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腐れ剣客、異世界奇行  作者: アゲインスト
第一章 腐れ剣客、異世界に推参
14/72

腐れ剣客とリットに灯る激功




 ――ダダッ!

 


 

「俺とテメェの最大の違いを教えてやる――」

 

 

 

 ――ダダダッ!

 

 


「――それは」




 ――バッ……!



 

「――『灯気(フレア)』を使いこなせてるかどうかだ」

 


  

 ――ッ ズ ザ ン ……!!

 

 

 

「っ……!」 

 

「そう――『灯気』だ……!

 これこそが灯士が灯士たる由縁だ!」

 

 ()が駆け巡っていた。

 それは縦横無尽に地面を、壁を、所狭しと疾走する。

 その軌道は鴎垓を中心にまるで檻でも作っているかのようであり、時折迫る閃光から飛び出た剣が、彼の薄皮を裂いて通りすぎる。

 

 その光の正体――それは灯気をみなぎせたリットであった。

 

 この状態となった彼を相手に防戦一方の鴎垓。

 なにせ――

 

 

「確かにテメェは剣の扱いに関しちゃ腕の立つほうなんだろうさ。

 でもなぁ! そんなもんは化物退治にさして必要じゃねぇ!

 大切なのはスピード!」

 

 

 ――目でギリギリ追える速度。

 

 

「タフネス!」

 

 

 ――たまの反撃は肉に弾かれ。

 

 

「――そして、パワーだ!!」

 


 

 ――そして受けることすらできないほどの、常識はずれの超豪腕。


 

   


「常人を越える圧倒的な力! 

 これこそが俺たちに許された特権だ!

 技術なんぞ必要じゃねぇ!!」

 

 そのことを分かっているからだろう。

 高揚に口数が増し、必要もなく周囲を走り回りわざと攻撃をかすらせる。典型的なハイの状態、あまりの動きに周囲は止めるに止められず。

 唯一リットを止めようと声を掛けるフィーゴが叫んだものこそ、この掟破りな動きを可能としている少年の奥の手。

 

 

 

 曰く――『灯気(フレア)活性(ドライブ)

 

 

 

「俺から一撃も食らわない?

 この状況でももう一度言えるかよおい!!」

 

 全身を包む光こそ、体内え爆発させた灯気の鎧。

 それによって増幅された力はまだ灯士となって日が浅い彼を遥か上の領域へと押し上げていた。

 その猛攻に追い詰められ、全身ズタズタの鴎垓。

 致命的な一撃だけは食らっていないもの、それは本当に紙一重によるものだと自覚している。

 

「立場ってやつが分かったか?

 灯気を扱えないテメェには俺の速さにも、力にも対応できねぇ。

 例え紛れ当たりがあったとしても、灯気に守られてる俺にはさしたるダメージも与えらねぇ。

 

 つまり――お前に勝ち目はないってことだ!」

 

 もう勝負がついたとでも思ったのか、周囲を走り回るのを止め鴎垓の正面へと立ち止まるリット。

 その顔は優越感に歪み、まだ手中にない勝利の味を想像して濁りきっている。

 

「まあそれでもまだ立ってるのは褒めてやるよ。

 クリーンヒットも食らってねぇし、ギリギリのところで避けてやがる。だがそれも時間の問題だ、大怪我しねぇ内にさっさと負けを宣言したほうが身のためだぜ?」

 

 勝てないことを認めろと促すリット。

 その方が惨めではないと、言外に匂わせて。

 それに対する鴎垓の反応は――

 

 

 

「――で、言いたいことはそれだけか?」

 

「……ああ?」

 

 

 ――実に冷淡なものだった。

 

 

「いや、なんぞ気持ちよう喋っとるみたいじゃから好きにさせておったんじゃが、どうした?

 もっと何かないのかのう、どうせならこっちがあっと驚くようなことはないもんか。

 生憎と先の戯れ言ではくすりとも笑えんでな」

 

 ズタズタの血まみれでありながら、その立ち姿には微塵も揺らぎがない。幾度も攻撃をかわし、時に受け流してきた拳にはしっかりとしたダメージが残っているはずなのに震え一つなく健在である。

 自分の言葉を大したものではないと言われ、激昂するリットにはそんな細かいところなど目に入っておらず、憎たらしい笑みを浮かべる相手への敵意に頭を支配されていた。

 

「戯れ言……だと……!」

 

「おうよ、戯れ言も戯れ言。

 まともに取り合う価値もない。

 確かに、お主のその変容した力が凄いのは分かった。

 儂の肉の力では到底太刀打ちできんのもな」

 

 

 

 

 ――それで?

 

 

 

 

「足の速い奴、力の強い奴、頑強な奴。

 そんなもんは世の中にいくらでもおる。

 そういった連中と戦うために、武術がというものがある」

 

 

 ――それが人間の底力というもんじゃ。

 

 

「……はっ、安い虚勢だな。

 その武術とやらで一体何が出来た?

 チョロチョロと逃げ回って怪我を負わないようにすることだけで、反撃なんてこれっぽっちもできちゃいねぇ。

 それに、テメェの魂胆は見えてるぜ?

 そうやってさも奥の手がありますみたいな感じを出して俺をビビらせようとしてるんだろ?」

 

 

 ――んなわけねぇだろ――!!!

 

 

「今の俺の身体能力はテメェの上を行ってるんだ!

 例えどんな対策をしようがそれごと食い破るだけのこと!

 時間稼ぎは十分できたか? それとも負けの言い訳でも考えてたか! どっちにしろ次の攻撃で終わらせてやる、精々自分の無力さを嘆きながら惨めに逃げていくんだな!!」

 

 そう吐き捨て、それまで以上に灯気を増幅させるリット。

 本当に次の一撃で決めるつもりで全力のスタートダッシュを決める。

 その突撃に意識の全てを掛けた彼は、だからこそその言葉を聞き逃す。

 

 

 

 

「――だが全てではない」

 

 

「儂を上回ったと言いながら、しかしただの一度もお主はこうは言わなかった」

 

 

 

 ――技でも上回っている、とはな。

 

 

 

夫婦手(めおとで)――『二ツ(いわ)団三郎(だんざぶろう)(だぬき)』」

 

 突進する相手を前にここで初めて、鴎垓は構えを取った。

 体は半身、足は前後に、右手を突きだし、その少し後ろに緩く曲げ左手、そして掌を上にして拳を作る。

 地を蹴り迫るリットへ向けて、聞こえずとも。

 

 

 ――告げる。

 

 

 

 

「見せてやろう小童、練り上げられた武がどれほど脅威で、恐ろしいものであるかを。

 そして知れ、この身腐れ剣客と呼ばれしその由縁を」

 

 

 

 

 その宣言、如何なつもりか。

 されど結果はすぐに現れた。

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおぉーーーーーー!!!!!」

 

 雄叫び。

 再びの上段。

 渾身。

 振り下ろし――

 

 

 

「――ふっ」

 

 

 

 ――呼気。

 迎え撃つは回し受け。

 基本にして究極、円の軌跡に剣線ズレる。

 

「なにっ――!?」

 

「――はっ!」

 

 リット驚愕。

 鴎垓(うけ)――即功(そくざはんげき)

 連動する対の剛拳。

 正拳突き――赤頭。

 見てから反応。

 避けるリット。

 

「ふっ――」

 

 追功(うちこみ)――即連(つづけざまにまた)

 

「――はっ!!」

 

 放つ瞬拳。

 これまた避けられ。

 摺り足。

 正面ピタリっ!

 

 即拳――即打!

 即拳――即連!!

 即連――打! 打!! 打!!!

 

「クソがっ……!

 ちまちまとウゼェんだよっ!!」

 

 受――転――打。

 打、打受――即連。

 即拳、打、打、即受――受、()っ……!

 ()っ! ()っ! ()っ……!――

 

 

「な、なんだ、」

 

 

 ――()()()()()――

 

「なんだ、これ……!?」

 

 ――()っ! 「うあっ」 打打(ダダ)っ! 「くそっ!」 打打打(ダダダ)っ! 打打打打打打(ダダダダダダ)っ! 「はや」 打打打打打打打打打(ダダダダダダダダダ)っ! 「とまっ……!」 打打打打打打(ダダダダダダ)打打打打打(ダダダダダ)っ! 「とまれ!」 打打打打打(ダダダダダ)打打打打打(ダダダダダ)打打打打打(ダダダダダ)打打打打打(ダダダダダ)打打打打打(ダダダダダ)っっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

「な、なんだよこれ――止まらねぇ……!!!」

  

 

 

 

怠慢忘心(たいまんぼうしん)――『大名化かし驕孤(きょうこ)の狼藉』」

 

 化かし自慢の化け狐がとある狸に大威張りであったが、後にその慢心が故にとんでもない目にあったという話。

 自らに驕るばかりの狐は相手の狸が”三名狸”と呼ばれる存在と見抜けず、口車に乗せられ化かされぬままに化かされ殺された。

 

 その狸の名を関するこの技は、両の手の連動によって攻撃と防御を同時に行い、相手の攻撃を起点に拳打を見舞い勢いを削り、反対にこちらの連撃に連撃を重ねる猛攻によって攻守を反転させるのだ。

 

 舌先三寸で騙された狐のように。

 腕の差を理解せぬ者ほどに、この技の妙利にのまれていく。

 その末路は、もはや言うまでもないだろう。

 

 

 

 

「あ、」

 

 拳打猛攻の中。

 不意に止んだ――その瞬間の意識の隙間。

 そこにパチリと顎へと食らい。

 

 

 

「――これで、手打ちにしようかの」

 

 

 

 飛ぶ意識の間際。

 そんな言葉が聞こえた気がして。

 リットはそのまま地面へと倒れ込むのだった。

 

 

 

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