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腐れ剣客、異世界奇行  作者: アゲインスト
第二章 腐れ剣客、異世界の街に推参
56/72

黒装束の襲撃者、疾走の腐れ剣客

 孤児院の玄関。

 本来なら弱き者たちを迎え入れる入り口であるここは現在、黒装束の襲撃者たちによって占拠され。

 施設の主であるクレーリアは腕や口を拘束され、用意された荷馬車の中へと運び込まれようとしていた。


 そうはさせじと襲撃者たちへ剣を振るう鴎垓たち。

 数で勝る敵の包囲を抜けようともがくが訓練された連携によって阻まれ、思うように戦うことができていない。

 

 何故かというと――とにかく敵の動きが上手いのだ。


 馬車の中から待機していたらしい人員が出てきて常に一対二のような状況を作り出し、手数の差で鴎垓たちを圧倒してくる。


「ちくしょう! 俺は化物専門で人はそこまで得意じゃねぇんだよ!」


 特に四人に増えた敵に囲まれながら出会ったばかりのイワンと肩を並べて戦うことを強いられている鴎垓は、慣れない対人戦に苦しむ彼の分まで戦わねばならず一人だけ入れ替わり立ち替わりする敵との変則的な三対一のよう状況に追い込まれていた。


「いやー上手いな連中、このままじゃとまんまと連れて行かれてしまうぞ」


「だからって手ぇこまねいてる場合か! 何とかなんねえのかよお前!」


 的を絞らせないように常に動き、視覚を惑わそうとするその動きは実によく訓練されている。この手の動きというのは群れを成す獣などでも見られるものだがここまで洗練されたものは中々お目に掛かれるものではない。

 確実にこちらを殺そうとしているなと、二方向からの攻撃をいなしながら横目でもう一人と戦っているイワンの様子を伺う鴎垓。

 

 苦しそうな彼の顔に少し思案した後、そっと彼の方に近寄っていって斬り結んでいた敵を離れさせ、一息ついたイワンに聞こえる程度の声量で囁く。


「ないこともないが……」


「あんのかよ! じゃあさっさとやってくれ!」


「そうか、了承はとったから文句は言うなよ」


「え、それってどういう」


 こと――と言おうとしたイワンだったが、その前に横にいた鴎垓に尻を蹴られ前へとつんのめる。

 突然の裏切り。

 いきなりそんなことが起こったために敵とイワン双方に混乱が起こり――そしてその隙を逃すような奴でないのが鴎垓という男である。


「ふっ――!」


 イワンへと集まった視線――そこから消えるようにして横合いから襲撃者たちへ襲い掛かった鴎垓は一番端にいた黒装束の腹を剣の柄で強打すると、続けざまにもう一人の顔目掛けて跳躍し膝の一撃を食らわせる。

 そのようにして瞬く間に二人を無力化した鴎垓。


 残りが鴎垓に向き直り、さっきのが陽動だったと気付いた時にはもう遅く、体勢を立て直したイワンが勢いよく斬りかかり鴎垓へと意識が向いていた襲撃者たちは対応が遅れ連携が出来ないほどに距離を離される。


「正拳突き――『赤頭(あかがしら)』」


 こうなってしまえば最早鴎垓の敵ではない。

 目の前の男の攻撃を避けると同時に放った拳は相手の鳩尾へと突き刺さり、急所への強烈な一撃によってその黒装束も地面へと崩れ落ちる。


「あとは頼むぞ!」


「あっおいテメェ! っの舐めんじゃねぇぞこらぁ!」


 そして残りの一人はイワンへと任せ、今だ二人の黒装束と戦っているレベッカへと助太刀に入る。


「済まん遅れた!」


「こっちはいい! それよりもクレーリアを!」


 敵の剣を自分の剣で受け止め、敵との間の無理矢理入り込んだ鴎垓。

 背中合わせとなった二人はそれぞれ正面の敵へと剣を向け牽制をしていたのだが、その間にクレーリアを詰め込んだらしい荷馬車が動き始めてしまっていた。

 敵の頭の姿もなく、気絶した仲間を見捨てて撤退するのかとその徹底した合理的な行動に嫌悪を抱く鴎垓。

 しかし後ろに荷物をつけていようと馬の速度だ、見失えば追い掛けることもできなくなる。


「後で追い掛ける! 行ってくれオウガイ!」


「分かった!」


 レベッカの発破に応え飛び出す鴎垓。

 阻むように剣を振るう敵――しかしその一撃は目の前から霞のように消えた鴎垓に当たらず盛大に空振る。


「幻惑の歩法――『煙々羅(えんえんら)』」


 足捌きによって生み出した幻影に気を取られている間に敵の後ろへと駆け抜けた鴎垓は剣を逆手に持ち代え、脇目も振らず荷馬車目掛け加速する。

 しかし荷馬車は瞬く間に速度を上げ、二者の距離はどんどんと開いていってしまう。


 このままではいずれにしろ逃げられる――その時、鴎垓の目に映ったのは建物に立て掛けられた()()

 どうやら屋根の修理をするために掛けられているようだ。

 しかしこの状況にはまさに天啓。


「丁度ええところに!」


 ほぼ直角なそれを二三歩で駆け登り、建物の上へと降り立った鴎垓。借金している奴らを追い掛けた経験がこんなところで活かされるとは、芸とはどんなときに活躍するか分からないものである。

 道の先の方には鴎垓の姿が見えなくなり巻いたと思ったのか、若干速度を落とし左へと曲がる荷馬車の姿が。


「あの速さなら……あの辺りか!」


 三角が連なる屋上をまるで平地かのように素早く駆け抜け、荷馬車が通るであろう地点を目指し一直線に迫る鴎垓。

 大きく開けた建物の間をひとっ飛びし、転がって衝撃を和らげ一時も加速を緩めない。

 そして荷馬車を操る御者が完全に油断し周囲に紛れるように速度を緩めたところに、上空からひらりと身を翻し寸分違わず幌の上に着地する。


「な、何だ!?」


「よう、馬車止めろ。

 でなきゃちぃと酷い目にあうやもしれんぞ」


「こ、こいつどうやって……!?」


 御者へと剣を突き付け止まるように脅す鴎垓。

 手綱を握っている関係で抵抗が出来ない御者が声を震わせ迷いを露にし――幌の下から突き出された剣が突如鴎垓を襲う。


「うおっ!」


「ちっ、外したか」


 寸前でそれを避けた鴎垓。

 幌の切れ間から見えるそこには黒装束の頭の鋭い目がこちらを見据えていた。


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