰り返した突きの構えを自然と取る。


「――そこっ!」


 しかし――それまた鴎垓の想定の内。

 ひゅるりと音が鳴ったかと思えばギースの両手首に巻き付く縄のようなもの。それは手だけ留まらず、槍をも巻き込みぐるぐる巻きに。

 思考が定まらぬ間の出来事。

 当然対処など出来ようもなく無抵抗の内に縛り上げられる。

 その格好はまるで”罪人”――縛につくかのようなこれではまともに戦えるものか。

 

「実を言うとさっきのこととは別にお前には言いたいことがあってな! それは――」


 次々と移り変わる戦況の主導権を握る方法はいくつかあるが、選択肢を叩きつけ、それを相手が選ぶ前に次の選択を即座に迫る。

 先の先――怒濤の攻めによって相手に反撃をさせずに制圧するこの戦法は、それを可能する速度と攻撃力がなければならず、本来であればギースのようなタイプのものが使用するものだ。


 蛇人へと変貌せしめたギースであればなおのこと容易であるはずが、逆に身体能力で劣るはずの鴎垓によって行われているという矛盾。




「お前の武器は! 断じて槍では!! ない!!!」




 殴打殴打、そして投げ。

 腹部胸部、続けて背中と後頭部に走る衝撃。

 依然として皮膚を覆う鱗は顕然。

 にも関わらず突き刺さるこの痛み。

 覆される常識、追い付かない思考。

 頭上から降り注ぐ言葉すらどこか遠い。


「――武器は武器でも殺しのためではなく捕り物、つまり罪人を捕まえるために使うためのもんで、少なくともそんな風に使うもんではない」


 だが、その中に、聞き捨てならないものがある。

 その言葉だけは決して許してはおけない。

 それを許せば自分という戦士をも否定することになると、ふつふつと込み上げる怒りに体の節々、末端に至るまで力が籠る。


「ちなみにお前のそれは袖搦(そでがらみ)っちゅう名前のもんで、他に刺股(さすまた)突棒(つくぼう)ってぇのと合わせて捕り物三道具として儂のところでは扱われとる」


「……だからどうした」


 そしてギースは――吠えた。


「だからどうした!! 言わせておけば下らぬことをぬけぬけと!!!」


 激昂し、勢いよく立ち上がったギースは鴎垓へと向き直り。


「俺の攻撃を避けられるようになって、それでいい気になってるつもりだろう!! だがそれは、俺が全てを見てからにするがいい!!!


 俺はまだ――全力を出してなどいないのだ!!!!」




 ――ぐ、ぐぅぅうううううううぁあああああああああ――!!!!!!!!!!――




 暗き空間、牢屋犇めく狭き通路に咆哮を轟かせ――更なる変貌を遂げていくギース。

 その凄まじい光景に鴎垓は戦いの終わりが近づいているのを察し、剣を眼前へと構え直すのだった。

 

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